名も知らぬお寺の話

 まったくもって、妙な夢を見たものだ。
 夢の中の私は、名も知らぬ寺の境内にいる。
 友だちと待ち合わせしているらしいのだが、彼女が姿を 見せる気配はない。
 ふと顔をあげると、緑が繁る石垣の上にお地蔵さんが祀られているのに気がついた。ぺこりとお辞儀をすると、お地蔵様も会釈をしてにこりと笑った。
 私はうれしくなって、寺の中へと足を踏み入れる。そこには、鍵がかかった部屋が2つあった。
 そこにも、たくさんの仏像が祀られていた。だが、半ば物置化した部屋の中で、「修繕」の話を進める住職の声が聞こえた。
 すると、黒塗りの仏像が怒るのだ。
「古いふるいと申しては修繕のことばかり口にするが、日々こころをこめて拝みもせず、新たなお堂を建てようものなら、すべて燃やし尽くしてやる」
 と部屋中を旋風のように掻きまわし、烈火の如く怒るのだ。
 目が覚めると、ぐっしょりと汗をかいていた。