福岡問題筆者見解


すでに多くの議論がされており,それをすべて並べてもつまらないので,その中からは2点だけ確認しておきます。

★ ナビスコカップのニューヒーロー賞の存在と,メンバー入れ替えの取り締まりとが矛盾するということ。
★ 最強メンバーの定義がないまま制裁に付すのは,罪刑法定主義に反していてフェアでないということ。

さて,その上で考えたことを2つまとめておきます。

大会運営の問題と,最強メンバー問題とは分離審議できない

何の前知識もなしに見れば,ナビスコカップにおける福岡・市原のメンバー構成が,少なからぬ人に「あれ?」と思わせるものであったことは事実です。しかし,今年の大会運営の事情についての知識を得れば,少なからぬ人が「なるほど」と思うのもまた事実です。

私が「あれ?」との思いを拭い去れないのは,川淵椅子男氏がJリーグ公式ページで発表した見解の中で,

「これら(日程の問題・カップ戦の価値の問題)については … リーグとして検討していくことといたしましょう。しかしこれらは、最強チームによる参加義務とは、別の課題です。」

として,大会運営の問題と最強チーム参加問題を別扱いにしていることです。これを例えるならば次のような話になります。

高速道路の管理者が,高速道路上に障害物を残しておきながら,ある車が障害物に配慮した運転で最低速度を下回ったため,その車を取り締まった。すると「障害物があるじゃないか」という猛反発を食らったので「それは別のことだ」と言い放った。

これはとんでもない暴言です。上記の場合高速道路の管理者が障害物を放置した責任を問われるのは当然で,最低速度違反を裁定するとしても,障害物の放置を考慮せずにはできません。

考えても見てください。プロサッカーチームが試合に臨めば,原則として勝とうとするのが当然で,勝つためにはどのチームも最強メンバーを揃えたいはずです。にもかかわらず諸事情により「疑惑メンバー」で試合に臨んだのだとしたら,それは八百長であるか,そうでなければ大会運営に大きな問題があるからだと言わざるを得ません。今回は福岡・市原とも勝ちぬけたことからも八百長ではないことは明らかです。

さきの「高速道路に障害物」は,道路管理者のプロがやることではありません。同様に,現行の大会運営もプロの仕事とは程遠いものです。目の前に積まれた障害を,自分の判断で回避して怯(ひる)まなかった福岡・ピッコリ監督こそがプロなのであって,甘えた仕事を一刻も早く止めるべくプロ意識を持たなければいけないのはリーグ側なのです。

くじの対象競技の管轄としても問題あり

今回のリーグ側の姿勢には,もう一つの重大な問題があります。それはサッカーくじの対象競技を管轄する者としての問題です。競馬や競輪に絡めて説明しますと,

競馬の施行規則には「勝つ意思のない馬を出走させてはならない」といった規則があります。実際には「勝つ意思のないように見える馬」はゴマンと出走しているのですが,それを処罰に付したという話はトンと聞きません。当たり前です。そんなことをしたら,主催者自らが「勝つ意思のないように見える馬の出走は,馬券という賭けにおいて文句の付けどころです」と宣言するのと同じだからです。

今回リーグ側が福岡に制裁を加えるということは,今後も「疑惑メンバー」が登場する毎に裁定に付す意思があるものと判断できます。また,今後あるチームに関して「疑惑メンバー」だと思ったファンからの批判を浴びる覚悟をしているとも判断できます。「疑惑メンバー」のチームが負けたが為に1億円をフイにした怒りを,Jリーグにぶつけてもよいということなのでしょう。

本当ですかね? 実際にはリーグがそこまで考えて今回の制裁話を発動したのでしょうか? そこまで考えていたというのであれば,この点に関しては反論するつもりはありません。しかしもし「見せしめに制裁をしておけば,くじが始まったあとに問題が起きないですむだろう」などという甘い考えで制裁を加えようとしているのであれば,即刻撤回したほうがリーグ自身の身のためです。

かつて特別競輪で,ある選手グループが特定の選手を勝たせるべく走っていたことがありました。つまりそのグループの選手は一人を除いて勝つ意思がないのに出走していたことになります。それでも主催者側がそれを制裁したという話は寡聞にして聞いていません。これは極端な例ではありますが,いずれにしても賭けの対象だからこそ,規則を安易に拡大解釈して制裁に付すような愚行をしてはいけないのです。賭けごとの対象(馬・競輪選手・サッカークラブ)に対する制裁とは,まず疑惑が生じないような万全のシステムがあった上で,それでもなお問題が起きたときにのみ発動するべきなのです。今回のような不完全なシステムの上での制裁は,今後に自分の首をしめる結果を招きかねないのです。

まとめ

繰り返しますが,「プロサッカーチームが試合に臨めば,原則として勝とうとするのが当然で,勝つためにはどのチームも最強メンバーを揃えたい」はずです。もし,そこに迷いが生じるのだとしたら,それは明らかに大会運営上の問題があるからであり,その点でリーグは大会運営上の根本的な問題を抱えているのです。その点を考慮せずに福岡を制裁に付すような愚行は絶対に避け,福岡を無罪放免にした上で,リーグとして包括的に問題を解決するという姿勢を示すべきと考えます。

(2000-5-26)


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