05/03/16に戻る
第162回国会参議院外交防衛委員会(平成17年3月15日)

榛葉賀津也委員
 「日本はどういう国なんだ?」と外国から不審に思われている事件がある。日本が目指す国際連合の常任理事国入りを進めるうえでも悪い印象を対外的に与える事件だ。それは、日本ではあまり注目されてはいないが、チェスの名人ボビー・フィッシャーさんに関する事件である。彼は欧米では将棋の羽生と野球のイチローを足して割ったような超有名人である。昨年の4月に日本に入国し、6月の時点でアメリカからパスポートの無効措置を受けたことが判明した。7月に日本から出国しようとしたところを収容され、現在は強制退去を求められている。パスポートが無効になった理由は1992年、アメリカの経済制裁の下にあったユーゴスラビアでチェスのチャンピオンシップマッチがあり、それに勝利し、そのスポンサーから賞金を受け取った。これが当時のアメリカの法律に反するということで、パスポートが無効になった。
 フィッシャー氏は本国以外に送還されたいということを望んでいる。先月にはアイスランドがパスポートまで発行して受け入れを認めているが、法務省は本国送還が原則であり、アイスランドに行ってはいけない、と言う。現在収容生活が8ヶ月に及んでいる。アメリカのパスポート無効措置にも、手続き、タイミング等、不可解な点があるが、それはアメリカの問題であるから措くとして、今日は法務省の方もおられることだし、日本の入国管理法に限定して質問したい。
 まず確認したい。多くの専門家も言っているが、強制退去に関しては国外退去を第一の目的とし、退去させる場所はその次の問題である、というのが大前提、大原則である。 この点を確認したい。


法務省三浦正晴入国管理長
 入国管理法の53条に送還先の規定がある。その第一項によると、強制退去を受ける者の国籍または市民権の属する国に送還される。それが出来ない特別の場合は、第二項の規定があり、それ以外の国に送還することもありうる、ということになっている。

 日本政府は「国外に出て行ってほしい」と言っており、本人も「出て行きたい」と言っている。受け入れてくれる国もある。大原則の部分で問題が無いのに、日本政府はフィッシャーさんに対し、「アイスランドに行ってはいけない。アメリカしか行けない」と言う。二義的な「送還先をどこにするのか」という問題で争っているのが現状だ。
 昨日、私がレクチャーを受けたところ審判課長さんは、「送還先を自由に選ばせると、『テロ支援国家に行きたい』と言った場合が問題になる。これが大前提であり、フィッシャーを例外扱いにはできない」と言った。こんなことがいつから行われていたのか。


 テロリストのためにこの53条が出来たとは私も理解していない。いま問題の人物がテロリストであることはまったくない。しかし、テロリストを送還しなければならない、ということを想定した場合、送還先を自由に選ばせると問題が生じることはありうる。

 そうしたことを担保する法律は無い。運用でやっている、テロリストが自由に行きたい国に行ってもらっては困る、そういうわけですね。

 テロリストであろうとなかろうと、退去強制手続きは入管法によって行われる。それは53条によって行われる。

 53条についてお伺いしたい。フィッシャーさんはアイスランドに行きたいと言い、アイスランドは入国居住許可、パスポートまで与えている。しかも、フィッシャーさんは自分で航空券を買って自費出国すると言っている。税金を使ってフィッシャーさんを8ヶ月も収容している。本人は出て行きたいし、日本政府も出ていってほしいのだから、出てもらうのが、納税者としても、法のルールとしても当然だと思う。
 53条の対象でない場合は本国に送還されなくてもいいんですね?昨日のレクチャーによると三点、ルールがある。「UNHCRの関与がある場合」、「 本国が受け取りを拒否している場合」、「本国が戦争状態にある場合」、そうですね。


 確かにそのとおりです。

 この三点以外で本国以外に送還された例は無いと聞いたが本当か。

 そうした資料を渡したが、国籍国以外に送還された例はある。退去強制令書を発布した後に第三国から難民と認定された例だ。また、退去強制令書を発布した後に第三国の人と結婚したという例もあり、それは本人も自分が難民であるという訴訟をしていた例だが、結婚相手の国籍国に送ることになった。

 今の説明のイラン人の場合、日本での申請では難民とは認められなかったが、カナダ政府が認めてくれてカナダに行った。クルド人の場合でも、日本での申請では難民とは認められなかったが、結婚相手の国であるアメリカに行くことが出来た。どうしてフィッシャーさんの場合だけ、こうしたことが認められないのか。

 これまでの例外は、第三国から難民と認定された例、また、本人が難民であることを主張し訴訟し、第三国の人と結婚しているという家族的な結合に配慮したからである。

 フィッシャーも難民申請をしている。アイスランドが難民であることを認めたら行けるんですね。

 今回の件では本人、本国の事情も考慮されている。アメリカという国の国情には何ら問題は無い。

 それどーいうことですか?本国の事情ってどーいうことでしょう。アメリカなら問題が無くって、他の国なら問題があるんですか?

 今回の件では、本人が難民の申請をしていることに加え、本国の事情について種種議論がある。アメリカの国情が難民の対象になるという認識が(日本政府に)無い。

 そういった国情の判断は法務省がやってるんですね。その基準が無かったらおかしいですよ。資料を出してください。

 結局はケースバイケースだが、情報は把握しているつもりだ。

 人の命、人権に関わる出国先の問題を扱う上で、それはあまりにいい加減と言わざるを得ない。あたかもアメリカの方を向いてフィッシャーさんを裁いてるような誤解を受ける。事実、受けている。こんなに法を捻じ曲げている国が国連の常任理事国になっていいのか、と連日、報道をにぎわしている。さきほどのイラン人、クルド人のケースがフィッシャーの事情より上回るというのはどういう理由からか。

 訴訟中なので立ち入ったことは差し控えるが、今回の問題が53条の大原則から外れるものとは認識していない。

 イラン人、クルド人は認めてフィッシャーを認めないという基準はありますか。

 53条の第三項に難民条約に基づいた規定がある。米国はそれには当らない。

 フィッシャーだけはアメリカに行ってもらわないと困る、という態度は日本の信頼に誤解を与える。フィッシャーがアメリカにネガティブな発言を繰り返しており、アメリカは別件の脱税容疑でなんとか彼を捕まえようとしている。それでアメリカに送ってしまいたいから、それまでの予防拘留のようにフィッシャーを拘束しているように見え、海外も、日本法務省の態度は明らかにおかしいといっている。
 町村外務大臣、いかがお考えでしょうか。


町村信孝外務大臣
 特にアメリカからフィッシャーさんをどうこうしてくれと言われた記憶は私自身無い。アメリカに特段の配慮をして法務省が法を動かしているとは思わない。訴訟中のことでもあり個別の案件についてコメントは差し控えたい。