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戎棋夷説

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16/01/31
 二か月に渡ったchess.com における黒番専用1.e4. e5 講座も今回が最終回である。
 残ったのは5.Nc3 だ。すでに心得を述べた通り、黒は5...d6 である。ここで多いのが、例によって図の6.h3 である。
 その前に、6.h3 以外の手にも触れておこう。6.Bg5、6.Na4、6.Be3 がある。これらは、6.h3 を考えるときの参考になる。
 6.Bg5 は前回に述べた。6.Na4 は6...Bb6, 7.Nxb6. axb6、つまり普通に流しておいて問題無い。あとは強い方が勝つだろう。私が黒ならキャスリングしないで戦いたい。6.Be3 がわかりづらい。結論から言うと、黒は6...Bxe3 で取る手も取らない手もありそうだが、一般には6...Bb6 が支持されている。私もその方が指しやすい気がする。
 さて、6.h3 である。私には不急の一手に思える。つまり、6手目で主導権は黒に渡った、と考えた。で、多用したのが6...Na5 である。棋譜のデータベースを見ても黒が良い。ところが、いま自分の戦績を確認すると、ぜんぜん勝ててない。驚いてしまった。
 一例を挙げると、6...Na5 以下、7.Bb3. Nxb3, 8.axb3. a6, 9.Bg5. h6, 10.Bh4. g5, 11.Bg3. Be6, 12.d4. exd4, 13.Nxd4. Qe7, 14.O-O. O-O-O, 15.Re1. である。手順は長いが、中級者の早指しとしては上出来に思えるので、標準的な流れとして書いておく。で、この局面は黒の私が面白くなさそうなのである。黒Nh5 が利かないし、K翼から攻めることができそうにない。
 別の作戦を用意せねばなるまい。データベースで鏡指しの手順を見つけた。白と同型にするのである。すなわち、6...h6, 7.O-O. O-O, 8.Be3. Bb6, 9.Qd2. Be6, 10.Bb3. Qd7, 11.Rfe1. Rfe8, 12.Rad1. Rad8, そして、ここで13.d4 なら13...Bxh3 から引き分けに持ち込める。
 6.h3 の局面は、相手が弱くても強くても現れうるので、前者には6...Na5 で戦いを続け、後者には6...h6 から引き分けを狙う、が現在の結論ということになる。

16/01/27
 白は黒からのpin を恐れている、ということは、自分からpin を指したがっている、ということでもある。つまり、4.d3 のテーマはpin である。黒は白Bg5 を誘うか、防止するかだ。
 一般的なコツを言うと、もう黒Pd5 の予定は無いのだから、黒Pd6 を急ぐ。そして、黒0-0 を急がぬことである。急がぬ理由を書いておこう。これに気づくだけで、私は勝率が上がった。もし、黒0-0 の前に白がBg5 を指してくれれば、黒は黒Ph6 白Bh4 に黒Pg5 を指しやすい。キャスリングは0-0-0 を考えればいい。対して、黒0-0 の後では、キング周辺にスキが生じるから、黒Pg5 を指しにくいのである。
 もう一つ、念頭に入れて置くべきことは白Nc3 型と白Pc3 型の違いである。前者の場合、白Bg5 黒Ph6 の後、白Bxf6 黒Qxf6 に白Nd5 がある。後者の場合は白Pd4 が好形の盛り上がりになる。それぞれ対処を心得ておかねばならない。後述する。
 以上をふまえて、5.Bg5 から考えよう。5...d6 で図になる。私が実戦で出会ったまともな手というと、6.Nc3 と6.h3 だ。ほか、6.0-0 や6.c3 があっても良いだろう。黒はいろんな手が考えられるが、Blitz なのだからさっさと決めたい。よって、何でもかんでも6...h6, 7.Bh4. g5 である。早指しの場合、pin が外れるだけで読みやすくもなる。
 ただし、6.Nc3 のときは、6...h6, に7.Bxf6. Qxf6, 8.Nd5 もあるだろう。実はまだ経験が無いので、考え方だけ書いておくが、8...Qd8 以下、黒Ne7 で中央の白ナイトを消せば、黒が指せるのではなかろうか。また、6.c3 のときは、6...h6, 7.Bh4. g5, 8.Bg3 のあと、用心深く指すなら8...Bb6 に下がっておく。こうしておけば、9.d4 は9...Nxe4 で取れる。これが白Nc3 型と白Pc3 型の心得である。
 こう書きながら思ったが、5.c3 は上記の応用編だろう。5...d6 として様子を見る。6.Bg5 なら6...h6 だ。6.0-0 なら6...h6 でpin を防止しておく。これで中級者でも黒0-0 を指しやすい。黒Bb6 も考える。なお、黒Bb6 の前に黒Pa6 を指してから黒Ba7 に退く作戦も私は好きだ。

16/01/22
 強豪たちは4.Ng5 よりも4.d3 を好む。4.Ng5 は古くから研究しつくされた定跡なので、工夫しにくいのだろう。chess.com でも4.d3 の方が多い。ぢっくりした駒の組み合いになる。黒はよく考えないと作戦負けになりやすい。それで白に好まれているのかもしれない。逆に言うと、黒は腕の見せ所である。中級者どうしの対局なら、4.d3 にはぜひ勝ち越していただきたい。
 いちばん普通の手は図の4...Bc5 である。私もこれが良いと思う。つまり、Italian Game になる。4...Be7 は消極的にうつる。ただ、悪い手ではなさそうだ。4.d3 も元気の無い手だから、お互い様なのだろう。ほか、Pinski は4...d5 を紹介している。面白い手なので、私も何度か試した。けれど、普通に組み合った方が勝てるのでやめた。一般に、4.d3 の場合、黒は伝家の宝刀Pd5 を抜きにくい。
 さて白の5手目だ。専門家は5.c3 が多い。けれど、chess.com で多いのは5.Nc3、5.Bg5、5.h3 である。これらはほとんど同数だ。しかし、不思議なことに、5.c3 に出会ったことは一回も無い。ただし、早くにPc3 を突いたItalian から5.d3 になることは多くて、これは図での5.c3 と同じになる。だから、5.c3 の対策も練っておくべきだ。
 ほか、少ないながら知っておくと応用が利くのは5.0-0 だ。黒は自然に5...d6 で良い。ここで、白はたいてい6.h3 を指す。白は黒Bg4 のpin を恐れているのである。chess.com では、どんな定跡でも、pin を恐れて端歩をひとつ突く傾向が強い。悪手ではないのだろうけど、安易で慎重すぎて向上心に欠けるように映る。この場合も、6.h3 は白番の持つ主導権を手放している、としか思えない。もし本当に6.h3 が必要な手であるとしたら、5.0-0 がすでに疑問手なのではないか。そこで、白が黒Bg4 を許した実戦例の統計を調べてみると、たとえば、6.Nc3. Bg4 は黒が勝ち越している。だから、白Nc3 を考える場合は6.h3 も悪くない、ということか。でも、それなら、5.0-0 より5.Nc3 の方が優秀ではないか。
 いわんや5.h3 においておや。5...d6, 6.0-0. Be6 で黒に不満は無い。また、5...d5 で主導権を奪いに行くのもありそうだ。

16/01/16
 図は5...Na5 に6.Bb5+. c6, 7.dxc6. bxc6 まで。この手順の途中では、6...Bd7 も大事な変化で、図の定跡だけしか知らない相手には有効だと思うが、私がまさにそういう人なので、説明できない。
 指してみたくなるのは8.Qf3 だが、chess.com ではあまり見ないので、簡単に触れるだけにしよう。昔のYahoo! Japan のチェスではよく会ったものである。黒が指しづらかった記憶がある。つまり、定跡を知らない相手には有効だ。実際は黒が指せるのだけど、そう判明するまでにはいろいろあった。私の持っている定跡書(Pinski, 2004)では8...h6 で黒良しだ。でも、手順が難しい。だから、私はEstrin の推す8...Rb8 を使う。9.Bxc6+. Nxc6, 10.Qxc6+. Nd7 は駒損がひどいようで、実は黒が良い。
 本定跡は8.Be2 である。さあ、黒は反撃開始だ。代表的な手順を書くと、8...h6, 9.Nf3. e4, 10.Ne5. Bd6 だ。こんなふうに気持ちよく白馬を追い回すのがTwo Knights Defence の醍醐味である。
 上記の手順を嫌い、Steinitz は一八八九年のThe Modern Chess Instructor で9.Nh3 を提唱した。これに難癖をつけた宿敵Tchigorin との電信戦、それと一八九二年の二人の最後のタイトル戦は、あまりに有名だ。対戦成績を見る限り、ナイトをh3 に退く発想に関してはTchigorin の圧勝である。しかし、結論を言うと9.Nh3 は悪手ではない。一九六三年にFischer がこの手をよみがえらせたのは多くの人が知っているとおりだ。
 9.Nf3 の話をもっとしたいのだけど、切り上げねばならない。chess.com では滅多にこの局面にならないからである。なんと、実に多くの私の相手が図で8.Ba4 を選ぶのだ。私は8.Be2 の定跡手順と同じ、8...h6, 9.Nf3. e4, 10.Ne5 に進める。もうおわかりだろう、10...Qd4 でBN両取りだ。
 いやいや、とみなさんはおっしゃる?11.Bxc6+. Nxc6, 12.Nxc6 で白駒はさばけるではないか、と。いやいや、と私は言い返そう。12...Qc5 で白馬は行き場がありません。

16/01/11
 Two Knights Defence でいちばん華々しい定跡が4.Ng5 である。黒の最も激しい応手は4...Bc5: Wilkes-Barre Variation だ。でも、そこまで無理をしなくて良い、と私は思う。図の4...d5 で存分に戦えるからだ。
 白は当然5.exd5 だ。対して、黒は5...Nxd5 をしない方が良い。理論的には悪手ではないが、たとえば、6.Nxf7: Fried Liver Attack が嫌だ。われわれが短い持ち時間でこれを受けきるのは不可能である。一九世紀前半まで、3...Nf6 があまり指されなかった理由はこれだろう。5...Na5 が最善だ。
 そんなわけで5...Na5 を定跡として確立させた人に敬意を表したい。しかし、誰だろう。古い棋譜を調べてもよくわからない。さすがにStaunton はこの手の可能性に気づいていたようだが、彼の不滅の名著The Chess-player's Handbook (一八四七)の解説は5...Nxd5 が中心である。すると、有力候補はドイツの画期的な定跡書Handbuch des Schachspiels (一八四三)だ。5...Na5 に「!」が付いている。私が持っているのは一八八〇年版だ。でも、手順は古いままに記述されているように、私には見える。だから、最初の人としてBilguer とLasa を今は顕彰しておこう。
 5...Na5 以下、6.Bb5+. c6, 7.dxc6. bxc6 で、黒はポーン損してしまうのだが、主導権をもって反撃し続けることができる。われわれのレベルでは、駒損が不安だけれど、実際やってみると快適だ。特に、chess.com ではほとんどの白が定跡を知らず間違えるので、5...Na5 は必勝定跡に近い。次回はこれを書こう。
 なお、5...Na5 に対して、Handbuch では、6.d3 が推奨されていた。その記述を信用したか、Morphy も愛用していた。で、Morphy Variation と呼ぶ人もいる。しかし、一八六〇年にLöwenthal が出したMorphy の実戦集には、6...h6, 7.Nf3. e4 で黒良しとある。6.d3 はやがて消えてしまった。
 ほか、5...Na5 より新しい定跡では、5...Nd4: Fritz Variation や5...b5: Ulvestad Variation がある。どちらも面白い。chess.com でも充分通用すると思うが、私は指したことが無いので説明できない。

16/01/05
 私は、4.0-0 に対しては4...Bc5 が普通かな、と思っていたが、いまFritz で調べると、4...Nxe4 で良いようである。今後はそうしよう。
 気をつけないといけないのは、5.Nc3. Nxc3, 6.dxc3 のときだ。6...d6 は7.Ng5 で受けが無い。6...Be7 は7.Qd5 で駒得が消える。だから、6...h6 が必要だ。これなら、7.Ng5 が無いし、7.Qd5 には7...Qf6 がある。ほか、Estrin は"Two Knights Defence" (一九七〇)で、6...f6 を「駒得を維持する唯一の手」と述べている。「唯一」ではなさそうだが、これもある。なお、5.Re1 には、6...d5 からBc5 やPf5 などで、駒得を徹底的に維持すること。
 それより、chess.com では4.Nc3 を指す白が多いことを語りたい。これには図の4...Nxe4 を暗記して確実に勝ってしまおう。形勢は互角だと思うが、多くの白が考え込む。黒が準備していれば実戦的には有利だろう。
 もし、5.0-0 なら5...Nxc3 で上記の手順と同じになる。でもまあ、普通は5.Nxe4 だろう。それを5...d5 で取り返すのである。最善手はたぶん6.Bd3 だ。これには6...dxe4, 7.Bxe4. Bd6 という地味な戦いになる。黒はc列にダブルポーンができそうで、悪形を耐えねばならないが、互角ではあろう。ただ、chess.com には、6.Bd3 を指せる実力の持ち主に出会うことは滅多に無い。
 たいていは6.Bxd5 だ。6...Qxd5, 7.Nc3 で主導権を維持しようとする。ここでFritz に問うと、7...Qa5, 7...Qd6, 7...Qc5 などを薦めてくる。しかし、私の経験では7...Qd8 が感覚的に指しやすい。この先、時間を使わずに進めることができる。上記のEstrin の古典でも7...Qd8 が採用されている。
 黒が勝勢なのに、私がよく負けるのは5.Bxf7+ である。最善手を書くと、5...Kxf7, 6.Nxe4. d5, 7.Neg5+. Kg8 以下、8.d4 でも8.d3 でも8...h6 だ。これが必勝の暗記手順である。9.Nh3 の後、私は9...Bxh3 をよく使う。Fritz が推奨するのは、8.d4 の場合は9...Bg4、8.d3 の場合は9...Qf6 だ。
 私の敗局を調べると、7.Ng3 が苦手なようだ。7...e4, 8.Ng1 で黒が圧倒的に良いはずだが、白Qh5+ を受けそこなってしまう。手堅いのは8...Bc5だ。9.Qh5+ には9...g6 でどうってことない。ほか、Fritz は8...h5 を推す。9.Nxh5 なら9...Qh4 だ。なるほど。

15/12/28
 ついに最後の3.Bc4: Italian Game にたどりついた。とにかくこれがchess.com では一番多いのだ。たしかに定跡を知らない者どうしでは、白が有利だろう。チェスの歴史を見ても、定跡が未熟な一九世紀前半までは白が六割近い勝率を誇っていた。けれど、黒の守備技術が進歩するにつれ勝率が落ち、一八七〇年代からはRuy Lopes に主流定跡の座を奪われてしまう。chess.com でも、黒は自分の守備システムを確立してしまえば良い。
 黒の3手目は、3...Bc5 か3...Nf6 が代表的だ。前者が正統的なItalian で、後者はTwo Knights Defence である。私は自分よりレイティングが高い相手には3...Bc5 、低い相手には3...Nf6 を使う。3...Bc5 には引き分け含みの定跡があり、3...Nf6 は乱戦になりやすい、それが理由だ。
 もう十年以上もむかし、Yahoo! Japan にチェスがあり、短期間ながら利用した。3...Bc5 に4.b4: Evans Gambit が割と多かった記憶がある。この定跡については10/09/30 から四日かけて書いた。ところが、chess.com では皆無に近い。一番多いのは意外にも4.0-0 だ。形を決めない手である。黒も同様に4...Nf6 を選んで様子を見るのが良いだろう。二番目に多いのは4.c3 だ。これは定跡書に詳しい。私は本に書いてあるとおり、4...Nf6, 5.d4. exd4, 6.cxd4. Bb4+, 7.Nc3. Nxe4 の激しい定跡に突っ込んでゆくことにしている。この定跡はchess.com では私が得だ。相手はこの定跡をよく知らずに不利になるか、引き分け含みの7.Bd2 を選んで、しかも引き分けにせず最後は不利になるからだ。6.e5 も多い。これには伝家の宝刀6...d5 を抜く。Informant 124 にMarin の詳しい解説がある。もちろん、chess.com の会員ならGame Explorer で6...d5 を調べられる。
 今回は3...Nf6 を中心に扱いたい。白の4手目で多いのは、順に、4.d3, 4.Ng5, 4.Nc3, 4.0-0, 4.d4 である。
 例によって少ない4.d4 から。これが少ないというのはありがたい、と私などは思うが、一流選手たちもほとんどやらない。4...exd4 に5.0-0. Bc5, 6.e5 が、一九世紀から人気のあったMax Lange Attack である。実はこれは5...Nxe4 で黒が良い。で、いまの白は一手早く5.e5 を指す。黒はここでひるんではならない。抜け!伝家の宝刀5...d5 を。あとは、強い方が勝つという乱戦になる。

15/12/25
 私がblitz で白番のとき、レイティングが上の相手には初手1.e4 を選ぶ。1...e5 の場合、もしRuy Lopez にできれば、勝率は六割近い。私のblitz 全体の勝率が五割強しかないことを考えると、格上を相手にこれだけ勝てる、というのは驚異的ではないか。私にとって、Ruy Lopes はchess.com における最優秀の白番定跡なのである。
 なぜそんなに勝てるのか。理由は、消極的な3...d6: Steinitz Defence を使う人がchess.com には多いからだろう。この手に対して、私は七割を軽く超えて、ほぼ四分の三の確率で勝っている。しかも、あっさり勝てることが少なくない。
 3...a6: Morphy Defence が、黒としては一番良いに決まっている。にもかかわらず、chess.com では人気が無い。理由は、3...a6 に対して、4.Bxc6: Exchange Variation で応じる白が四割もいるからではないか。黒はこれを嫌って、3...a6 を指さないように思われる。つまり、白からも黒からもExchange Variation は高く評価されているらしい。
 Lasker は4.Bxc6 で一九一四年の大勝負に勝った。ほかでもよく勝った。しかし、実際は引き分けになりやすく、黒としては恐れる必要が無い。ただし、負ける心配が少ないにしても、黒が勝つ見込みはさらに少ない。駒数が少なく、駒組も単調な局面になってしまうからだ。
 レイティングの高い相手に3...a6, 4.Bxc6 から引き分けるのは歓迎だ。問題はレイティングの低い相手である。勝てる戦いをしたい。私は3...Bc5: Classical Defence や3...f5: Schliemann Defence を試したが、あまり感触が良くなかった。
 結局、3...a6 が最善なのだろうか。4.Bxc6. dxc6, 5.0-0 に普通は5...f6 だが、私は少しでも活気のある局面にしたくて、5...Qd6 をよく使う。黒0-0-0 が狙いだ。ただ、f6 地点をどうするか悩むことが多い。黒Pf6 ではK翼のナイトやビショップを使いづらく、黒Nf6 ではe5 ポーンが不安定だ。
 そんなわけで、私のRuy Lopes 対策はまだ固まってない。

15/12/21
 私のような古株のファンが衝撃を忘れることのできないScotch Game がある。一九九〇年のタイトル戦だ。Kasparov がこの定跡を突如よみがえらせたのである。相手はKarpov で、その時は4...Nf6 だった。Kasparov は一九九三年のタイトル戦でもScotch を使った。相手はShort で、4...Bc5 だった。慎重なKarpov と、力戦に持ち込もうとしたShort 、それぞれの個性がうかがえる。
 4...Bc5 の定跡を初めて試すときは、このビショップが浮き駒になるので、ちょっとこわい。けど、大丈夫なのだ。それは一回やるだけでわかるから、あとは安心できる。白の対応は、chess.com の場合、5.Be3 が三分の二、5.Nxc6 が三分の一、5.Nb3 がごくわずか、である。
 5.Nb3 には、黒はあまり悩まなくていい。5...Bb6 から、定跡を知らなくても何とかなるだろう。
 5.Nxc6 はKasparov が一九九三年に使った手である。5...Qf6 が、この定跡らしい応手だ。白は6.Qd2 だろう。6.Qf3 もある。当然ながら、どちらの場合も、黒はナイトを取り返さないといけない。さあ、6...dxc6 と6...bxc6 のどちらが勝るだろう。6...Qxc6 も目に映る。6.Qf3 なら、クィーン交換も考えないといけない。しかし、専門家でも結論を出せないはずだ。定跡事典では、どれもだいたい互角である。つまり、われわれは悩んでも仕方ない。ここで比較検討に時間を使わないようにするのがコツだ。ちなみに、Kasparov が使った有名な手順は、6.Qd2. dxc6, 7.Nc3. Be6, 8.Na4 である。
 5.Be3 にも5...Qf6 が有効だ。続く手順は必ず6.c3. Nge7 だろう。問題はここだ。定跡書はあまり説明もせず、7.Bc4. Ne5, 8.Be2 を指示する。読んでいて、私は、なぜ7.Bc4 が必要なのか、たんに7.Be2 では悪いのか、わからなかった。私と同レベルの対戦者も同じことを思うらしい。多くの対戦者は7.Be2 を選ぶ。が、自分が黒番でその局面を見た時、私はわかった。7...d5 で、まだ難しいけれど、もう黒番の不利は無い。対して、7.Bc4. Ne5, 8.Be2 で8...d5 なら、9.0-0. 0-0 のあと、10.f4 が黒ナイトに当たるではないか。これでも黒は戦えるが、専門家はたいてい8...Qg6 を選び、9.0-0. d6 になる。ゆえに、7.Bc4 が正着なのである。しかし、それを知らない人が多数派のchess.com では、7.Be2. d5 で黒が愉快に戦えるのだ。

15/12/15
 白2.Nf3 のOpen Game において、しばしば黒Pd5 は後手番の不利を一気に雲散霧消させる切り札になる。もちろん、強豪同士ではなかなか実現しない。しかし、chess.com の中級レベルでは黒Pd5 のチャンスが高確率で訪れる。だから、黒はそれに期待して、2...Nc6 を指すべきだ。
 白の3手目は、専門家の場合、ほとんどが3.Bb5: Ruy Lopez である。八割近い。次の3.Bc4: Italian Game が一割あり、おかげでそれ以外の、たとえば3.d4: Scotch Game のような重要定跡も統計的には影が薄い。対して、chess.com の場合は、一番多いのが3.Bc4 だ。四割ほどある。次が3.Bb5 で、三割弱くらい。そして、3.d4 が無視できない程度にあり、この三種で八割を超える。3.d4 から順に考えるとしよう。
 Scotch Game は一九世紀前半から流行した定跡だ。きっかけは一八二四年の都市間通信戦、Edinburgh 対London で、前者が3.d4. exd4 に4.Nxd4 を使って勝ったことだ。駒組を省いていきなり仕掛けるのが特徴である。ただし、二〇世紀にはずいぶんと減った。
 黒は3...exd4 が最善だ。chess.com では、白の4手目は当然ながら4.Nxd4 が多い。ほか、4.Bc4 がある。ごくたまに4.c3 を見る。比率は4:2:1というところだろう。
 4.c3 は経験が少なくて、あまり書けない。しかし、これを4...dxc3 で取り、Danish Gambit 系の形に黒から飛び込んでゆくのは、われわれには危険だろうな、とはわかる。だから、Danish をはぐらかす感覚を応用して、4...d5 を選ぶのが賢明ではなかろうか。
 4.Bc4 が前記の通信戦では多く使われた。黒は4...Bc5 か4...Nf6 のどちらかを好みで選べばよい。前者はItalian になり、後者はTwo Knights Defence になる。要するに、4.Bc4 は厳密にはScotch とは言えない。私は、相手のレイティングが自分より上なら4...Bc5 、下なら4...Nf6 を使う。
 4.Nxd4 の定跡は4...Bc5 か4...Nf6 に分かれる。4...Qh4 もある。簡明で中級者向きに見えるのは4...Nf6 だが、chess.com のみなさんに私がお薦めするのは4...Bc5 である。その方が優れた定跡だから、という理由ではない。4...Bc5 に対する正しい対応を知らない相手がほとんどだからである。

15/12/12
 なんと言っても2.Nf3 である。早くも2手目に黒eポーンに狙いを定めて、以後当分の主導権を確定させる。強力だ。私が1...e5 を好手とは思えなかったゆえんである。私の対戦相手だって6割強が2.Nf3 を選ぶ。
 私自身も白番では2.Nf3 だ。相手の6割が2...Nc6 で応じる。3割が2...d6: Philidor Defence だ。chess.com の特徴は、2...Nf6: Petroff Defence がほとんどいないことである。ちなみに、現代の強豪同士の場合、2...Nc6 が82%、2...Nf6 が17%、2...d6 が1%で、その他は無い。
 Petroff Defence の代表的な手順は、3.Nxe5. d6, 4.Nf3. Nxe4, 5.d4 である。現代では引き分け志向の消極戦法だが、かつては攻撃の大家Marshall が得意にしていたほどだった。彼がCapablanca に対して挙げた黒番での唯一の勝利がPetroff である。この一敗に懲りて、Capa は5.Qe2 からクィーン交換を求めるおだやかな作戦を採用し圧勝した。Marshall は退屈な5.Qe2 を見てげんなりしたに違いない。次の対戦ではPetroff をやめ、Ruy Lopez で秘策を用意した。「あれ」の誕生である。以後、警戒を強めたCapa は、Marshall には1.e4 を使わなくなった。なんでこんな話をしたかというと、chess.com では5.Qe2 が主流だからだ。2...Nf6 を私は一時期使ったが、Marshall の思いを追体験させられて、やめた。chess.com で人気が無いのも、このためではないか。やはり「あれ」に限る、と今は思っている。
 Philidor Defence は黒Pd5 のオプションを早々にあきらめてしまうのだから、消極的な戦法と言える。とは言え、中級者が白番で突破するのは難しい。chess.com で人気があるのもそのためだろう。中堅レベルのサッカー・チームが、退き気味の相手から点を取れないのと同じ道理である。特に、3.d4. exd4 の場合、互いに普通に駒組を進めると、白が攻めあぐねる気がする。chess.com では定跡を知らない者同士の対局が多いことを考えると、黒番の有力戦法だと思う。ただ、白がBg2 型の定跡を知っている場合は、黒が苦労するのではないか。なお、プロっぽいPhilidor Defence は3.d4 を取らずに黒Pc6, Nd7 に組む。これは13/09/24 に書いた。

15/12/05
 一九世紀の前半まで、2.Bc4: Bishop's Opening は人気の高い戦法だった。一八世紀は2...c6 がほとんどで、一九世紀になると2...Bc5 が目立つようになり、やがて、2...Nf6 の価値が認められるようになって、衰退した。衰退のきっかけは、一九四六年のHorwitz とKieseritzky のマッチだと思う。Horwitz は、マッチには敗れたものの、Bishop's Opening に対して2...Nf6 を使い、好成績を挙げたのである。現在では2...c6, 2...Bc5, 2...Nf6 どれでも形勢互角とされている。
 強豪同士の棋譜を調べると、ほとんどが2...Nf6 だ。以下、3.d3. Nc6, 4.Nf3 である。何の変哲も無い定跡に落ち着く。これなら、特に準備も要らない。私も、こうなることを想定して、2...Nf6 だけを指してきた。しかし、chess.com の白は勝手が違う。3.d3 は多いが、後の手順にクセがある。ほか、3.Nc3, 3.Nf3 がよく使われる。もっとも、3.d3 と3.Nc3 はその場で対応できる程度の難易度だから準備は要らない。問題は3.Nf3 である。
 3.Nf3 の局面は、白が黒をPetroff Defence の特殊変化に誘導した、と言える。実は上記のマッチでKieseritzky が採用した手でもあり、理屈としては、Horowitz が用意した3...Nxe4 で黒が悪いことは無い。私も勝ち越せている。特に、4.Nxe5 に対しては、Fritz に教わった手順を丸暗記してからは全勝だ。反面、4.d3 や4.Qe2 にはパッとしない。あまり自分に合ってない気がする。3...Nxe4 以外の選択肢は無いものだろうか。
 実は3.Nf3 に3...Nxe4, 4.Nxe5 は複雑だ。だから、3...Nc6 を推奨する定跡書が何冊かある。Two Knights Defence にするのだ。これは私もよく知っている。ただ、私のこだわりとして、Two Knights Defence は自分よりもレイティングの低い相手に使う定跡であり、相手が格上の時は避けたい。
 いまふと思った。格上には2...Bc5 でどうだろう。3.Nf3 には3.Nc6 だ。私の格上対策と同じ定跡に合流できる。3.c3. Nc6, 4.Nf3 なら、これも得意だ。ちょっと嫌なのは3.f4 だな。取れば、King's Gambit で黒Bg7 の無い形になる。これは自信が無い。3...d6, 4.Nf3. Nf6 のKing's Gambit Declined を勉強しておかねばなるまい。

15/12/01
 図は7...Nc6 まで。chess.com でKing's Gambit を相手にするときは、いつもこの局面を想定している。この局面まで付き合ってくれる白は強い。
 まづ、8.Qb3 から考えよう。狙いはもちろんBxf7+ だ。これが7.c3 の基本構想である。黒は8...Qe7 に受ける。この後の方針は7...Nc3 と同じで、黒はNf6 から安全にキャスリングできれば優勢である。
 気をつけてほしいのが、黒Na5 を指したくなる欲望だ。これは白Qa4+ で負ける。それが嫌なら、8...Qd7 を選べば良い。定跡書ではむしろこれが推奨されている。でも、その理屈はよくわかるが、私の棋力には、8...Qe7 の方が合っていた。
 8.Qb3. Qe7 の経験から、ここに書いておく価値があるのをひとつ挙げれば、9.e5 だろう。Fritz に教わった手順は、10...dxe5, 11.dxe5. Nxe5, 12.Nxe5. Bxe5, 13.Bxf7+. Kf8, 14.Re1. Nf6 で黒優勢。King's Gambit には、白Bxf7+ を恐れてはいけない場面が、わりとある。
 本当に難しいのは、経験に無い手だ。9.h4 である。黒必勝に近いと思うのだが、勝ちが見えるまで正解手順を指し続ける自信が私には無い。みなさんには、「chess.com ではいままで誰もこんな手を指してこなかったから大丈夫ですよ、ははは」としか言いようが無い。専門家の実戦例は9...Nf6 を支持している。これだけでも勇気の要る手だ。そのうえ、10.hxg5. hxg5, 11.Nxg5 に11.Nxd4 である。私にはとても思いつけない。これも、12.Bxf7+ を恐れてはいけない例である。12. Bxf7+ には、12...Kd8, 13.cxd4. Nxe4 だ。メイトを狙った反撃だから黒は大胆になれるわけである。
 8.Qb3 以外で重要な手としては、8.g3, 8.b4, 8.h4 を知っておきたい。
 8.g3 には8...Bh3 で良い。8.b4 には8...Nf6 の余裕が得られる。キャスリングを狙おう。8.h4 が問題である。これはお目にかかったことが無い。定跡書が教えるのは8...Nf6, 9.hxg5 に9...Nh5 だ。なんか難しそうだな。それよりは、8...Qe7, 9.Qb3 で、さっき書いた「経験に無い手」の局面にする方が、難しさは変わらないけど、暗記量を節約できるから、良いかもしれない。

15/11/28
 正攻法を極めたい同志のためにKing's Gambit のchess.com における本定跡をもう少し書いておこう。
 2...exf4 に対して3.Bc4 を指す人が、chess.com ではほとんどいない。3.Nf3 だけ知っていれば充分である。これに3...g5 で応じるのが正攻法だ。K翼の形を崩してもfポーンの駒得を主張するのである。そして、たいがい4.Bc4 になる。図がそれだ。これは4...g4 を誘っているのだろう。そうなれば、5.0-0 からのMuzio Gambit が炸裂する。理論的には引き分けとされる定跡だから、白としては損な手だけれど、blitz で黒を持って正確に受けきる自信が私には無い。それよりは4...Bg7 が安全に勝てる。以下、5.0-0. h6, 6.d4. d6 だ。このあたりは手順が違っても、6手目に同じ局面になることが多い。かくしてHanstein Gambit の基本形が出来上がった。
 黒の手順のうち、意味がわかりにくいけど重要なのが5...h6 である。gポーンを支えている。慣れない頃の私は、これを忘れてNe7 やNf6 を指してしまい、白Nxg5 を食らって即投了、なんてことがあった。ほか、Bg7 は敵陣を狙うとともに、ルークを守っている。白がキャスリングを省いてPh4 からhxg5 を仕掛けてくる場合があり、その時、黒hxg5, 白Rxh8 に黒Bxh8 で応じる用意である。これでK翼は安全だ。白Ph4 に対し黒Pg4 で応じるのは、せっかく駒得を維持している黒ポーンたちが不安定になる。
 Hanstein Gambit の基本形では、ほとんど7.Nc3 か7.c3 になる。強い人ほど後者を選ぶ。ここでどう指したらよいのか、ずいぶん悩んだ。結論は、どちらも7...Nc6 だ。白Pe5 に備える意味がある。そうしておいて、黒Nf6 からキャスリングを狙う。黒が安全に入城してしまえば、この定跡は黒優勢だ。7.Nc3 の場合、それでも、白が8.e5 に攻めてきたなら、8...dxe5, 9.Re1. Nge7, 10.d5 に強く10...g4 で黒が良い。
 7.c3 に対する7...Nc6 は難しい。もっとも、その難しさを理解した相手に出会ったことは無い。難しくなる前に、相手が間違えてしまうのだ。うまくいけばそのまま私が勝つし、そうでなければ、相手以上の間違いを私がおかして負ける。さいわいなことに、最近は勝つ回数の方が多い。

15/11/23
 チェスに興味を覚えて最初の二十年ほど、図のKing's Gambit に私はあこがれていた。競馬でミスターシービーが大好きだった私に、うってつけの追い込み定跡である。白はfポーンを捨て、Pd4 からBxf4 で駒損に追いつき追い抜こうとする。実現すれば破壊的な展開力が得られる。といって、その実現を黒が阻止しようと守れば、黒陣は乱れて収集不可能に陥る。優秀な戦略だ。ゆえに、守備が未熟な一九世紀までは主流の定跡だった。現代でも、守備の苦手な中級者に対して有効なはずである。実際、最近、久しぶりに白番で三回使ったら、楽に三連勝できた。
 欠点は、黒に多様な守備定跡があることだ。それぞれが個性的で、黒はそのひとつだけ知っていればいいけれど、白は全部に対応できないといけない。しかも、理論的には黒が互角以上の定跡が多い。白の立場で研究してると空しくなる。で、私は白番をやめた。研究手順で勝とう、なんて奴は見込みが無い。即興的な想像力の豊かな佐藤康光のような人が白に向いているのだ。最近ではBiel のRapport 対Adams 戦が素晴らしかった。
 黒としては、2.f4 を2...exf4 で取り、3.Nf3 には3...g5 で駒得の維持を図るのが正攻法である。対して、いちばん優秀な白の定跡は、4.h4 から黒陣を崩すKieseritzky Gambit だ。ところが、chess.com でそうなることは少ない。たいがい、白は4.Bc4, 5.0-0, 6.d4 の布陣を敷く。Hanstein Gambit だ。これは黒が良い。ところが、私はよく負けた。一般には珍しい定跡なので覚えてないし、覚えたとしても、定跡を外れた手順に対応するのが難しい。でも、「あこがれて二十年」の意地があるから、正攻法にこだわった。克服できたのは最近のことである。ひとまづ定跡書を捨てて、自分で考えたのだ。後で本を確認すると、私が見つけたのと同じ手が書いてあった。そして、いったん克服してしまえば、Hanstein は恐れるに足らない。
 King's Gambit に格別の思い入れの無い人は、正攻法を採らない方が安全だろう。正攻法は耐える時間帯が長くて、定跡を知らないとつらい。白が中級者の場合、fポーンを取ってくれない方が、この定跡特有の乱戦にならず、困るのではないか。むかし私が白番を持った経験で言うと、最も消極的な2...d6 でさえ手を焼いた。代表的なのは2...Bc5 である。ほか、10/12/05 に書いた2...Nf6 があなどれない。

15/11/20
 まだ始めて数か月のDutch Defence にくらべて、Open Game: 1.e4. e5 の黒番は千数百局の経験がある。だから、中級者にしてはよく理解できているはずだ。少なくとも、自分の流儀が身に着いている。例によって、それはchess.com の中級者に特有の手順である。チェスの定跡史において埋もれるどころか、一本の霜柱のように消えておしまいの研究だ。しかし、それはそれで、私と似たような境遇の人の役に立つこともあるのではなかろうか。しばらく書き続けてみよう。
 1.e4 に対する1...e5 を、もともと私はあまり優秀だとは思っていなかった。黒から反撃できる味が薄く、したがって、耐える時間帯が長い。受けが苦手な人にはすすめられない。でも、利点があって、それは経験が活きることだ。ほかの定跡にくらべれば、変化が少なく、また、どんな変化もわりと似ている。だから、負けたって、敗因を調べ、それを覚えていれば、次の対局に活かせる率が高い。研究者タイプにはおすすめである。
 なお、私はレイティングが自分より上の相手と下の相手で二種類の手順を使い分けている。Open Game の場合、上の相手に対しては安全策を採るし、逆に、下の相手には積極策を採る。こうすると相手の悪手が増える気がするのだ。今回は主に積極策を書こう。
 私がよく出会う白の2手目は、頻度の順に2.Nf3, 2.Bc4, 2.f4, 2.d4 だ。この4手で89% を占める。2.d4 から順に考えよう。
 2.d4 には2...exd4 で悪いわけが無いと思う。3.Qxd4 には3...Nc6 で白クィーンを追う。これで早くも白は主導権を失ってしまう。やっかいなのは3.c3 だ。Danish Gambit である。これについては12/05/15 から二か月かけて書いたことがある。対策はその時に仕込んだ。逆に言えば、そうしないと、私などこの猛攻定跡に吹き飛ばされてしまう。だから、Danish を避ける、という選択肢もある。それなら、2...Nc6 がおすすめだ。Nimzowitsch Defence かScotch Game になるだろう。

15/11/17
 Dutch Defence に対して、白はBg2 型に組むのが定跡である。しかし、chess.com のblitz では滅多にそうはならない。みなそれぞれに工夫を凝らしてくる。特に、Leningrad Variation を意識した駒組が多い。つまり、Pc4 にせず、Bc4 が可能な形を志向するのだ。
 それはたいてい定跡書には載ってない。独自なのである。図の白陣が一例だ。そんな時、もちろん私はLeningrad に組むわけにはいかない。おまけに、予習しておこうとしても、この型に限らずDutch の序盤はFritz があまり役に立たない。したがって、私も独自に考えなければならない。図の黒陣は試行錯誤の末、やっと見つけた駒組である。発見の難しさを言うと、たとえば、この陣形は白陣がPc3、Nd2 だから成立するのであって、Pc4、Nc3 の時はいけない。なぜなら、白Nb5 からNxc7 の狙いがきついからである。だから、白がポーンをc4 まで伸ばすつもりなのか、c3 で止めるのか、見極める必要があるし、また、どちらでもない場合に対応できる手順も用意しなければならない。
 こんなふうに駒組をちまちまと練りこんでいれば、どうしても勢いが無くなる。おかげで勝率は落ち込んでしまった。ここ10戦で私のDutch は2勝6敗2分である。とはいえ、Dutch Defence をやめる気は無い。この定跡が間違っている、とは思えないからである。それより、いま気になっているのは、この定跡に対する信頼は何に由来するのだろうか、だ。美ではなかろうか。
 図のような駒組を得られれば、私は満足する。1.白Bc4 が王手にならない、2.いつもは働かない黒の明色ビショップが好位置にいる、3.黒Nh5 の狙いがあって白Bf4 をとがめている、以上3点をたった8手で実現した。この簡潔さから満足感が湧いているようだ。こういう満足感は美感であろうか。だとしたら、すっきりした証明が得られた時の数学的な美に近かろう。でも、北陸新幹線が開通して金沢まで簡単に行けるようになって便利だという、実用的な快適感と同じ簡潔さなら、それは美とはちょっと違う。よくわからない。私のチェスにも美があるといいな、といまは思う程度である。

15/11/03
 Dutch Defence と藤井システムの類似点をもうちょっと。藤井システムの最大の魅力は、居飛車が漫然と穴熊に組むと、振り飛車は居玉のままで穴熊を吹き飛ばしてしまうところだ。Dutch Defence でも同じことが言える。
 図は白が漫然と駒を組んだ典型である。こうなるまでの白の七手はすべてが自然な手であり、もし黒陣がNimzo Indian であれば、ほとんど定跡型でさえある好形だ。ところが、相手がDutch Defence の場合、7...Nc6 が好手であり、次の8...e5 から9...e4 の狙いを、白は受けきれない。7.d5 しか手は無いだろうが、7...Ne5, 8.Nxe5. dxe5 で、相変わらず9...e4 の狙いが残っている。
 愉快なことに、図をFritz にかけると「白優勢」の判定がくだる。しかし、手を進めれば進めるほど、評価値は下がる。黒がPg5 を実現させ、黒クィーンがe8 地点を経由してg6 地点に顔を出す頃には、形勢逆転しているはずだ。
 黒陣の特徴はBg7 である。Leningrad Variation という。二〇世紀中頃のレニングラードの棋士たちによって開発されたらしい。私が連戦連勝した時の勝ちパターンがこれだった。いまでも序盤の数手はこの形をイメージしていることが多い。ただし、Leningrad には欠点がある。たとえば、1.d4. f5, 2.Nc3 のように、白Pc4 が無い場合は白Bc4 が可能になる。そして、この白Bc4 が王手になってしまうのだ。こんな場合、さっさと黒Bg7 をあきらめて「2.Nc3 には黒Pd5 型が有効だ」と転向するのが良い。攻撃的なLeningrad とは対照的な堅陣を組むことになる。藤井システムでも、居飛車が穴熊を目指せば居玉のままの強襲を仕掛け、急戦を見せれば玉を安全な位置に移動させる。ぜんぜん違う戦い方になるあたり、似てると思うのだ。
 だから、白の方針それぞれに対して、いろんなタイプのDutch Defence を指しこなせないといけない。私にはそれが面倒ではない。局面の特徴を見抜いて、最適のフォーメーションを選べた時は自陣がなんとも美しい。そう、Dutch Defence は美しいのである。

15/10/31
 Dutch Defence は醜い。初手1...f5 の段階で、もうf7 地点の穴が醜い。e5 地点にもスキが生じて気がかりだ。せめてそれをPd6 で補強する。が、今度はe6 地点に穴が開いてしまう。下品な人間がカッコをつければつけるほどみっともなくなるように、Dutch Defence は一手づつ自分から崩れてゆく。これが以前の私の印象だった。それが変わった。例をひとつだけ、わかりやすいのを書いておこう。
 Chess.com には1d4.d5 に2.Nc3 を指す中級者が多い。持時間の長い試合ならどうってことは無いのだが、blitz ではだんだん押し込まれて負けることが、私は多かった。しかし、ここで面白い手がある。2...f5 だ。こんなふうに白はPe4 の仕掛けを封じられてしまうと、もう手が無い。Pc4 を省略したおかげで、黒陣中央に圧力をかけたくてもできないのである。レイティング1400台のblitz なら、黒がかなり勝てるのでは。お試しを。
 いや、実際は白もなんとかなる。図で3.Bf4 が良い構想だ。c7 地点を狙っている。もちろん、e5 地点にも利いている。黒が上手に対処するのは、不可能とは言わないが、難しい。一番の好手は3...d6 ではなかろうか。このビショップの狙いを封じている。しかし、ポーンは戻れないのである。
 そこで気が付くのだ。Dutch Defence にすればいい。1.d4. f5, 2.Nc3 のとき、2...d5 を保留し2...Nf6 を指して様子を見る。そこで3.Bf4 なら、今度は3...d6 が可能なのだ。だから、最善手は3.Bg5 だと思う。すると、先述の3...d5 で黒陣は鉄壁だ。よって、白はビショップの位置を決めずに3.Nf3 かもしれない。ならば、黒もPd5 かPd6 かを決めず、ゆっくり3...e6 から築城にいそしめばいい。
 つまり、白の手に対応して、黒は最適なフォーメーションを選択する。これは白Nc3 型に限らないDutch Defence の極意である。藤井システムに似ていると思う。白のいろんな布陣のそれぞれについて対策を用意し、そのすべてを成立させなければならない。大変だけれど、型それぞれの特徴を分析して策を練る、理詰めの作業が好きな人はハマる。逆に、自分の得意な型を持っていて、その流れに持ち込む棋風の人には向いてない。

15/10/18
 Chess.com で持ち時間10分切れ負けのBlitz を指すとき、今の私は黒番ではOpen Game かDutch Defence を使っている。四千局ほどいろいろ試して、やっと定まった。持ち時間が一手三日もある対局でもよく採用している。自分としてはとても意外な決着だった。かつて長く棋譜並べだけを続けていた時代には、どちらも印象の悪い戦法だったからだ。仮に優秀な戦法だったとしても、自分に向いているとは思えなかった。
 けれど、使ってみると、勝てる。それまではだいたい1400台だったレイティングが急に上がりだし、型を理解する頃には連戦連勝が始まり、一気に1676という数字を得た。さすがにこれは長続きしなかったけれど、1600前後が現在の定位置で、当分は1400台に落ちる気がしない。
 Open Game にせよDutch Defence にせよ、使い始めるに際しては抵抗があった。チェスについての意見を変える必要があった。逆説的ながら、自分を変えることが、自分らしい戦い方を見つけることなのである。中級者のまま伸び悩んでしまう人は、いくら練習しても固定観念を固めているだけなのかもしれない。
 そうは言っても、私は1700台には上がれないだろう。どんなに自己対話を重ねても中級者である。だが、これは全盛期のKasparov にもあてはまる心境ではないのか。彼だって3000台を望めないことは自覚していたろう。

15/10/17
 私は美術音楽スポーツの鑑賞は好きだけれど、実践としては、描く弾く打つ蹴る、どれもやらない。チェスでさえ棋譜並べばかりで二十数年をすごし、五〇歳を前にやっとネット対局を始めたほどである。理由はあって、素人が練習しても結果はむなしい、という思い込みが、幼少の頃からあったのだ。
 おかげで、老境に入って、やっとチェスの実戦を始めることになった。で、思うに、修練は素人にとってむなしいどころか、今まで経験したことの無い最高の自己対話である。こんなことにやっと気づいた。
 逆に言えば、素人はそのように美術音楽スポーツ囲碁将棋チェスに親しむべきなのだろう。しかし、素人はどうしても専門家を気取ったことを言いたくなるのだ。

15/10/12
 Tarrasch のような冷血漢でさえ「チェスは恋愛に似ている」と述べている。チェスが楽しくなくて、たとえ苦しかったとしても、われわれはチェスを続けるのと同様、片思いがつらいからといって、その恋をあきらめる人間は少ないだろう。チェスにせよ恋愛にせよ、楽しかろうが苦しかろうが、その体験は強烈な現実なのである。ひとたびそれにふれてしまえば、自分の意志で自由に選んだり捨てたりできるものではない。つまり、そのリアリティは誕生や死と似てもいる。だから、チェスをやめたり、恋を断念したりするのは、自殺に近い場合があるのだ。

15/10/04
 プロ棋士の言うことであんまり信じられないのが、「将棋はほんとに楽しいです」だ。自分自身のチェスの対局経験を数えると、対局中はどんなに有利でもたいてい苦しいし、そして、対局後は勝った場合でもたいてい不満が残る。これはプロ棋士でも同じはずだ。もしかしたら、彼らが楽しんでいるのは、対局そのものではなく、対局にまつわる何かではなかろうか。たとえば、現在進行形の他人の対局を控室でわいわい検討している時とか。
 ここで凡庸な疑問が湧く。楽しくないなら、なぜ将棋やチェスを指すのか。羽生善治は、誰との対談だったか、「将棋だけでも大変なのに、なぜさらに苦労してチェスまで指すのか」と問われて、こう答えた。「やはり、苦しいからでしょうか」。幸運なことに、この非凡な回答に私は共感できる。

15/09/29
 ただでさえ途切れがちの更新が、滞っておりました。コンピューターを買い替えたおかげで、いろんな変更が生じてしまい、新しい環境に慣れるのが年寄りには大変だった、というのが真相です。Windows Vista からWindows 10 への変化です。
 このブログに関する変化だけでも書いておきましょう。私は棋譜管理ソフトにはChess Base 7 を使っておりました。実はWindows Vista でさえ使えないはずの古いプログラムです。いろいろな障害が生じていたのですが、スパイ映画でベテランが古い型の拳銃を無理して使ってるのと同じ心境です。しかし、このたび、ついにあきらめてChess Base 13 に変えました。あまりに便利で驚いております。
 ただ、このブログで使っていた盤駒の画像はChess Base 7 のものでした。Chess Base 13 のはかなり違います。異なる画像で昔の企画を更新する気にはなれなかった。それにWindows 10 ではJava が非常に使いににくくなっていることにも驚きました。私のホームページはJava で動くものが多いので、これも更新する気を削いだわけです。
 ほか、ここ数年、発言はtwitter で行う方が気楽だったというのも、大きな流れとしてありました。もっとも、それを言い出すと、私のブログは、「ブログって、アメーバとかライブドアとかを使って書く日記のことである」という時代よりもさらに古い時代の型のブログですから、本当は大きな流れなんて気にしてない気もします。
 ようやく落ち着いてきたので、久しぶりに書き込んでみました。これをみなさんが普通に読めていれば、Windows 10 での更新作業にも成功した、ということになるのですが。


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