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チェス元世界王者:脱税容疑、米国に収監の可能性も

 チェスの元世界王者、ボビー・フィッシャー氏(61)が脱税容疑で米裁判所の大陪審の審判を受けることが5日、毎日新聞の調べでわかった。フィッシャー氏は現在、入管法違反容疑(不法入国)で東日本入国管理センター(茨城県牛久市)に収容され、フィッシャー氏の旅券を発行したアイスランドへの出国を希望しているが、起訴されれば日米間の犯罪人引き渡し条約により、米国で収監される可能性が出てきた。

 米フィラデルフィアの破産裁判所によると、日本の国税庁にあたる米内国歳入庁が告発するフィッシャー氏の脱税容疑は5件あり、大陪審で起訴されるかどうかが決まるが、本人が「米国に税金は払っていない」と過去に発言していることから、起訴されるのは間違いないとみられる。関係者によると、大陪審は4月5日に開かれる。

 米国からの引き渡し請求があれば、日本側は法相が日米犯罪人引き渡し条約などに基づいて判断。引き渡すべきだとなれば東京高検が身柄拘束するとともに東京高裁に引き渡し審査を請求する。同高裁は身柄拘束から2カ月以内に引き渡しの可否を決定する。

 ◇昨夏、茨城に収容

 フィッシャー氏は92年、経済制裁下のユーゴスラビアでチェスの対局を行い、賞金365万ドルを手にした。経済活動をしてはいけないという米政府の大統領令違反容疑で起訴された。「チェスをしただけ」というフィッシャー氏が帰国して有罪となれば最高10年の懲役、25万ドルの罰金となるため、一度も帰国せず、反米的な発言を繰り返していた。脱税には一般に6年の時効があるが、賞金を投資などに運用、その後の収入を申告していなかったとみられる。また、著書の印税も毎年受け取っているとみられる。

 フィッシャー氏は昨年4月に来日、7月に成田空港から出国しようとしたところ、米国の旅券が無効として収容された。法務省は米国に強制送還しようとしたが、退去強制処分取り消し訴訟を起こし、現在も係争中。

 ◇法務省は送還望む

 フィッシャー氏は72年、アイスランドで行われた対局でソ連のチェス世界王者を破り、米国人初の世界王者になった。冷戦時代の英雄として、アイスランド政府は昨年末、フィッシャー氏の受け入れを表明、フィッシャー氏もアイスランド行きを希望し旅券も発給されている。大統領令は犯罪人引き渡し条約の対象ではないため、フィッシャー氏は自費出国を申請し、支援者は航空券も購入しているが、法務省はアイスランドへの出国に応じていない。法務省は退去強制処分取り消し訴訟の口頭弁論で、米国以外への送還を拒否することを明らかにしており、米国の要請があれば、引き渡すのは必至だ。

 フィッシャー氏は00年から日本チェス協会事務局長の渡井美代子さん(59)と日本で同居しており、日本は何度も訪れている。渡井さんは昨夏の収容以来、150回以上フィッシャー氏と面会している。

 フィッシャー氏の代理人の鈴木雅子弁護士は「第三国が受け入れを表明し、本人も希望しているのに許可しないのは過去に例がなく、極めて異常だ」と法務省の対応を批判している。【ライアン・コネル、田嶌徳弘】

毎日新聞 2005年3月5日 19時23分