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円錐角膜移植手術後散瞳症訴訟
医療裁判でトンデモ判決が出る原因の多くは、判断の元になる医療鑑定がおかしいのではないか、と言われていたのですが(参考)、この裁判の東京地裁判決を読みさらに裁判資料を見て、それだけでは済まされない、そもそも裁判所の判断がトンデモないものがあるようだと気づかされた事件です。 裁判は、角膜移植術後に散瞳症(瞳孔が開きっぱなしになること)が発症したことをめぐる争いです。争点はたくさん挙げられていますが、東京地裁判決では、ミドリンPという散瞳薬を過剰投与した過失を認めて、原告勝訴としました。 なお、賠償額は1700万円余り。 まず、この症例において角膜移植術後の散瞳症の原因として、判決では
の二つがあげられるとしました。これらはいずれも、医学的に因果関係が証明されたものではありません。しかし判決では、裁判における因果関係の立証の手法(高度の蓋然性があると確信できれば良い)に かなうとして、散瞳症の原因になったと因果関係を認めました。 なお、散瞳薬は、手術後の炎症によって引き起こされうる「虹彩後癒着」を予防するために点眼したものです。(虹彩後癒着=虹彩がその後ろの水晶体と癒着してしまうこと) ミドリンPの1日6回投与が散瞳症の原因であると判断した手法は概ね次のとおりです。
次に、ミドリンPを過剰投与が過失とした判断は次の通りです。
このような、「風が吹けば桶屋が儲かる」式の論法に、大きな疑問を持ちました。すなわち、以下の通りです。
この裁判は病院側が控訴して、東京高裁で審理が続きました。その間に私は東京高裁で資料閲覧をして来たのですが、3人の鑑定医が意見を述べたカンファレンス鑑定の議事録を見ても、どこにも病院側を責めるような記載もなく、また下っ端眼科医である私の拙い感想ですが、なんら落ち度らしいものは感じられませんでした。 そして平成20年2月13日に、東京高裁判決が出ました。綺麗に原告逆転敗訴です。控訴審判決をメモしてきましたが「証拠がない」の連発です。確かに裁判資料のどこをどう探しても、過失についても因果関係についても、それを認定できるような証拠が本当にありませんでした。証拠がないのに東京地裁は過失も因果関係も認定してしま っていたということであり、まったくもって東京地裁の判断は不当なものだったと感じました。証拠もないのに医療側に責任を被せる、そんな判決が出るようでは、医療なんかやっていられないということになるのは当然です。 ちなみに原告側弁護士には、かの有名な弘中淳一郎氏が付いていました。なんでこんな負け筋事件を請け負ったのでしょうかね? 追記最近になってこの裁判記録を再度確認したところ,原告は上告および上告受理申立てをしていました。どちらもいわゆる三行決定(wikipedia参照)が出ているのだろうと思いきや,そうではありませんでした。上告が東京高裁で却下されていたのです。上告却下などというのは初めて目にしました。 法律家以外の方には難しい話ですが,民事訴訟の上告には「憲法違反」や,手続き上の瑕疵などの重大な理由付けが必要になっています。しかしながらこの事件の上告理由書には,「最高裁判例違反」の主張が2つ書かれているだけでした。これでは先に述べた民事訴訟の上告理由にはなりません。そのため,上告を受付けた東京高裁はこの上告を却下し,最高裁には送りませんでした。 また,上告理由には重大な理由付けを要求して上告を厳しく制限しているため,そこまではいかなくても上告を受け付けてもらうようお願いをする「上告受理申立て」という制度があり,冒頭に述べたようにこの事件では上告受理申立ても併せて行われているのですが,上告受理申立て理由書では,「最高裁判例違反」の主張はなされていませんでした。「最高裁判例違反」は, 上告理由にはならないものの上告受理申立ての理由になるはずなのですが,それがなされていませんでした。こうしてこの原告は,「最高裁判例違反」を理由とする不服の主張を,最高裁で審理してもらう機会を失いました。 原告側は,どうにも無理筋としか思えない事案で医師の責任追及をしようと提訴したわけですが,その厳しい責任追及をする側の弁護士が,このような杜撰な弁護活動をしたという事実に,新鮮な驚きを覚えました。 刑事訴訟では「最高裁判例違反」が上告理由として認められるので,それと混同したのではないかと推察しますが,それにしてもお粗末です。明白な弁護過誤ではないかと思うのですが,如何でしょうか。 平成20年(ネオ)第118号(原審・当裁判所平成19年(ネ)第2798号損害賠償請求控訴事件) 平成20年5月4日記す。平成21年9月25日,追記。平成21年10月4日,誤字修正。平成21年10月10日,文献例の提示,上告受理申立てについての説明を追記に挿入。 医療訴訟トップに戻る | 表紙に戻る |
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