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スミスロフのインタヴュー、欧州クラブ選手権、欧州団体選手権

03/10/21
 欧州団体選手権もおしまい。優勝はロシア。二位はイスラエル。順当な結果でした。
03/10/20 紹介棋譜参照
 スカナボアのサムバ杯も終了。4人も首位に並んでしまい、最終日はいつもの談合ムードが漂うところでしたが、半点差で彼らを追う白イワンチュクがリヒター・ラウゼル定跡からの猛攻に賭けてくれました。結果は惜しい引き分け。黒ハンセンもよくしのぎました。これを紹介棋譜に。優勝はニールセン、サドバカソフ、ショート、ハンセン。予想外の顔ぶれ。
03/10/19
 スポンサーのEssentを私は地名のEssen(エッセン)と混同してました。前者は電力やガスの会社ですね。そして、大会が行われた地名Hoogeveen(ホーヘフェーン)の方を企業名Hoogovens(現Corus)と混同していました。訂正します。
 さて(立ち直るのは速い)、この大会の最終日、同点首位のポルガーとアローニアンの直接対決。引き分けでも勝星の多いポルガーが優勝だったんじゃないか、と思うのですが(例によって不明です)、さすが、やってくれました。彼女の人気は彼女が「彼女」だからだけではない。図は黒アローニアンの失着Qc7-c4の場面。ここでポルガーはRc1! 白はクィーンを取られてもOKなんです(Rxc8+からBc2がありますね)。以下、黒はQxc1で駒損、これで決まりました。
03/10/18
 アナンドの大会はブリッツ。ChessTodayによると14勝0敗1分だそうで。彼もたまってるんだなあ。昨夜の結果、ラジャは分け、ポルガーは負け。
 シロフの好調をお伝えした私ですが、実際は負けも多くてパッとしない。でも、私はいつも以上に最近の彼が気になります。たとえば、ChessTodayが彼の凄い新手を紹介してくれました。右の図、黒はこの定跡を隠し芸にしてるアズマイパラシビリ。ここでシロフは5.g4。「凄い新手」で説明は十分でしょう。舞台がもっと大きくなれば何かやってくれるんじゃないかなあ。
03/10/17
 モスクワではアナンドやドレーエフが参加してる大会が行われているとか。欧州各地からパッコンパッコンと時計を叩く音が聞こえてきて、どれがどこのラウンドやらわけわかんないですね。
 スカナボアはイワンチュクが直接対決でニールセンを破ったから優勝かな、と思ってたら、カシムジャノフ(白)に負け。ニムゾはよくわからないのですが、白の指し方が面白かったです。図のように玉頭を危なくしてもg筋から逆襲する、という順。前例はあります。今まで黒が避けてきた形のようです。
 さて、いま観てるのはラジャボフ対スヴィドレル、それからソコロフ対ポルガー。あと、わざと渋いところ何局かみつくろって。
03/10/16
 昨日の観戦はチェスよりも将棋。王座戦最終局ですね。矢倉となれば羽生の方が強い。渡辺有利だったようですが、私はずっと羽生を信頼して見てました。二人の初めてのタイトル戦。でも、谷川羽生の時ほどのレベルではなかった。
 うまくしたもので、スカナボアもエッセントも今日はお休みでした。欧州団体選手権は、グリシュクがサトフスキーのクィーンを絡め取った。「飛んで火に入る夏の虫」という感じ。この一勝でロシアはイスラエルを破ったわけで、優勝も確実か。メンバーが、グリシュクの他、スヴィドレル、バレーエフ、モロゼビッチ、ハリフマンですもの。
03/10/15 紹介棋譜参照
 面白い対局ばかりで混乱してしまいました。Ivanisevic-Grischuk(黒勝)、Shirov-Lautier(黒勝)、Ivanchuk-Nielsen(白勝)。けど、最高に血みどろなのがポルガー対ソコロフ、これはまだ続いてます!(ポルガー勝、紹介棋譜参照)。
03/10/14
 ごらんのとおり、私は観戦はいつもICC(Internet Chess Club)だ。このICC、欧州団体選手権のライブ中継を、大会主催者の許可を得ずに流していた。大会公式サイトで「海賊行為」と罵られているらしい。
 棋譜の著作権はどう理解すれば良いのかわからない。国際的な法解釈は措くとして、Chess Todyによると、今回のケースは無許可でのライブ中継が一番まずかったようだ。対局後の棋譜は誰でも無許可で使っている。
 いま思ったのだが、昨日の私の記述は「海賊行為」に近いのだろうか。ちがうちがうちがう。
03/10/13
 さてさて、エッセントの大会まで始まりましたよ。ポルガー、ソコロフ、カルポフ、アロニアンの四人で二局づつ。初日からいきなりポルガー対カルポフ。いま、がちがちだったカルポフのペトロフに、私でもわかる隙が出来たところです。誘いの罠か、油断か。ポルガーは、、、仕掛けました!
 ところで、昨日のポノの話ですけど、その日がちょうど二十歳の誕生日だったそうです。ふう、彼が女の子でなくて良かった。早く元気になってほしい。
 おやおや、、、ポルガー、あっという間に勝ちました。最後はよくある、Bxh7+からQh5+で決める練習問題のようなダブル・ビショップ・サクリファイス(プロレス技か?)。これも私に読めるレベルでした。
03/10/12 紹介棋譜参照
 昨日のショートは結局、中央突破はならず。敗色濃厚だったんですが、最後は大逆転。今日の相手はイワンチュク。優勝を争う二人の直接対決、やっぱり、短手数の引き分けでした。
 国別の欧州団体選手権も始まった。注目はポノマリョフ。しかし、低い布陣に覇気が無い。白アグレストの攻めを見落としてカッコ悪い敗戦。他では、シロフがアタリのフレンチを粉砕した一局が見事でした。これを紹介棋譜に。
03/10/11
 三吉、もうひとつ言いたいことがあったんですが、あちこちでいろんな大会が始まります。いま観戦しているのはデンマークはスカナボアのサムバ杯。イワンチュク、ショート、サシキラン、ボロガン等10人が参加、19日まで。そのカシムジャノフ対ショート戦。ショートがブレイヤー定跡からナイトを捨ててd5の白ポーンを取る新構想。カシミジャノフもナイトを捨て返して、しんどいねじり合いに入ってます。チュッキーよりもショートにギャラリーが集まってるのが、いかにもICCかな。ショートはよくICCの観戦に、不快な質問や揶揄にもめげず、顔を出してくれるんです。d5ポーンを取ったから、中央ではショート有利、そのままd筋を突破できるかどうか。
03/10/10
 北条秀司「王将」は「坂田三吉の実像を伝えてない」ということで、最近は人気が悪い。ためしに読んでみた。私は「作者は坂田のことを調べて書いているな」と思う。岡本嗣郎も述べているが、いわゆる"坂田の実像"を知る人は晩年の坂田を知っているだけである。若い頃の坂田は「王将」の姿に近い面も多かったのでは。
 作品として「王将」はどうなのか。三幕あるうちの第一幕は傑作だと思う。関西人の遠慮ない会話の様子が活写されていて、とても楽しい。
03/10/09
 三吉が生前に名人にしてもらえなかったことは部落差別の一例なんだろうか。それを認めた発言も否定した発言も私は知らない。
03/10/08
 坂田三吉は大正時代最強の棋士である。名言「銀が泣いとる」や、南禅寺の端歩、劇や演歌の「王将」等々エピソードには事欠かない。
 畏友の調べによると、三吉は周囲から差別に遭ってきた部落の出身だという。思ってもみなかったことで、先日、彼の郷里にある人権センターに行ってきた。ここの歴史資料館には、長い差別の歴史を生き抜いてきたこの地域の展示があって、そのなかに三吉に関する資料もあった。彼の履物を見た。私も話に聞いたことがある、彼の好んだ「畳の張ってある雪駄」だ。でかい足だった。小柄な人なんだが。
 三吉には履物に関する逸話がいくつかある。で、この資料館を見て知ったのだが、履物の製造や直しは、郷里の人たちの重要な収入源だったのだ。思うに、三吉は故郷で作られた雪駄を履き続けていたのではなかろうか。
03/10/07
 まだ10月も初旬だけど、もう一年を振り返る気分になっていて、というのも、「もめごとばっかだったなあ」と。年初めは、畏友と「今年は燃えるねえ」と言ってたのに、世界王座統一戦のマッチは一つも実現しなかった。03/05/31でちょっと触れたグレクも、棋士よりは組合の闘士になることを選んだようだ。クラムニクはレコ戦に関してFIDEの世話にはならん、と声明してる(しかし、君に何が出来る?)。アナンドは11月の世界選手権に文句を言ってる。参加しないかもしれない。本欄初の泣き言だが、「こんな年、早く終わってほしい」。
 先日、マン島の大会が終わったが、この美しい島も世界の一部であることに変わりなかった。一番のスターはショート。初日の対局相手が現れず、彼は不戦勝だと思っていた。が、大会運営者が、似たような事情で手持ち無沙汰になってる弱い選手を見つけてきて、「この人と戦いなさい」。カスパロフに挑戦したことのある男に対して、馬鹿にしているにも程がある(しかも規定に反してないんだと)。ショートは島を引き払ってしまった。
 思うに、谷川や羽生は腸が煮えくり返ることがあっても、我慢して座布団に座るんだろうなあ。将棋指しは偉いです。大きなもめごとは坂田の名人僭称、二派分裂騒動、升田の陣屋事件、名人戦移籍問題だけですものね。
03/10/06
 欧州クラブ選手権はNAOが優勝。昨年の恥をそそいだわけですが、優勝しないと恥、というのもすごい。チェスのレアル・マドリード。
 私の印象に残ったのはカスパロフの勝ちっぷりとポカの対照。昨年のロシア対世界戦あたりから衰えがはっきりしていても、強いことに変わりは無い。が、肝心なところで歴史的なポカが出るのだ、と、幻のポノマリョフ戦を占った私である。今大会もそんな感じか。
 内藤国雄が「大山康晴の将棋はすでに余韻だ」と言ったことがある。大名人を冒涜した発言ではない。続く一言に真意があった、「余韻といっても、希代の名鐘だから響きがやまん」。たしか大山が五十前後の頃だから、以後20年も鳴り続けたことになる。
 結論、私にわかる話ではなさそうです。
03/10/05
 カスパロフを破ったのはHuzman。カスパのポカをポカと見極め、ズバっと決めた22手の勝利。この局面はきっと二年後に私が巻頭問題で使うことでしょう。Chess Todayによると、たしかにHuzmanは我々一般のファンにはなじみの無い名前ですが、長年、ゲルファンドのセコンドを務めてきた人で、プロの間では評価されている、とのこと。
03/10/04 紹介棋譜参照
 5R、Ladya-KazanとNAOの上位直接対決は1勝1敗2分。もっとも、私には好きなクラブも無いので、とにかく好局があればいい、という楽しみ方です。ここでは、カスパロフとグリシュクの大将戦が素晴らしい。カスパロフ、対局不足の欲求不満を爆発させて勝ちまくってます。これを紹介棋譜に。
 もう一局、コステニュクからも紹介棋譜を。駒の動きが目まぐるしく、生き生きしていて楽しめます。
 それにしても、現地のスタッフが悪いのか、環境が整ってないのか、実況がぜんぜん駄目。棋譜が届いても情報が不正確だし。えっ、いま6Rの速報を見たら、聞いたことも無い人にカスパロフが負けている。ほんとかね、と眉唾気味に思うのですが、「はい、ほんとです」と書き足してある(笑)。
03/10/02 紹介棋譜参照
 3Rの結果。カスパロフは勝ち。モロゼビッチは引き分け。本日、4Rの観戦はなんかパッとしません。棋譜の送信も正確さを欠いている様子。
 ぜんぜん違う話をしましょう。Informant87が届いています。好局ベスト10の質が高い。一位はイスラエル選手権から。サトフスキーがスミリンを破って、一時単独トップに立った一局。最後はスミリンが抜き返して優勝したんですが、サトフスキーの猛攻は本巻で報われました。最近、紹介棋譜が無いので、これを。
03/10/01
 欧州クラブ選手権、さっきまで3Rを観戦してたところ。面白い。カスパロフが格下の棋士に手を焼いてます。また、いつもモロゼビッチの話ばかりしてますが、相手がドレーエフとなれば注目せざるを得ません。やっぱり激戦で、しかも技を掛けたのはドレーエフでした。これでモロゼビッチが悪そうですが、返し技を決めて粘る、いい試合です。が、そこで指し手の送信が途絶えてしまいました。仕方ない、今日はこれで寝ますが、、、気になる、寝られるかな。
 図は2Rから、シロフ対ヴォルコフ、8.h4まで。私などにはc3のナイトが気になりますが、黒は8...h5。そこでシロフはやってくれました、9.hxg5!好調みたい。彼も要チェックですね。因縁のカスパロフ戦は組まれるでしょうか。
03/09/30
 欧州クラブ選手権、いつものようにICCで観戦しようと思ったら、1Rも2Rもライブ中継が出来てなくて拍子抜け。たぶん公式サイトも駄目でしょう。こういう時はじたばたせずにChess Today配信のPGN棋譜を待ちます。
訂正
 ひどい記憶間違いでした。ルブレフスキーの活躍で優勝したのは一昨年で、クラブはNorilsky Nikel。彼、クラブを変わったんかな。今年のNorilsky Nikelはドレーエフが主将。昨年の優勝はBosna Sarajevo。今年もシロフとバレーエフを擁して強いです。また、昨年、期待はずれのNAOは「やっぱ団体戦は面子より団結だね」と言われてしまいましたが、グリシュク、スビドレル、アダムズを揃えて今年はどうか。
03/09/28
 ヨーロッパのクラブ選手権が始まります。昨年はLadia Kazanが優勝。主将ルブレフスキーの活躍が印象的でした。しかし、今年は副将に格下げ。なぜって、カスパロフが主将だからです。
03/09/27
 私の機械が壊れたことはお話ししたとおりです。新機に買い替え、ついでにChess Baseも、8.0のMEGA Pacageにした話もしました。これら、膨大なハードディスク、PentiumWの速さ、8.0の機能が合わさると、怖いくらいの威力が発揮されます。実際、あんまり便利になるのも怖いので、付属のEndgame Turboはまだインストールしてないほど。機械が壊れて、失われた私の仕事のデータの損失も大きいのですが、「チェスの検索が便利になって良かったなあ」というのが本音です(内緒です)。
 MEGA Pacageは棋譜が通常のChess Baseより大量で、解説も付いているのが特徴ですが、特に通信戦の棋譜がたくさん手に入るのがうれしい。さっそく検索したのは「Onoda Hirokaz」と「Sakai Kiyotaka」。もちろん何局も検索されます。ただ、前者の国籍が「不明」、後者は「USA」。何か事情はあるんでしょうね。
03/09/26
 New In Chessの03/05号から。フィラデルフィアの羽生善治もちらっと出てきますが、無論、ボロガンのドルトムント優勝が一番の記事。続くのは、エスビヤオとコペンハーゲンで連続優勝したサシキランの活躍。何度か私も触れた12歳のカールセンは後者に出場してましたね。当地ではかなり注目されたようです。
 それら以上に表紙で目立ったのがJokulsson氏の奮闘ぶり。03/05/13の「アイルランドの植林事業」を御記憶でしょうか、あの人です。彼の名言「チェスが無いのはさびしい土地だ」。というわけで、人口密度0.2人のグリーンランドで史上初めての国際大会を開いてしまいました。参加棋士も申し分ない立派な大会です。「Fiske記念大会」という名称も渋いね。Go Go Jokulsson!
03/09/25
 Chess Todayの紹介ばかりしても仕方ないけど、スヴィドレルのインタヴューもあって、これがこないだの話と関連するので。ロシア選手権、彼は最終局が終わっても、自分が優勝したとは思えなかったそうだ。Buchholtz法の得点を計算してなかったから。
03/09/23
 昨日の「若者」よりはスミスロフに私は高貴さを感じるが、本当は比較しようが無い問題である。ただ、次の指摘はしておきたい。
 火薬(銃器)の発明について、ヘーゲルが『歴史哲学講義』で興味深いことを述べている。「どんなに勇気のある貴族でも、遠くの片隅にいる卑劣漢の一発でたおされてしまう」、つまり、火薬は「階級の上下をなくす主要な手段となりました」(長谷川宏訳)。似たようなことがチェス・コンピューターに言えはしないか。
 コンピュータを使うネット棋士は今は"卑劣漢"である。だが、ボトビニクはすでにこんな予言をしていたらしい、スミスロフの回想から引用すると、「最高の棋士は最高の機械を持つ者だろう」。
03/09/22
 コンピュータによって「局面の分析」という用語は意味が変わってしまった。パラダイム転換期の特徴である。世代間で言葉が通じなくなる。マウスをカチカチさせている私にラスカーが尋ねる、「君は何をしているのかね?」、私の答は「局面の分析です」。ラスカーは賢い人だから、きっと科学の進歩を瞬時に理解してくれる。でも、皮肉を利かせて言うだろう、「分析しとるのは機械だろ。君は何をしているんだ」。ここで私なら恥を知るが、もっと若い世代は「これが今の分析です、局面によってはあなたより正確に分析します」と平然と言ってのけるだろう。それを聞いてもラスカーは納得できず、「いや、"君"は何をしとるんだ」を繰り返す。対して若者は、この老人が知りたいことは"何"なのか、わけがわからなくなってしまう。スミスロフの談話を読んで、そんな寸劇が思い浮かんだ。
03/09/21
 スミスロフの素晴らしいインタビューの話をもっと。大筋はチェスを「神的な面」と「悪魔的な面」に分けて進むのだが、それはとても紹介できるものではない。コンピュータ・チェスへの憂慮についての部分を簡単に。
 「コンピュータによる解析で正着の発見は容易になった。過去の名局に傷も見つけてくれる。が、機械の示したそんな正着より、名局が表現している人間の創造性の方に目を向けてほしい。機械の計算には、チェスが人間同士の戦いであることが考慮されていない。チェスは感情を持った人間の競技だ、これはとても大事な要素なのに。」
 要約したら聞きなれた主張に落ち着いてしまった感がある。せめて一句だけでも、彼の語り口をそのままご覧にいれたい。持ち時間が短くなってゆく傾向を批判して、「棋士の姿、それは大いなる静寂の内にあり、覆いかぶさるようにして盤を見つめるインドの賢者だ。決して、せわしなく駒をかき回している人間ではない」。
03/09/20
 ChessTodayはロシア語の情報に強く、そして、紙名に反して"ChessYesterday"も大切にしてくれるのが良い。スミスロフの近況を伝えるロシア語インタヴューを訳して載せてくれた。第七代世界王座も82歳、目がほとんど見えなくなったものの、問題の作図は続けているらしい。話題はコンピュータの弊害が中心。回想では、1983年のヒュブナーとのマッチが面白かった。そう、還暦を過ぎた彼が決勝まで勝ち進んだ王座挑戦者決定戦、その準々決勝である。
 あの時は14戦して互いに1勝、まったくの五分で終わってしまった。事典にはすべて「"a roulette wheel"で決着した」と書いてあって、前から私は「まさかこれって、あのルーレットのこと?」と悩んでいた。ついに判明、ほんとにカジノに行ってルーレットしたのだ。そして、事典の間違いもわかった。"a"という不定冠詞の表現は不正確だと思う。金の玉が赤い数字に落ちるか、黒い数字に落ちるかで決めようとしたところ、なんと、玉はどちらでもないゼロで止まったのだから!第二投でスミスロフの準決勝進出が決まったのである。
03/09/19
 『パサージュ論』の「人形、からくり」は「トルコ人」の話題ではありませんでした。ちょっとがっかり。
 ほか買った本を言うとYakovich"The Complete Sveshnikov Sicilian"(Gambit,2002)。最近のSicilianはSveshnikovが重要なので。それに著者がYakovichというのが信頼できそうではないか。定跡書選びは、知らない著者が多いし、有名な人でも中身はInformantの丸写しというのがよくあって、上手に買うのが難しい。
03/09/18
 最後に、ごくあたりまえの「勝ちは1点、負けは0点、引き分けは半点」についてちょっと。19世紀には引き分けを戦績に数えない場合も多かった。代表的な大会では、1862年のロンドン、1883年のロンドンがそうで、どちらかが勝つまで対局が繰り返されたのである。引き分けも正当な試合結果だと認められるまでには時間が必要だったわけだ。
 変わった計算方法もあって、有名なのは1901年と02年のモンテカルロ大会だ。勝ちは1点、負けは0点なのだが、引き分けになったら一回だけ再試合をした。再試合も引き分けなら0.5点になる。面白いのは再試合で勝負が着いた場合で、勝った方は0.75点、負けても0.25点がもらえたことだ。
03/09/17
 スイス式の得点計算はお終いにして、Sonneborn-Berger法に入ろう。三人の総当り戦を考える。A君対B君はA君の勝ち、A君対C君はドロー、B君対C君はB君の勝ち、の場合。すると、通常の得点はA君は1.5、B君は1.0、C君は0.5。これをSonneborn-Berger法にすると、計算法はすでに述べたとおりで、A君は1.25、B君は0.5、C君は0.75だ。B君の一勝よりも、C君のドローの方が評価されてしまうことがわかる。
 これだけなら、難しくはない。しかし、いま述べた計算は厳密には1882年発表のNeustadtl法なのだ(Svensson法と言う人もいる)。実際のSonneborn-Berger法は、むしろNeustadtl法に対抗して考案された計算法で、もっとややこしい(1886年)。成績を試合数で割って二乗して、それをGelbfuhs法(もう説明は省きます)の得点に加えるのである。複雑すぎて、これを採用した大会は無いそうだ。この他にはCoons法というのがあって、、、。
 ある程度知ってることを調べ直して書けば良いくらいに思っていたのだが、どうも大変な話題らしい。私の一番の誤りは、もともとこれらの計算法は参加者全員を順位付けるために考案された、とは知らなかったことだ。私は、タイブレークに応用されるだけ、つまり、同点者が出た場合だけに使われる補助的な計算法だ、と思っていたのである。タイブレークに関しては慣例を尊重し、今後は私も「Buchholtz法」「Sonneborn-Berger法」の呼称を使おう。
03/09/16
 Solkoff法より歴史が古いのがBuchholtz法(Bucholtzとも)。始まりは1932年らしい。これは、Solkoff法の得点に、通常の得点を掛けたもの。昨日の例なら、A君は1x2で2点、B君は0点。利点は自分の得点が計算に加味されることだが、タイブレーク計算だけに使うならSolkoff法と同じ順位が着く。両者の混用はそのあたりに由来するのだろう。
 Solkoff法をひとひねりしたHarkness法(Median法)もあるが、それより、次の計算法が有名だ。勝ち、負け、の順でA君が1点獲得したとする。この場合、一回戦終了時の成績は1点、二回戦終了時でも1点であるが、それらを合計して2点とするのである。たとえば、B君が同じ1点でも、負け、勝ち、の順なら合計1点。A君が上位者になる。杜撰なようで理に適っている計算だ。スイス式の大会では、一回戦の成績から推理すれば、二回戦は、A君が強い相手と当たり、B君は弱い相手と当たっているはずだから。
03/09/15
 タイブレークの考え方は「同じ成績の者同士は、より強い相手に勝った方、より強い相手と 引き分けた方、より強い相手と対戦した方、を上位とする」。
 スイス式の大会の基本的なタイブレークの得点計算はSolkoff法。対戦者の総得点で比較する。たとえば、2勝0敗で計2点獲得した、A君とB君の例で。A君の対戦相手は、1勝1敗で1点獲得の人と、0勝2敗で0点の人だった。対して、B君の対戦相手は二人とも0点の人だった。この場合、Solkoff法だと、A君は1点、B君は0点、ゆえにA君が上位、ということになる。たしかに一理ある判定法だ。
 1949年、自分の成績にがっかりしたSolkoff氏が「公平な得点計算をしてくれれば俺はもっと上位だったはずだ」と思いついたらしい。
03/09/14
 首位者が複数のままで大会が終わると、結果がわかりにくい。賞金の分配はどうか、同点優勝なのか、プレーオフの決戦があるのか、それともタイブレークの判定になるのか。はっきりしない情報も多く、今年のエスビヤオは同点優勝だったとわかるまで、ずいぶん手間がかかってしまった。
 さらにタイブレークの場合、どんな方式が採用されるかまで把握しなければならない。わりとあるのは、勝ち星の多い者が上位者になる場合。今年はリナレスがそうだった。これで決まるなら、私はこれが好きだ。勝ち星が同じなら、直接対決で勝った者を上にする。直接対決が引き分けだったら、そのとき黒番だった方を優先させる。Sonneborn-Berger法という計算方法もある。倒した相手の得点、および、引き分けた相手の得点の二分の一、これらの総合計を比べるものだ。
 では、今年のロシア選手権は?こうした、総当たり戦でない大会、つまりスイス式の場合、また別の計算方法が採用される。今回は最も一般的なSolkoff法だ。The Week In ChessにはBuchholtz法と書いてあるが、間違いではないか。こんな細かい話が好きな人って多いので、ちょっと続けてみます。
 ところで、今日付のChess Todayに渡辺暁の質問が採り上げられている。ドルトムント大会の一局面に関するもので、レベルも高く、嬉しい。

戎棋夷説