紹介棋譜 別ウィンドウにて。
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カールセンの初手柄、シュヴァリエ・デオン、ボビーの本が出た。

04/02/06 
 畏友はFischer本を読了。かなり満ち足りた読後感の様子。「『エースをねらえ!』以来の、、、」とわけのわからんことを言っている。さて、後はどこが翻訳してくれるかだ。畏友が読んだのはFaber and Faber社の。ほかにHarpercollins社のもあって、微妙に編集が異なるかもしれない。後者はカセットブックも出す模様。
 私は『ビッグ4』を読了。問題の第11章はルイ・ロペスを知ってると面白い。1927年の本だが、「ルビンシュタインを破って、数年前にロシアのチャンピオンになった」という棋士が登場する。
04/02/05 
 初めて新局追加の更新目標期日を守れませんでした。実は先週のRubinsteinの名局を理解するのに精魂尽き果てて、後が続けられなかったんです。棋力の低さがたたりました。あれを気楽に書いてるように皆さんが読んでくださったら、私の成功なんですが。そんなわけで、来週の更新もお休みを頂きます。
 フィッシャーが対局拒否して、1972年レイキャビクの第2局を失ったのは有名な話。で、畏友からメール。"Bobby Fischer Goes to War"がここを描いてるのは当然ながら、さらに「大統領の陰謀」にも言及してるのだという。ウォーターゲート事件を執拗に追う新聞記者の有名な映画ですね。そのワンシーンに、第2局不戦敗のラジオニュースが流れるんですと。たまたま昨夜、放送があったので確認。音が小さくて聞き取れなかったんですが、たしかにチェスの世界王座戦のニュースでした。
04/02/03
 昨日ふれた若島掲示板には、クリスティー『ビッグ4』の原書にチェスが出てくる、という話も書かれていた。ハヤカワ文庫ではどうかな、と見ると11章が「チェスの問題」。ルイ・ロペスが「堅実な指し手」と言われている。とりあえず買って一章を読んだ。ポアロとヘイスティングスの交歓風景から一気に事件に突っ込んでゆくあたり、さすがの筆力である。
 畏友はFischer本をもう12章まで読んだようで、このスピードから察するに、きっと面白くて読みやすいんだろう。さて、今日の本題に入る。彼の調査報告を。真相を突き止めた。コステニュクはGarcesなる男と結婚している。マネージャーらしい。わたし、明日は休む。いえ、別に、気にしてません。ぜんぜん、ね。
04/02/02
 "Bobby Fischer Goes to War"は1972年のレイキャビクに焦点を合わせた本で、そこに至るまでの、フィッシャーだけでなくスパスキーも描いてる。この点も前著と似た構成のようだ。同じ題材の本としては、文芸評論で知られるスタイナーの『白夜のチェス戦争』が懐かしい。20年も前のことである。何度も読んだ。言及される棋士や棋書や棋譜を知りたいのに調べ方がわからず、つらかった。今のような時代が来ることを知らなかった。
 やった。若島正『乱視読者の英米短篇講義』が読売文学賞に。この賞はハズレが少なくって信用している。さっそく氏の掲示板へ駆けつけてお祝いを申しあげた。すると、レスを頂いて、なんと、本欄をよく御覧いただいているらしい。叫びたい、わああああああっ!"Bobby Fischer Goes to War"については「買うべきかどうか、迷っています」とのこと。
04/02/01
 畏友よ、私は気が付いたぞ。チェスの神は女だ、コステニュクとの結婚は無理だ。君の動揺は大きいらしい。しかし、君の新説は検討に値する。「『サーシャ、僕たちのことを明かしてはダメだよ!』と気をもんでいる奴が居る」とはなるほど。コーチだろうか。今なら「pakistan, kosteniuk, chess, married」で検索すれば、問題のインタヴューを見つけることができるので、興味を持たれた方はどうぞ。おお、私が勘違いしてるんでしたらぜひ正してください。
 畏友はすでに"Bobby Fischer Goes to War"を読み始めている。書評もいろいろ集めてくれた。私はヴィトゲンシュタインにはかなりうるさい。前作を読んだ限りで著者たちを評価すると、ヴィトゲンシュタインに関する新事実や個性的な解釈を披露してくれるタイプではなかった。その代わり、とても面白く読ませてくれるのだ。昨年の読書の一位に推した所以である。畏友の現段階での話を総合すると、似たようなことがフィッシャー本にも当てはまりそうだ。
 将棋思録は膨大で本格的な四間飛車研究ページのほんの一部なんですね。「わかり合えそう」なんて私が書いたのは、いささか失礼のようです。四年早いぜ、つう感じ。
04/01/31
 将棋版の戎棋夷説を見つけてしまった。その名も将棋思録で、ネーミングの趣味も同じ。どんな気持ちで書き続けてるのか、わかり合えそうな部分がある。というか、私の方が後続だから、正確には本欄がチェス版の将棋思録である。
 昨日のコステニク情報は畏友をも驚かせたようで、「えーっ、チェスの神様と結婚してる、とか?」。彼女、エリザベス一世みたいなことを言ってるのかなあ。なら、望みを捨てずにおきます。
 ところで、まったくうかつな話。チェスと関係ない話をするつもりで、私は先月13日の本欄でエドモンズとエーディナウの共著を御紹介したのです。で、ぼけっとしてたら、畏友に突付かれてびっくり。"Bobby Fischer Goes to War"が彼らの新作じゃありませんか。
04/01/30
 最近のChessTodayからの話。コステニュクのインタヴューが紹介されていた。「将来、結婚して子供が出来たらチェスを教えるかい」という、つまらない質問の答えはこう始まった、「I'm already married」。英語、わかりたくありません。
 昨年、Dannemannというスイスのたばこ会社が、このコステニュクとカルヤキンのマッチを組んでくれたことがあった。そして、この会社がクラムニクとレコとのマッチのスポンサーになってくれる、というニュースが飛び込んできた。九月から十月にかけて全14局の予定。実現すれば4年ぶりのタイトル・マッチということになる。実現すれば。
04/01/29
 デオンは優れた諜報員であっただけでなく、剣の達人としても知られていた。女装を命ぜられた以後58歳になっても、ロンドン最強の剣士を倒して喝采を浴びている。足に重いスカートがまとわりつくだけでも不利なはずなのに圧勝だった。
 チェスの事典でデオンの名を引くことが出来るのは、彼がチェスも得意だったからだ。収入が無くなればカフェに出かけ、そこで金を賭けて勝負する。これで食っていた時期もあった。残念ながらデオンの棋譜は残っていない。フィリドールとも指しているのだが。
 最後に。デオンの性別が本当はどっちなのか、当時の人には謎だった。死後、股間が調査され、きわめて明瞭に男性であることが確認された。
04/01/28
 デオンはフランス人。1728年から1810年まで、革命を含む動乱の時代を生きた。竜騎兵の連隊長で、若い頃は美男だった。ルイ15世のスパイとしてロシア外交の裏舞台で活躍したのだが、その際、機密に近づくのを有利にするため女性を装ったのである。見事な女っぷりで、『フィガロの結婚』の原作者ボーマルシェなどは求婚したほど。デオンの数奇な生涯は、仮の仕事着のはずだった女装で晩年を過ごす羽目になったことだ。政争で追い詰められたあげく、48歳、身の安全を保障してもらう代わりに、ルイ16世から、か弱い女性の姿で生きるよう命ぜられたのである。実際、その方が楽な面もあり、デオン自身も自分が女性であることを「告白」している。「貴族の家に男が生まれず、父は仕方なく娘を世継ぎの男子として育てることにしたのです」という、どっかで聞いた話の原型である。
04/01/27
 ニュートンに言及してしまった以上、わが神(メイプルソープ様)も一枚載せたいのだが、どう考えても「ちがうサイト」になってしまうので必死にこらえた。二人ともチェスを使っていそうで、たぶん無いのでは。御存知の方がいらしたら御一報を。チェスが有りそうで無いといえば、「モンティパイソン」全45話にも無い。軽いセリフで一回、口走った程度である訂正08/04/06。どんどん話がそれるが、畏友が見つけた外国のコントを。テーブルに向き合う二人のロシア人が、かわりばんこに猛烈なビンタをお見舞いしている。シュールな光景だが、これ、タイムトラブルで時計を叩き合ってる棋士のパロディなんだそうだ。
 ニュートンついでに今月の非チェス話も、昨年の物故者から一人選ぼうか。窪田般彌を。77歳だった。22日が一周忌である。カザノヴァやフランス現代詩の翻訳で有名だが、何より私には大好きな詩人だった。ああ、そう言えば彼にはチェスに関係しないではない本が一冊あった。『女装の剣士シュヴァリエ・デオンの生涯』がそれだ。
04/01/26
 最終日、真っ先にアナンドがドロー。ややあってアダムズもドロー。長引いたのがクラムニク対レコだった。図はクラムニクが55.f5で決めに出たところ(ChessTodayによると、55.Ra8+から56.Rh8という手もあった)。対してレコの55...Rd4+が面白い。そこで56.Kb3だったらどうだろう、と思うのだが、クラムは同一手順を繰り返して悩んだ後、56.Kxd4.Bb6+で以下、色違いビショップのドローに落ち着いていった。かくてアナンドの単独優勝。
 B組はナカムラが、優勝目前だった首位者をスコッチ・ギャンビットで引きずり下ろしてしまった。被害者が可哀想だが、最終日に頑張ったヒカルの四位を我々は称えたい。C組のカールセンは攻め込んだものの無理せずドローで単独優勝。大人の階段?
 次のお楽しみは来月下旬のリナレス。アナンドは出そうに無いが、カスパロフが来るはず。
04/01/25 紹介棋譜参照
 ヴェイカンゼー。最終日前日だけに大きな動きがあった。トパロフ対アナンド。トパロフは結構アナンドに勝っている。しかし今場所はそんなこと関係ないだろう、と思っていた。アナンドが、弱いポーンをあっさり見限って駒損。変な感じだったが、私はアナンドの好調を信じきってるので、感心して見ていた。が、トパロフはこの駒差を持続して勝ちきってしまったのである。半点差の二位がレコとアダムズ。最終日はみんなドローと思うが、とことん予想が外れてるので黙っておこう。クラムニクはまた負けた。つぎ、頑張って。
 それよりみなさん!C組のカールセンです。首位同士の最終決戦。彼が白でカロカンのクラシカルになったとき、私の感じるカールセンの棋風からして直観的に「あ、勝ったかも」。が、勝った「かも」どころじゃない圧倒的な猛攻撃が始まりました。「爆勝ち」という言葉があれば、この一局に奉りたい。紹介棋譜を見てやってください。13歳が優勝を決めました。
04/01/24 紹介棋譜参照
 B組にはヒカル・ナカムラが居る。私は彼のことを、普通のアメリカ人と思ってるから、さほどの思い入れは無い。でも勝てばやっぱりうれしいです。図は白ティヴャコフがポーンを取って53.Bxg7としたところ。そして黒ヒカルの返し技が53...Qxg3+!。よく頑張ってくれた一局なので紹介棋譜にしましょう。A組はアナンドがまた当然のように快勝。相手はティマン、彼には悪いが、駒組みがほぼ仕上がる頃から、アナンドの技が決まるのを確信して待っていた。これも紹介棋譜に。アダムズも見た。白ボロガンに対し、ポカだか読み筋だかよくわからない捨駒で引き分け。
 チェスとは関係ないが23日、ヘルムート・ニュートンが死んでしまった。83歳、事故死というのが残念である。彼らしい一枚をここに載せて追悼したい。1981年の「They are coming」を。本当は二枚でワンセットで、そこがカッコ良いのだが、片方しか見つからなかった。
04/01/23
 アダムズが白番でアナンドと対戦。しかし18手でドロー。準優勝を望んでるようだ。ガツガツしないのがアダムズの美点でもあり、仕方ない。私は彼が好きだ。残り3戦。対戦相手を見ると、アナンドの単独優勝は確実である。C組はカールセンが再び首位に並んだ。
04/01/22
 ヴェイカンゼーは14人が9戦して、一位アナンド、レコとアダムズが一点差で続く、という状態。アダムズが大健闘ですが、「私の優勝候補たち」は何としたこと。おまけに「未来の世界チャンピオン」まで負けてしまい、私に恥をかかせる始末。でも楽しい大会だ。
 こうして私が「歴史の証言」を綴っている間も、畏友と二人でムダ話のネタを仕込んでおります。1927年のこと。中国の広東省で「第一回全省象棋大会」が開かれた。決勝は黄松軒と蘆輝。ともに偉大な棋士だったらしく、また、こんな決戦は当時無かったようで、大変な話題になった。面白いのはここからで、好奇の大群衆を満足させるため、勝負は「人棋」にした。つまり日本の天童市などで有名な「人間将棋」方式で局面を公開したのだ。黄松軒と蘆輝も別室で対戦するのではなく、それぞれ実際に人棋会場の台に登り、将軍のように号令をかけて駒を動かしたという。二勝一敗で若い黄松軒が勝ったとのことだが、私は場内の熱狂を想像して陶然となった。追記「1931年のこと」が正しいようです。
04/01/21
 第9R。クラムニク対アナンドは黒が鮮やかにドロー。いま世界で一番強いのはアナンドである、とようやく納得。昨年のドルトムントの前半の不調は何だったんだろう。4月の世界選手権には気分良く出て欲しいなあ。君までが「おもちゃと戦うから不参加です」なんて言い出したら許さんよ。
 六日に御紹介した「世紀の大傑作」、ちょっぴし答えを見てしまいました。「0-0-0」を使うらしい。「え?」と思ったが、すぐ「そっか!」、くそ。白の手順だけはどうにか確定できました。問題は黒ですよね。
04/01/20 紹介棋譜参照
 バレーエフに元気が無い。一昨年の優勝者とは思えないポカが目立つ。第8Rはアナンドの餌食になった。クラムニクはアダムズに負け。解せぬ。次が彼の白番でアナンド戦だが、つらいなあ。かくて、私の予想は外れそう。かつて初めてクラムの国際デヴューの棋譜を見て、一目で「カスパロフを破るのは彼だ」と見抜いた私なのに。
 実は、あの時のざわざわっという予感が、10年ぶりくらいに湧いてます。カールセンです。また勝ちました。ちょうど本欄が始まった頃が彼の本格的なデヴューと重なるのも縁ですね。彼が世界チャンピオンになった時に私も最終回、なんてことが出来たらカッコいいけど、あと7、8年?
 紹介棋譜はアナンドとカールセン。前者の攻めは私にも見えたけど、それは勝ち切れないと思ってしまいました。後者は途中、詰みを逃しています。でもなかなかですよ、優勝してほしい。
04/01/19 紹介棋譜参照
 第7R。みなさーん。左の図を見てください。チャン対アナンド、黒になったつもりで次の一手を考えてください。でも当るわけありません、23...Ke8です。ICCのギャラリーは「アナンドは"0-0"したいんだ」。紹介棋譜を見ていただきたいですが、ここからさらに、Qc7-c6-a6、そして、Nd8-c6。誰もまだ意味がわかりません。が、28...Kd8!を見て騒然となりました。「ルックを繋ぎたいんだ!」、ええ、つまりKc7からRbg8。アナンド驚異の大構想、まあレトロ問題の正解手順みたいです。チャンも呆然としたでしょう。惚けた手順を続けて投了。かくて混戦に単独トップが誕生しました。
 C組にも単独トップが。直接対決を制したカールセンです。猛攻を受けてしまったので、私はハラハラして見ていたのですが、無理せずしのいでくれました。これも紹介棋譜に。まだじゅうちゃんちゃいの子供でちゅよ。
04/01/18 
 ヴェイカンゼー第6R。アナンド対シロフはペトロフに。アナンドに極めて勝率の悪いシロフはあきらかにドロー狙いだったが、甲斐なく56手で投了。クラムニクはチャンに対して初手Nf3。確実に勝てる相手には手馴れた序盤で勝っておこう、というわけか。昨年のドルトムントのナイディッシュ戦がそんな感じだった。あの時はドローだったが、今回もぐちゅぐちゅと駒を出し入れしながら、敵陣に隙が出来るのを待つ。そして予定通りに技を決めた。追記ChessTodayの分析では、最後にチャンが引き分けを逃したらしい。
04/01/17 
 期待してる人が居なくても、月に一回はAmazonチェックです。
 一位はなんとPoe『Maelzel's Chess-Player』。ダウンロードで手に入る気楽さと、211円という安さが魅力か。本欄の読者には説明不要ですね。「03/08/30」あたりをご覧ください。
 二位はPsakhis『French Defence 3.Nc3 Bb4』。著者が1992年に出した『The Complete French』も詳しい本だったけど、最近の彼はこれを数巻に増殖させた"French大全"の大事業に乗り出してます。その三冊目がこれ。Amazonには「3.Nc3」とありますが正確には「3.Nc3 Bb4」です。御注意を。昨年のロシア選手権で私が触れた6...Qa5!?の一局(03/09/11)も言及されてます。この変化だけで9ページもある。他の部分は一層ぎっちりと、前著より字も細かくなって。最近、こんなスタイルの定跡書は流行らなくなりました。"正解手順を丸暗記するための本"、という誤解を受けてるんだと思います。むしろ、"自分で考える材料"ですよね。
 三位は『Garry Kasparov on My Great Predecessors』、第一巻です。いろんなインタヴューを見ると、著者は全六巻の構想を固めたみたい、「一生の仕事だよ」。
04/01/16 紹介棋譜参照
 カールセンは4連勝。それでもまだ単独首位ではないので、これからが大変か。今のところ棋譜からは段違いの力を感じる。彼と引き分けたラーノもなかなかだったんですね。
 A組はスヴィドレル−アナンドがRuyのOpen-Defence。黒アナンドが有りそうで珍しい形。調べると、1991年に彼がポルガーに負けたのと同じだった。今回は改良したつもりなんだろうけど、やっぱり悪くって黒1Pダウン。この差のまま40手までスヴィドレルも秘術を尽くし、クィーン・エンディングへ。最後は80手でドローですが、このあたり勉強になりました。「ふーん、不利な時はこうやって粘るのかあ」。紹介棋譜にします。早く自分も不利になって試したい気分です。ところで、思うところあって、私個人のデータ・ベースで調べると、案の定の結果が出ました。勝局のうち、50手以上かけたものがアナンドは24.4%。スヴィドレルはわずか18.3%。意味わかりますね。
 優勝争いに大きな変化なし。14人も居て、首位から最下位までわずか一点差。
04/01/15 
 私はびっくりするとすぐ絶叫してしまうたちだ。4Rは三回も「ええっ!」。まず一回目はクラムニク−スヴィドレル戦。左の局面になった。まあ8.Nb3か、と思ってると8.Qd2!、「ええっ!」。フィッシャー・ファンなら御存知の「あれ」ではないか、と興奮した。カッコいい割に白の勝率は悪い。クラムに新手の用意があるのか。が、スヴィドレルは8...Nc6。見せてよ8...Qxb2。ところがこの日、カールセンも8.Qd2を指していたのだ、二度目の「ええっ!」。こっちの相手はb2の毒饅頭を食ってくれた。しかし、勝利は天才少年。乱戦の最中にKh1なんて指す余裕を見せて、三連勝である。ちなみに実はヒカルも暮れに8.Qd2を指した。まさか流行りはすまいと思うけど。
 さて、クラムニク。補色ビショップの、引き分けムード漂う終盤になったが、彼は考え続けた。じりじりと駒を押し上げる。ICCのギャラリーは安易に「これはドローだよ」を連発する傾向があるが、そのうち、ナタフやスピールマンまで一緒になって「ドローだよ」。それだけに、クラムの苦吟は感動的だった。が、三度目の「ええっ!」。突然、スヴィドレルが投了してしまったのである。最初は中継ミスだと思ったほど。局面がドローなのは確からしい。何たること。とにかく、勝ちは勝ち。ついにクラムニクは首位五人の一人に加わった。混戦である。
04/01/14 紹介棋譜参照
 ヴェイカンゼーは第3R。例によってICCで観戦です。この日の解説ボードはドレーエフが担当してくれてた。扱ってるのはボロガン−クラムニク戦。これを見ない手は無い。もう一戦、楽しみにしてたスヴィドレル−バレーエフ戦を画面の左下に置いて、もっぱらクラムニクを応援。しばらくすると左下が動いて、私の潜在意識が「こっちを見ろ!」。おお、スヴィドレルの技が決まった。さらにバレーエフの見落としも続き、たった17手で投了。これを紹介棋譜に。
 一方、ドレーエフはしきりに「黒が良い」と言っている。私の目にはわからない。左の局面、クラムは16...Bxb2でなく16...Nf5。ドレーエフは「最善手よりも自分の棋風に合った手を選ぶのが良いことも多い。Bxb2が正しそうだけれど、Nf5はクラムニクらしい」。が、これ以降、黒の圧力は急に減じた気がする。ほどなく引き分けになった。
04/01/13 紹介棋譜参照
 左の図はヴェイカンゼーではなくって、1895年のヘイスティングス大会。あまりに有名なシュタイニッツ対フォン=バーデレーベン戦の最終手25.Rg7-h7+。以下、大差の駒損か長手数のメイト。紹介棋譜をご覧ください(22手から)。22手や24手で終了としてる本もありますが、問題はこの時のエピソード。最後の手を見たフォン=バーデレーベンは無言で軽い会釈をシュタイニッツに送ると、そのまま会場を立ち去った、というのがイキな伝説。事情のわからぬ会衆にシュタイニッツが「メイトであるよ」と解説して、あらためて喝采を浴びたわけ。
 ところが、ChessCafeのウィンターによると事実じゃない。当時の見物人はうるさかった。彼らにぎゃーぎゃー騒がれるのが嫌で、フォン=バーデレーベンは小声でシュタイニッツに投了を告げた。で、そそくさと会場を後にしたらしい。でもウィンター、君も伝説が好きだろ。
04/01/12
 ヴェイカンゼーはザントフォルトの北ですね。申し訳なし。また訂正。
 第2ラウンド。この日のクラムニクは強かった。ファン=ヴェリー戦。白クラムはまずa筋を確保、相手が無理やり打って出てきたところを、きれいに叩き返した。図がその場面で、決め手は37.Rh8。これは取れない。37...f6に対し、38.Qh6+でなく38.Rxh4だったのも、前日の強引な流れより彼らしかった。他に二局を観戦、スヴィドレルとシロフ。二人とも危なかったけど、ドローを獲得。スヴィドレルの相手はZhang Zhong(章鐘)。昨年のB組優勝者で、あの時は、名のある若手たちを相手に段違いの攻めの強さ見せつけた。
 一方、好調なのはアナンド。前日の金星で意気あがるアコーピアンを早速おしおき。玉頭に迫る敵勢をほとんど気にせず、あっさりと中央突破。C組ではカールセンも一勝を挙げた。白番、フレンチのadvancedで、ポーンをがっちり組み合ってからの、ゆっくりした勝ち方だった。
04/01/11
 ヴェイカンゼー、九日の開会式の様子が伝わってきましたが、スポンサー様が「当分の間は開催を続ける」と確約してくださったとのこと。「来年は無い」って毎年のように聞かされてきましたから、これは朗報。初戦の組み合わせも決まり、C組はいきなりカールセン対ラーノ。男の子の1.e4に女の子はピルツの布陣。いま47手まで。たぶん引き分けでは。
 さてA組。重要なカードもありましたが、初日らしくほとんどがドロー。ただ、アコーピアン対クラムニクが、しかも"優勝候補"の負け。げげ。途中から「クラムは何か功を焦ってるなあ」という感じの流れになって、図はRc8-c7まで。ここで、アコーピアンの29.Rh7が決め手になりました。もし、29...Kxh7なら、白Nxe7+からRh1+。クラムニクが初めてナイドルフを使ったのも気になる。まだ棋風改造中なんですね。いやまあ、これくらいのハンデがあったほうが面白いさ、、、。
 なお、Wijk ann Zeeの発音をChessBaseは"wyke aahn zay"としてますが、私には、これが正しいオランダ語なのか、あるいは、これ以外は誤りなのか、ちょっと判断がつきません。
04/01/10
 開幕までに"Wijk aan Zee"の読みを確定しなきゃ、と思いつつ、とうとう初日になってしまいました。どうも「Wijk(ヴェイク等):地域」、「aan(アーン):接した」、「Zee(ゼー):海」のよう。本欄では「ヴェイカンゼー」で通します。エイヴェのファンには馴染みのザントフォルトの北。たぶん夏の行楽地。ただ、水は冷たくてとても泳げないから日光浴限定。ふう、一日でこれだけ調べるのに実はものすごい苦労をしたんです。杉田玄白先生!
 私の下手な予言では日本の21時30分が第一ラウンドの始まり。Bettsonの賭け率がTWICで紹介されてます。Anand 3.8, Kramnik 4.2, Svidler 11, Leko 12, Topalov 12, Bareev 13, Shirov 13が上位陣。SvidlerとShirovの人気が低すぎる感じ。逆に今のLekoとTopalovに賭ける気はしない。AnandとKramnikはこんなもんでしょう。でも私は敢えてKramnikを本命に据えたいですね。そろそろやってくれるのでは。Morozevichが消えてTopalovが入り、Lekoが調子を落としているあたり、有利に働くはずです。
 いやあ、うれしいなあ。久しぶりの立派な大会です。いつかきっとこんな日が来るって信じていました。やっぱ神様は居るんですねえ。なお、畏友はB組のメンバーもチェックしていて、ヒカル・ナカムラの名を見つけた。負けるもんか、と私はC組を探して、ラーノとカールセンの天才ちゃんを発見。こっちも楽しみですね。
04/01/09
 先月、"まよぶり"の休止をお伝えしましたが、そのときの優勝者keikinkgさんが男気を出して引き継がれ、第29回も先週すでに開かれてました。御自身のページで規約や試合結果が見られるようになってます。
 ついでに、最近みつけた好きなサイトを。初手Pg4、すなわちGrovの魅力を専門に扱ったその名もぐろぶ伝説。皇帝陛下のLatvianもそうですが、この種の戦法って、笑える魅力と笑えない威力があって、こんなページは楽しいですよね。
 もひとつ、ついでに前から好きなのを、sakura_canineさんのページ。まず書評に読み応え。古典が少ないのが不満ですが。でも、何より魅力は自戦記や名局の鑑賞。Fritzの御託宣は控え気味にして、御自身の実戦感覚を伝えてくださるのが嬉しいです。読んで強くなれる気分。また、私みたいに将棋の観戦記に学んだ古臭い文体とは違って新鮮な読後感。
 なんか、よそのサイトのこと言うのは偉そうで、やですね。今日限りこの程度で。
04/01/08
 一年で一番好きな大会がヴェイカンゼーです。いよいよ九日から。ところがまたがっかりさせる報せ。モロゼビッチがドタキャン。インフルエンザとのこと。まあ、「またやる気を無くしました」と言われるよりは救いがありますよね。
 さて、畏友からの贈り物。エルンストの作ったセットを前に御満悦のデュシャンです。1968年撮影のよう。見ると、盤駒の配置がバラバラ。わざとでしょうね。畏友いわく「デュシャランダムか?」。
04/01/06  紹介棋譜参照
 熱で寝込んでます。更新がピンチ。期限の迫った仕事があって、二晩で仕上げたのですが、ほっとしたとたんに板付きの身に。もっと早くから取り組んでおけば良いのに、はい、ご明察、チェスに夢中になってました。日本チェス・プロブレム協会のページで、Michel Caillaudの作品が紹介されてるのですが、その第五番が「ついに世紀の大傑作の登場です」。若島正にこう紹介されたら挑戦するよりないでしょう。右の図がそれで、「実戦の指し始めから、黒が30手目を指した局面」。この局面に至るまでの棋譜を再現してみてください、という問題。レトロ問題というやつです。「しばらく考えると、0.5手差で失敗となる手順にたどりつくはずです」と若島さん。わたしも何とかそれは推理できた。参考のため紹介棋譜に載せておきましょう。しかし、「そこから、その0.5手の差を埋めるのに、驚愕の大構想が出現します」。これがまったくわからない。「0-0-0」を使うのかな、とも思ったが駄目。で、こんな仕儀に。正解は協会のページにありますが、なんとか自力で、と思ってます。でも微妙なヒントは歓迎、、、。
04/01/05 
 畏友は浅川書房のファンである。昨年一人立ちした浅川浩が作った出版社だ。畏友にも教わったが、毎コミや河出で浅川が担当してきた棋書がすごい。島朗『角換り腰掛銀研究』、『谷川浩司全集』、河口俊彦『新対局日誌』等々、本格的な名著ばかりである。チェスでは『完全チェス読本』、『ドローへの愛』までがそうだ。年末に畏友と会った時も浅川書房の話になり、紀伊国屋に寄った際、浅川書房第二の新刊『四間飛車の急所(1)』を買った。藤井猛が四間飛車の定跡史を論じた本である。急戦が好きな私はそのあたりを熟読。升田・大山・山田の時代から始まって、現代における鷺宮定跡や棒銀など。たんにその歴史をたどってくれるだけでも満足なところ、読むほどに、居飛車の急戦と穴熊の両方に対応する藤井システムの玄妙な駒組みが浮きあがってくる。歴史と論理がかみ合うドラマに感動した。藤井システム以前の居飛車穴熊を扱った章がまた秀逸。7八金7九金型が6七金7八金型に移行する流れを初めて理解できた。それを240ページほどの小著でやってのける。こんなの、哲学書だってなかなか無い。
04/01/04 
 今年もよろしく。本欄、気にしてくださる方が増えてきたのが励みになります。
 母が「六本木ヒルズに行く」と言う。二時間くらいかかるのだが、当然のごとく「おまえ、連れてってよ」。彼女の生産物としては素直に従うより無いが、結構おもしろい所だった。昼は六階の六緑で親孝行。うまーい。さらに三階のアート&デザインストアに寄った。お、マルセル・デュシャンのチェス・セットがある。渋くてカッコいい。これは欲しい。少々高くても欲しい。しかし値札が無い。訊いてみた。答えは「二十万円」。はは、あはははは。

戎棋夷説