すみれ
すみれ

春野爾。須美禮採爾等。來師吾曾。野乎奈都可之美。一夜宿二來。
 

(春の野に菫摘みにと来し我ぞ野を懐かしみ一夜寝にける) 萬葉集 巻八−十五 山部赤人

格調高く古歌の引用から始めたが、我が国でも上古から親しまれて来たこの可憐な草花は、西洋でも、薔薇、百合とともにフローラ女神に従う三姉妹に例えられるほど、ポピュラーな存在だった。

薔薇を太陽に、百合を月に擬し、その対照から菫は当然のごとく「星」に喩えられた。

明治の「星菫派」の名もこれに由来する。
 

英名violetは、ギリシア神話で、ゼウスが密かに愛したIoという名の美少女が、ゼウスの妻ヘラによって牝牛に変えられてしまったとき、牝牛の餌としてこの草を作りIonと名づけたことに由来すると言う。

それはともかく、現実に「菫色の瞳」を持つ少女たちが住む西洋の国々では、この花が彼女らの象徴となったことは想像に難くない。

ワーヅワースの“Lusy"の一節を引いておく。 

A violet by a mossy stone, 
Half hidden from the eye! 
Fair as a star when only one 
Is shining in the sky.

和名は「墨壷」に似ている事から「墨入れ」と呼ばれていたのが縮まってスミレになったとのことだが、なんとなく納得できないでいる。

この花の一番目立つ特徴は、後ろに長く突き出た距で、これが親しまれる一因ともなっているのだろうし、子供たちはこの距を引っかけ合って勝負して遊ぶことから「相撲取草」の愛称が生まれたりもする。

別名や方言は、

鈎取花、相撲取花、兜菊、一葉草、ニ葉草、一夜草、二夜草、力草、鳥兜、手向草、殿馬、殿駒、駒引草、次郎坊太郎坊、じろんぼ、顎掻花、ヤツマタ、殿馬カチカチ---

など多数多岐にわたっていて、このバラエティに富むことも広範に愛されている証拠だろう。

殿様の馬と言うのはやはり、あの距を馬の鞍に見立てているのだろうか。
 

菫属は世界に400種、日本にはは約50種が分布しているそうだが、もっとも普通種のスミレ(Viola.manshurica)が一番好きだ。

他にタチツボスミレ、コスミレ、アオイスミレなどが一般的だ。園芸種のパンジーは三色菫の名で親しまれているが、全く別物と思いたい。

韓国語では何故か「チェビッコ(燕花の意)」と呼ぶ。

英語を習いたての頃、「微笑み」を表わす単語をローマ字訓みで「スミレ」と記憶した覚えがある。

偶然とは言え何て相応しい形容なんだろう。 

●相撲取三十路半ばの修辞学  

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