フィリップス社の世界地図
PHILIPS'
POCKET ATLAS
of the
WORLD

発行日不明(1920年代?)英国はロンドンのPhilip's & Son社刊。もちろん全文英語。

文庫版、約200頁。赤紙のハードカバー。 


お馴染みの元町「つの笛」で300円で手に入れた。

「地図と版画の好きな少年にとって、宇宙はその旺盛な食欲にもひとしい」とはボードレールの「旅」の一節だ。

僕も版画と地図の両方とも大好きだが、方向音痴の上に、地理の知識に関しては恐ろしいほどに貧弱である。 


小倉の学生時代、小学生の家庭教師をしたことがある(渡辺一雄というガキだった)。

その社会科の宿題に、日本の県名を白地図に書き込むというのがあって「こっちにあるのが神奈川県、あっちにあるのが金沢県」と教えてしまい、後で大恥をかいたことがある。


このポケット版世界地図帳の発行年だって、ちょっと世界史と地理に委しい人なら國名や境界線などを見て、特定できるに違いない。

先に1920年代?なんて書いたのも、表紙の見返しに薄いスタンプが押してありそこに「SEP. 1926」と読み取れたからに過ぎない。

購入年月日のようだが、そうだとしてもおおよその目安となるだろう。


同じく見返しには日本の印鑑が二つ押してあり、一つは判読不能だがもう一方は「高木」となっている。

この本の持ち主が僕で何人目になるかは知らないが、ひとまず、この高木某(ブーではない)という日本人が、大正の終りか、昭和の初めにこれを手に入れて、世界一周の旅に出かけたと想像することにしよう。 


猫も杓子も女も子供も気軽に海外に出かけるこのごろと違い、当時は洋行などというのはまだまだ希有な事象だったろうから、この高木某がそう簡単に世界一周なんて、安易な想像に過ぎると思われるかもしれない。

しかし、これが充分ありそうなことだと匂わせる節がこの地図帳に秘められている。これこそ、僕がこの本に肩入れする理由なわけで、つまり、地図の上に赤インクでルートがびっしり書き込まれてあるのだ。

これとても、空想旅行の夢の跡だろうと反駁を食いそうだが、細部に亙って神経質なくらい、細かくルートがたどってあり、あちこちに変更、逡巡の跡までうかがわれて、少なくとも本氣でプランをたてたことは間違い無さそうだ。 


亞細亞觀光圖
世界全図には、太平洋、インド航路、アフリカ回り、スエズ運河航路、オーストラリア回り、シベリア鉄道経由と、いくつものルートが記されている。

個々の地図から、回ったと思われる国名だけを挙げると、フランス、ドイツ、チェコ、スイス、ハンガリア、オーストリア、スペイン、イタリア、アメリカ合衆国、カナダといったところで、つまりは欧米歴訪の旅だったらしい。

ルートを信ずるならば、アメリカ合衆国なんか縦横無尽に駆けずり回ってることになる。 


この地図帳にはもう一つ、見所がある。30頁に亙って見開きで収められている、世界地域別、地勢図と、觀光図だ。

写真とも絵とも特定できない図が、1頁に7点ずつ小さく載っている。ヨーロッパならパルテノン神殿、マッターホルン、ベスビアス火山など。

アフリカだと、ダイヤモンド鉱山、ビクトリアの滝、スフィンクスといった調子。この7分割の飾り罫がことのほか気にいってる。


アールヌーボースタイル!!なのだ。
 

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