紹介棋譜 別ウィンドウにて。
HOME
現在に戻る
チェスボクシング後日談、ヤーロム夫妻、「幕間」、女子世界選手権。

04/06/02
 サンクトペテルブルグはドレーエフが確実に一位を保って、他二名と共にSuperFinalの出場権を獲得。トムスクでも同様の選考会があり、一位通過はモティレフだった。ルブレフスキーが上位三名に残れなかったのが残念。
 女子世界選手権の準決勝はコネルーが初戦で不覚をとった。日本語情報ページにもあったように、父は大学教員の職を辞してまで娘の才能に賭けているのだ。彼女は負けられない。第二戦は必死になるかと思ったら、わざと穏やかな流れを選んだ。そして、自然に実力の差が出るようにして勝った。ようやく彼女がわかってきた気がする。もう一方の組は黒番のステファノバが元気に押しまくって御大を圧倒。残酷なほどの駒得になった。勢いだけで敗勢にされたようなチブルダニゼは無念だったろう、しかも、二大会連続でベスト4の敗退。盤上が真っ黒になっても投了できなかった。
 で、タイブレークになったコネルーだが、終盤で凡ミス。続く一局も駒得を活かせずドロー。散ってしまった。戎棋夷説、始まって以来、最大の見込み違いである。坊主になりたい気分だ。
04/06/01 紹介棋譜参照
 イワンチュクのプレーオフ、なんと、彼はキングス・ギャンビットで勝ったのでした。
 僕の"エティ"とチブルダニゼの初戦。白ステファノバは1.d4.d5からいきなり2.Bg5。彼女はこれで諸宸を倒したこともある。が、案の定、チブルダニゼは全く動ぜず(鼻で笑ったと思う)、強烈な圧力をかけてきた。たちまち駒得。しかし、ステファノバもきわやかに敵陣を一突き、すぐさま盤上を自分の駒得に変えた(「いかが?」って感じの目線を送ったと思う)。これでついにチブルダニゼに火がついた。敵陣をぎゅうぎゅう締め上げて駒損の回復に成功(豪快に駒を叩きつけ、ふんぞりかえって腹のベルトを揺すり上げた、、、そりゃ加藤一二三だ)。最後はフィリドール・ポジションのドローに終わったが、気合と気合の好勝負だった。紹介棋譜に。
04/05/31
 欧州選手権の最後はイワンチュクとニコリッチが同点でトップ、そして、タイブレークの決戦が行われ、イワンの優勝。三位はアローニアン。72人参加でラジャボフの18位が残念。
 女子の準々決勝はどろんこプロレス。初戦の敗者のうち三人までが執念でタイブレークに持ち込んだのだ。こわい。特に最後の五戦目までもつれたのが43歳のチブルダニゼと25歳のCmilyte。タイブレークは二戦目の直後にすべてまとめて行われる、という過酷な日程、しかも、五戦目のドローは黒の勝ち上がりという、最高棋戦にしては貧相な規定である。最終局の白番はチブルダニゼ、初手はd4。しかし、これにf5で応えたCmilyteもいい根性だった。シロフは年下の妻に頭が上がらない、と確信。さて体力勝負の勝敗はチブルダニゼが準決勝進出。若さよりも脂肪分が決め手だった。次の相手は私のステファノバ。快調の日本語情報ページによると、彼女は写真の多くがカメラ目線とのこと。かわゆくもしたたかだが、年上の同性には逆効果ではないか、と心配である。真面目な話、グルジアの棋士は異形の序盤に慣れてるのでは。
 他方、コネルーが決勝までいくのは確実だと思う。
04/05/30 紹介棋譜参照
 準々決勝まできて初めて女子世界選手権を観戦。今日がその初戦である。ラーノはベスト8には残れなかった。コネルーと許c華がここで対決。図のe4ポーンをめぐって、黒の許にはいくつか手段がありそうだが22...g5。これでポーン得、さらに26手目、もう一個の得。ところが、以下ほとんどあたりまえの手順で31手まで進むと、コネルーのポーン得で逆転不可能の棋勢になっていた。コネルーは深く読むのか、指運が良いのか?
 他の3局もすべて面白かったので、紹介棋譜に残しておきます。チブルダニゼはポーン・レースでコステニュクの敵討ち。ステファノバが私好みの小ずるい悪い子かもしれません。「ドローでいいわ」と言っておきながら、、、? ためしに応援してみましょう。これまでの彼女の熱戦譜からもひとつ加えておきました。序盤が異形のタイプです。
04/05/28
 世界女子選手権。何度か触れた日本語情報ページによると、前回優勝の諸宸(ZhuChen)はおめでたで不参加とか。中国勢はベスト8から気にしてみよ、と思っていたのだけど、一人だけ、許c華(きょ・いくか、XuYuhua) が残った。図は二回戦、彼女の白番。ここで思い切って22.Rxe6が印象的だ。続く22...Bd7に23.f5。手の善悪はわからぬが、以下駒得。終盤は上手な気がした。 他、チブルダニゼはジャコバも破ってベスト8。コネルー、ラーノはどちらももつれて、延長戦のタイブレークへ。ラーノはともかく、コネルーはやっぱ不調なのか。
 サラエボはシロフで決まり。彼はサラエボでよく優勝を逃していただけにおめでとう。欧州選手権はイワンチュクが半点差の二位まであがっている。現在のトップは聞きなれぬ若いナヴァラ。サンクトペテルブルグはまだドレーエフがトップだ。
04/05/26 紹介棋譜参照
 女子世界選手権は二回戦。スクリプチェンコを破ったジャコバは21歳、乗ってる。名局一号だ、紹介棋譜に。コネルーについて「意外に苦戦」と書いたが、「本領を発揮するまでもなく勝ってる」という感じにも見えてきた。セバーグは元女王のChiburdanidze(チブルダニゼ)と組まされてしまい、果てた。
 コステニュクはショック、、、。Cmilyteは03/06/15でちらっと触れたことがある。簡単な相手ではないけど、勝てると信じていた。明日は喪に服します。
04/05/25
 「幕間」のチェスは、水がぶっかけられてそれでおしまいになる。画面には写らないがピカビアの仕業らしい。水入り、という日本語を彼は知っていたろうか。
 サンクトペテルブルグではロシア選手権をやっていて、これも見逃せない。実は秋にモスクワで"super final"が予定されており、すごいメンバーが揃うかもしれず、そして、いま開催中のロシア選手権の上位三人が、それへの出場権を獲得する仕組みなのだ。まだ3Rだが首位はドレーエフ。彼が大舞台でカスパロフやクラムニクと指すのを、私は見たいのである。
 女子世界選手権。私の愛する五人のうち、最初に魅力を発揮したのがセバーグ。左図、彼女が黒番で駒損だがNh5!。次のNg3+が強烈だから、白のBxh7+が怖くないのである。しかし、一方、スクリプチェンコが一回戦で敗退。70手で駒損、もがき苦しんだ末、98手で悲しい大番狂わせ。
04/05/24
 皇帝陛下のページについて、もう一言。最近の更新で注目すべきが、映画「ハリー・ポッターと賢者の石」のチェス・シーンの解説。駒が犠牲になる真意がわかって、ちょっと感動。自分の駒でメイトできるのに、親友を活かすため、わざわざ自身を捨駒にする局面なんですね。英語文献の翻訳をした水野優さんにも感謝。
 私も負けてはならじ、とルネ・クレール「幕間」(1924)でデュシャンとマン・レイが指してる局面を研究。しかし、画面が不鮮明。ありえないような局面でないのは確かで、黒番のデュシャンがNa6-Nb4と指すところだ。黒陣の駒が比較的見易い。ポーンがe6とd5にあるからフレンチかクィーンズ・ギャンビットか。ただ、黒ポーンはa5にもあり、h5にもある感じだ(他の4個は元のまま)。そして、もう一つのナイトはf5にある。e8にあるのはキングだろう。明色ビショップはd7、たぶん、暗色ビショップがf8。ルックは画面の外、a8とh8と思う。するとクィーンが見当たらない。白陣はよく見えないが、変な形に思える。マン・レイは弱かったかもしれない。映画もそんな雰囲気だ。
04/05/23
 女子世界選手権の初日、コステニュクは完勝、コネルーが意外に苦戦で、かなり格下の相手に勝ったものの途中まで明らかなドローだった。ラーノは手数は掛かったけど、危な気ない勝ち。スクリプチェンコはドロー。それから、こっそり気にしてるセバーグもドロー。先日ご紹介した、この大会の情報ページが勉強になる。彼女は超早見えの選手とのこと。情報ページを皇帝陛下も紹介してくださった。わざわざ私の名も出していただいて、ありがとうございます。
04/05/22
 今年もトルコで行われてる欧州選手権。昨年より寂しい顔ぶれとは言っても、イワンチュク、ラジャボフ、グレビッチが参加。ただイワンチュクは、初日かなりの格下に敗れて苦戦、6Rの段階で首位に1点差の7位グループ。ラジャもグレビッチもたった2勝で同じ位置に並んでいる。聞いたこともない棋士中心の首位争いになってるわけだが、現在はマメディヤロフがトップ。本欄では03/07/06にちょっと触れた子。順調に成長してるようです。
04/05/20
 今月のムダ話は音楽ネタにしよう。ほとんどクラシックしか聴かない私だが、俗謡は耳に入ってくる。この一年で最も気に入ったのは何だろうと考えたら、元ちとせの「いつか風になる日」が浮かんだ。
 匿名希望氏からメール。ひそかに女子世界選手権のページを作ってみた、とのこと。私の好みの選手にも配慮して、一緒に応援してくださる心意気。いやそんなことより、ただ者とは思えぬ構成と内容です。ぜひ、と紹介させていただくことにしました。チェスでは久々の「ひなまつり」です、盛り上がろうぜというみなさま、各所掲示板等で宣伝してあげてください。
04/05/18
 いろんな大会が。昨年同時期の本欄が我ながら参考になって便利だ。まず欧州選手権。昨年より寂しい顔ぶれ。あの時はFIDE世界選手権の予選も兼ねていたけど、今年のは違うんかな。FIDEのサイトでも、いま大きく扱われてるのは女子の世界選手権である。これも開催地に関してゴタゴタあったのだが、イリュムジノフ会長のお膝元エリスタに落ち着いた。と思ったら畏友からメール、もう一回戦の組み合わせまで決まっている。才能抜群のコネルー、ドロー嫌いのラーノ、我らのコステニュク、貫禄も出てきたスクリプチェンコ、それから、よく知らないが中国勢も強くて当然、このあたりに注目。「我ら」の優勝に決まってるけどね!あとはサラエボ。10人参加で優勝候補はシロフ、ショート、ソコロフ、ボロガン。
04/05/17
 アマゾンをチェック。今日の一位は、今年の二月に出たばかりの、
  Jan Pinski; The Two Knights Defence; Everyman Chess
 実は私も注文したのですが、同時に注文した本がなかなか出ないこともあって、まだ見れずにいます。良い本かどうか、まったく見当もつきません。東公平の本でチェスを覚えた世代にとって、ツーナイトは最初に知る特別な定跡なんですよね。一方、二位は、
  Tal; The Life and Games of Mikhail Tal
 永遠の名著です。棋士に「好きな本は?」と聞いて、圧倒的によく名の挙がるのがブロンシュタインの「チューリッヒ1953」ですが、タリのこの本も多いですね。
04/05/16
 クラムニクとレコのマッチについて。日程は9月25日から10月18日まで。対局地はスイスのティチーノ州ブリッサーゴとか。イタリアに近い所で、マジョレー湖の美しい、たぶん観光地。賞金は100万スイスフラン(約8800万円)。全14局で、互角で終わればクラムニクの防衛。記者会見のセレモニーで、第一局はレコの白番に決まった。これが変わっていて、まず、スポンサーか州(情報元で異なる)を代表をする女性が盤のf5を指定する。そこを知らされずにクラムニクとレコがブリッツを指す。で、最初にf5に駒を置いたレコに、第一局の白番が与えられた、というわけ。
 レコが苦手なクラムニクはこう言った、「私が勝つ見込みは55%がせいぜいでしょう」。ドローが続きそうか。
04/05/15
 これまで「棋士組合」という言い方をしてきたけど、これからは「ACP(Association of Chess Professionals)」と呼びます。しっかりした組織になってきており、名称が揺れることも無いでしょう。現在、加入者は212名、私の数え間違いがなければ、GMが144人、WGMが23人。昨年12月に最初の選挙も行われ、ロチェが議長に選ばれてます。得票結果が面白く、順に、Lautier 94、Tregubov 72、Kramnik 59、Macieja 57、Bologan 50、Baburin 42、Glek 41。
 先日、クラムニクとレコのマッチに関する正式な記者会見が行われました。対局者、スポンサーの登場は当然として、ロチェも同席していた点に畏友も注目。ACP議長はマッチの監督を務めるようだ。記者の質問はもちろん「ACPはFIDEに取って代わるのですか、この先、FIDEにまともな働きが無い場合は」。ロチェの答えは「イエス」。本欄で六日に触れたFIDEによるカスパロフのマッチの実現がもたつけば、ACPは独自の行動を起こす考えだ。本欄03/06/12の話が一年たらずでここまで大きくなったわけです。
04/05/14
 うらやましい話を読者の方が送ってくだすった。奨励会時代の宮田敦史に二枚落ちで何度か教えてもらった、というのだ。"スーパーあつし君"はこの種の指導対局でも全力で勝ちにゆくらしい。が、「あまり強くなかったです」とのこと。駒落将棋ってそういうもんなんだろう。面白いのは、不利になったアツシ君は「いまにも死んじゃうんじゃないかというくらいつらそうに」、駒を動かし、さらに、負けた後には「まあ、駒落ちですから」と言ったそうだ。負けず嫌いなのである。いいぞ。ちなみに、素人相手のチェスでも手を抜かない代表はシュタイニッツだ。
04/05/13
 浅ましい話を紹介してる間に本欄は一周年を迎えていた。良い読者の皆さんに恵まれたこと、そして、畏友に感謝である。それにしても、短い文章は難しいものだと思う。日々それに驚く。言いたいことを半分くらい削って書くのが私は好きだ。
04/05/12
 昨日の話はややこしい。あるネット上の大会でウラソフという棋士がヒカルに負けた。そしてヒカルは、ウラソフがコンピュータ・ソフトを使って指していると決め付けて、「イカサマ!」と罵倒した。ウラソフは「やれやれ、私が勝っていたらどう言われたことか」。結論はすぐに出た、次の顔合わせではウラソフが勝ってしまったのである。案の定、ヒカルはブチ切れた。15分にわたって「イカサマ」を連呼、さらに、「ナマの盤上で会ったら叩いてやる」。さすがにウラソフも腹にすえかねて、「望むところだ」。ChessTodayがウラソフに同情的な記述をしたのは言うまでも無い。編集長バブーリンは、「すでにヒカルは悪評を稼いでいる。私が対戦した中でも、最も無礼な一人だ」。ところがである。ネット大会のサーバーの判定が下って、なんと、ウラソフはソフト指しをしていたことが判明したのだ。ただ、バブーリンの言うとおり、ウラソフの不正行為が事実だとしても、ヒカルの態度が正当化されるわけではない。
04/05/11
 チェスに時間を割く余裕がすこし出来て、読まずにいたChessTodayをこつこつ片付けている。二月の記事をいまごろ開けると、ヒカル・ナカムラの悪評で盛り上がっていた。かなり幼児性の強い性格で、それを隠さずに自己主張できるあたり、日本の十代とアメリカの十代の特徴を受け継いだようだ。本人はフィッシャーを真似してるつもりかもしれない。
04/05/10
 マルモ(ノルウェー)とコペンハーゲン(デンマーク)で行われたSigeman大会。渋い顔ぶれを中心に10人が参加。優勝は若手中堅のニールセンとハンセン。格からいえばベリャフスキーが上だろうが、勢いを考えれば私には順当な結果に思える。しかし、そんなことより、3位がカールセンだったのだ。望外の健闘である。ハンセンには敗れたものの、ニールセンを破ったのがえらい。ベリャフスキーとも引き分けた。図はニールセン戦の結末、白のカールセンは37.Qe7、以下、37...Qc7, 38.Qe8+で王手馬取り。何てこと無い手順ながら、昨年にも書いたようにカールセンはこんな駒得が多い。棋譜再現でさらっと並べるとわかるが、瞬間、神秘的な感じがするのだ。ニールセンも腑に落ちなかったのだろう、この直後に投了できなかった。
 イリュムジノフ会長はカールセンをリビアに参加させたいようである。
04/05/09
 若手の将棋指しで注目してるのが宮田敦史。二年前の竜王戦6組優勝がきっかけである。今年二月の第1回詰将棋解答選手権戦でも優勝。「驚異的な速さで」と若島正が書いた、それが驚異的だ。今日の将棋NHK杯が宮田-加藤一二三である。素晴らしい組み合わせではないか。期待どおりに面白かった。うまく言えない。解説の中川大輔も良かった、「楽しみにしていた一戦」とのこと。しかし、なぜ楽しみか、彼だってうまく言えてはなかったもの。
 この解説者が披露してくれたエピソードがいかにもである。研究会の最中、お茶を注いでる"スーパーあつし君"に、誰かが「この手はどう?」と話を向けた。瞬間、彼の姿勢は固まって"読みの国"にトリップ、むろんお茶はあふれかえってしまったそうだ。今日のを畏友も見てくれていて、「アツシくん、クールでいい!」。クールというより静止画像だね。
04/05/07
 畏友がアーヴィン・ヤーロムを教えてくれたのは、実は伏線に過ぎない。本当の狙いはアーヴィンの妻マリリンにある。フェミニズムの社会史家のようで、すでに『乳房論-乳房をめぐる欲望の社会史-』が邦訳されている。この彼女の最新刊がチェスの本なのだ。題は"Birth of the Chess Queen"。畏友はこないだ手に入れて、目次と冒頭を送ってくれた。チェスにクィーンが導入され、強力な駒になってゆく過程を、ヨーロッパ各国の女性史と関わらせながら論じた本のようだ。興味深い内容である。畏友は「英語は平易」と私を励ましてくれてる。欲しいなあ。読めるかなあ。
04/05/06
 今回のFIDEの世界選手権に出ない人は、事情はいろいろだが、カスパロフ、クラムニク、レコは当然として、他はアナンド、スヴィドレル、ポルガー、ポノマリョフ、ゲルファンド、シロフ、バレーエフなど。不参加理由は、第一に、対局地がリビアに限られてしまい、ここが永くテロを容認してきた国家として知られ、反米、反イスラエルの感情も強いことだ。第二に、この世界選手権の優勝者がカスパロフとのマッチを戦わされることへの異議申し立てである。何人も倒して勝ち上がったFIDEの優勝者を、カスパロフはマッチひとつで倒すだけでFIDEの新王者になれてしまう。現在無冠の彼がこんなに優遇されるのは納得いかない、とアナンドが不満を述べたり、ポノマリョフが執拗な声明を発したりしているのだ。アナンドは1998年の不公平感を、ポノは昨年の騒動を忘れていない。
04/05/05
 ChessBaseもこないだのチェスボクシングを採り上げた。気づかれた方も多いかと思う、書いたのは畏友だ。
04/05/04
 アーヴィン・ヤーロムの『ニーチェが泣くとき』は、ニーチェとブロイアーが、個人的な悩みを巡って話し合う小説だ。むろんフィクション。互いに自分の学説を相手に押し付けながら、では自分自身には適応できるのか、そこらがドラマだ。ブロイアーの名はフロイトとの共著『ヒステリー研究』で私も知っていたが、扁桃腺や結石の診断もする一般的な開業医だとは意外だった。ルー・ザロメが魅力的な女性だったり、ブロイアーが『ヒステリー研究』の有名な患者を愛していたり、うまく書けてる。訳者金沢泰子の日本語もすんなりしていて気に入った。ブロイアーのチェス好きは事実だとか。思想書の棚で売られる本としては弱いので5段階評価の3しか出せないが、楽しめるのは確かだ。
04/05/03
 チェスボクシングを採り上げてくれる、とのことでNHK-BS「情報なびTV」を見た。局にはこれに関する問い合わせが多かったそうだ。映画、音楽、アート等、難易度は「5分で三級」の話題が中心だが、コメンテーターが一人としてそれに見合う程度の教養すら持たぬまま居座る、ひどい番組だ。奇遇も奇遇、エンキ・ビラルまでたっぷり紹介しておきながら、誰もチェスボクシングと関連させることが出来なかった失態を難詰したところで、たんなる弱い者いじめに映ってしまうに相違なく、さかしらに糾弾するのは控えておくのが礼節というものだろう(蓮實風で書いてみました)。肝心なチェスボクシングの紹介は、観客の楽しげな顔々が印象的だった。悪趣味な発想でワルノリする競技というより、いたずらっ子の感覚をくすぐられるイヴェントだなと感じた。畏友も「あの日、自分がやってみたくもなりました」、でも、「ちょっとムリですね」、まあそう言わずに。彼によるとインタヴューもあったそうなのだが、それがカットされたのが残念。ファイト・マネーも不明。
04/05/02
 先週おわったロシアのクラブ選手権はTomsk-400Yukosが優勝。石油会社がスポンサーで、モロゼビッチ、アコーピアン、ハリフマンを擁してる。モロゼビッチは好調のよう。彼はFIDEの世界選手権にも出るようだ。
 ドバイの大会で優勝者に半点差だったカールセンが、その大会の好成績でグランドマスターになるのが決まった。カルヤキンの12歳という記録には負けるが、性格はずっと良さそうだ。欧州女子の優勝でグランドマスターに昇格したコステニクとあわせ、めでたいことである。
04/05/01
 日帰りで東京に行ってきた。根津美術館に行こうと思ったのである。最初は森ビルで草間弥生を見るつもりだったのだが、畏友の感想では「オススメできません」ということで予定変更。渋谷で降りて、なんとなく西武へ。買ったのはカルヴァン・クラインやジョセフ・オム。何しに来たんだろう、パンツの直しの間に根津をまわる格好になった。南宋絵画の特別展示をしてるのだ。旧御物1件、国宝11件、重要文化財28件ということで期待したものの、もう見たことのある絵が多かった。しかし、名品に久闊を叙すというのも乙である。馬遠、牧谿、そして、徽宗皇帝。何より、ここは常設展示の趣味に参ってしまう。うつわの、さりげない絶品が多いのだから。そして、居並ぶ殷周の青銅器、重量感に圧倒される。大好きなところ。光琳のかきつばたが展示される頃にはよく行ったものだ。いまは修復中とのこと。
 前置きが長くなったが、往還の新幹線で読んだのがアーヴィン・ヤーロム『ニーチェが泣くとき』。またしても畏友に教えてもらった。ちょこちょことチェスが出てくるのだ。ちなみに、彼に教えてもらった別の一冊が『張形と江戸をんな』、私が教えてあげたのが『透視も念写も事実である』。貞子を実験したことで有名な福来友吉の伝記だ。
04/04/30
 NewInChessの最新04/3号が届いた。トップ記事は無論リナレス。せっかく優勝したのにクラムニクは、ドローが多いことに文句を言われて少々おかんむりのインタヴューだ。私も彼が正しいと思う。立派な大会だった。今号の掲載局を見るがよい。リナレスならではのチェスが並んでいる。中継で私はそれらを楽しんだ。あの二週間、ドローの数ばかり数えてる記者がいたとは。星空は黒い部分が圧倒的に多いものだ、リナレスは特にそうだが、そこを見て何が面白いのか。
04/04/28
 「64」誌恒例のChessOscarは当然ながらアナンドが一位に。三度目とか。
  1. Vishy Anand (India) - 4150
  2. Peter Svidler (Russia) - 2575
  3. Vladimir Kramnik (Russia) - 2518
  4. Garry Kasparov (Russia) - 2262
  5. Peter Leko (Hungary) - 1867
  6. Judit Polgar (Hungary) - 1528
  7. Alexander Morozevich (Russia) - 1381
  8. Viorel Bologan (Moldova) - 1359
  9. Nigel Short (UK) - 539
  10. Evgeny Bareev (Russia) - 535
 昨年の顔ぶれと比較したい方は本欄の03/05/12を御覧ください。ドルトムント優勝のボロガンとロシア選手権優勝のSvidlerが入った。モロゼビッチの復活もうれしい。ラジャボフが無いのがちょっと残念。
04/04/27
 畏友は「冷たい赤道」を見つけた模様。チェスボクシングのシーンを送ってくれたので、その数コマだけでも皆さんに御覧にいれましょう。真剣な競技ですね。映画化の脚本はオリジナルらしく、チェスボクシングは出なさそう。
04/04/26
 ずいぶん今月は映画の話をしたから、四月のムダ話は映画評論。40代の映画ファンは、畏友もそうだと思うが、蓮實重彦に作ってもらった眼鏡で映画を見てきた。私のような、去年DVDを買って急に月に十数本の映画を見るようになった者でもそうだ。だが、同時に私は彼が嫌いなのだ。自分だけが知性を持っていて、監督は職人でいてさえくれればいい、というところが特に嫌いだ。さっきもこんな一節を読んで不愉快だった、「われわれはタルコフスキーよりもエイゼンシュタインの方が遥かに貴重な作家だと確信している。芸術家であろうとする以前に、映画の面白さを素朴に擁護しているからだ」(映画狂人、神出鬼没)。エイゼンシュタインはたしかに良い。私の真っ先に買ったDVDのひとつが「戦艦ポチョムキン」だ。しかし、こんな理由で良いなんて言わせて良いものか。
04/04/25
 フランス語の"バンド・デシネ"を辞書で調べると"連載漫画"とある。エンキ・ビラル(Enki Bilal)はそっちで有名らしい。「ブレード・ランナー」に影響を与えた、という紹介を見て、なんかすごい人なんだろうなあ、と思った。昨日の"邦訳あり"とは「冷たい赤道」(ニコポル3部作)のこと。畏友からメール、これがビラル本人の監督で映画化されたのだ。題は「ゴッド・ディーバ」、九段会館で試写会が10日にあった、つまり新しい作品である。おお、シャーロット・ランプリングが出てる。バンド・デシネを畏友は調べたことがあるようで、メビウスという巨匠が居ることも教えてくれた。綺麗な絵を描く。それにしても、初めて知った頃から思うのだが、畏友とはなにものだろう。
04/04/24
 こないだのチェスボクシングを話題にしたページをずいぶん見かける。全日本選手権でもこうはいかない。NHKまでが5月1日の24時にBSで放送するとか、畏友が教えてくれた。TFJ's Sidewalk Cafeのレヴュー欄によると、チェスボクシングのアイディアはEnki Bilalという人の作品にすでにあるらしい(邦訳あり)。昨年のアムステルダムでのイベントについてはDVDも出るそうだ。あのときは、NewInChess誌でリーが、こんなことするのと同額の金をまわしてくれれば、資金難のエイヴェ記念館も助かるのに、とちらっと言っていた。リーには悪いが、私はこの種の文化保護発言にはいくらか冷淡である。

戎棋夷説