紹介棋譜 別ウィンドウにて。
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ロシア選手権でカスパロフ復活、升田幸三とGHQ、森内と渡辺の竜王戦。

04/12/17
 古い話だがうっかり言い忘れてた。ロシア選手権の優勝者カスパロフには象牙の駒が贈られた。ただの象牙ではなく、マンモスの牙である。白駒はもちろん黒駒もマンモス製で、着色されたツゲ材を使って黒くしてある。Oleg Raikisという彫刻家がこれを作るのを得意にしてるようだ。
04/12/16
 竜王戦第六局。テレビ中継は解説の小林健二が渡辺明の勝勢を伝えて終わった。森内俊之竜王の玉は薄く、敵銀3枚と桂馬に包囲されており、私も小林解説を当然と思った。しかも、その解説どおりの進行である。けれど、結果を確認したら森内が勝っていた。深夜の放送を見ねばなるまい。
04/12/15
 『名棋士名勝負』は木村義雄で始まる。済寧館の4七金が紹介されていた。何度みても力強い。でも、ここで引用したいのは木村の発言である、「ぼくは戦争に協力したし、敗戦という事実をぼくなりに反省した」。たしかに、木村は戦地を巡って兵士を激励する講演をした。
 GHQが将棋を禁止しようとした話は先月に触れた。正直なところ、私には現実感の無い話である。わざわざGHQがこんなことをするか。また、するならするで、升田幸三の屁理屈くらいでGHQはあっさり方針を変える組織なのか。
 何かはあったんだろう。升田がGHQと交渉したことまでは私も疑わない。で、思いついたのだが、木村の戦争責任をGHQが追及しそうな予感があったのではないか。そこで、升田は木村の弁護をしに行ったのだ、という仮説はどうだろう。追記、05/01/03に続く。05/10/10も参照。
04/12/14
 天狗太郎『名棋士名勝負』を古本屋で見つけたので、有名な逸話をここから。私は畏友に聞いた。小野五平は明治の初めに、帰朝した森有礼からチェスを習い、その場ですぐに森に勝った。その後、西洋将棋指南の看板も掲げたようだ。竹内淇洲『将棋漫語』に載ってる話とのこと。私は竹内を知らない。西洋人を相手にすれば、将棋以上の教授料を見込めたろう。これが小野のチェス指導の動機ではなかろうか。昭和22年から24年まで坂口允彦がチェスに転向してA級順位戦を休んだことがあるが、戦後ということを考えると、似たような事情があったかもしれない。じゃあ木村義雄はどうだ、木見金治郎は、と気になるが、このあたりは畏友の領分である。追記、竹内淇洲は関根名人とも交流のある立派な人でした。本には「将棋漫語」とあるが「将棋漫話」が正しい。
04/12/13
 畏友は日本の近代チェス史をこつこつ調べていて、映画「風と共に去りぬ」のメラニーと日本のチェス黎明期にちょっとした因縁があることなど、私は教えてもらってる。最近は横浜に当りを付けて、居留地の新聞に明治期から連載されていたチェスコラムを調査中。いつか成果をまとめてくれるだろう。足と目で情報を稼ぐのが素晴らしい。
04/12/12
 日曜の仕事とはいえ午後から出かければいいので、10時まで寝て寝不足を解消。蒲団の中でNHK将棋講座を見る。講師は久保利明だが、いま思い返すと、顔を盤の方ばかり向けていた気がする。口調もぼそぼそ。内気な人なのかな。
 NHK杯の対局は丸山忠久と山ア隆之。山アの将棋は面白い。モロゼビッチ風だ。今日も平らな美濃囲からまず7四歩、そして7三に角を転換させる珍しい指し回し。玉も厚いとはいえない。丸山は相変わらずの穴熊、しかし、山崎の勢いに押され、崩壊してしまった。昔の丸山を知る者としては、感想戦で彼がよくしゃべるのも意外で、成長したというよりは, 彼の時代が終わったんだな、と思わされた。
04/12/11
 昨日の本欄を読んでくれた畏友からメール。「"36人"は"32人"では?」、いけねえ。雑誌には「36人」とあったものの、この記者のミスかもしれない。それより、まったく変だと思わなかった私の恥だ。おまけにKass様の名まで間違えてた。他にも誤記があり、申し訳ありません、訂正します。疲れてんだなと自覚しましたが、明日も仕事なんですよ。
 いかにも「うたうだけのいきもの」という表情のバーバラ・ジェフォードが印象的な「そして船は行く」にも対局シーンがありました。フェリーニもチェス出現率が高い監督のようです。
04/12/10
 私は身だしなみに気を使わない男なのだが、「流行通信」という女性のファッション誌が気に入って、半年ばかり買い続けている。一月号の小さな記事でアレキサンダー・マックィーンのファッション・ショーが紹介されていた。「36人のモデル」が半分に分かれ、向き合い、市松模様のステージに立った。記事のコメントは「これがチェスだと気がついた取材陣ははたして何名いたか?」。ファッション界とチェスといえば、やはり、エストニアのチェス協会に言及しないといけない。今年、新会長に選ばれたのはKarmen Kassである。
04/12/09
 フェリーニ初の長編カラー作品「魂のジュリエッタ」は鮮烈な白色が印象的だ。ちらっとチェスセットが出る。前に触れた「インテルビスタ」についで二度目。
 カスパロフとカシムジャノフの一月のマッチは流れてしまった。予想できたことで、驚きは無い。候補地のドバイが十分な資金を揃えられなかった、とのこと。春のトルコが次の候補地に上がっている。私だけが気をもんでいた、カスパロフのレイティング降下もロシア選手権でひとまず落ち着いたから、この延期それ自体は大きな問題ではないと思う。気になるのは、世論やACPの動向によって、このマッチの意義がどう揺れたり固まったりするかで、これはまだ想像もつかない。
04/12/08
 ようやく私も見る気になり始めた竜王戦は第五局、後手森内が意表の陽動振り飛車。しかし、解説者がどんなに難しがってくれようとも、昨日の封じ手の段階で私の目には惨敗が想像できた。案の定、二日目の三時に投了。またもやテレビ中継が始まる前に終わってしまった。
 アメリカ選手権が行われ、ナカムラが5勝0敗4分のトップで終了、同点者とのプレーオフにも勝ち優勝した。カムスキーが2勝0敗7分で14位だったことも付け加えておこう。
04/12/07
 11/28で触れたカスパロフのインタヴューから、私は彼が引退を示唆するような発言を紹介したが、他にも、「花道」を求めてるような言い方があり、対局より執筆に慰めを見出している様子がうかがわれた。その後、新しいインタヴューがあった模様で、ChessTodayやChessBaseで紹介されている。こないだのロシア選手権を語ってるだけに、打って変わって、自分で撒いた引退説を自分で吹き飛ばす怪気炎だ。私の筆でざっと要約すると、「2002年のリナレス以来の優勝さ、調子はまあまあってとこだったんだが、相手はみんな、俺のこわさを思い出したようだよ。もしクラムニクが出場してたって、優勝は私だったさ。だって、彼は二勝か三勝がせいぜいだろ、俺は五勝もしちゃったからなあ。ん?2006年のオリンピアード?出るさ、当然だろう」。古来、畳の上で死ねた世界チャンピオンは少ない。
04/12/06
 昨夜は「Mr.インクレディブル」なんて見に行ってました。穴熊とCGが嫌いなこの私が。今月上旬はろくな映画が無さそうでしたから、しゃあない、ピクサーを一つ見ておくのも勉強か、と。こんなこと書いてると暇なようですが、私が日曜に映画を"見なければならない"状況というのは、結構いそがしいんです。さて結論。最初はイッセー尾形や貞子が出てくるので面喰らったのですが、面白かったー。画像技術は最新です。でも、敵地に潜入する身のこなしや、格好つけて着地するあたりの演出はすべて栄光のハリウッド映画、この伝統芸がうれしかった。「ロードオブザリング」や「マトリックス」はどちらも二作目を早送りで見飛ばすほど絶望していたものだから、アメリカ映画がこんな0と1だけで作られた役者の身体に宿っているとは望外の発見でした。無論、古臭いばかりの作品ではありません。母親役の体が変形するのが面白く、ドアにはさまる場面は類例が無さそう。また、彼女が子供を包んだり、パラシュートになったりして守る場面に、妙に母性がこもっていて泣ける。男の子が水上を走り、自分自身の新鮮な能力に驚く瞬間も良い。それは我々の驚きを代弁してくれている。強いて難を言えば、子供向けとは思えぬことか。サラリーマンの悲哀や、ヒーローが暮らしづらい世相とか、面白く思えるのは20代後半あたりからだろう。
04/12/04
 読売新聞の将棋欄はいま竜王戦第三局。対局者の大局観の違いなどが面白く、日を追うに従って私も熟読するようになった。今日の譜は終盤、渡辺に敗着が出た場面。急に楽になった森内の思考が余裕を見せる。相手陣の桂香歩だけの軽い囲いを見ながら「まるでチェスの陣形のようだ」、さらに、こんな形で粘ってみせる渡辺について、「チェスを始めれば才能があるだろうな」なんて思っていたのだとか。
04/12/03
 今度からリナレスの賞金は順位によって決まる、という話を聞いた。これによって引き分けは減るだろう、とのことだけど、今までが何だったんだ?
04/12/02
 以前、フリーメーソンと関連して触れた、チェス盤の白と黒の市松模様、あれは、闇と光の戦いを象徴する、とのこと。なるほど。
04/12/01
 昨夜は神戸で遊んで更新がお休み。ル・パッサージュというフレンチの店。六月に行った時は、炭栽培で作った野菜のサラダがむちゃくちゃ美味かった。畑に数トンの炭を積んで土をきれいにしながら作ると、味がクリアになるんですと。今回は季節が外れてそれを食べられなかったのが残念ながら、あぶらめのポワレが面白かった。高めの店なので、まずはランチで試すのがお薦め。
 帰宅して皇帝陛下の掲示板を見ると、Keres65さんの呼び掛けがあって、NHK「趣味悠々」でチェスを採り上げてもらうよう、葉書を書こう、とのこと。"150−8001、渋谷区神南2−2−1、NHK放送センター「趣味悠々」御中"まで。私も出して見ます。畏友も趣旨には賛同してくれるでしょう。
04/11/29
 畏友に言われては仕方ない、竜王戦第四局を知るべく「囲碁将棋ジャーナル」を見た。横歩取りである。63手まで王座戦第四局と同じ進行で、64手目に新手を出した渡辺が96手で勝ったとのこと。しかも、その新手は、すでに王座戦の感想戦で触れられていたらしい。勝負を決める好手3七歩が70手目に出て、これは渡辺自身が「盤上で考えた」と述べてるとはいえ、研究の下地があってこその勝利だろう。3七歩から収束まで、畏友の「渡辺明は強いですね」に同感である。
 問題はファンの反応だ。64手目が新手では、まるで33手しか対局者は指してないように見る向きも多いのである。チェスではありがちな勝負で、実戦例のあるまんまの序盤で合意のドローに終わることさえ珍しくない。たしかに歓迎できる事態ではないのだが、ただ、チェスより優秀なゲームである将棋ファンの大和魂にとっては、さらに倍層して許しがたい不始末だろうと、やるかたなき心中をお察しする。
 私は自分のページで今回のようなタイプの棋譜を紹介することが多く、その経験から思うことがある。この一局の63手までの流れだけでも充分わかりづらいが、さらにそれを王座戦の段階の63手とそれ以後の横歩取りは勿論いろんな勝負をふまえた上で理解するのはとても難しい。一言で言えば、厳密には63手までまったく新しい将棋なのである。で、対局者をまあ勘弁してやろうか、と思う。
04/11/28
 「どうせ」と思って最終日は観戦しなかったが、好勝負が多かったようだ。二位グリシュク、三位ドレーエフという結果も私にはまずまず。最年長のチェシュコフスキーは11人の最下位に終わったが、常に活発に戦ってくれたことを忘れまい。むしろ、四位のモロゼビッチに苦言を呈しておきたい。
 New In Chess 7号にカスパロフの長いインタヴューがあり、「チェスの世界で私はすべてのことをやった。率直に言って興味を失いつつあるんだ」との発言をしていた、が、すぐ続けて、「でも機会を与えられれば、うん、絶好調にして戻ってあげるよ」。久しぶりに、言ったとおりにしてみせた。
04/11/27
 もう随分の昔、アゼルバイジャンの国情が危険になって、カスパロフは国を出た。小さいながら日本の新聞でも書かれ、私は友人達から話を振られたものだ。いま、ウクライナが選挙の結果を巡って揺れているが、ポノマリョフとかイワンチュクとか、どうだろう。ただ、ニュースを見てると、政府も反体制側も武力解決は望んでないらしい。こうした心配の有無が、現状でのチェスと将棋の違いであり、これは、取った駒を使うかどうかなんて問題よりもずっと大事である。
 ロシア選手権、第10R、グリシュクはコロティエフに敗退。コステニュクはトレーナーに問題があるのではないか、と私は思っていたのだが、少なくとも、彼が弱くないのは認めることにしよう。しかしこのおかげで、最終11Rを待たずにカスパロフの優勝が決まってしまった。1994年のカルポフのリナレスでの復活と比べると、物足りない面もあるが、存在感は十分にアピールできた大会である。
04/11/26 紹介棋譜参照
 第9R、カスパロフが止まらない、四連勝だ。白ティモフェーエフに覇気が感じられず、持久戦調の駒組みをぼーっと見てるだけで、もうカスパロフの貫録勝ちが予想でき、私は観戦する気が失せたほど。対して、面白かったのはグリシュクで、バレーエフのカロカンをパーノフ・ボトヴィニクから駒を捨てて攻め続け、最後は駒得の終盤にもっていき、首位との差を広げさせなかった。紹介棋譜はこれにしよう。二人の対決は最終日の予定。
 畏友が竜王戦第四局を見て、「渡辺明は強いですね」。多くのファンにとって、彼の強さはわかりづらいと思う。私は羽生も谷川も出ない竜王戦には興味を持てずにいる(これまでの16期でたった二回しかない)。盛り上がってるのかな。主催紙の読売新聞ではいつも棋譜が社会面に載るのに、今期は場違いな地方欄の空いたところに埋め込むような扱いだ。
04/11/25
 第8R、白カスパロフの1.d4に、黒スヴィドレルは十八番のグリュエンフェルドを使う勇気が無く、初めてのスラヴを採用。黒のdxc4に白はa4でなくe4、これは黒もb5が可能です。どうだろう、と思ってると、ややカスパロフ有利で終盤へ。そこでどちらもミスしたものの、やはりこの分野ではスヴィドレルが劣るようです。かくてカスパロフは三連勝。二位グリシュクに一点差を付けました。
04/11/24 紹介棋譜参照
 連日の紅葉狩で疲れ果て、連続更新が昨日で途切れました。せっかくですから画像を。上が実相院、下が浄瑠璃寺です。ちなみに私の最高の思い出の紅葉狩は保津川の河くだり。
 さて第6Rのカスパロフ対ドレーエフは、私の期待以上にカスパロフが入れ込んでました。ドレーエフの得意定跡を研究し抜き、駒の損得が難しい変化に突入、もちろん、ドレーエフも自信満々で受けて立つ。さて、新手を披露し、さらに意欲的な戦いを続けて優位に立ったのはカスパロフでした。近年は優位を終盤で失うことの多かった彼も、この日は見事に指し回し、久しぶりの横綱相撲。第7Rも絶好調で、古女房のスヘヴェニンゲンにもっていくと、図から20...exf5。対するチェシュコフスキーも黙っておらず、激しい戦いになりました。結果はカスパロフの連勝。どちらも紹介棋譜に相応しい。これで単独トップです。訂正、新手はドレーエフでした。
04/11/22
 今日は23時30分に帰宅。「ハウルの動く城」を見てきた。ロシア選手権第6Rはいろいろ言いたいことがあるが、残り30分では仕方ない。新作発表が国民的行事になってきた、宮崎駿のこの映画についてざっと。不満が多く残る。まず、絵では、火になった悪魔が火らしくなかったこと。いくらか厳しく言えば、赤いもやもやでしかない。それから、世界観がしっかりしてない。たとえば、なんで戦争が始まり、どうしてあっさり終わるのか、ほとんどストーリーと関係が無い。「ナウシカ」や「もののけ」のいくさと比べれば明瞭である。他にも、首を傾げるところが多々ある。ただ、それでも絵は良い。最初のハウルと主人公の出会いの場面には夢のような広がりがある。また、「ナウシカ」の王蟲と「ハウル」の城を比べると、私は前者を愛しながらも、後者の技術が各段に進歩してることを認めざるを得ない。これらだけでも見る価値はあったと思う。最後に。以前、「千と千尋の神隠し」と「第七の封印」でキャラクターの類似を言ったことがあるが、今回は、「うる星やつら」の案山子の三四郎さんを思い出した。ちなみに、彼が登場する回には"猫バス"も現れる。「トトロ」の方が後ではないか、気になるのだが調べずにいる。追記あ、あとそうそう、私は「2046」の木村拓哉に文句を言ったが、ハウルはとても良かった。原田大二郎には「?」。すべてを捨て、この作品から芸歴を積み直す気なのだ、としか思えない。
04/11/21
 ロシア選手権第5R。白ドレーエフが黒コロティレフのQ翼に執拗な圧力を掛け続け、ついに押し破った。グリシュクと並んでトップである。一勝差の二位がカスパロフで、次にドレーエフと当たる。私の見たかった組み合わせが良い流れで実現した。ほか、バレーエフが得意のフレンチで勝った。敗れたチェシュコフスキーも活気のある戦いを挑んでくれた。
04/11/20
 長らく黙っていたのですが、チェス・ファンを喜ばせたく、やっぱ、ちょっとだけ話します。何度か私が触れていたエドモンズとエーディナウによるフィッシャーの伝記"Bobby Fischer Goes To War"、この翻訳を、こころざし高き、ある出版社が進めています。版権も取れました。訳者だって、この種の翻訳の力は未知数ながら、十分期待できる方です。とりあえず、こんだけ。詳しくは畏友に聞け!
04/11/19
 第4R、グリシュクが好調。チェシュコフスキーを降して単独トップ。図は最後の場面。h6ポーンを見ればわかるように、ここまで白グリシュクがじわじわ押し込んで、黒に無理な捨駒を強要させている。こんなこともできるようになったんだなあ。図の55...b5は読み筋だったろう、技を決めた。まず56.Rxc5と切って、56...dxc5に57.Rd1で黒投了、わかりますね。
 惜しかったのがカスパロフ。相手のモティレフは得意のペトロフで、白が中央をポーンで突き破れるかという戦い。結果はカスパロフが勝勢を築いたものの、モティレフも諦めず、最後でカスパロフがしくじった。76手まで戦い、白ポーン得のルーク・エンディングでドロー。ほか、ドレーエフは短手数のドローが続く。モロゼビッチ対スヴィドレルも面白くなりそうだったが、駒の交換が進んで25手でドロー。
04/11/18 
 モロゼビッチが連敗。相手は今年60歳のチェシュコフスキー。この第3Rはスヴィドレルも負けており、有力者受難の日だった。観戦の余裕が無く、こんなことしか書けないのがちょっと残念である。
04/11/17 
 今大会の私の楽しみの一つは、桧舞台に上ったドレーエフを見ること。第2Rは「次の一手」のような技を決めて快勝。相手がモロゼビッチというのが複雑ですが、まあ、喜んでおきます。他の4局はドロー。
04/11/16 紹介棋譜参照
 ロシア選手権、多くの人がクラムニクの欠場を非難してるらしいが、本欄はそれに組しない。ただ、彼の不在で今大会の価値が失われたのは確かだ。けど、それでも凄い大会である。
 第1Rは、カスパロフがバレーエフのカロカンを下したのが大きい。形勢判断が難しくって、ChessTodayでは図の21.b3の段階でやや白が良いとのこと。カスパロフは微差を維持して終盤へ。K翼に白ポーンが1個、黒ポーンが4個、Q翼に白が3個、黒が0個という形になり、Q翼の優位が大きく、これで決まった。全盛期を過ぎたとはいえ、彼を優勝候補から外す人は居ないだろう。ただ、体力が続くかどうかが問題だ。
 他にスヴィドレルとグリシュクが勝った。派手な後者を紹介棋譜に。モロゼビッチは惜しくも勝ちきれず半点に終わった。相手のエピシンが堅実に粘ったという印象である。
04/11/15
 仕事が忙しくなってます。更新がピンチ。ロシア選手権も観戦が減りそう。"The Chess Biography of Marcel Duchamp"の第二巻が出ていて、これはどっちかというと、私より畏友の分野であり、彼は入手した模様。いわく、扱ってる時期は「1926〜1930という黄金期。当時の雑誌からなど、丹念に軌跡を追っていますが、新棋譜や踏み込んだ資料は、なかなか発見できないようです」。
04/11/14
 米長だけの問題ではないのだ。多くの将棋ファンが「取った駒を使うルール」の民族主義的教説を奉じている。升田だって例外とは言いにくい。
 ここらで映画のムダ話を。「笑の大学」を超えるのはそう無いだろうと思っていたところ、金基徳(キム・ギドク)「春夏秋冬そして春」がさらに良かった。一人の小坊主が歳をとってゆく毎に、子供の罪、若者の罪、大人の罪を重ねてゆくオムニバス。しかし、映画の中心は、彼の師匠役(西村公朝を思い出した)の好演と、舞台となる寺を包む自然の静かな美しさだ。冒頭、寺の全景が初めて写るまでの数分で早くも感激してしまった。しかも今月はまだ後に「ハウルの動く城」が控えている。
04/11/13
 GHQと升田の応酬は将棋版「笑の大学」といった趣がある。GHQの准将は升田を気に入ってしまい、これが縁で将棋とチェスの交流戦まで企画されたとのこと。仮に升田の作り話だったとしても、愛でて良い。あの時代にあの役者でこその逸話である。いま米長邦雄が「NHK人間大学」で講師を担当しており、その第一回放送でも紹介され、升田の発言が高く評価されていた。しかし、テキストから引用するが、「占領下という時代の刻印はあるにしても」という但し書きを付けての評価だ。米長は言葉を生き生きした舞台から切り離したいのだ。将棋のルールには敵を殺めぬ「寛容な日本人の精神」や「日本人のすばらしさ」が表れている、という抽象論へと言葉は浮いてしまうのに、でもそれが彼の意図なのだ。せっかくの牧歌的な小話が、米長のフィッシャー並みにお粗末な政治感覚によって、グロテスクな民族主義に染められた。かつて大日本帝国の持ち駒にされた人々はそんなに幸せだったのだろうか。
04/11/12
 東公平『升田幸三物語』に、升田がチェスと将棋のルールを比較する場面がある。事実かどうか、畏友は知りたがってる。こんな話だ。GHQが将棋を禁止しようとして、「日本将棋では、取った駒を自軍の兵隊として使用する。これは捕虜の虐待で国際条約違反だ」と主張した。それに反論して升田が言うのだ、「日本の将棋は敵の駒を殺さない。常に全部の駒が生きておる。これは人の能力を尊重し、それぞれに働き場所を与えようという正しい思想である」。
04/11/11
 来週から始まるロシア選手権、その名もスーパーファイナルを楽しみにしていたのだけど、早くもクラムニクが脱落。三日付けで書簡が送られ、それによると主治医の所見では、強いストレスを感じており、二ヶ月は大会に出られそうにないとのこと。レコとのマッチが死闘だったのはたしかだが、思ったより丈夫な人ではなさそうだ。二年前にディープ・フリッツと戦った時もすぐ疲れてしまった印象がある。
04/11/10
 これといった良い名局集が無いチャンピオンというと、クラムニクはまだ当然として、やはりペトロシアンとスパスキーということになろう。二人のマッチの本をアマゾンで注文したら、どうも品切れのよう。しかし、カスパロフ『Predecessors』第三巻が届いた。これが二人を論じてくれているのだ。他にグリゴリッチ、ポリュガエフスキー、シュタインが採り上げられている。
04/11/09
 瀧口修造の本を私はかなり揃えている。初版の『近代芸術』はもちろん、世界初のミロ研究書『ミロ』や、美しい『ミロの星と共に』、黒い紙に黒く印字した『地球創造説』などなどで、『マルセル・デュシャン語録』もそのひとつ。久しぶりに開いたら、「幕間」のチェス盤が出てきて、これは忘れていた。ざっと読み返した印象は昨日と同じ、「デュシャンは高貴だ」。
 昨日の売店で買ったのは図録で、これはなかなか良い。それから『マルセル・デュシャン全著作』。その自作解説で「チェス・ゲーム」について「セザンヌの影響」と言ってるのはなるほど。他に「チェス・プレイヤーの肖像」「急速な裸体に囲まれたキングとクィーン」を語っている。「裸体No.2」とマイブリッジの関連もわかりました。
04/11/08
 大阪は中之島の国立国際美術館、マルセル・デュシャン展に行った。入り口に高さ約2メートルの巨大なカラス像が展示してあって、この駄洒落がわかるかどうかが来訪者へのごあいさつだ。そして、最初の部屋に入ると二つの「チェス・プレーヤー」と、以前、本欄で触れた「階段を降りる裸体No.2」がある。売り場にはカリム・ラシッドのチェスセットも売られていた。現物を見ると、そんなに悪くない。
 「泉」は現物が失われてるのでつややかなレプリカが置かれている。長らく私は、便器を美術館に置くことで、便器は通常の文脈から解き放たれて意味を失い、オブジェに変貌する、と思っていた。しかし、文脈を外れたことで便器はますます便器になりきる、と考えるべきだ。これはオブジェの逆説である。「嘔吐」の有名な根っこの場面を想起してもいい。サルトルが「ただの存在」として根っこを書けば書くほど、それは「根っこ存在」として表現されてしまうことに気が付くべきだ。
04/11/07
 ChessTodayによれば、まず、カシムジャノフ対カスパロフのマッチは来年の一月十四日から予定されてるとのこと。当初より一週間の遅れが生じてるが、これはカスパロフの要求を容れたのだとか。それから、フィッシャーの裁判、次回は一月十九日だそうだ。
 マッチが本当に成立するか、まだわからない。それに、私はこのマッチの勝者がクラムニクと戦うことをあまり望まなくなってきた。なぜなら、下手に世界チャンピオンのタイトルが、FIDEのと統一された場合、あの愚劣なトリポリ方式の対局設定を継続して、FIDEは将来の王者も決めようとするに違いないからだ。それではどうせまた分裂するのが目に見えている。
04/11/06
 「笑の大学」は、検閲官と喜劇作家の二人芝居で、前者の指導に従って後者が台本を何度も書き直してゆく物語だ。通常はそんなことをすれば台本は骨抜きにされるものだが、逆に、どんどん面白くなってしまうのが楽しい。検閲官の言いなりになればなるほど、検閲官の意図を裏切る台本になるのだ。これが喜劇作家のドラマツルギーである。要するに検閲の脱構築だ。十年前にラジオ劇として完成していたこの作品が、ポストモダンの産物であることは疑いない。これが権力への抵抗なのだ、と喜劇作家が演説する場面もある。しかし、こうした語法は本質的に抵抗者よりも権力者の基本定跡だろう。「平和を守る」という約束を遵守することが宣戦布告につながるケースの多さを思えばいい。
04/11/05
 あらかじめ言うと、決してムダ話ではない。最後はちゃんとチェスの話題になる。「笑の大学」がとても良かった。役所広司が熱演してくれた。喜劇映画に必須の「人間っていいな」を感じられる。私は役者の顔に演技する悦びがあふれてる映画が大好きで、たとえば「から騒ぎ」がそうだけど、この「笑の大学」の役所広司は「演技する悦びをあふれさせる演技」をしてくれた点で心に残る。稲垣吾郎はひどかった、でも、ご祝儀で努力賞をあげてもいい。監督の星護はこれが初めて撮った長編映画だとか。もともとテレビの人で、おお懐かしい、「IQエンジン」を作ってたのかあ。ちなみに、短い映画では「世にも奇妙な物語」の映画版で「チェス」を撮ったのがこの人。忘れよう、忘れてやろうではないか、諸君。
04/11/04
 昨日の読売新聞にフィッシャーの記事が出た。1992年の対局写真付きで、扱いも大きい。何より、比較的好意的な内容が嬉しい。記者は国際部の角谷志保美。それによると、裁判が二日に始まった模様。フィッシャーは「個室で革の特製チェスセットを開く日々」とのこと。

戎棋夷説