ペンレターペーパー帖
ペンレターペーパー帖
大正15年(1926)1月10日大坂屋號発行。黒柳勲編並書。A5版変形、ハードカバー函入り、107葉、定価1圓90銭。
数年前、勉強堂の百円均一の山の中から掘り出した。これも嚴密にはほんとは言えないかもしれない。簡単に言えば、ペン習字手本による手紙文例集なのだが、僕がこれを愛蔵する第一の理由は、百通ほどの手紙全てに、当時の便箋を使用していることによる。便箋の種類は重複するものも多いが、それでもおよそ50種類くらいは使われているだろう。そのどれもが大正ロマンの面影を伝えて、豪華なものや佳麗なものは少ないが、じつに僕の趣味に合う。黒柳先生の筆跡は流石に流麗で、行書と草書の中間くらいの文字は判読しかねるところもあるが、この便箋にマッチしている。
文例は年賀の挨拶から、花見、会合の勧誘、卒業、出産の祝い、贈答の添書、見舞い、謝礼、旅先からの便りなど多岐に亙っているが、中に一つ「習字につきて所見を述ぶ」という文例があり、これがちゃっかり本書の宣伝になっているのがおかしい。

黒柳先生のペンレターペーパー帖をご覽なさった?
私きのふ三越で見て非常に気に入ったものですから買ってきましたの 色々美しいレターペーパーに面白い文章を先生独特の筆で散らし書きしてあるのですもの
わたしはこれを机上の友としてこの夏休みはペンの習字をしますわ
志田文子さん○○先生に就いて毛筆習字をして居るそうです 時代後れのことね
八月一日
                                林田 秀
高橋かね子樣

毛筆は時代後れだとか三越で買ったなどと、なかなか念の入った宣伝文句だが、確かにその自信を裏切らない仕上がりではある。
冒頭に千代紙製の封筒の見本4枚が貼り付けられてあり、切手は無いが花柄のシール2枚まで貼付する念の入れよう。中の一つは宛先が「朝鮮京城付大和町3-9 大海原浩太郎様」となっていて、時代相というか、ちょっと複雜な気持ちにさせられる。

そんなわけで、このレターペーパー帖を時々眺めるのだが、やっぱり、こんな便箋を自分でも使ってみたいという気持ちをおさえがたくなってしまう。そうは言っても僕の場合は自他ともに認める超悪筆だから、結局はワープロで打つしかないのだから、手に入れても宝の持ち腐れにしかなるまい。
このごろはちょっとしゃれた便箋は、封筒とセットになって、やたら豪華で値段も張る。僕自身が時代に合わなくなりつつあるためか、いまひとつ食指が動かない。今、大正時代や戦前の便箋を入手するのは困難だろう。せめて、2,30年くらい前のコクヨの一連の絵入り便箋シリーズでも手に入れることはできないだろうか? 老舖の文具店などでデッドストックを探し回れば、ひょっとしたら見つからないでもないだろうが、そこまでやる元気には欠けている。

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