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クラムニク苦戦で防衛、羽生「文藝春秋」フィッシャー記事、オリンピアード。

04/11/03
 レコがマーシャル・アタックで勝った第八局。クラムニク・チームは22.Ne4で白が悪くないことを知っていたものの、試合直前に「22.axb5も面白いんじゃないの」ということになったらしい。よく調べる間も無くクラムニクは対局場へ、そして、レコが持ち時間に苦しんでるのを見た彼は、時間責めのつもりでさっさと指し(不利でもないのに!)、深く考えず22.axb5を選んだ、とのこと。研究なんて結構いいかげんなんだなあ。
04/11/02
 オリンピアード閉会式ではグルジアの元世界女王ガプリンダパラシヴィリが、彼女の名を記念したトロフィーを自ら授与する手はずだった。ところが、それを飛ばして式が進んでしまったので、アズマイパラシヴィリが問題の行動に出たのである。彼もグルジアの男だ、我慢ならなかったのだろう。頭突きはともかく、気持ちはわかる。私だって、もし矢内理絵子が同じ侮辱を受けたなら、壇上を火炎放射器でなぎ払う。
04/11/01
 FIDEのこわもて副会長アズマイパラシヴィリが逮捕されてしまった。オリンピアード閉会式の手順がおかしいぞ、と壇上に知らせようとしたところ、警備員に押し戻されて、かっとなり頭突きを食らわしたのだ。牛のような話だが、場所がスペインだっただけに、たちまち組み伏せられてしまったらしい。カスパロフと関係の深い人物だから、これがマッチの交渉に影響するかどうか気になるところだ。
04/10/31
 FIDEは80周年だ。オリンピアードは最終ラウンドを終え、ウクライナが優勝。前々回のイスタンブールで主将イワンチュクが、悲痛な表情で顔を押さえる写真を思い出した。おめでとう。もちろん初優勝。ソ連やロシアが優勝できなかった大会は本当に珍しい。女子は中国が4大会連続で優勝。それにしても、会期中、来年一月のマッチについてFIDEは協議しただろうに、何の発表も無い。で、私以上に苛立ってるのが、言うまでも無くカスパロフである。FIDEに公開書簡を送った。
 ところで、私はレタスを食べないと死んでしまうのだが、一玉780円になるとは、むごい。
04/10/30
 NewInChessの最新号が創刊20周年とかで分厚い。巻末のインタヴューも二人に増やして、クラムニクとレコに尋ねている。クラムニクはあんまり本音を出さない韜晦型だが、好きな小説に「白痴」を挙げていて、私もドストエフスキーの長編ではこれが好きだ。ちなみに、新谷敬三郎の「『白痴』を読む」はお薦めである。1979年生まれのレコは、好きな音楽に、ティナ・ターナー、ボニー・タイラー、クィーン、エアロ・スミス、スコーピオンズ、などを挙げていて、すんげー意外。また、「自分以外の誰かに成れるとしたら?」という質問に答えて「Musashi」、これ宮本武蔵だよねえ、「彼の生き様はいつも私を魅了してきました」。米長邦雄と対談してもらおう。
04/10/29
 ウクライナはカルヤキンの7戦して6勝という活躍もあり、ほぼ優勝が決まった。ロシアはグルジアにも破れてしまった。
04/10/28
 アナンドが初めてオリンピアードに出場したのは、急に愛国心が芽生えたためではなく、来年一月のレイティングで一位になりたいからだろう。イリュムジノフが、カシムジャノフとカスパロフのマッチを急ぎ一月に行いたいのは、アナンドの野望が実現する前にマッチの契約を成立させたいからだと思う。そして、クラムニクはこのマッチの勝者と自分が戦う義務を認めていない、「ポノマリョフ対カスパロフの勝者と戦う契約はしたが、カシムジャノフ対カスパロフの件は知らない」。私もプラハ合意の精神は忘れていいと思うようになった。クラムニクとアナンドのマッチが見たい。もちろん、クラムニクはもっと自分に都合の良い案を考えているようだ。
04/10/27
 オリンピアードは棋士の疲労が勝敗を分ける段階に入ったようだ。ブリッサーゴについて言い忘れてたことをひとつ。私はレコがマイペースで淡々とドローを重ねたように書いた。ところが、実際の彼は第八局に勝ってから、日に日にプレッシャーが増していったらしい。クラムニクも4年前に同じことを経験している。
04/10/26
 ChessTodayから連日、オリンピアードの面白い棋譜が伝わっている。むかし、ボトビニク主将はブロンシュタインに、「君が好きな"あれ"は使うな」と釘を刺したそうだ。定跡名は言わずもがな。優勝候補の一員が危険な戦法を選んで負けるのは、身勝手な個人行動に映るんだろう。しかし、今年のロシア・チームの一番卓モロゼビッチに自重は期待できない。アナンドに対する黒番で、1.e4にc5、普通かと思いきや、2.Nf3にa6だった。互角の面白い戦いになったものの、結果は白の勝ち。ロシアはトパロフのいないブルガリアにまで負けている。それでも現在二位につけているのはさすがだが。最も調子を崩してるのはイングランドで40位。エッセントの済んだショートが駆けつけたけど、遅かりし由良之介。
04/10/25
 今月二度目のムダ話も映画で。王家衛(ウォン・カーウァイ)「花様年華」が好きだ。で、その続編「2046」を見に行った。「花様年華」を見ておく必要は全くないが、当然ながら雰囲気は似てる。そこは良い。ただし、煙草の煙ひとつとっても、「2046」は「花様年華」に及ばない。「花様年華」は屋内の狭苦しいい廊下が目立った。逆に「2046」では、広々とした画面の余白が目立つ。前者は、二人の男女を否が応でも袖ふり合わざるを得なくする、宿命の舞台設定であった。しかるに後者は、どんな愛にももはや満たされることの無い、内面の空漠感を表す隠喩なのだ。こうした「2046」の文学性がいささか退屈である。画面の右半分にせっかく味のある壁が広がっていても、それは美しい壁として見ることは許されず、左半分の登場人物の空しい心の表象になってしまうのだから。
 それでも「2046」は見るに値する。章子怡(チャン・ツィイー)が可愛いんだ。メディアにガキはゴロゴロしているが、久しぶりに「女の子」を見た気がした。彼女の顔は正面が美しいのに、わざわざ最も醜く映る角度から多く撮ってるのも面白かった。どれほど溌剌としていようと堕落するタイプの感じが出ていた。最後の最後、もう救いようが無くなってから、ようやく惜しげもなく正面を向いて泣くので、見てる方もほんとにつらい。対して、王菲(フェイ・ウォン)は、いかに発狂してもせいぜい機械の不調にしか見えぬ健全なタイプ。彼女の独り言が、人造人間の反応速度の遅れと重なるのは、うまいと思った。
 梁朝偉(トニー・レオン)はクラーク・ゲーブルみたいな表情で章子怡を口説くのが面白い。章子怡も彼に「可愛い」と言われて本能的にニンマリしてしまいながらも、反射的に警戒態勢をとるあたり、楽しかった。あと一点、木村拓哉を見れるのもうれしいが、テレビ・ドラマで要求される種の表情を映画ではやめなさい。
04/10/24
 フィッシャーが新しくアメリカ人弁護士Vattuoneを雇ったよう。と言って、特に進展があったようにも思えない。エッセントはソコロフが優勝。
04/10/23
 世界王座戦とオリンピアードの陰に隠れてしまってますが、今年もホーヘフェーンでエッセント社の大会が行われてます。昨年優勝のポルガーは育児を優先。その代わり、カールセンが参加してくれました。彼はオリンピアードを楽しみにしていたんですが、たぶん、10/16にふれたプレーオフの結果が関係してるのでしょう。けれどさすがの神童もソコロフやショートが相手では苦戦の模様。ステルワーゲンにも遅れをとって、どうもこのまま最下位の4位に終わりそうです。NICが本を出して、題は「Wonderboy」。カールセンの"伝記と名局集"ですが、早すぎるような、買いのような。
04/10/22 紹介棋譜参照
 マジョルカのオリンピアードがとっくに始まっている。例年以上に面白い棋譜がたくさん生まれてる様子だ。コルチノイが大ポカでモロゼビッチにわずか13手で敗れ、ショックでしばらく椅子から立ち上がれなかったという悲惨なエピソードもある。そのモロゼビッチもイワンチュクと豪腕を争って叩きのめされた。序盤から激しく意地を張り合い、イワンの10...g5にモロが11.g4と突き返したのが図の局面で、さらに11...gxf4, 12.gxf5. Nxf5と進み、以下とめどもなく凄まじい。この敗戦でロシアの連続優勝は難しくなった。とても大きな一局だったのである。また、ゲルファンドがすごいサクリファイスで勝ったのも見逃せない。とりあえず、これらを紹介棋譜に。
 ほか、ChessTodyの報告によると、Sveshnikov定跡で、アナンドとイワンチュクが、それぞれ常識を超えた新手で勝ったそうだ。現地の天気は晴朗とのことだが、波高しだ。
04/10/21
 クラムニクのタイトル防衛に満足しつつブリッサーゴから別の話題に移りたいが、その前にキリの良いところで今月のムダ話。10月は、この一年で見た映画から一本。マキノ正博と稲垣浩による「決闘高田の馬場」(1937年、原題「血煙高田馬場」)を。主演は阪東妻三郎。
 酒飲みでケンカ好きの主人公が純真で憎めない。天真爛漫の不良である。歌舞伎風の古典的な演出も楽しいが、画面の切り替わりやカメラは疑いようも無く映画である。有名な走りの場面はそのほんの一例だ。役者もイイ。感情表現に伝統的な型があり、これで笑ったり天を仰いだりする方が、リアルに泣くより抑制が利いて好ましい。目立たぬところを言えば、堀部弥兵衛役の藤川三之祐が開いた口をゆがめる演技が気に入った。また、群集シーンの熱気も尋常ではない。画面から湯気が出るほどで、たしかに、応援するだけで手も貸さぬ不自然な連中なのだが、彼等の狂乱に囲まれてこそ、最後のチャンバラの様式化された殺陣が、お芝居くささを越えた祝祭の時空に踏み込むのを可能にするのである。
04/10/20 紹介棋譜参照
 私がクラムニクの防衛と見た三要素のうち二つがあてにならないとすれば、残ったのは、勝負師としての精神力であるが、これが最終戦の明暗を分けたようだ。ただ、局後の会見で、レコはクラムニクの序盤研究に敗れたことを強調していた。これは4年前のカスパロフの弁とも重なる。レコの落胆は言うまでもないが、寝食を忘れて協力してくれたセコンドを労わる言葉を述べていたのが印象に残った。クラムニクに「カスパロフの時よりずっとしんどいマッチだった」と言わせたのは、あまりに当然である。
 自分が予想した通りの結果とはいえ、駒がどんどん減って、20手前で終盤を迎えてしまった時には、私もわずかながら不安になった。今にして思えば、彼の勝ちパターンなのに。図は、はっきりクラムニク勝ちの場面。黒ビショップの位置がひどく、本局のレコに勢いが無かったことを象徴している。b6にポーンがあるが、ここに食いつくことができて、クラムは「防衛できる」と感じたそうだ。観戦時の私は、じわじわと星が動くくらいの速度でクラムニクが良くなっていくのを感じ、図で34.f4!を見て初めて「勝てる」と思った。Fritzに掛けて調べると、黒はRxd4と取れないのである。とはいえ、その先が簡単とも思えない。ところどころ、クラムニクも小考して私を不安にさせる。一手々々が歴史を刻み込む現場であり、それだけにミスが出そうで、詰みが自分の棋力でも見当が付くようになった最後まで、血がぐるぐるとまわり、他人の対局とは思えない緊張感を味わってしまった。どっちかの肩を持つというのは良いものである。終局は日本時間で1時58分だった。
04/10/19
 か、か、か、勝ったああああああああああ!!!!!!
04/10/18
 ChessTodayが第十三局の詳細な分析をしてくれて、それによると対局者双方が細かいミスを重ねていたらしい。たとえば、黒の45手目は46.f4を防ぐRe3の方が良かった等々。しかし、それで熱戦の価値が下がるわけでもなかろう。あともう少し時計が進めば最終局が始まる。私は09/26に述べた通りにクラムニクが勝つと思っているが、彼の序盤研究が第八局の敗因になり、また、レコの終盤が私の思う以上に強かったあたり、もう随分と見込みが違っているのも確かだ。むしろ凡庸な予想のつもりだったのだけど。
04/10/17 紹介棋譜参照
 第十三局は死闘だった。図は44.Rg7-b7。それまでは黒優勢が大多数の意見。が、「ちょっと待て」と、PlayChessのネット上でこの一手を指摘したのがカスパロフである。図から、44...c4, 45.Rxb6. Re2になった時、白に好手46.f4がある、というのだ。実戦もそうなった。私が観戦してるICCでは46.Rb8から、ポーンをb6に進めたりルークをg筋に回したりする変化も検討されたけど、これは46...Rxb2で黒が良さそう。が、その前に本譜の46.f4を突き捨てればg筋に白のパスポーンが出来る。その上でRb8を指したら、まったく意味合いの違う流れになってしまったのだ。とはいえ、まだまだ引き分けには見えない。しかし、レコがルークを自陣に引き付けるに至っては黒に勝ちが無く、私は唖然とするばかり。紹介棋譜で御覧ください。クラムに大きなミスは無かったはず。彼は諦めきれず、最後の最後、互いにキング一個になるまで指して引き分けた。
04/10/16
 カールセンの、前に軽く触れたまんまだった、ノルウェー選手権のプレーオフ。8月ではなく9月の初めに行われていました。全三局の最初の二局がドロー。相手のオステンスタッドにアドバンテージが与えられており、この二局によって、カールセンは準優勝ということになりました。
 第十三局。レコのこと、どうせドローさ、というのが下馬評でしょうが、クラムニクは彼にとってほぼ初めてのベノニを発動。事件を起こそうとしてます。17手まで終了し、例によってレコの方がかなり多く時間を使ってる。ICCで解説のニールセンは「interesting pawnstructure」。
04/10/15
 第十二局はカロカンになった。レコは慎重で、成功したマーシャルを二度と使おうとしない。ポーンの形から判断して、クラムニクに望みのある棋勢に思えたが、レコが受けきった。34手でドロー。素人には難しい棋譜が残った。ChessTodayの解説で変化手順を並べると、レコの防戦の苦労は並大抵でなかったようだ。最後は黒が良くさえ見えた。
04/10/14
 ファンのみならずGM達までが、激戦の少ない今マッチに不満を述べているが、文句たれて見識を示したつもりの野党根性に過ぎぬよ。仮に彼らを代わりに戦わせたら、もっと低次元の保身戦術が棋譜として残るだろうさ。と言いながら、私がブリッサーゴまで足を運んで20手以下のドローを見せられたら、会場を焼き払うかもしれない。残り三局に期待している。
 ChessTodayから。イリュムジノフがカシムジャノフ対カスパロフの対局予定を発表した。ドバイにて、賞金は120万ドル。しかも来年の一月だ。チェス記者がカスパロフにコメントを求めたところ、彼は驚いてしまい、即答を避けたとのこと。
04/10/13
 レコは残りをすべて引き分ける方針だろうか。第十一局。ドローだな、と思い途中で風呂に入って、出たらやっぱり17手のドローだった。残り時間もたっぷり。日本では日付も12日のままだった。
 「文芸春秋」もう一回。畏友の指摘で正しいと思ったのは、フィッシャーを羽生が詳しく紹介してくれてるのはありがたいが、「こうしたことまで羽生がやらねばならないの?」。羽生は、小泉首相あてのメールに法務省から返事があったことを伝えている。記事から全文引用すると、「政府としては、フィッシャー氏から帰化申請がなされた場合には、(退去処分取消を求める)訴訟の動向も踏まえながら、帰化の可否について慎重に検討する必要があると考えます」。JCAのページによれば、フィッシャーはまだ牛久に居り、「仮放免許可申請書を提出しましたが3回却下され、4回目を申請中です」。つまり、保釈が認められないということ。「慎重に検討」とはそういう意味か。
04/10/12 紹介棋譜参照
 畏友は昭和初期の将棋雑誌をまとめて入手したらしい。むむむ。
 スペインはビルバオで、人間対機械の団体戦があった。有機物チームはトパロフ、ポノマリョフ、カルヤキン。シリコン・チームはFritz8、Hydra、Deep Junior。結果は人間の惨敗で3.5対8.5。図は白ポノ、黒Hydra。ポーンが組み合う陣形を選べば機械は弱い、という必勝法に人間は従ってa筋を破ったところである。が、以下、Hydraは白の玉頭に襲い掛かった。見事な勝利である。
 羽生善治の記事に畏友は、「一般向けには十分な内容」と評価。私は、「文芸春秋」の8ページは荷が重かったかな、という印象。難しい仕事だが、この雑誌の読者に事件を理解してもらうには、政治的なこと、日本や世界のチェス界についてもっと語るべきだった。フィッシャーの変人ぶりが目立つ記事になったのは、羽生にも不本意だろう。談話を構成したと思うが、編集者も悪い。
04/10/11
 TWICが第九局の結果報告に「Kramnik said he was not feeling well.」と付け足していて、これが「面白くない」ならともかく「体調が良くない」なら情けない話だ。第十局もクラムニクは徹底して初手e4。手を変えてマーシャルを避けたのはレコ、工夫を見せて主導権を握ったのはクラムニク、残り時間にまた差が付いた。25手の段階で白54分29秒、黒15分46秒。しかし、クラムニクは押し切れない。優勢の維持を重視して、決めに行かなかった感じだ。レコの巧妙な自陣のやりくりを読み損なったと思う。かくて35手のドロー。やや中だるみのここ二局である。
 畏友が教えてくれて、「『文藝春秋』最新号に、羽生がフィッシャーについて寄稿してます。8ページ」。そんなわけで、私も久しぶりに買った。「蹴りたい背中」以来である。
04/10/10
 第九局、16手のままドロー。二日続きの日程の場合、先に白番を持つ方が得だという考え方がある。初日に圧力を掛けて相手を疲労させれば、翌日の黒番を楽に戦えるから。カスパロフは、4年前のマッチでクラムニクに敗れた理由として、この点が自分に不利な日程だったと述べている。しかし、レコは簡単に引き分けて、今夜のクラムニクを楽にした。それが得策なのかどうか、私にはわからないが、レコのマイペースぶりが愉快だ。
 欧州クラブ選手権はNAOが優勝。カスパロフのレイティングが世界2位に落ちた場合の、カシムジャノフのマッチの扱いがいよいよ気になってきた。ロシア選手権のカスパロフの巻き返しに注目である。
04/10/09
 ブリッサーゴのおかげで触れられないが、トルコで欧州クラブ選手権も行われている。NAOの連続優勝だと思う。Norilsky Nikelのような名門が経費の問題で出られないあたり、チェス界に暗い影が落ちている。影といえば、カシムジャノフとカスパロフのマッチの候補地はどうなったんだろう。下旬のFIDEの会議の議題になってるはずである。カスパロフは欧州クラブ選手権に出場している。ルブレフスキーに敗れたのが話題になってた。昨年はフズマンに敗れたが、ルブレフスキーとなると大番狂わせとは言いにくい。ただ、今回はポカではなく力負けの内容だ。昨年にせよ今年にせよ、カスパロフがこうした大会に参加するのは、格下の棋士と戦って、少しでもレイティングを維持するのが目的だろう。それが思うようになってない。もっとも、またもやシロフが負けてくれていて、持つべきものは旧友である。
 第九局がいま16手まで。レコは1.d4、クラムニクは、両者が得意なクィーンズ・インディアン。
04/10/08 紹介棋譜参照
 第八局に激闘を期待した私の予想は1.Nf3だったのですが、クラムニクは相変わらずの1.e4で拍子抜け。けれど、それもつかの間、彼の真意がわかって驚きに変わりました。マーシャル・アタックを避けず、横綱相撲でレコを破ろうとしていたのです。しかも昔ながらのPd4とRe1の型で、そのうえ、あっさりクィーンを捨ててきた。研究しつくしているのは消費時間に明らかで、レコの苦吟が続きます。ICCの計測では25手での残り時間がクラムは87分弱、レコは7分強。が、です。そこでクラムの手がパッタリ止まりました。とんでもない手違いがあったようで、30分考えても動かない。レコの必勝形になっていたんです。結局、32手でクラムニク投了。なんともはや。
04/10/06 紹介棋譜参照
 第七局はスラヴ。普通は5...Bf5と指すところ、クラムニクはどう考えても良いとは思えぬ5...e6。アリョーヒンはボゴリュボフやエイヴェにこれをやられてるけど、「理に合わぬ手」と言っており、実際、この二人に3戦全勝している。しかし、それだけにこれがレコの研究を外したのは間違いない。結果はあっさり21手のドロー。クラムに疲労も無く休養も十分だから、第八局、彼の白番は今期の山場になろう。
04/10/05
 アニメのチェスで他に思いつくのは「ルパン三世ヘミングウェイ・ペーパーの謎」。二人の悪玉の対局シーンがあった。
 もうこの歳では遅いだろうとは思いつつ、映画の勉強を始めようと発心し、サドゥールの12巻本の映画史を読み始めたり、昨日は「珈琲時光」なんて見に行ったりした(背中、背中、背中、の映画だった)。サドゥールの第一巻は映画前史を扱っている。いろんな人の貢献があったから、それでリュミエール兄弟はいきなり「工場の出口」のような大傑作で出発できたんだな、とわかった。以前、ちらっとお話ししたマイブリッジなど、妻の浮気相手を射殺してるとか、面白いエピソード満載である。
 そんな映画先達の一人がロジェイという英国人(Peter Mark Roget)。視覚の残像現象に関する彼の研究「垂直の隙間から見られた車輪の輻の外見における視覚的錯誤」(1825)が映画の原理を準備したのだが、サドゥールの注によると、「チェスに関する注目すべき研究を発表した」。この研究が何かよくわからない。畏友の調べでは、1845年に最初のポケット・チェスセットを発明した人なんですと。プロブレムを新聞に載せるという当時では画期的なこともしてる。
04/10/04
 クラムニクの疲労を考えると第六局はあっさり終わるだろう、と思ったら、黒番のレコが指せる棋勢になってしまいました。が、レコの方からの申し入れで20手のドロー。まあ、これがレコなんで、彼のペースになったとも言えます。
 第五局についてもう少し。図は終盤。黒がクラムニクだと思うと、ドローに終わる気がするでしょ。レコのプラン、わかりますか。答えは、@Pe5で黒僧を追い、ABd4でg7の黒王を狙う形にし、B白ルックを8段目に置く。こうなればPe6+からPe7が期待できます。両者にポカは無く、どうも、クラムニクが2002年の実戦例を離れた23手目が悪かった、ということになりそうです。
 久しぶりに「天空の城ラピュタ」なんて見たら、海賊の女親分と船の機関長がチェスをしてる場面が出てきました。宮崎駿の言では、同年齢の機関長のおかげで女親分も孤独ではない。
04/10/03 紹介棋譜参照
 第五局。初手e4を先に断念したのはレコだった。それもクィーンズ・ギャンビットで、これはレコにとってほぼ未経験の新手に等しい。変身は彼らしくないが、それだけにクラムニクの研究は外したろう。図で16.Bxa6が印象的な2001年のドレーエフの手。16...Rxa6に17.b5というアイディア。2002年にカルポフがアナンドに使った手でもあり、カルポフらしからぬ華々しさだったので私も覚えている。白がポーン得になるが、それで勝ちきれるかどうかはわからない。ちなみに、カルポフは114手のドロー。本局も23手までこの対戦をなぞり、クラムニクが手を変えたが、25手まで実戦例があった。盤上の駒は少なく、すでに終盤である。ポーンの配置からして、駒損でも引き分けられる、というクラムニクの判断は正しいように見えた。が、である。投了したのはクラムニクだったのだ。終局は第一局と同じ日本時間の午前4時半。ぜったい勝ちたい、と思ったレコは強い。
04/10/02
 第四局もドロー。クラムニクの圧力は悪くなく、ポーン得のルック・エンディングになったが、レコの受けに安心感がある。初手e4のままでは両者、膠着状態が続きそうだ。でも、そろそろ名局をもうひとつ注文したいタイミングである。クラムニクは初戦でとことん疲れてしまったらしく、インタビューの表情も敗者以上に憔悴していたが、もう回復してるだろう。
04/09/29
 第三局は23手でドロー。レコはクラムニクのペトロフを崩すのが大変になってきたか。畏友は「カスパロフのときのベルリンのようなことになってますね」。そう、4年前のマッチで、カスパロフはクラムニクのベルリン・ディフェンスを破れず、それでタイトルを失うことになった。ただ、あのときのカスパロフはクラムニクをもっと追い詰めていた。レコはペトロフ対策の手がかりさえつかめていない。無論、まだ先は長い。
04/09/28
 こないだご紹介したMate in Twoの解説は、いま練習問題を解いてるところ。簡単でしかも魅力的な選題になっており、ぜひお試しを。絶妙手を嘆賞するのは古い鑑賞法で、「現代の作品は、時計の蓋を開けてみるように、精密な機械仕掛けのメカニズムを鑑賞することが求められる」とのこと。練習問題の五番に、その雰囲気程度は感じることが出来た。ヒントのおかげで作意はすぐわかって、それを確かめるようにして正解を見つけたのだけど、見つけながら「へえええええ」。なお、若島正個人のページに更新があり、こないだの十位については案の定、「まあこんなものか、という成績」という言い方だった。
 日本時間の夜11時で第三局は白の21手目。黒クラムニクはまたペトロフ。白レコが16手目で手を変えて第一局から変化した。クラムの消費時間は6分にも満たない。レコは120分のもう半分を使い切っている。
04/09/27 紹介棋譜参照
 いま第二局が進行中、スパニッシュですが、マーシャル・アタックを白が避けるようになったおかげで、10年前には考えられない進行が流行ってます。現在、0時10分、黒が18手目を考慮中。残り時間は両者とも50分台ですが、15.f4あたりから黒が悩み始めてます、、、ドローになりました。
 図は第一局の決め手45...h6の瞬間。白46.Qxh6がダメなのはわかりますね。ここからの黒の構想がわかりやすく、ようやく私にも勝負が決まりそうな気がしてきました。すなわち、Kg7、Rf6、Rf4の形に組めば、白fポーンを取れる。クラムニクらしい堂々たる終盤でした。本局、序盤も素晴らしい。25手までICCの計測でたった18分、ほとんどクラムニクは時間を使わない。しかし、局面は駒損。研究手順が破綻したとしか思えない。レコの攻めも見事だったし。けれど、まだ研究範囲の内だったんです。31手で観戦者サトフスキーがついに「黒が良い」と発言。本当に驚きました。
04/09/26
 昨日の記事を自分で書いてから「あれ?」と気になって、畏友に問い合わせたら、案の定、若島正は昨年の大会では6位である。私の喜び方は変だったかもしれない。
 さて、待ちに待った四年ぶりの世界王座戦がスイスのブリッサーゴで始まりました。王者クラムニクに挑戦するのは、長い持ち時間で彼に2勝1敗23分と勝ち越してるレコ。ちなみに、この両者に勝ち越してるのはたった一人で、それはシロフというのも面白い。彼はトリポリ大会はもちろんこのマッチの意義も認めてない。これまでの経緯もあり、気持ちはわかる。ChessTodayのスタッフは、多くがクラム防衛を予想。私も同感。序盤の準備、終盤の実力、勝負師としての精神力、いずれもクラムが上だと思います。セコンドにバレーエフとスヴィドレルが居るというのは、レコに申し訳なくさえある。でも、相性は馬鹿にならないし、レコ陣スタッフも相当だ。どっちが勝っても僅差でしょう。
 全14局の第1局。日本時間の昨夜十時に始まるはずが、三十分ほど遅れてじりじりしました。まあ、四年も待ったのですからいいでしょう。終わったのが朝の四時半。クラムニクが黒番で先勝。この一局だけでトリポリの全局をしのぐ名局でした。くわしくはまた明日。日本では将棋の掲示板までトリポリトリポリトリポリと話題にしてくれたのは有り難い反面、こんなものがチェス界の最新情報として伝わってしまったのは残念でした。まともな大会を見て欲しいものです。

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