愉しく新しく
愉しく新しく
昭和29年(1954)12月10日、ひまわり社発行。著者、発行人中原淳一、182×200mm188頁、定価200円。
ずいぶん前、大阪上六の天地書房が、現在地より200mほど南に店を構えていた頃、その均一台で掘り出したもの。

中原淳一といえば、昭和十年代の「少女の友」を中心に、もろ、僕好みの美少女を描いていた。その後、太平洋戦争に突入して完全に活躍の場を無くしたが、戦後いち早く少女雑誌「ひまわり」とファッション雑誌「それいゆ」を発刊する。この「愉しく新しく」はその両雑誌の過去4,5年の記事の中から、めぼしいものを抜粋して新たに編集した別冊で、表紙にはチョコレート色の生地に果物をあしらった、モダンな和服姿の美しい若妻(何故かそう思ってしまった)が配してある。
内容は、世相を反映してか、物のない生活の中でいかに工夫をこらして「愉しく新しく」暮らすかに主眼がおかれている。「はんぱな毛糸でも二人はこんなに愉しく着ている」「材料費のいらないスカート」「はんぱな布からできるブラウス」「はぎ合わせてつくるふとん」「子供は大人のおさがりで楽しく暮らす」「枯れかかった花を活ける」「つけまつげを作る」「屑布で絵を描く」など、今で言えばリフォーム奨励の目白押しだ。「ふろしきを胸に飾る」なんていう、かなり大胆なものもある。そのほか「果物を飾る」「「手紙はこんなふうに整理する」「部屋を片づける」「季節と配色」「パリの住まい方から思うこと」のように、整理やインテリア情報も目に付く。

一読して「あ、これはジュニア版「暮らしの手帖」だ」と思った。
花森安治の「暮らしの手帖」は戰後の雑誌の中でも、後世に語り伝えられる記念碑的雑誌だと思う。故郷の我が家には、創刊号から揃っていたので、初期の40冊くらいはほとんど、リアルタイムで目を通していた。それに比べるとこの「愉しく新しく」は、ままごとじみて、いささか見劣りがする。前者が主婦の立場なら、こちらは女子中高生のレベルで、やたら、アップリケや、パッチワークなどで、現実の貧しさをカムフラージュして、それをよしとしている。さらに特徴的なのは、衣食住の「食」に関してはほとんど触れられていないことだ。約90項目の目次のうち、唯一「台所の愉しさ」というのがあるが、これも内容は、鍋つかみ、布巾、土瓶敷きなど、余り布利用の手芸の見本帖だ。女学生雑誌とファッション雑誌の抜粋なのだから、比べる方が間違っているかもしれないが、前書きを読む限りでは、中原は、結構本気で若い女性の生活改善を啓蒙するつもりでいたようだ。

−−いろいろなことがわかったり、生活を合理化する方法を考えさせられたり、物事を批判することが出来るようになったりして、それでいて何かそういうことを重荷に感じないような雑誌があってもいいなと思って作ったのが−−「それいゆ」だ−−

廃物利用、貼り継ぎ、間に合わせ、使いまわし−−これらは戦後の日本人なら、不本意にしろ、誰でもやらざるを得なかったことだろうが、それを「愉しく新しく」行わせる(錯覚させる)ためのマニュアルを目指したのが本書だったのだろう。なんとつましいことよ、と揶揄するのではなく、僕はやっぱりこういう姿勢に共感を抱いてしまう方なのだ。
たとえば1950年の「それいゆ」14号に発表された「ふたりはこんな部屋に住む」という記事。六畳一間を新婚の夫婦が間借りして住む(!!)と想定して、種々の工夫を披瀝してあるのだが、床の間は本棚と水屋に、半畳の押入れは洋服ダンスに、二段重ねの箪笥をL字型に置いて隙間に収納スペースを作る。蜜柑箱に布を貼って整理箱にする。座布団はもちろん端切れのパッチワーク、茶箱を衣装入れに流用して、その上は飾り棚として使う等など、本書の精神が横溢しているのだが、これを時代の鏡と笑う前に、ふっとあたりを見回すと、なんと僕の部屋に似ていることか。生活水準が40年前と変わりない証拠かもしれないが、それよりも、この隙間の利用の仕方や、レイアウトのスタイルに並々ならぬ共通点がある。つい先日酒屋の前で拾ったワインの木箱に、シールや切手をベタベタ貼ってマガジンラック兼整理箱として使っているし、押入れに至ってはそのまま箪笥と収納庫に化している。本の詰まったボール箱を敷き詰めてその上にパイプベッドを置き、冷蔵庫と水屋で仕切っているところなんか、そっくりそのまま当時の雑誌に取り上げて貰いたいくらいのものだ。

しかし、何と言っても、僕にとっての本書の一番の魅力は、あまり多くはないものの、ところどころに掲載されている中原淳一の少女の挿絵にある。とりわけ気に入ってるのが「はぎあわせて作るおふとん」のこたつに向かい合わせに座ってる姉妹の図だ。じつは以前これと同じような剥ぎあわせのこたつ布団を作ったことさえあった。出来栄えは言わぬが花だろう。

数年前に田辺聖子らが中心となって、中原淳一の覆刻版のシリーズが刊行されたことがあった。少女小説、絵葉書、影繪の本、「それいゆ」などに混じって、本書もハードカバーで覆刻されたのを見かけたことがある。しかし、このシリーズの売れ行きはかんばしくなかったようだ。今でも古本屋で、新古本として並んでいるのを目にする。時勢に合わぬ作物なんだろうな。
(*この稿は、神戸地震以前に書いたもので、僕の部屋の描写も、当時住んでいた六甲町の美容室の2階部屋のもの。現在はワンルーム住まいで、別の意味で窮屈なレイアウトの中で棲息している)

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