2000年(平成十二)

ハリー・ポッター。椎名林檎「ギブス」。フェルメール展と伊藤若冲展。


FIDE RATING LIST JAN.
1Kasparov, Gary36Russia2851
2Anand, Viswanathan30India2769
3Kramnik, Vladimir24Russia2758
4Shirov, Alexei27Spain2751
5Morozevich, Alexander22Russia2748
6Leko, Peter20Hungary2725
7Adams, Michael28England2715
8Ivanchuk, Vassily30Ukraine2709
9Bareev, Evgeny33Russia2709
10Topalov, Veselin24Bulgaria2702

 好大会の多い良い年だった。KramnikがKasparovに挑戦し、破った。第14代世界王者の誕生である。一方、FIDEの世界選手権はAnandが優勝。インドは熱狂に包まれた。勝つべき人が出場し、実力どおりに勝ったことで、こちらのタイトルも無視できなくなってきた感がある。なお、ベスト10からKarpovの名が消えた。1972年から載り続けていたはずである。偉業を称えたい。


Wijk aan Zee, 15-30.Jan.
    1 2 3 4 5 6 7 8 91011121314
1Kasparov        9.5
2Kramnik            8.0
3Leko            8.0
4Anand            8.0
5Morozevich×      ×  7.5
6Adams  ×     ×   7.0
7Piket        ××× 6.5
8Timman ×   ××     6.5
9Nikolic × ×××      6.0
10Short  ×   ××      5.5
11Polgar ×   ×   ×  × 5.0
12Korchnoi × ××   ×   ×5.0
13Lputian  ×××× ××    4.5
14Van Wely ×   ×× ×   ×  4.0

00/01 Kasparov-Van Wely, 1-0, B80, Poizned-Knight定跡とでも名づけようか。

00/02 Morozevich-Lputian, 1-0, C00, Morozevich見参!

 オランダは北海に沿った沿岸地域ヴェイカンゼー。この国の鉄鋼会社、Hoogovenが1938年から育ててきたチェス大会は、いまや世界のチェスファンが注目する年初めの大会になった。ただ、この年から社名が変わってCorus。
 余裕の優勝は、半年ぶりに現われたKasparov。前半はKramnikが好調だったのだが、そこで気力が費えたらしく、後半はすべて引き分けだった。Anandの二位は、しかし、インフルエンザに罹っていたことを考えると、なかなかの結果だろう。Lekoの二位は成長を感じさせた。

Linares, 28.Feb.-10.Mar.
    1 2 3 4 5 6
1Kramnik   ○= ○= 6.0
2Kasparov    ○=○=6.0
3Leko   =×  4.5
4Khalifman ×= =○=× 4.5
5Anand  ×= =○×=4.5
6Shirov ×=×=  ○=4.5

00/03 Kramnik-Kasparov 1/2-1/2, A30, 十月のマッチを前にした、最後の顔合わせがこれ。

 スペイン南部、アンダルシアの都市リナレス。「超」の強豪が毎年あつまるようになったのは1989年から。優勝はKramnikとKasparov。引き分けながら直接対決のひとつは激戦だった。優勝杯はKasparovがKramnikに譲った。弟分に貫禄を示した、というところか。頑張ったのはKhalifman。Morozevichに代えて呼ばれただけの彼にはしんどい大会になる、と予想されたが、まずまずの成績を残した。

Lvov, 12-22.May.
    1 2 3 4 5 6
1Ivanchuk ○=○=○○ 7.0
2Krasenkow ×=○=○=○=6.0
3Beliavsky×=○=  ×○5.0
4Gelfand×=×=  =○4.5
5Korchnoi×××=  ○○4.5
6Romanishin ×=○×=×××3.0

 リボフ(Livivとも)はウクライナ。この町の近くで生まれたシュタインの記念大会である。参加者のうちBeliavskyがこの町の出身者、IvanchukとRomanishinがウクライナの棋士である。この御当地三人組が大会を盛り上げてくれ、観客も多かった。ポーランドに近い町で、この国からのスポンサーが付いたことも成功の一因だったようだ。

Sarajevo, 16-29.May.
    1 2 3 4 5 6 7 8 9101112
1Kasparov     8.5
2Adams      8.0
3Shirov    ×8.0
4Morozevich ×   ×  6.0
5Topalov ××     6.0
6Bareev× ×     6.0
7Sokolov×× ×      4.5
8Movsesian×   × ×××4.0
9Short  × ××     4.0
10Georgiev× ×× ×    4.0
11Gurevich×××××    4.0
12Bacrot××× ××   ×3.0

00/04 Shirov-Topalov, 1-0, C11, Shirovの中央突破。彼の最高傑作だろう。

00/05 Movsesian-Gurevich, 0-1, C02, Gurevichは『完全チェス読本』で史上45位の強豪です。

 KramnikはKasparovとのマッチの兼ね合いを考えてキャンセル。代わりにShortが出場。また、MovsesianとBacrotはこれがメジャー・デヴューだった。特に、Movsesianの働きが大きい。9Rまで単独トップだったShirovを彼が止め、その彼をKasparovが11Rで倒したことで優勝者が決まったのである。Kasparovのこの一戦は、彼が長年得意にしてきたSheveningenの集大成とも言える、彼らしい、しかも完璧な出来栄えだった。
Dortmund, 07-16.Jly.
    1 2 3 4 5 6 7 8 910
1Kramnik×    6.0
2Anand×    6.0
3Adams×      5.0
4Leko    ×  5.0
5Akopian×      5.0
6Junior 6×     ×4.5
7Khalifman ×       4.0
8Bareev   ××   4.0
9Piket ×××    3.5
10Huebner××  ×× × 2.0

 表からわかるとおりの激しい優勝争い、それに、一秒に2万8千局面を評価できるコンピュータJunior 6の参加、等、話題があって盛り上がった。通路にまで観戦者が座り込んでいたという。4RでAdamsがKramnikを倒し、5RでAnandがAdamsを倒し、6RでKramnikがAnandを倒すという目まぐるしさ。最終日はKramnikをAnandとLekoが半点差で追った。Kramnikはドロー、Anandは勝って、二人が同点。LekoはJunior 6に負けてしまった。優勝はタイブレーク判定でKramnikだったようだ。

Biel, 24.Jly.-08.Aug.
    1 2 3 4 5 6
1Svidler=○ ○=○=○○7.5
2Van Wely=×○=  =○5.5
3Ponomariov ×=  ○○5.5
4Milov×=   ○=5.0
5Gelfand×=   ○=5.0
6Gallagher××=××××=×=1.5

00/06 Svidler-Gelfand, 1-0, B81, 型はB81だけどNajdorf。難解定跡の最前線を。

 Svidlerがスランプを脱出。それも文句の付け様が無い独走だった。一方、Gelfandが五月からの不調を引きずっており、これが大差の優勝を許す一因にもなった。16歳のPonomariovがメジャー・デヴュー。彼だけがSvidlerに負けなかった。黒番の低い陣形から盛り上げて、最後は逆に白陣を圧殺したGallagher戦が印象に残る。

Polanica, 17-26.Aug.
    1 2 3 4 5 6 7 8 910
1Gelfand     6.5
2Shirov×    6.0
3Van Wely ×   6.0
4Ivanchuk  ×    5.0
5Krasenkow ×× ×5.0
6Markowski ×  ×   4.0
7Movsesian×   ×× 4.0
8Almasi   ×× ×4.0
9Svidler× × ×   3.5
10Fedorov××××× ×× 1.0

00/07 Gelfand-Movsesian, 1-0, D15, Q翼のビショップとルークを使わせない。

 ルビンシュタインの母国ポーランドで開催された彼の記念大会。バイエルと結果は対照的。Gelfandが復調、Svidlerは彼に2Rで潰されてそれっきりになった。Shirovが優勝の鍵になったのは表からわかるだろう。Gelfandとの直接対決は、白クイーンを中央に引き込む黒Gelfandの捨て駒が印象的だった。最終ラウンド、大きな駒特の終盤を107手までVan Welyは戦ったが勝ちは無し。しかしこの顔ぶれでの二位は誇れる。熱戦が多い良い大会だった。

Shenyang, 01-13.Sep.
Semi-Finals
   1 2 3 4 5 6  
Anand3.52.5Gelfand
Bareev2.51.5Milos

Final
   1 2  
Anand1.50.5Bareev

00/08 Anand-Khalifman, 1-0, B80, 難解局だが、名を隠してもAnandとわかる苛烈な切れ味。

 FIDEのワールドカップが中国は北朝鮮に近い瀋陽で開催された。24人の強豪が参加。優勝候補は、Anand、Morozevich、Ivanchuk、Bareev。まず、六人づつの総当たり戦で八人が選ばれる。六人づつ、というのが変で、つまり、白番を3局指せる人と2局だけの人で明暗が分かれた。無論、後者の被害者はブーブー。Morozevichがこの段階で脱落。最後は八人の勝ち抜き戦。優勝はAnand。準々決勝ではIvanchukを下している。棋譜のレベルも抜群で、彼のための大会だった。「マッチより勝ち抜き戦が私には合ってるんだ」。世界選手権での活躍が予想された。
Neum, 24-30.Sep.
1Bosna SarajevoBIH13Bareev, Georgiev, Movsesian, etc
2St.PetersburgRUS11Khalifman, Svidler, Korchnoi, etc
3Ordina BredaNED10VanWely, Adams, Timman, etc

 ボスニア・ヘルツェゴビナは内陸国と言っていいが、10キロ足らずの海岸線を持っており、ネウムはそこにある。ここにヨーロッパを代表する34のクラブが集まって欧州団体選手権が行われた。従来は勝ち抜き戦だったが、この大会からスイス式になった。全7ラウンド。優勝は前年に引き続きBosna Sarajevoだった。前回と違い、Topalovを欠いても勝ったのだからチーム・ワークも良かったのだろう。通算3度で、これは最多タイ記録だ。
London, 08.Oct.-02.Nov.
   1 2 3 4 5 6 7 8 9101112131415  
Kramnik8.56.5Kasparov

00/09 Kramnik-Kasparov(2), 1-0, D85, 引き分け模様の終盤で我慢くらべ。

 Braingamesによる最初で最後の世界王座戦。棋譜はもちろん対局風景までがインターネットでリアルタイムに配信された。Kasparovの初手e4に対し、KramnikはRuy-LopezのBerlinで応じ、いくらか不利でも終盤を粘りきる作戦に出る。これが功を奏した。おかげで派手な名局は無く、息苦しい終盤が多いマッチだった。写真は最終局の直後、二秒無いほどの仕草である。Kasparovと戦う重圧から解放された姿が初々しかったが、手を下ろしたとたん、彼には第14代世界王者としての重圧がのしかかった。
Istanbul, 28.Oct.-12.Nov.
1Russia38.0Khalifman, Morozevich, Svidler, Rublevsky, etc
2Germany37.0Yuspov, Hubner, Dautov, Lutz, etc
3Ukraine35.5Ivanchuk, Ponomariov, Baklan, Eingorn, etc
4Hungary35.5Leko, Almasi, Polgar, Portisch, etc
5Israel34.5Gelfand, Smirin, Avrukh, Psakhis, etc

00/10 Rublevsky-D'Amore, 1-0, B06, 20世紀最後の短編好局というところか。

00/11 Van Wely-Krasenkow, 1-0, D31, この定跡を一回は扱ってみたかった。

 第34回チェス・オリンピアードはKasparov対Kramnikのマッチと日程が重なってしまった。だから、ロシアはこの二人はもちろん、KramnikのセコンドでもあるBareevまでが参加できない。他にも都合のつかない棋士がおり、メンバーを揃えるだけでも大変だった。で、実績の無い少年が大抜擢された。Grischukである。この彼が5勝0敗5分の大活躍、チームとしてのまとまりも良く、かくて層の厚さを世界に示す優勝を遂げた。ドイツの二位は大健闘。女子は中国が優勝した。
New Delhi,Teheran 27.Nov-24.Dec.
Quarter-Finals
   1 2 3 4 5 6  
Anand3.52.5Khalifman
Adams1.50.5Topalov
Grischuk2.51.5Tkachiev
Shirov2.5×1.5Bareev

Semi-Finals
   1 2 3 4  
Anand2.51.5Adams
Shirov2.5×1.5Grischuk

Final
   1 2 3 4  
Anand3.50.5Shirov

00/12 Shirov-Grischuk(3), 1-0, C96, 猛攻と猛追の応酬が魅力的。

 FIDEの世界選手権。KramnikとKasparov以外の強豪すべてが揃って100人で争われた。5勝で5人を破る慎重なAnandと、勝ったり負けたりで劇的なShirov、対照的に勝ち上がってきた二人の決勝になった。結果は、相性もあってAnandの圧勝。アジア人がFIDEの王座になるのは初めてである。以後、インドでチェスは盛んになった。また、Grischukの大活躍は、やや対戦相手に恵まれたとはいえ、特筆されるべきだろう。女子は謝軍(XieJun)が前年に続き優勝、翌年から男子の世界選手権に参加することになる。



参考棋譜 (別ウィンドウで開きます)

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