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歌集 seasoning
サンボ通信33号(1996/04/01)から36号(1997/01/01)まで4回にわたって季節を主題にした連作を掲載しました。この1年間はテーマが決まっていたので、何かとても気楽だったような気がします。その後4作を豆本に仕立てたとき、トータルなタイトルを「seasoning」としました。英単語の意味は「調味料」ですが、もちろん「季節−season」にあやかったもの。さらにサンボ通信39号(1997/10/10)誌上で、この百首をネタに、「自歌 註讀」と題して、数行ずつのミニ解説を掲載したので、お暇な方は、そちらもご覧ください。
【春歌】

サンボ通信第33号春は泉春は早蕨さわらび撥条の跳ね橋渡る未通女をとめ危し

草原に桃色毛氈櫻鯛蒲公英の酒春の祭典

春の夜の夢幻と言はば言へ換金出来ぬ蜉蝣の戀

現し身の殻脱ぎ捨てて透き通る春蝉の羽根短き命

春色の衣装纏ひてひらひらとキャベツ畑に逢曳に赴く

春告鳥うぐひすは春告草の花妬み春告魚にしん鴎の嘴を恐る

春鳥の彷徨さまよふ様を他所事よそごとに眺めてゐしが我が身の迷ひ

花の雲エーテル密度上昇し我が脳裡にも春霞立つ

稲光闇弥増しに深まれば春雷ほどに優しきは無し

寒きより春待ち疲れ春來れば心に秋の風吹くは如何?

曲水の雅は彼方養老の瀧壷に没す春の盞

さらさらに春の小川は悲しけれ流れの涯は涙の泊とまり

ハルジオン姫女苑等に包まれて眠りに就かむ嬰兒の如く

春雨のフルート聴こゆ づぶ濡れの仔犬になりし心地こそして

北國の童話作家の傷ましき生と死と詩と春と修羅場と

残酷な季節の歩み滞らせむ為に宿題無き春休み

未熟さの煩しくて青春の盛りを無為に冷凍乾燥貯蔵フリーズドライ

今は昔我が世の春を謳歌せし野蛮人たりし頃ぞ懐かし

才能と言ふ化け物に誑されて春の嵐や疾風怒涛

ゲルマンの夢鬱々と鉛色春楡ヱルム竝木に落武者の影

敗戦の記憶風化し山河荒れ春望む詩の虚ろに響く

噫嗚68プラハの春とバリケード傷口未だ癒えざる乎、君

しどけなき女の唇は春の雪薄幸故に苛めたくなる

ただ狂へ宵の口より飲み始め夜を徹してこそ春は曙

「春歌」ミニ解説へ

【夏模様】

サンボ通信第34号眩しさは君の肌はだへの亂反射夏化粧なす夕顔の花

往にし方の十二單の女宿うるきぼし灼かれ焦がれて夏枯草うるきとなるも

白き虹架かる架空の庭園に白き風吹き夏さびるらし

今はただ心も他所に夏草のかりそめにだに逢はむとぞ思ふ

棗月名残の夏を懐かしみ七つの海を漂流ただよふてゐる

君知るや朱欒ザボン花咲く常夏の樂園に棲む海月の屬を

魚跳ねて母麗しく父富豪気まゝ暮しは夏の日の幻想ゆめ

夏の月燻し銀盤撰ばれし男睡りて昏りて眠る

墓地へ續く小路は暑し夏木立緑陰に集く亡靈の聲

早も吾は夏鴬の謗り受く人世伍拾快速の生

帰らずの覚悟片白半夏生死装束の仇な華やぎ

夏は闇夏は葬送勾玉の禍々しさを密かに愛す

夏衣薄き情で涼やかに世間の路地を走り抜けばや

時經れば轆轤首とて暑苦し夏狂言も夏枯れの態

捧ぐるは汗と疲れと情慾と幾許かの罪夏の祭りに

夏を避け窩に篭りて飲む酒の五臓六腑に染みて紫

白妙の袖引く未練振り捨てゝ夏安居げあんご眞似び獨房に澱

只管に寒さの夏を冀ふエゴイストだと指差さるゝも

夏空に白亞の雲の搭崩れ天の怒りて鉈振ふらし

音に聴く六尺玉の炸裂を借景と為す夏の夜の戀

配置転換理由は問はず肯へど夏時間は姑息な手妻

愚図愚図と都合二年の夏季休暇ジュールヴェルヌは子供の敵かたき

夏引きの糸引き納豆夏麻なつそ引く鰻蒲焼土用憂しの日

オキーフの海芋カラーを愛す夏の宵女の性の傲岸な美を

砂利濱を踏めば星空夜光蟲長門仙崎夏の思ひ出

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【秋曲】

サンボ通信第35号魂還る黄泉の通ひ路遠囘り無間地獄の秋の夕暮れ

青葡萄朱き櫨の葉銀木犀秋の色種いろくさ愉し哀しも

天の川秋の契りは濃厚に星を殺あやめて暗闇の戀

曼珠沙華眼を刺すばかり美しく秋の彼岸は此岸へ續く

騙すより騙されてやる幸bノ秋の鹿呼ぶ笛の音の優

去年の秋龍田の川の紅葉狩り彼の時腹を括り初めしが

秋草野彷徨ひ迷ひ幻想ゆめに醉ひ一本芒に成上り候

忘れ咲き藍染め清し朝顏の漏斗を滑る秋の精粋

淡彩の秋冥明菊の涼やかさ手弱女ぶりぞ實は手強し

夏過ぎて人影絶えし渚愛し秋の波寄す濡れし瞳で

一筋の絲に縛られ花の蝶彌勒秋櫻墨西哥メヒコ忘れじ

翅毀れ鱗粉剥ちて蹌踉の秋の蝶にも矜恃を希む

秋茜群一齊に西を向く犬斬峪いのきんたんに銀魚の跳ねて

白圓の秋の扇は月に似て死せる女より哀れな女

嵐呼ぶ男ありけり若き日の胆汁苦し秋野分待つ

名にし負ふ倭の秋の麒麟草泡立つ程にな入れ込そ

風迅し水の匂も懷かしく胸騷がする秋雨前線

今は昔故郷の庭の秋萩の撓ふ肢體を虐げし頃

何時の世も罰する側は苛酷にて秋の官吏の掌に汗

浮き沈みそれも憂き世の習事知ぬ振かも秋沙あいさの飛翔

秋刀魚燒く煙の樣に生きて死ぬ佐藤春夫は秋を祝ほがひき

勞働の祟りを祓ふ収穫祭人も獸も秋忘ればや

月と月緑の星の繼子とて他日は知らず秋二日のみ

彌が上にも歸りたくなき秋の旅風船旅行空の間に間に

何故に心の秋ぞ深みゆく疾に調べは盡きにしものを

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【幻冬】

サンボ通信第36号引き裂かれさはれ冬ざれ去年の雪逝きつ還りつ知りつ忘れつ

眞夜中の闇に溶け入る冬の月液状鏡に映る老醜

冬将軍露西亜の空は灰緑河緩やかに挽歌を悼へ

しべりあの記憶を運ぶ冬鳥の上前はまへ狙ふ密獵の夜

接着は強引な愛冬青そよごの實獨り密かに鳥黐を練る

年忘れ銀杏黄葉既に無し御堂筋冬群烏ぐんあ北上

飛鳥なる忍坂おさか二人逃る時殉死を希ふ金銀の忍冬はな

徒然の言語遊戯は図らずも言霊悪戯と気付く冬の日

大正の似而浪漫派は哀しけれ冬花火もて焼き殺したき

矮黒ちびくろの象徴詩人サンボリストも耄碌し冬來りなば黄泉遠からじ

未だ硬き果實含めば血の匂ひ冬の苺を摘みつくす罪

無表情君がかんばせ冬化粧肌も心も冷たきは佳し

厳しかれ誇り高かれ氣崇かれ冬の薔薇を冠として

幾たびの越冬終えて窗開き花の季節の懈怠を咒ふ

濃緑ふかみどり葉の凍付ば尚更に花凛と起つ款冬つはぶきの黄金きん

紐の身を用無きものと悟りけり更に要らぬは足と麦門冬じやのひげ

酒祝ほがひ炬燵の中の猫と化す明日をも知れぬ冬の日の戀

朗々と君な歌ひそ冬の旅獨逸氣質の美點は知るも

冬篭り窩は始原の安息地人も獣も温々ぬくぬくと死す

冬の海人魚の苑に蔓延す甘美な夢より醒めざる病

墨染めの空に似合ぬ七色の冬の虹立つ神戸元町

立つ冬に後は石見の銀世界地下の水脈滑る箱船

誘ひ水冬山氷壁雪の道上昇志向墜落願望

神の火か鬼の炎か核の冬地球水玉ヨーヨーに似る

星時計廻る文字盤雪月花天地玄黄冬の華やぎ

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