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バイエル、カスパロフ新刊、ドルトムント

03/08/11
 ボロガンはとうとう単独優勝。つまり、トーマス以上の快挙と私は言いたい。最終戦の相手、白クラムニクは無理をせず大事に組んで、ボロガン陣が乱れるのに期待する作戦だったと思います。が、ボロガンは堂々と応接。棋譜は凡戦のドローですが、状況も考えると、黒の指し手には気がこもってるように感じられました。おめでとう、永く語り継がれるでしょう。
 クラムニクはまだ棋風の調整が終ってないのだろうか。彼もレコも、今回の結果では二人のマッチの良いスポンサーが集まりそうにないことは自覚してるだろう。
03/08/10
 ドルトムントは、また全部ドロー。ボロガン対ラジャボフが丁々発止の楽しい戦いでした。それにしても、私が知ってる史上最大の大穴は1934-5年のヘイスティングスでのトーマスの優勝です。エイベ、フロールと同点、ボトビニクやカパブランカさえも破った。今度のボロガンがそれと並ぶくらいに評価されるか、そこも楽しみです。
03/08/09
 ドルトムント、特筆するほどの動きは無し。あと2ラウンド。嵐の前の静けさか。ナイディッシュが崩壊を始めた感もあり、彼と白番で戦う人は冷酷な星勘定をしてるのでは。
 神田のアカシヤ書店に行ってきました。囲碁将棋では日本一の古書店でしょう。チェスの本もそこそこあります。買ったのは『The Batsford Chess Encyclopedia』。帰りの電車の中で、ざっと読んだのですが、私のホーム・ページの間違いをいくつか見つけて、いささか落ち込んでしまいました。特に「64Shots」にSteinを入れなかったのは不見識。悩んで選んだ64人だったけど。
03/08/08 紹介棋譜参照
 ドルトムント、アナンドの切れ味は復調どころかもはや絶好調。ボロガンのカロカンを、脳天からたたき割るルーク・サクリファイスで粉砕。クラムニクと並んで二位、優勝争いに絡んできましたよ。しかしまだまだ一点差。他に、ラジャボフも面白かった。レコを相手に中盤をきわどい応酬で張り合って、結果は3ポーンのビハインド。そこから粘って60手の引き分けにこぎつけた。レコを相手に!
03/08/07
 ここ数ヶ月、更新の幽鬼となってこのホームページを維持してきましたが、ちょっと夏休みをいただきます。この欄もしばらく軽めに、、、とは思いますが、ドルトムントはますます目が離せなくなってますね。先日のボロガンのドローを見て、「あ、こいつ、その気になってる」と私は思ったものです。が、後半の初戦、黒ナイディッシュのマーシャル・アタックに対し、彼は意欲的に戦いました。定跡を外した不安な布陣、さらに、取られたビショップをそのままに、ルークを敵陣に突っ込ませたあたりが本局の白眉。動揺したんでしょう、黒転落。これで二位に一点半のリード。クラムニクがボロガンを「おしおき」してくれるだろう、とは思ってましたが、それでも追いつかない状況です。ただ、アナンドも復調してきました。白のレコがルークを積んでK翼から攻勢を狙う、まさにその中へアナンドのクィーンが単騎で踊り入る。そこから回り込んで、白のQ翼を背後から突いた。で、レコ投了。「早くない?」と思ってFritzで調べると、なんとメイトでした。
03/08/05
 ドルトムントはアナンドがようやく一勝。ナイディッシュのクィーンを盤の中央で仕留めた。私が期待したのはクラムニク対レコ。素人が見てもわけのわからん組み合いになるだろうから、ICCのサトフスキーの解説ボードで観戦。案の定、両者に不可解な動きがあって、これにはサトフスキーも「?」。でも、悪くない解説だった。試合は簡素なルーク・エンディングまでとことん戦って引き分け。玉頭にルークとクィーンを三本も立てられながら、クラムニクがよく守ったと思う。ラジャボフとボロガンはあっさりドロー。サトフスキーが「ラジャはわからん奴だなあ。戦えるところで引き分けて、見込みの無いのをサクリファイスするんだから」。かくて前半戦を終了して休日に入った。
03/08/04
 ChessTodayが1000号を配信。シロフ、ゲルファンド、ラジャボフなんかも読んでるとか。さらなる発展を。NIC、Informantと並ぶ、私の最重要情報源です。
 ドルトムントは、ラジャボフが調子に乗ってか、ルークを捨ててポーンの密集突撃を図った。しかし、無理な構想だったらしい。いっこ年上のナイディッシュに鎮められてしまった。ただ、ラジャは確実にファンをつかみ始めている。レコ対ボロガンに目を移すと、a筋にレコのパスポーンが出来たところ。負けは無いな、と寝てしまった。が、その直後にしくじったらしい。ボロガンの勝ち。私でもわかるような敗着だった。ボロガンはChessTodayでも取り上げられる機会の多い強豪だが、どこまでいくだろう。
03/08/03(その二)
 さて、カスパロフ。聞き手のラッセルに資料の間違いをチクチクされて、居直った王様は「ミスがあることについては別に驚かない」とふんぞり返るところが可愛い。が、もっと大事な質問には強く切り返した、「非常にくだらない」。ラッセルがこう尋ねたときだ、「現代のチェスは進歩している。いまさら古い棋譜を調べたところで役に立たない。たくさんの若い棋士たちがそんな風に言ってますが、どう思われますか」。
 ここが最もカスパロフが多弁になった部分である。「いま君が触れてくれたような傲慢な考え方は、現代の対局設定にも表れている。インターネットでビュレット、持ち時間1分、3分。で、重要な課題に集中する時間さえ無い。これがだよ、若い連中が終盤に大きな弱点を持っている理由なんだ。たとえばだ、見るがいい、アズマイパラシビリが欧州選手権に優勝した。私より歳をとってる。そう、恐竜みたいなもんだ。エンドゲーム、反撃、そしてエンドゲーム。おまけにしぶとい。彼は古い試合から多くを学んだ世代の一人なんだ。がっちりした基礎が身に着いているんだよ」。インターネット・チェスに罪は無いと思うけど、言いたいことはわかる、で、「この本が若い棋士たちに、学ぶことはたくさんあるんだ、ってことを示せるといいな、って思うよ」。
 印象的な言葉をもう少し紹介して終わりましょう。「現代チェスのあらゆる試合、あらゆる要素について、私は君を100年昔、50年昔に引き戻して言える、『これは、ボトビニクによって、ルビンシュタインによって、ラスカーによって導かれたアイディアなんだ、そして、これは、、、』。それを知り、起源を見つけることで、我々のゲームをもっと良くできるのさ」。
03/08/03(その一)
 ドルトムントは3試合とも沈滞ムード。ラジャボフ対レコはさっさとドロー。クラムニクはそれにも増してドロー模様。残る一局も手詰まり。が、このボード、いきなりアナンドがポーンを突っかけた。私の目にもセンスが無く思われ、一気に転落。彼、失点の回復を焦る欠点があるのかも。勝ったボロガンが首位に立ちました。さて、クラムニクは、と見るとまだ続けている。格下ナイディッシュのミスを期待しているみたいで、やな感じ。でも本当にポーンをひとつ引き千切って見せたので驚いてしまった。しかし、最後はドロー。おつかれ。
03/08/02 紹介棋譜参照
 モロゼビッチの優勝インタヴューが暗い。「奇跡でも無い限り、チェスへの情熱が戻ることは無いだろう」。だが、彼はバイエルで勝ったし、来年はヴェイカンゼーに出場する、とも言ってくれた。見守ろうではないか。
 ドルトムントは盛り上がった。ラジャボフがアナンドに快勝、16歳。Informant88の一位はこれで決まりでしょう。紹介棋譜を見てやってください。大棋士ラジャボフの誕生を告げる歴史的な一局です。
 カスパロフのインタヴュー。二日酔いのアリョーヒンを倒したぐらいで、エイベをチャンピオンと呼んで良いのか、という問題。カスパロフは明確な答えを避けている。だが、エイベがアリョーヒンとのマッチに勝った理由は述べてくれた。序盤を深く研究し始めた、エイベはまさに最初の一人だったのだ。本当の意味で序盤の研究戦が始まるのはこのマッチからだ。第21局、白番のエイベはスラヴ定跡を破り、続く第22局、今度は同じ局面の黒番を持って新手を放ち、連勝してしまった。これが相手に決定的なダメージを与えたのである。アリョーヒンが酒を飲んだかどうかは、また別の話なのだ。
 アリョーヒンはリターン・マッチでエイベを倒す。しかし、時代はすでに若い世代のものだった。カスパロフは、ファインの名を挙げた。これも面白い。第二巻が楽しみである。ファインがAVROでボトビニクに勝った一局に注目している、「ボトビニクがこんなにひどい負け方することは無い」。
 話はまだまだ尽きないが、次回、あとひとつ、大事な問題を扱って、私の紹介を終わろう。
03/08/01(その二)
 五月、六月って話題の無い月だったんだな、と。
 バイエルの最終日を見ていると、畏友からメール。「始まりましたね」。え、ああっ、時差を間違えて、ドルトムントは明日からだと思い込んでいたのです。あわてて、そっちに行きいの、バイエルも見いの、カスパロフを訳しいの、、、。
 ドルトムントは上位のクラムニク、アナンド、レコに対し、下位三人、という構図がハッキリしている。上位陣ばかりでドローの多い大会ならレコ有利だが、このメンバーなら、まず彼の優勝は無い、と言えましょう。初戦はアナンド。私の目にはレコ有利に見えました。が、風呂から上がって終盤を見ると、レコの方がポーン1個のビハインド。うーん。結果は引き分け。クラムニクはラジャボフを相手に段違いの形勢判断能力を見せつけて1勝。ラジャボフが脅しても、悠々と自陣の整備を続けたあたり、王者の貫禄でした。
 バイエルの話もしておきましょう。同点二位同士の決戦、バクローとスミリンが案の定、21手であっさりドロー。対して、優勝と最下位が決まっているモロゼビッチとコルチノイが、それぞれルッツとペレティエールに真剣勝負をしてくれました。不調から脱出しよう、という気持ちが伝わって感激でしたが、モロゼビッチは勝ち(6勝0敗4分)、コルチノイは負け(0勝6敗4分)。コルチノイは写真を見ても、二年前のこの大会に優勝したときよりやつれて見えます。何も言えません。対して、モロゼビッチには「おかえりなさい!」。私はICCでよく観戦するのですが、ギャラリーのみんなが彼のチェスがよみがえったのを喜んでいました。
03/08/01(その一)
 カスパロフのインタヴュー。偉い人が自分と同じことを考えてくれていると嬉しいが、「我が意を得たり」と思ったのは、キャンセルされた1975年、フィッシャーとカルポフのマッチに関して。前々から私はこのマッチ、もし実現していたら、カルポフが勝つ、と思ってた。当時の彼らの棋譜を並べた、素人の感触にすぎない。しかし、なんと、カスパロフも同じことを言っているではありませんか。彼は棋譜を精査した上で語ってくれる。第三巻で詳しく論じられるでしょう。楽しみです。反面、発言を早まった、とも思う。
 第一巻においては、カパブランカへの評価が議論の分かれるところだろう。カスパロフの主張を要約すると、「カパブランカはとてつもない才能を持ちながら、それを充分に発揮しなかった。読みを怠けても勝ってしまうほどの天才だったのだ。ラスカーに対してさえ、そうだった。おかけで、カパブランカはチェスの進歩にあまり貢献していない。彼の戦い方はアリョーヒンには通用しなかった。アリョーヒンは、カパブランカの欠点、死力を尽くそうとしない棋風に気付いたからだ」。どうだろう、妥協を許さぬカスパロフの棋風が、カパブランカの懐の広さを理解し損なっている、とは言えないか。スリリングな読書が期待できる部分だ。
 とにかく、カスパロフが1927年のカパブランカとアリョーヒンのマッチを重視しているのは嬉しい。大切さはわかっていても、類似型ばかり続く捕えどころの無いマッチで、私は悲しい思いをしてたのだ。カスパロフは10局も取り上げてる。偉大なるキリギリスと偉大なるアリの交代劇を、二人の個性の戦いとして論じてくれてるはずだ。
 また、アリョーヒンをどう見るか。特に、酒に溺れて弱くなった、と言われた頃の彼を。そんな彼に勝ったエイベを本当に世界チャンピオンと呼んで良いのか。つまり、後続の世代の評価とも関わる問題である。明日はそのあたりを。
03/07/31
 バイエルはラス前。モロゼビッチ対コルチノイ戦を期待して覗いてみると、20手で終わってる。局面も序盤の終わりといったところ。ああドローだったかあ、ん、いや、試合結果はモロゼビッチ勝になってる。もしや対局中にコルキーの心臓が、、、と心配になったが、投了図をFritzにかけて調べると、すでに大差だった。コンビネーションではなく、ポジショナルな勝利。今大会のモロゼビッチは新しい面をいろいろ見せてくれた。期待できる。
 さて、カスパロフのインタヴュー、後半が始まった。やはり面白い。聞き手ハノン・ラッセル(悪くないぞ)が、「四人のチャンピオンから一局づつ選ぶとどうなりますか」と頼んでくれた。カスパロフも「楽じゃない」と言いながら、誠実に答えてくれる。まずはざっと、それを掲げておきましょう。
 シュタイニッツは、1886年のツケルトートとのマッチ、黒番で勝った中から選びたい、とのこと。isolated pawnへの対応を評価している。本で扱われたのは第9局。他に、得意の「c3-d3フォーメーション」で勝った、チゴリンとの第4局、1892年。
 ラスカーは1894年、チャンピオンになったマッチの第7局、古来、シュタイニッツが大ポカで勝ちを無くした、と言われてきた一局。しかし、カスパロフはこの悲惨な一局を、十九世紀末とは信じ難い感覚を見せたラスカーの名局だというのだ。タラッシュとのマッチの第4局も挙げている。
 カパブランカからはラスカーとのマッチの第10局。これは私だって何度も並べた名局である。
 アリョーヒンはさすがにカスパロフのアイドルだけあって、「たくさんたくさん思い浮かぶよ」。それでも、カパブランカとのマッチの第11局、21局、エイベとの1935年のマッチから第4局を選んでくれた。
 カパ以外は個性的な選局といっていいだろう。たんに個人の趣味に終わらず、説得力を持っている点が偉大な天才の選択だ。特に、ラスカーから選んだシュタイニッツ戦が衝撃。この個性的見解がカパやボビーに向けられるとどうなるか。次はその話しを。
03/07/30
 バイエルは上位三人と下位三人にはっきり割れて、モロゼビッチを半点差でバクローとスミリンが追う展開。残り二戦ともモロは下位者との対戦だから、優勝は確実だろう。コルチノイがこのままだと最下位。スミリン戦の負けなど可哀相な程だったが、最後は長考して奇手を放ち、素人目には「助かったの?」という局面にして見せた。考え込むスミリン。みんなモロゼビッチを見ているのだが、何人かがこの異変に気づき、モロゼビッチのボードのギャラリーなのに、「おい、コルキーはヴァンパイヤか」と湧いたのである。ほどなく投了と相成ったが、72歳、敬服の闘争心だった。
03/07/28
 バイエル、モロゼビッチがまた勝って、二位に1点差。相手はペレティエールでした。危なげ無し。うかつにもChessTodayの指摘で初めて気づいたのだけど、コルチノイ戦で、彼、スラブを使ってない。1.d4には1...g6。今回もそうでした。最近は大きな大会から名前が消え、「僕はもうアマチュア・プレーヤーだよ」なんて自嘲的なコメントも伝わったりして、私は悲しい思いをさせられましたが、彼は臥薪嘗胆の研究を積んでいたのですね。
03/07/27
 バイエルはお休み。ポリティケン・カップはサシキランが7勝0敗4分、2位に半点差で優勝。あのノルウェーの12歳、マグヌス・カールセン(1990.11.30.生)も健闘。勝ったのを二局並べたが、どちらも、駒と駒の利きを巧みに組み合わせ、意外な地点で敵を捕獲している。負けた方は「あれっ?死んじゃったよ」とつぶやいたろう。これが棋風なら神秘的な子だ。
 ポノマリョフとカスパロフのマッチ、日程も確定してきた。ヤルタにロシアとウクライナの両大統領を迎えて、開幕式は9月18日、翌日から全12試合。ポノは賞金の分配等にまだ不満を持っているらしいが、納得するだろう。当初はアルゼンチンで行われるはずだったこのマッチ、しかし、この国がクラムニク―レコ戦を引き受ける可能性もあるという。
03/07/26 紹介棋譜参照
 今夜もモロゼビッチは面白かった。窮屈な局面を無理矢理こじあけて打って出る。これを得意のカウンターで迎え撃つ相手はコルチノイ。形勢判断なんてどうでもいい激戦になりました。最後はモロゼビッチが詰みを逃したようで、その一瞬の隙を突き、コルチノイが連続王手でドロー。
 さて、カスパ本。世界チャンピオンの棋譜を軸にチェスの歴史を語るわけですが、チャンピオンを囲むライバル達にも充分な言及があって、名局大全としても稀有の規模を有する著作になっています。まず第1巻の第1章は、シュタイニッツ以前の、グレコ、フィリドール、ブルドネ、スタントン、アンデルセン、モーフィーを扱っている。アンデルセンの名局、「エバーグリーン(不老)」や「イモータル(不死)」を各3ページもかけてカスパロフに解説してもらえる、その感激は説明するまでもないでしょう。先行文献の引用も豊富で、ラスカーがグレコをどう感じていたか、フィリドールは自身の棋譜をどう評価していたか、よく紹介されてます。2章以降は推して知るべし。この大著がチェスの戦略思想史のパラダイムを形成するであろうことは間違いありません。
 月末にカスパロフのインタヴューの続きがChessCafeに載るらしい。それも面白かったらまた御紹介しましょう。
03/07/25 
 バイエルはモロゼビッチが独走しそう。ルッツを相手になんと初手c4で快勝。十年前の彼はこれでよく負けていた。が、どうも今年からまた使い出したようだ。しかも勝率が良くなっている。もともと白番に問題があった彼だが、これがスランプ脱出の秘策なのか。駒組みも重厚だった。ルッツはこの新モロゼビッチを前にして「え、君ってポーンも使えたの?」と面くらったろう。でも最後はやっぱりドカンと大技を決めてくれた。一方、スミリンはバクローに元気無く敗退。昨夜の疲れがあったのかな。
 カスパロフの『我が偉大なる先行者たち』。序文で14人の世界チャンピオンをざっと紹介。「14人なんだぞ」というのが、この本の持つ政治的な側面でしょう。カスパロフを継ぐ第十四代世界チャンピオンはクラムニクである。口には出さねど、「ハリフマンはもちろん、アナンドやポノマリョフも世界チャンピオンの称号に値しない」という立場で書かれています。つまり、「1993年以降のFIDEが行った世界選手権には権威が無い」ということを言外に主張している。カスパロフがこの本に注いだ情熱の迫力に、後世は反論できるだろうか。私は、この本の記述が歴史になってゆく、と思います。
 なまぐさい話しになりました。次は第1章を紹介します。
03/07/24 紹介棋譜参照
 バイエルはモロゼビッチとスミリンの直接対決。いい試合でした。スミリンが頑張ってドロー。
 コペンハーゲンのポリティケン杯が大詰め。サシキランとサカエフの、こちらも直接対決。サシキランがポーンを1個突き捨てたなあ、と思ったら、するすると敵陣が溶けてしまいました。これを紹介棋譜としましょう。妙に心に残ります。22歳になったばかりの彼、飛躍の年のようで、インド選手権とエスビヤオの優勝者。しなやかさを感じます。
 さて、カスパロフのインタヴュー。
 この本で彼が意図しているのは、歴代のチャンピオンがチェスにどんな貢献をしているか、それを伝えたい、ということだ。彼らの功績を、チェスの世界だけに留まらず、音楽、文化等、時代のあらゆる精神や雰囲気と関連させて論じたい、と述べている。とても大事な作業だと思うが、序文を見た限りでは浅薄な関連づけしかうかがえない。
 だが、読み進むに連れて良くなるのでは、という期待はある。少なくとも、カスパロフ自身の時代の認識については切実なものを感じるからだ。彼は、現在のチェスは昔のチェスとは別のゲームだ、と明言している。言うまでも無く、コンピュータとインターネットの発達が世界を決定的に変えたのだ。チェスでは封じ手が消え、持ち時間が短縮された、そして何より、彼は触れてないが、機械が人間に勝てる時代なのである。カスパロフは言う。この変化は、古いゲームの側から見れば悪いことだろう、しかし、チェスは新しい時代の流れに対応し、進化を遂げることができるのだ、と。
 インタヴューはこんな感じでした。次は、本の中身に触れてみたいです。
03/07/23
 バイエル大会。モロゼビッチの相手はバクロー。曲者同士、意識するところがあるのか、意欲的な序盤だった。そのうち、バクローのポーンが弱くなって、自然にモロゼビッチがポーン得、そして勝ち。スミリンも好調。タリと日本食を愛する強豪だ。2戦続けて相手の駒を封じ込め、終盤で勝っている。この二人の優勝争いだろう。
 さて、カスパロフの『My Great Predecessors』(Eveyman Chess)。ついに入手。でかい本だ。グレコからアリョーヒンまで150局以上の棋譜を解説してある。この本があと一年早く出ていたら、私はホーム・ページを開こうなんて考えずに、これを読んでるだけで幸せな気分になっていただろう。みなさんも、これを読めばもう私のホーム・ページなど要らないはずである。
 卑屈な話しはこれくらいにしてインタヴューの紹介に戻ると、この膨大な棋譜解説をカスパロフは念入りに仕上げている。選んだ棋譜をコンピュータを使いながら検討し、テープに意見を口述する。それをPlisetskyという人が文書化し、さらにコンピュータにかけてチェック。カスパロフはそれをもとに原稿を書き、またPlisetskyに渡す、その繰り返しだ。本が出てからも手入れは続いてるようで、つまり、出版が最後になりそうなスペイン語版が厳密な最終稿になるという。
 この本の話し、もっと続けましょう。それに値する名著です。
03/07/22 紹介棋譜参照
 バイエルの大会にモロゼビッチが登場、久しぶりに彼の名前を聞く。浮き浮きして試合開始を待った。どのくらい成長したかと思ったら、ペレティエールを相手に相変わらず目茶苦茶なチェス。奇怪な構想、発作的な捨て駒、すごかった。おまけに勝ってしまったよ。信じ難い。
 さて、昨日の続き。
 思い入れをもってカスパロフが語るのはカルポフだけではない。師匠ボトビニクからも深い影響を受けている、と述べている。1985年と1986年の世界戦を書いた本の出来を彼は非常に誇りに思っているが、これだってボトビニクから多くを受け継いでいるのだ、と。彼によれば、ボトビニクの偉大さの中に、ブロンシュタインもケレスも収まってしまう。天才の言だけに、カルポフにせよボトビニクにせよ、個人的な思い入れがそのまま客観的な評価に昇華されている、と私は思う。
 もう一人、カスパロフは意外な名前を挙げた。ルビンシュタイン。ラスカーとのマッチが実現していたら、勝つのはラスカーだったろう、とは述べている。偉大なるナンバー2の多くは、しばしばラスカーやボトビニクに比べてメンタルな部分が弱い、しかし、とカスパロフは続ける。
 、、、ルビンシュタインの貢献は大きい。たとえばボトビニクはその後継者だ。ボトビニク自身はそんなこと言いたがらなかったが、序盤の方針、テクニック、多くを受け継いでいる。ペトロジアンはボトビニクと戦うにあたり、ルビンシュタインのゲームを研究したというではないか。
 続きはまた。
03/07/21
 ようやくアマゾンからメール。カスパロフの新刊を発送してくれたらしい。しかし、連休中に私の職場に送られるとは、、、まったく。休日出勤を敢行して、届いてるかどうか、確認しよう。
 Chess Cafeがカスパロフに、この本について長いインタヴューをしている。これがすこぶる面白い。私の語学力では読みきれない部分も多いのだが、数日かけて何ヶ所か御紹介したい。誤訳するだろうが、何も読まないよりは良いだろう。
 カスパロフはこの仕事が膨大であることを強調している。しかも、我々が知られされている全3巻という構想を超えたかもしれないのだ。シュタイニッツからフィッシャーまでを論じたところで3巻の紙幅が尽き、そしてカルポフだけで第4巻、さらに「私」が第5巻、そんな計画もあったらしい。当然の事ながら、カルポフへの思いは深い。チェスにとって、フィッシャーよりも大きな存在である、と述べている。カスパロフは、自分との死闘を軸にカルポフを語りたいようだ。
 5巻構想。実現してほしいような、困ってしまうような。とにかく、いまは2巻まで書き終えているそうだ。
03/07/18
 続くときは続くもので、テレビや雑誌のインタヴューに羽生善治がよく出た七月である。文庫の新刊まで出ている。その中で一番面白かったのは「週刊将棋」が3週つづけて行ったロングインタヴューだった。むかし話題になった後手の初手△6二銀について、「実際にやってみて、どれくらい損か、よくわかりました」なんて言ってるのがとても良い。この手をタイトル戦なんかで敢行したことについて、「大事なところでやらないとわからないんです」、と言うのもさすが。さらに続けて、「だから、どれくらい損か知っているのは、私だけだと思いますよ(笑)」、一緒に笑ろた。
 チェスの話題もチラッと出て、フィッシャーが好き、とのこと。ますます良いぞ。「技をかけにいくタイプ。そのコンビネーションはすばらしいと思います」。現役で好きなのはモロゼビッチ。やあ、ウマが合うよお。「とにかく変則的なんですよ。序盤から変わっていて、非常にアグレッシブ、『力でこい』というタイプですね」。なんかミーハー。ただ、彼のチェスはフィッシャー的でもモロゼビッチ的でもない、と思う。
03/07/14 紹介棋譜参照
 ハンガリーのパクシで、ポルガーとゲルファンドが早指しのマッチをした。二人とも早指しには実績がある。第一局で今年屈指の激戦が誕生、ポルガーの先勝だった。が、これがゲルファンドを発奮させたらしく、なんと4連勝、最後は5勝1敗2分で圧勝だった。しかし、なんてったって見て欲しいのは第一局です。

戎棋夷説