seasoning 自歌 註讀 4

【幻冬】

サンボ通信36号(1997/06/01)所載。イラストには古い幻燈機をあしらい、「玄冬」とかけてうまくやったつもりでいたら、後で「幻冬社」と言う出版社がすでにあることを知った。
 

引き裂かれさはれ冬ざれ去年の雪逝きつ還りつ知りつ忘れつ
*手垢の付いた詩句をいつまでもこねくり回すのはみっともいいものではないが、この「去年の雪今いづこ」は、素材が雪だけにいつも銀白に輝いているようだ。と、いっても僕の歌では殆ど溶けて流れかけているが。

眞夜中の闇に溶け入る冬の月液状鏡に映る老醜
*Lunaticと聞くとすぐラフォルグを思い出すのだが、月に憑かれ、蠱惑された詩人、芸術家は星の数ほどいたに違いない。月光を液体にしてそこに写る影を見るなどと言う行為は厳罰に値するだろう。

冬将軍露西亜の空は灰緑河緩やかに挽歌を悼へ
*ナポレオンは自称皇帝だったが、ロシアの冬に破れた将軍として記憶している。露西亜帝国がソヴィエト連邦になりそれがまたロシアの名に戻ってもあの不思議なアルファベットとともにイメージは微動だにしない。

しべりあの記憶を運ぶ冬鳥の上前狙ふ密獵の夜
*冬鳥がすべてシベリアから来るわけではないが、彼の地に比べれば日本の冬などぬるま湯みたいなものだろう。それにしても渡り鳥の生理は生涯理解できないような気がする。

接着は強引な愛冬青の實獨り密かに鳥黐を練る
*プラモデルや紙飛行機を作る時接着剤の匂いに軽い恍惚を感じていた。深入りはしなかったが、今でもあのシンナー系の匂いには弱い。

年忘れ銀杏黄葉既に無し御堂筋冬群烏北上
*実は御堂筋は南下する方が好きだ。いっそ「南上」と言い換えたいくらいだ。

飛鳥なる忍坂二人逃る時殉死を希ふ金銀の忍冬
*大いに脚色はしてあるが、回想の歌である。

徒然の言語遊戯は図らずも言霊悪戯と気付く冬の日
*畢竟言語を使うとは言語に仕えること。わけても僕の歌のように、言葉で遊んでいるつもりで遊ばれてしまってるのは、当然かもしれない。

大正の似而浪漫派は哀しけれ冬花火もて焼き殺したき
*似非と言うことばがあるのなら、似ても似つかなくても本物と言う存在もあるわけなんだろうな。「学ぶ=真似ぶ」説を信じるなら、人は似非○○になるために努力していることになるのだが---

矮黒の象徴詩人も耄碌し冬來りなば黄泉遠からじ
*サンボ通信の由来がサンボリストとは誰しも考えなかったろうが、僕自身も気づかずにいた(笑)。ちなみに引用のシェリーは浪漫派だが、こちとら耄碌してるんだからこれでいいのだ。

未だ硬き果實含めば血の匂ひ冬の苺を摘みつくす罪
*イメージだけの歌。いちおう「テス」のナスターシャ・キンスキーを思い浮かべて作ったと、しかく言い置く。

無表情君がかんばせ冬化粧肌も心も冷たきは佳し
*化粧の要諦は化粧を感じさせないことだろうから、雪の肌が白粉と知れた時にはすでに遲いのだが、まあ、暑苦しい化粧だけはごめんこうむりたい。

厳しかれ誇り高かれ氣崇かれ冬の薔薇を冠として
*秋の蝶と同工異曲だが、李銀河の佳曲「キョウルチャンミ−冬の薔薇」をBGMに。

幾たびの越冬終えて窗開き花の季節の懈怠を咒ふ
*越春、越夏、越秋とはあまり聞かない。越冬も比較的新しい和製漢語なのだろう。

濃緑葉の凍付ば尚更に花凛と起つ款冬の黄金
*日本の庭池にはさりげなく款冬が植わってなくてはならぬ、と、これは僕の固定観念だ。花も葉もけして上品とは言い難いのだが、あの花のない池は認めない。だからどうだ、と言われても返す言葉はもたない。

紐の身を用無きものと悟りけり更に要らぬは足と麦門冬
*一般的に蛇は憎まれ役だ。足と髭の無いのがその原因かも知れない。

酒祝ひ炬燵の中の猫と化す明日をも知れぬ冬の日の戀
*猫の戀は春の季語だが、なにいまどきの猫は人の真似をしてか一年中盛っている。

朗々と君な歌ひそ冬の旅独逸気質の美点は知るも
*シューベルトの歌曲「冬の旅」よりシューマンの「詩人の恋」が好きだ、などとおだをあげていた書生時代もあった。

冬篭り窩は始原の安息地人も獣も温々と死す
*人は穴より出でて穴に帰る。人体自身が穴に他ならないと喝破したのは稲垣足穂だけに、とどまらない。

冬の海人魚の苑に蔓延す甘美な夢より醒めざる病
*中原中也におもねる気などさらさらない。ここではアンデルセンの童話の後日談として提示。

墨染めの空に似合ぬ七色の冬の虹立つ神戸元町
*昼間見るとドサ回りの書き割りよりもチンケな電飾装置だが。夜にはそれなりの虚飾美を見せる。神戸冬のイベントとして定着しそうな、ルミナリエ。

立つ冬に後は石見の銀世界地下の水脈滑る箱船
*立冬と雪から銀山を想起したが「何処に生野」では歌にならないので石見を採った。

誘ひ水冬山氷壁雪の道上昇志向墜落願望
*香介からは酷評を受けたが、エネルギー不滅の法則からいくとこうなるまでのこと。

神の火か鬼の炎か核の冬地球水玉ヨーヨーに似る
*このようにこなれない語を使うと失敗する、という見本のような歌。縁日の水箱に地球柄のヨーヨーが浮いてる様を想像されたい。

星時計廻る文字盤雪月花天地玄黄冬の華やぎ
*最後の一首くらいは解説無しでもいいだろう。恐慌頓首
 

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