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ロシアのクラブ選手権、ソフィア最高!、クラムニクの体調。

05/05/24
 ソフィアの閉会式には大統領まで現れた。スポンサーはモビルテル(Mobiltel)。携帯なんか扱って、移動通信ではブルガリアで一番の企業だそうだ。社の十周年記念行事の一環らしいが、畏友によると「来年もやってくれるかも」。ドロー判定を否定する参加棋士は居らず、「戦い方が変わったわけではないし、特に反対する理由も無い」とアナンド。彼らの不満は、勝者も敗者も並んで記者会見に引き出されることだった。負けた時がつらいようだ。
 私としてはクラムニクのために休日を増やしてほしかったという気もしたが、それは記者や主催者が困るんだろうな。昨日のポカは、クラムは34...Qxb1に対し35.Nb3で黒Qを取れると錯覚したに違いない。しかし、白ルックはe1に無くf1だったから35...Qxe4で駄目。35...Qxe4なら36.Bxe4とできる、という錯覚だったという説もある。昨年のレコとのマッチ以来の体調不良、と本人は言うが、私の印象では、もっと前から彼は疲れやすくなっている。2002年のディープフリッツとの対戦あたりからだ。畏友にそう言ったら、彼もあの時のクラムニクの甚だしい憔悴ぶりを覚えていた。
 最後に。私はこの大会の棋譜や模様を主にChessTodayで楽しんだが、このゴルベフの報告は非常に充実していた。ChessBaseにハッキリ勝っている。短時間に一人でよくやったと思う。
05/05/23
 先週は仕事が忙しかったのは確かだが、自分でも予想外の疲労ぶりだった。土日で回復、頭痛も消え、ようやく最終日にソフィアの観戦ができた。ICCの解説は、ありがたい、ドレーエフだ。もっとも、この日はあんまり生彩がなかったが。
 早指しのプレーオフになれば、アナンドの優勝に決まってる。だから、白番のアナンドは希望を持ってポルガーに、そして、黒番のトパロフは危機感を抱いてクラムニクに、それぞれ「勝つしかない」という思いで対局場に向かったろう。二人とも序盤から盤面全体を押し込むような陣形で優勢になった。
 身動きできなくなったポルガーは横たわるだけのマグロ状態。アナンドは悠然と自陣の整備を始めた。g1にキャスリングしたキングを、なんとc2まで移動させたのである。そして、縦に並べたルックで黒陣の最奥部をえぐり取った。しかし、この間ヤケを起こさず耐えたポルガーも立派だった。現状から一歩も深入りさせない陣形に組んだまま崩れない。アナンドもドローを認めざるを得なかった。
 その頃、トパロフは長考。解説によると、危険を冒して勝ちに行く28...Bc4か、引き分けになりやすい28...Ne6を選ぶか、迷ってるのだろう、とのこと。もう後者でいい情勢なのだが、トパロフは前者の道に進んだ。そこで事件が立て続けに起こったのである。ドレーエフは、「わけわからん、、、」。
 図は30.Nd5まで。ChessTodyの解説では、これもドローを拒否した手だ。さて、黒は30...Rac8が常識だと思うが、トパロフはQxb2。これが大ポカ、31.Qxc5で逆転だ。しかし、クラムニクはNc7と指したのである。それどころか、黒Qがb2に居る状態で、34.Nc1??。もちろん、トパロフは34...Qxb1。ビショップを無料で進呈したことに気付いたクラムニクはしばらく考え、投了した。
 かくてトパロフが優勝。後半戦は4勝0敗1分だった。中日の休日に地元の熱い声援を受けたのが奮起の原因という話を聞いた。おめでとう、素晴らしい大会だった。
05/05/22 紹介棋譜参照
 今日見ると、やっぱプレーオフ対戦って書いてある。私の不注意だろうけど、同点首位者の扱いは、現地の記者たちでもはっきりしないことがあまりに多い。読者よ、許したまえ。
 トパロフは地元の声援を力にしてる。第9Rは白番でポノマリョフとの首位決戦に臨み、勝った。研究済みの局面に進めて図から18.Ng5!。以下、18...hxg5, 19.hxg5. dxc3になった時、20.Bf4!。これで白勝勢とのこと。また、図でb1にビショップを配置した構想も素晴らしい。紹介棋譜に。
 ただし、アナンドもアダムズに勝ち、半点差なので最終日も油断できない。しかも、トパロフが黒番で相手は苦手のクラムニクである。会見でクラムニクはいまだに体調が戻りきらないことを認めたが、このままでは彼の王座が権威を失いかねない。「ヴェセリンに対し何の含むところもありません、でも、私は勝ちに行きます」。
05/05/21 紹介棋譜参照
 ソフィア、首位者が二人の場合はプレーオフ対戦で決める、というのを読んだ記憶があったのに、いま見ると、タイブレーク判定になってる。勘違いをしてたのか。
 第7R、クラムニクはまたペトロフを採用した。アナンドの新手に惨敗、わずか20手、ポカが敗因で、深刻な長患いとしか思えないのだが。トパロフは黒番で逆転勝ち。アダムズの敗因は時間不足。そして第8Rはすべてドロー。でも、トパロフ対ポルガーが素晴らしかった。互いが攻めたり受けたり入れ替わる、なかなか見れないが一番好きなタイプの好局だ。ロレン氏の曰く「間違いなくこのトーナメントのベストゲームである」。私もこれは紹介棋譜に。
 どうしてもかすんでしまうが、ボスニアの季節でもある。シロフ、ボロガン、ソコロフなど10人が参加。また、ロシア女子選手権はコステニクが4勝0敗2分で単独首位の快進撃。
05/05/20 紹介棋譜参照
 ソフィアの優勝者は最初から予想が付かなかったが、第6Rになってむしろ混迷が増すばかり。トパロフとクラムニクが、それぞれアナンドとポノマリョフに対して、意味不明の馬捨てを敢行。トパロフは彼の生涯でも最高と言える勝利を得た。なぜかアナンドはトパロフによく負ける。これを紹介棋譜に。クラムの方はポノの受けが見事だったようで、二敗目を喫した。ヤルタ騒動でボロボロになったポノマリョフだが、そうなる前のしぶとさが私は好きだった。復調か。対してクラムニクは昨年の5敗さえ異様だったのに、今年はすでに4敗、別人である(早指しは数えない)。ほか、ポルガーが初勝利、アダムズのペトロフを倒した。かくて単独トップがポノマリョフで、最下位がアナンド、その差は1点。いやはや。
05/05/18 紹介棋譜参照
 出張で家を出る前に「ミスティックリバー」を見たら深ーく感動してしまい、畏友に「イーストウッドはアメリカ映画の語法に殉ずる覚悟を持った男ですね」と、とにかくメールしたくって電車を一本遅らせました。チェスセットがちらっと出てきます。「ミリオンダラーベイビー」が楽しみ。
 第五Rでクラムニクがポルガーに勝って再び首位に並んだ。彼女を食い物にしており、たぶん19勝してまだ負けてない。とはいえ楽勝ではなかった。ポーン得ながらクラムニクは玉頭のK翼に敵の全兵力を集中され、生きた心地がしなかったようだ。けど、引き分けに出来るところで長考し、戦いの継続を決意、確かな技で寄せきった。
 けれどこの日のスターはポノマリョフである。相手はトパロフ。名場面が盛りだくさんの傑作だった。すべては紹介棋譜で見ていただくしかないが、決め手は図で24.Nh6+。以下、24...gxh6, 25.Bxh6で、f8ビショップの動きを封じ、そして、それが他の駒の自由まで奪う流れになった。地元の期待を担うトパロフは最下位で前半戦を終えることに。この翌日は休みに入るが、彼は同時対局をやるらしい。ちなみに、こないだのリナレスでもカスパロフは同じ事をしたようだ。
 ロシアの女子選手権が始まっていて、コステニュクがニ連勝の好スタート。
05/05/17 紹介棋譜参照
 仕事が気になってソフィアの観戦が出来ない。畏友はポルガーの戦いぶりに注目している。第4Rはその彼女が白番でアナンドと戦って、期待どおりの激戦を見せてくれた。紹介棋譜に。他の二局は楽しい見所も無く、結局、この日はすべてドロー。普通の大会と変わらぬ感じだが、トパロフは、「後半になれば勝負が着くようになるだろう」。クラムニクも「ペトロフの連採は止めるよ」と宣言。
05/05/16
 第3R、トパロフが彼らしからぬベルリン定跡をポルガーに使ったのが話題になってる。局後のインタヴューによると、長い終盤でポルガーが疲れることに期待したようだ。ドロー判定のルールで手数が延びるのは体力面で女性に不利なのか、気になる。棋譜は面白く、この二人が指せばベルリンも退屈ではなかった。
 勝負が着いたのはアダムズ対クラムニクのペトロフだった。黒が駒を捨てて攻め始めたが読み違いがあり予定変更、クィーンを得たものの駒3個を失って失敗、41手で投了した。ミッキーもクラムの苦手棋士に加わってきた。
 残る一局もペトロフ。アナンドが第2Rで新手を発表したが、それもペトロフだった。穏やかな定跡が新ルールに合ってるとなると、ちょっとつまんない。
05/05/15
 畏友と私の意見はわりと食い違う。お互い相違点を追求しないたちだから、本欄に表面化することも無い。フィッシャーが拘束された最初の十日間の私の感覚は「残念、でも自業自得かも」。対して畏友の関心は高く、政治の問題であることも感じ取っていた。私が釣られていった例である。
 意外な件で合う事もある。私が短手数のドローに寛容なのは、つまらない局面をだらだら続けるよりは、さっさと引き上げて明日の名局に備えてほしいからだ。そう言ったら、畏友も同感だった。図は2R、ポノマリョフ対ポルガーで35手まで。78手でドロー。この型をレベンフィッシュとスミスロフの名著『Rook Endings』で調べると、白はPg4として黒h5を許さず、ポーン数3対2にするのが理想とのこと。本局はとっくに黒h5があって手遅れだ。さすがポルガー。無論、私の目には最後まで形勢がわからない。でも、これは40手で引き分けても許してあげたい例である。
05/05/14 紹介棋譜参照
 名人戦第三局は羽生の負け。畏友は「やっぱり羽生はお疲れのような」。実はこの前に、195手の持将棋の直後に指し直した149手の激戦という過酷な対局をしていた。チェスなら、次の試合は短手数のドローで切り上げるところだ。私はそれを悪いとは思わない。
 でもソフィアの試みは面白いと思う。初日はクラムニクが巧みにポノマリョフを下して勝った。激戦だったのがアナンド対トパロフ。今年の01/17と02/26で紹介した"トパロフ定跡"になった。つまり、二人は自分の形勢判断の正しさを譲らず、02/26の局面を再び作って戦ったのである。対局中のクラムニクまで覗きに来たらしい。図は17.Bd3まで。次の一手はもちろん17...Bc5。以下、駒のやり取りが激しく、面白い駒割を何度も現して、最後は引き分けた。観戦してた畏友は「トパロフ勝ちと思ったけどなあ」。二局とも紹介棋譜に。
05/05/13
 「華氏911」を見た。サウジの王子が出る場面、彼の背後にぼやけて映るのはチェスセットではなかろうか。それはそうと、スポーツクラブでちょっと政府の批判をしただけで、家を調べにFBIがやって来る、という話があった。無名の一般市民でこうだ。フィッシャーの反米発言をチェックしたアメリカ政府が、パスポートでも脱税でも何でもいいから彼を逮捕しようと動く、というのも納得だ。発言内容が取るに足らぬものでも、逮捕できそうだと気付いたらしてみるわけだ。映画の影響というわけでもないが、最近ようやく私もあの事件をこう考えられるようになった。
 クラムニクのインタヴューはフィッシャーにも触れていた。棋士がフィッシャー擁護なのは当然としても、その理由はみんな違っていて面白い。羽生は、前に紹介したが、ストレートに「彼は天才だから」。カスパロフはこないだのインタヴューで、「彼が有罪になるとチェスの印象が悪くなるから」。クラムニクは、「誰もが彼の恩恵を被っているから」。フィッシャーがチェスの賞金を吊り上げてくれたことを言ってるのだろう。
05/05/12
 三年目に入った。とにかく続けるさ。クラムニクの話を聞いてると、私のような年季の入ったファンでも、「食えん奴じゃ」と思う。さいきんChessBaseに載ったインタヴューもそんな感じだ。ソフィアのドロー判定については、「良い事と思います」。"ドローが多い"と自分は非難されるが、それは不当である、「みなさん、私の試合の統計を調べてから言ってほしいですね」。へえ、と思って調べた。で、言うけど、君は短手数のドローが実に多いよ。
 さらに、FIDEが九月のアルゼンチンで世界選手権を計画してることについて、彼は「参加しない」と述べた。でも、その優勝者と戦う意思はある、とのこと、「私たちはプラハ合意の2002年に立ち返るべきなんです」。しかし、04/10/28に紹介した発言にもあるが、カスパロフが引退する前のクラムニクはプラハ合意に冷淡だった。
05/05/10
 今日で戎棋夷説は二年続いたことになる。三年半は続けた気分なので、「これだけ書いてもたった二年かよお」が実感。この二年で大きく変わったのはブログの流行だろう。ついこないだまでブログなんて言葉さえ知らなかった。誰でも簡単に日々の記事を美しく見せられるようになって、私みたいなスタイルは古くなった。
 チェスのブログもたくさん生まれつつある。どれも私的な内容が中心なので、その点、戎棋夷説を続ける価値はまだあると思う。書評に関しては、ロレンの部屋のブログに、以前のホームページ版以上の熱がこもっている。長く続きますよう。私とは好みも読み方も違う人だが、解説の力はずっと上で、もう定跡なんかに関する新刊の話を私が書くのは恥ずかしい感じだ。
05/05/09
 11日から始まるのはブルガリアのソフィアの大会。出場者はアナンド、トパロフ、クラムニク、ポノマリョフ、アダムズ、ポルガー。画期的な方式が採用されており、まず、首位者が複数で終わったらタイブレーク判定ではなくプレーオフ対局で決着させる。さらに興味深いのは、合意のドローを無くす試みで、ドローかどうかを判定する審判員制度を設けたこと。審判員たちのアドバイザーをアズマイパラシヴィリが務める。
 審判制は03/07/01に紹介したドボレツキーの提案にあった。永く公平性を保てるか、私は疑問に思うが、少数の大きな大会ならうまく機能するかもしれない。短手数のドローが許されないので、ここのところ疲れやすい印象を与えているクラムニクの戦いぶりが気になるところだ。ただ、参加者の相性は悪くない。
 ほか、主催者がフィッシャーを招こうとしている、という話もあったが、まさかそれは実現しないだろう。
05/05/08
 「花とアリス」をてきとーに見ていて、私の心が無防備になっていたところ、花ちゃんがいきなり勝負に出てきたものだから、思わず涙ぐんでしまいました。
 今週から大きな大会が始まります。いまのうちに今月のムダ話を。五月は音楽ネタ。大好きな作曲家を三人、と言われたら、絶対に入るのがウェーベルンです。
05/05/07
 畏友に教わってBohmとJongkindの"Bobby Fischer: The Wandering King"を買った(Batsford, 2005)。オランダのテレビ番組をもとに作られた本である。伝記的な記事もあるけど、中心はたくさんのインタヴューで、その顔ぶれがすごい。そして、ここが嬉しいのだが、スラスラ読めるレベルの英語である。
 二、三、簡単に紹介すると、まずカルポフ。フィッシャーとのタイトル・マッチを実現できなかった1975年から77年にかけての交渉の模様を話してくれた。御存知の方も多いだろうが二人は東京で会談している。それからショート。これも有名な話だが、彼がインターネットで謎の強敵と出会い、ボコボコに負かされ、その相手とチャットを繰り返すうち、「これはフィッシャーだ」と感じた体験が披露されている。ほか、フィッシャー自身のテロ賛美のあの情けないインタヴューも読める。
 以上の例だけでも、このドキュメンタリーの価値がわかるだろう。ぜひ日本で放送してほしい。
05/05/06
 ボルドーの小さな大会でカルポフが優勝。ChessTodayによれば、これで161のイヴェントで勝者になった。カスパロフが引退したので、カルポフの記録の重みが増す。
05/05/04
 月曜は連休の狭間で職場に行ったところ、がらーん、なんと休業日になっていた。ひどーい、しかし、どう考えても、これは私が出席した会議で決まったはずである。知らんとは言えん。
 昨日はたくさん書いたので、今日は軽めに。ナカムラはネットのブリッツ大会によく顔を出す。小銭を稼ぐというより、根っから好きなんだろう。そこでの得意技をChessTodayが紹介していた。1.e4.e5に対し、2.Qh5である。
05/05/03
 映画を待つ間、思い切ってバーバリーのスーツを買った。職務上必要かというとそうでもないのだが、近場の同僚はてきとーな人間ばかりで、同類と思われぬためにも私だけネクタイを着けて浮いている。梅田の地下を歩いたら茜屋珈琲店を発見。なつかしい、大学の近くにあって好きだった。映画の神のお導きである。一杯すすりながら「New In Chess」05/03号に引用された「ワシントンポスト」の記事を訳してみた。フィッシャー事件の結末に関して、全文である。
 「アイスランドにとって残念な一日を記すことにもなった。この国はある人物とお付き合いをしたが、その人物は長く品位を忘れ果てているのである。(略)フィッシャー氏が盤上で大勝利を収めたことには文句の付け様が無い。アイスランドの人は、その絶頂期を忘れまいという選択をしたのだろう。けれどフィッシャー氏はそこから転落したのだ。民主国家の議会なら、彼が栄光から立ち去った後に、はまっていった深みを無視すべきではなかった。フィッシャー氏は明らかに精神のバランスが深刻に崩れており、おそらく、憎むよりは憐れむ対象と考えるべきだろう。けれど、法的な恩典にあづかる対象でないのは確かである。この棋士が口を開くたび、彼の新たな同国人が自分の国を恥じるようになるのを待つまでもなく。」
 無論、フィッシャーのテロ賛美を問題にしており、米紙がそれに批判的なのは当然である。日本では、なにせパスポートの失効手続きを巡る法解釈が公式主題なのだから、議論の表面に上る余地は無かった。それも当然だろう。その点で、アイスランド人の英雄崇拝だけでなく、上記の人格批判も観点がずれており、それによって"恩典"を剥奪するのは危険でさえある。けれど、この心情は多くの人が共有していると思うので記録しておく。とにかく私は、誰であれ対局が原因で罰せられなかったという決着には満足です。
05/05/02
 きのうは「コーヒー&シガレッツ」を見てきた。1日は日曜、しかもサービスデーと知らず行ってしまい、この地味な映画が満員で、2時間半も待ってしまった。
 短編を連ねた御存知のスタイルだが、本作は97分の間に11ものエピソードだから、あっさりした話ばかりだ。最後から二つ目のに「チェスでもやろうか」というセリフが出てきた。最後のにも0コンマ何秒か黒のポーンが上方から映った気がする。白黒のチェッカー模様が作品の通奏低音みたいに使われており、充分チェス映画の名に値する佳品である。
 喫茶店で「ちょっと話せる?」という感じの、どこにでもあるような待ち合わせが中心で、その一つ一つに、ごく軽めの奇妙な味付けをしてある。軽く奇妙、というのがセンスの良さだ。類似品にありがちなオタクっぽい不健康さを発症してない。
05/05/01 紹介棋譜参照
 ロシアのクラブ選手権は終わってみればTomskの優勝だった。二位はTPSとLadya、そして、グリシュクとドレーエフを擁するMaksven。私は40局くらい並べたが、好局が多くて、さすがチェス大国のお祭りだった。ひとつだけ選ぶならZvjaginsev対Bareevだ。これを紹介棋譜にしよう。
05/04/30 紹介棋譜参照
 戎棋夷説が始まってから棋士の死亡記事を出したことが無かったが、Shamkovichが亡くなったようである。1923年生まれ。棋戦での活躍よりはライターとして優秀で、また、思い出せないのが残念だが、興味深い手をいくつか残して、定跡書でもわりと言及された人だ。好局をひとつ紹介棋譜に。日本人には『人間対機械』の棋譜解説で知られてるだろう。私は『The Modern Chess Sacrifice』が好きだった。棋譜を並べるだけで、駒を捨てる流れと形が自然に身に付いてきた。読書による棋力アップを私は期待しない者だが、珍しい例外だった。
05/04/29 紹介棋譜参照
 ロシアのクラブ選手権は残り2ラウンド。Ladyaが三位に沈んで、TPSが首位、ここにはイワンチュクとサトフスキーが居る。二位はTomsk、総合力でこっちの方が強そうな顔ぶれに思うけど。直接対決の主将戦ではイワンがモロを降していて、結果として昨年のオリンピアードの主将戦の再現になった。序盤が面白い。図は白がモロゼビッチで、ここまでの手順は想像つく人が多いだろう。しかし、次の一手はどうだ、7.g4なのだ。以下は紹介棋譜に。
 私が好きな詩人というと、西脇順三郎と瀧口修造、吉岡実である。存命の詩人では、もう詩人とは言えない面も多い人ばかりだが、吉増剛造、平出隆、松浦寿輝だ。女性では井坂洋子と小池昌代が好い。そして別格は谷川俊太郎である。こないだの"危険人物"が吉岡実の詩の世界というページを教えてくれた。すごいファンがいるものである。
05/04/27
 封じ手はやはり3五歩だった。以下、同銀、4五歩、6五角。局後の感想では両者とも自分の3五歩と6五角の戦果に不満だったが、ここから後が大熱戦で、最後は森内の絶妙の受け4八金で決まった。久しぶりに素晴らしい名人戦だ。
 今月は映画以外のムダ話をしたい。最近の小説から。実は文学は詩の方が好きなんだけど、吉田篤弘の短編集『百鼠』が気に入った。『つむじ風食堂の夜』より格段に上達している。畏友は堀江敏幸にハマっていて、『河岸忘日抄』がお気に入りのよう。ついでに、彼が最近見た映画は「真夜中の弥次さん喜多さん」で、長瀬智也が好きなのだとか。これは同感で、私が楽しみにしてた最後のTVドラマが「池袋ウエストゲートパーク」の最初のやつである。もっとも、件の畏友の映画評は「まあねの内容」だった。
05/04/26
 ロシアのクラブ選手権がたけなわ。6ラウンド終わった時点でLadyaKazanがトップ。スヴィドレルとルブレフスキーといった、団体戦で頑張る印象の棋士が居る。昨年優勝のTomskが擁するのはモロゼビッチ、ボロガンなんかで、Ladyaに勝ったものの現在3位。ChessTodayがよく伝えてくれますが、棋譜はとても面白いです。
 日本では名人戦第2局の初日。後手羽生が封じた。局面は名人戦史上ワーストの両者悪形か?解説の藤井は3五歩を検討して、後手悪くなさそうだったが、「3五歩は絶対無い」。彼の予想は7二玉だった。しかし、畏友は「羽生は3五歩でしょう。そっち見てたし」。私もそんな気がするが、それで羽生は森内有利を認めてるのでは。
05/04/25
 四月に見た映画はベルコという新しい監督で「なぜ彼女は愛しすぎたのか」。30歳の独身女性と13歳の少年のお付き合い、ただそれだけを132分も使って描いてる。出会いから始まる恋愛心理の変化以外に何のストーリーも無かった。そのためか、顔のアップがとても多い。二人の心理にしか興味が無いという作り手の意識は明確で、観客はおろか映画にさえも媚びてない。それに共感できるかが鍵で、紹介記事を読んだ同僚は「何だか身につまされる内容のような気がする」と言ったが、これが楽しめる鑑賞法だろう。意識的に素人のホームビデオみたいな撮り方をしてる部分が多く、そこは意図がわからなかった。
05/04/24
 小畑健・大場つぐみ『デスノート』を読んでいる。MAROの素顔を知る危険人物が職場に居て、「これゼッタイ面白いんでどうぞ」と貸してくれたのだ。今年になって初めて読む漫画だ。いま二巻の途中だが、たしかに面白い。"L"の宿泊する部屋にチェス卓が出てきた。奴は指せるだろうか。ジャームッシュの新作「コーヒー&シガレッツ」が大阪で公開されるまでもう少し。この映画の予告編にもチェス卓が好い感じで使われてた。対局シーンは無いと思うが、彼の「ナイトオンザプラネット」は好きだったので待ち遠しい。
05/04/22
 ノルウェーのガウスダルで小さな大会があり、カールセンが参加してました。結果は3勝4敗2分で10人中の6-8位とパッとしない。最近、好成績の話がありませんね。けれど、昨年のヴェイカンゼーの"爆勝ちの譜"あたりからだと思うのですが、棋風は意欲的になっており、内容は面白い。たとえば図はリー戦からで、カールセンは17.Nxf7、以下17...Rxf7, 18.e5。この攻めが有効かどうか、私にはわからないけど、このまま伸び悩みしぼんでしまうようなチェスでないのは確かでしょう。優勝者はティヴャコフで8勝0敗1分。カールセンとは初戦で当り、序盤から圧迫する完勝でした。
 カスパロフが盤で殴られた瞬間の写真がTWICに出ました。帽子をかぶってない頭を狙われてますが、盤のカドで突き込むようにされたわけでもなく、そこは安心しました。たぶん、犯人にも殺意は無かったんでしょう。追記さらに詳しい写真がChessBaseにも出ました。
05/04/21
 カスパロフの『我が先人達』の構成を畏友に教わった。第五巻の主人公はカルポフで、コルチノイもここで取り上げられる。第六巻はカスパロフとカルポフのマッチを扱う。カルポフの『In Action』シリーズがすでにそんな趣のある本だったから、比較するのが楽しみだ。第七巻は棋譜無しの読み物のようで、世界選手権の歴史をたどるお話をしてくださるらしい。第八巻は人間対機械。これだけで一冊とは。せめて本の中だけでも勝っておきたいというところか。思想を期待する。そして、最後の第九巻と十巻が自分の名局集。予定ではここまで書店に並ぶのが2008年の10月である。
05/04/20
 「64」誌恒例のチェス・オスカーは今年もアナンドが一位に。4度目。
  1. Anand, Viswanathan, India, 5205
  2. Kasparov, Garry, Russia, 3664
  3. Leko, Peter, Hungary, 3485
  4. Kramnik, Vladimir, Russia, 3344
  5. Kasimdzhanov, Rustam, Uzbekistan, 2088
  6. Topalov, Veselin, Bulgaria, 1858
  7. Ivanchuk, Vassily, Ukraine, 1398
  8. Adams, Michael, England, 1378
  9. Morozevich, Alexander, Russia, 1128
  10. Grischuk, Alexander, Russia, 868
 昨年の顔ぶれと比較したい方は本欄の04/04/28を御覧ください。五人が入れ替わってます。ロシア選手権に勝っただけのカスパロフがブリッサーゴ組を抑えて二位に上がってるのは貫禄。それにしても、レコのほうがクラムより上かよ。

戎棋夷説