紹介棋譜 別ウィンドウにて。
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レオン、ホルモフのインタヴュー、ヒュドラの勝利。

05/06/29 紹介棋譜参照
 Adams対Hydraの最終局はがっちりした駒の組み合いになり、初めて私は人間が勝つと思って見ていた。けれど、Hydraの陣形に目立った穴が生じない。しばらくして、まあ引き分けか、と思った時、Adamsに不用意な一着があり、敵クィーンに軽々と侵入を許してしまった。そこからは一気に崩壊。とうとう人間の0勝5敗1分という惨敗で終わった。一番きれいに技が決まった第三局を紹介棋譜にする。
 Adamsの準備不足や、法外に強すぎるHydraの設定を指摘する声もあるが、それらを勘案した再戦を行うことに意味は無かろう。これからどうチェスが変わってゆくか、と言うより、もう変わっているはずだ。ソフトの示す正着どおりに棋士は指せるかどうかを見守るという観戦スタイルは珍しくない。
05/06/28 紹介棋譜参照
 将棋ファンの方からメールをいただけるのが戎棋夷説の自慢である。ホルモフの話を気に入ってくださったようだ。署名に大阪のギャラリー土間という綺麗な画廊のURLがあったので、ここでも紹介させていただく。メールの内容は、地名「Dos Hermanas」はスペイン語の場合「ドスエルマナス」と読む方が適切では、とのこと。そう訂正することにします。
 アダムズが負け続けてる。図は第五局から。黒アダムズがPh5を指した時に嫌な予感がしたのだが、実際そこを狙われ、人間はQ翼で事を起こすべく29...c5と動いた局面である。ここからのヒュドラがエレガントだった。30.d5からbxc5でb筋を開き、f1のルックをb1にまわし、以下、b7、a7、a6、c6に侵入、私の目にも白の明らかな優勢になった。そうした上でh5を取って駒を清算したら、アダムズは投了するしかなかったのである。そのあたりを紹介棋譜にするが、図のように黒c筋をダブルポーンにした発想が、アナンドの実戦例と比べても優秀だった。
 あと一局を残して0.5対4.5。たぶん人間の3.0、悪くて1.5というのが私の予想だったので、もう「想定された範囲内」とは言いにくい。これから最終局が始まる時間だが、人間の意地が見たい。アダムズも昨日は、「私が明日どう戦うか見てください」と言っていた。応援するぜ。
05/06/27
 将棋のアマ竜王戦は、激指が人間に三勝しベスト16まで残った。チェス・コンピュータがアメリカの州大会で優勝するのが1981年で、だいたい激指もこの程度の格の強さだろう。機械が世界チャンピオンに勝つのが1997年、ここから類推すると激指が名人や竜王に勝つのはまだ先のようだが、多くの人はあと16年もかかるとは思ってないはずだ。でも、機械側の文句無しの勝利が2005年であることを思えば、16年という数字は長くなく、適当な目安だと私は感じる。序盤の作戦負けを機械が防ぐのは、将棋の場合、棋譜データベースの不備を考えただけでも困難だ。むしろ、ここからしばらくコンピュータ将棋は伸び悩み、竜王戦二組や順位戦B1のプロ棋士に勝つまでには苦労する、と予言しておこう。もっとも、その日が来るまで将棋界は現状どおりで待っていると考える方が非現実的だが。
05/06/26
 ニッケルが勝ったヒュドラは昨年にポノマリョフに勝ったのと同じだと思うがどうだろう。アダムズが戦っているのは、手を読む速度がそれより五倍に上がった。このバージョンでニッケルはまた戦うことになっているが、演算速度の違いは決定的な問題ではない、というのが彼の意見だ。長大なプランニングを要するポジショナルな局面に誘導し、ヒュドラが得意な激しい接近戦の読み合いを避ければいい、とのこと。これ自体は昔から言われた対機械戦の心得だが、とにかく通信戦で人間が勝つというのが新鮮だった。
 アダムズは第四局も良いところ無く敗れて0勝3敗1分。負け越した。予想通りとまでは言わないが、想定された範囲内の経過である。
05/06/24 紹介棋譜参照
 Hydra(ヒュドラ)は初めて私に「強い」と思わせたコンピュータである。05/01/15には「人間が勝つのはかなり難しくなった」とも書いたが、通信チェスのGMニッケルはHydraをねじ伏せていた。昨年の9月から二局を始めて、今年の3月と5月にいずれも人間の勝ちで終わった。対局設定を詳しく知ることはできず、人間は寝たのかどうかも定かでない。
 黒番をフレンチで戦っていてカッコいいが、図は白番局から採った。37.Nab5までで、Hydraは37...e5。そこで出た!二段跳ね38.Nd6。以下、38...exd4に39.Ra3でほどなく黒投了。二局とも紹介棋譜にしたので御覧ください。通信チェスのChessfriend.com.に行けば解説付で再現できます。
 インタヴューもあり、アダムズ対Hydraについてニッケルは、人間にも勝ち目はある、と述べている。が、現在は三局が済んで0勝2敗1分。アダムズ不利だ。
05/06/23
 労働組合で私の一番苦手な仕事があって、へろへろでした。自己嫌悪。今日は気楽なムダ話をさせてもらいます。メイプルソープの次くらいに好きな写真家がアヴェドン。昨年に亡くなってたんですね。もう何年も食卓に飾ってる一枚がこれです。たまに若い女性が拙宅に来ることがあると、必ずこの写真に目が留まる。私は言う、「高校の時の英語の先生なんだ」。彼女らの多くはハッとし、すべてを察してくれる。かくも関西の女の子は聡明でやさしい。
05/06/22
 どういうわけか、チェスの棋譜は著作権がうるさくない。だから、膨大な棋譜データベースや、それを使った私のようなホームページが存在できる。福井健策『著作権とは何か』を読みながら、日本の法律で棋譜は著作物なんだろうか考えたが、直感的に答えが出ない。また、プロブレムやスタディの作図はどうだ。自分のページが現状の恩恵を受けていながら、本音では、棋譜や作図は立派な作品であり、対局者や作図家が著作権を有するような法律や解釈が望ましいとは思う。明快に言えるのは、日本の囲碁将棋の棋譜の扱いで、チェスと比べても本音と比べても不満だ。
 この本でわかったのは、私が新定跡を開発しても著作権を主張できない、ということだ。新手はアイディアであって万人が自由に利用できる。私の理解が正しければそうだ。他にも戦時加算の問題とか面白かったが、何より、著作権を「壮大な社会実験」と述べた最後の一言が新鮮だった。著作権は有益なものかどうか、まだ結論が出てないのである。
05/06/21
 もう一日だけホルモフを。「老後に何にもすることが無い連中が多い。そういうのはすぐに逝っちまう。でも俺にはチェスがある」という言葉がインタビューの締めくくりだ。ただ、現役時代からの不遇が、いくらか彼の楽しみを屈折させているようだ。60年間ずっと英語を勉強していて、今でも朝のトイレの30分をそれに費やすというのは、外国への思いの強さに痛ましい気さえする。これが済むと、正午までエヴァンズギャンビットの研究をする。「これがとんでもなく面白いんだぞ」。モーフィー対アンデルセンに現れて後者が勝った一局の変化を突き詰める。「それを机にしまうんだ。どこにも出すつもりは無い。でもな、俺は信じてる、とても深い研究だ」。
05/06/20
 ホルモフが資本主義の国に行けなかったのは本人の意思ではなかった。ソビエト政府が許さなかったのだ。理由は彼にもわからないが、思い当たるふしが無いでもない。1943年、彼は日本軍に囚われていたことがあった。そのことで日本のスパイになったことを彼は疑われ、それで政府がパスポートを発行してくれなかった可能性がある。チェス五輪にも世界王座戦にも参加できなかったのはつらかったろう。他にも苦労話の多いインタヴューだった。彼の全盛期が終わってから何年もして、ようやく自由に旅行できる時代が来る。今でも大会に参加しているが、若い対局者は彼に気付かない。「棋士から電話があるかって?まさか、あるわけないだろ。もう老いぼれだし、誰にも必要とはされとらんし」。
05/06/19
 仮面ライダーのフィギュアで知られる造形師の安藤賢司さんと長話。チェスとは関係ないが記念に書いておく。初期の幻想的な作風がとても好きだったが、そういうのは売れ筋商品ではないので最近は作ってないらしい。
 ホルモフが守備偏重の棋風になった理由は、彼が序盤の研究を全くしなかったからだそうだ。「いつだって序盤で作戦負けしてれば、あんたも守備専門になるさ」。対局前に彼はコインを投げる。で、表が出れば初手e4、裏ならd4。うそだろと思って、ChessBaseで1947年から65年までの記録を調べたが、e4は101局、d4は108局、本当にほぼ同数ではないか。
05/06/18 紹介棋譜参照
 ホルモフのファンです、という日本人はゼロだろう。ソビエトが世界のチェスを支配していたころの強豪で、『完全チェス読本』でも史上53位の評価を受けている。ChessBaseで調べたらペトロシアンに2勝0敗6分(ChessTodayは三勝の棋譜を紹介)。けれど、国外に出ることが少なかったので、ほとんど知られてないのだ。非常に消極的な棋風だという評判しか私も知らない。この彼が先月80歳になり、NICの最新号には自伝的なインタヴューが載った。英語で彼の話を読めるきわめて珍しい資料ではなかろうか。しかも面白い。
 NICは三局を紹介しているが、どれも捨駒で知られた好局だ。紹介棋譜に。図はブロンシュタイン戦で、白ホルモフはNc6、取らせてe5。エバンズは"Modern Chess Brilliancies"で言っている、「最初に棋譜を並べた時、こりゃ誤植だと思ったのを忘れられない」。狙いはNe4だ。難しい。
05/06/16
 最高の将棋に最高の解説で、陶酔の第六局は羽生が勝ち三勝三敗になった。トリッキーな変化が何度か現れてチェスっぽかった。山ア山田の他、中川大輔も解説に加わってくれたことを書き添えておく。
 キーンの本はタダでも要らないと思いながら、結構持ってる。世界王座戦の本を出す人なので仕方ないのだ。昨年のクラムニク対レコのマッチについても彼が書いており、買わざるをえない。全158頁のうち最初の75頁も使ってラ・ブルドネからクラムニクまで「世界チャンピオンの全員」を18人紹介している。お手軽な仕事としか思えない。
 1989年に彼は古今の棋士のベスト64を選んだことがあったが、今回はこの18人で順位を決めた。ベスト5だけここに書き写す。一位ラスカー、二位シュタイニッツ、三位カスパロフ、四位アリョーヒン、五位ラ・ブルドネ。ちなみに、かつてのベスト5は、一位カスパロフ、二位カルポフ、三位フィッシャー、四位ボトビニク、五位カパブランカだった。
05/06/15
 名人戦は第六局の正念場。ここで矢倉を見せてくれる二人の気合がうれしい。そう告げると畏友も、「ですね、しびれるムードでした」。衛星放送の解説は山崎隆之と山田久美で、これがまたお似合いだ。
 ChessTodayがレオン決勝の棋譜を解説してる。私は第一局の新手が悪いと書いたが、あれを敗因に数えるのは良くなさそうだ。私のページの2001年の欄でも扱った、黒にNbd7からNb6の余裕を与える型のイングリッシュ・アタックで、今年のリナレス以来、黒がけっこうあぶないぞ、と言われてるらしい。
 この定跡本を私は昨年に出たばかりのDeFirmianとFedorowiczの共著で持っているが、決勝第一局については役に立たない。ちなみに、穏健なChessTodayの書評欄で延々と酷評された、極めて珍しい本である。
05/06/14
 畏友はフィッシャーとサシで口論した数少ない日本人である。その折の感触が、「彼は表舞台に出ることを望んでいます」。先月のこと、スパスキーがアイスランドを訪れ、フィッシャーに会って彼の復帰について話したところ、フィッシャーは乗り気だったそうだ。価値ある相手とフィッシャランダムで戦うなら、というのが条件だ。
 カルポフとの対戦がついに実現するかもしれない。ただ、フィッシャーはカルポフとカスパロフのマッチを「仕組まれた八百長だ」と呼んで冒涜している。カルポフが対局に応じることはないだろう、という見方に説得力があった。ところが、ChessTodayに彼のインタヴューが紹介され、この件に関しての答えは、「フィッシャーの挑戦は受けるし、フィッシャランダムで戦う用意もある」。おお。もっとも、彼自身は実現の可能性は低いと見ている、「あるとしたら、フィッシャーに金が必要になった時だけだ」。
05/06/13
 レオンの決勝。前日にアナンドは最初の二局が重要と語っていたが、初戦はカシムの勝ち。アナンドがビショップを捨てたのが新手で、これはFritz5.32が強く推す手でもあるのだが、無理だったようだ。しかし第二局はアナンドがスカッと決めてタイ。面白くなった。
 第三局が天王山だった。図で黒アナンドの手番だが、どう見ても白Rxe8+からBxf7+が受かりそうにない。どうすんだ、と見ていたら、指されたのはKf8だった。無論、白はNxh7+で優勢に。ところが、アナンドの談話がChessTodayに載ったが、「まったくおかしいんですけど、私は自分が本当に不利だとは本当に思わなかったんです」。この気持ちが良い方に働いて、最後はドロー。
 中継にトラブルが多く、最終局は見なかった。何より、アナンドが優勝するような気分がもうあった。案の定、第四局はそうなった。棋譜も、見えてる技を待つだけという最後である。
05/06/12
 昨日はあっさり紹介してしまったが、カシムジャノフの頑丈さは印象的だった。シロフが一局目でクィーンを捨てたのも華々しさが無く、カシムの圧力に耐えかねた自爆に思えた。アナンドはカールセンのペトロフを二局とも破った。九段と奨励会ほどの実力差で紹介のしようもない。決勝は期待させる組み合わせになった。
05/06/11
 対立ばかり目立つFIDEとACPだが、先月、会談が行われ、持ち時間やドーピング、携帯の持込、そして、もちろん世界選手権などが議題になった。合意できる点とできない点がハッキリして、有意義な話し合いだったと思う。それを評価したうえでだが、ゲルファンドが異議を申し立てている。ACP執行部は自分たちだけの意見を主張しており、構成員全体の声を聞こうとしていない、というのだ。ChessTodayも彼に同意している。
 レオンは四人による四番勝負の早指し勝ち抜き戦だ。まずはシロフとカシムジャノフ。いま三局が済んだところで、カシムジャノフが黒番で2勝し決勝進出を決めた。明日はアナンド対カールセン。畏友によると、欧州女子はサーシャもエティも出ないのだとか。何よそれ。
05/06/10 紹介棋譜参照
 すでにInformant92が出ているのだが、91の話をしておこう。好局の一位は昨年のモナコから。ヴァレーホが黒番でスヴィドレルを豪快に破った一局。これを紹介棋譜に。リナレスでクラムニクが優勝を決めたレコ戦は大差の二位に。これは04/03/03参照。私はこっちの方が好きだけどなあ。
 ChessTodayにカールセンがニールセンと渡り合ってド派手に散った棋譜が紹介されている。ブンデスリーガの好局候補だった。マグナス君はドイツで活躍してるんだ。十日から始まるスペインのレオンにも出場。旅から旅の天才少年はモーツァルトを思わせる。ちなみに欧州女子選手権も十日から。
05/06/08
 もう一日、文学と映画ネタを続けよう。安部公房の遺作『飛ぶ男』はなかなかの作品だと思うのだが、文庫化されてない。未完成だからだろう。数ヶ月前に格安の古本を手に入れて、ゆっくり読んでいる。主人公の部屋に、彼が自分で作ろうとしてる金属製のチェス卓と駒が出てきた。映画ではジャック・ベッケル「肉体の冠」を見た。折りたたみのチェス盤が二回出る(二回目のは気付きにくい)。ただし、駒の出番は無い。
05/06/07
 レコとアダムズのマッチは8局してタイで終わった。
 畏友が知人Iさんから聞いた情報として、スティーヴン・ハンター『さらば、カタロニア戦線』にちょこちょことチェスが出てくるとのこと。上巻を読んだ畏友の報告を転用させてもらう。1936年の内戦スペインを舞台にしたスパイ小説で、旧原題は『スパニッシュ・ギャンビット』。登場人物のひとりレヴィツキーは元チェスの天才、著書に『犠牲の論理』(誤訳だろうね)がある。1901年、カールスバート優勝。当時の世界チャンピオンはドイツ人、シュレクター。「チャンピオンとの一戦がかなり細かく書かれていますが、シュレヒターのカールスバート1911の実戦に取材したようです」。
 私は相変わらず吉田篤弘をこつこつ読んでいて、『フィンガーボウルの話のつづき』の第3話にちらっと「駒が16個も欠けたチェスのセット」が出てくる。欠けてるとこが彼らしい。でも、とっかかりのお薦めは『針がとぶ』だな。
05/06/06
 畏友は万博とチェスの関連を気にしていて、大阪万博の時にはJCAによるイヴェントがあったと言っていた。今回の名古屋では何も無さそう。その代わり、日本棋院が陳祖徳や聶衛平を招いた。会場には呉清源の姿もあった。
 ヒッチコックの実質的な第一作「下宿人」(1927)にチェスの対局シーンがあった。まだ気持さえ確かめ合ってない段階の男女にとって、チェス盤というのは何とももどかしい距離をかもしだす、絶妙の小道具だ。ヒッチコック的エロティシズムがすでに完成されていたことがわかる。しかも対局者の片方が殺人鬼らしい、となると観客もたまらない。無声映画の傑作である。ただ、盤面は異様で、男の駒はほとんど動いてないのに、女は駒組みも乱れ、一方的に中盤戦だ。
05/06/05
 大悪手を図にさらさないのが私なりの仁義であったが、このところそうもいかない。ハンガリーでレコとアダムスの早指しマッチが行われ、第一局、左の局面でレコは45...Ke8と指した。無論、46.Qd8#で終わった。45...Kg8ならその場でドローだったろう。指し続けても46.Ne7+. Kf8, 47.Nc6で千日手だ。羽生善治も竜王戦の挑戦者決定戦の第一局で一手頓死をやったことがある。それで最後は竜王位を獲得したのだから、まあ、一種の縁起物と考えよう。
 「ミリオンダラーベイビー」を見た。哀切なお話だった。「ミスティックリバー」の飛びっきりに素晴らしい照明が健在。また、ヒラリー・スワンクの顔が、アボリジニのように野性的で、年齢の割りに夢を捨てきれぬあどけなさも残してるところが適役だった。畏友も見て、「良かったです」。彼は原作を読んでいる。結末は映画の方があっさりしていて「それで十分」とのこと。
05/06/04
 1秒に8兆6千億回の演算、というのがどんなものか、想像もつかないが、これにチェスをさせたら、ディープ・ブルーはもちろん、ディープ・フリッツやディープ・ジュニアよりも強いんだろうなあ。弱めのプログラムを使っても機械の計算量で勝ってしまうかもしれん。04/10/12でヒュドラの好局に触れた。アダムズが下旬にこれと戦う。機械の性能は1秒に100億回の演算、手数にして2億手とか。
 先月の世界コンピュータ将棋選手権では激指(げきさし)が優勝。勝又清和との角落にも勝った。アマ竜王戦に参加する。こちらも下旬だ。コンピュータ選手権の上位8チームすべてがAMD製64ビットプロセッサを使用していた、とのこと。意味わからんが書いておく。人間対機械での機械の設定の重要性はチェスでは周知のことだが、将棋ではどうだろう。
05/06/03
 ディープなんとか、のネタが続く週だ。「大統領の陰謀」のディープ・スロートが91歳で名乗り出た。また、「ナショナルジオグラフィック」の今月号にはディープ・サンダーというのが紹介されてる。これは天気予報に使われる数値予報モデルで、開発したのはIBM。同社が作ったディープ・ブルーはカスパロフに勝ったあと、何かのイヴェント会場周辺の天気予報に使われたりした。地味な仕事をさせられるもんだなあ、と思ったが、膨大な気象データを処理するには最高機種が必要らしい。2009年までには、1秒に8兆6千億回の演算ができるような機械が現れる、とのこと。
 チェスと関係の薄い話ばかりになるが、ホドルコフスキー裁判の判決が出た。懲役9年。被告は控訴しそう。国内外の評判は被告に同情的だ。ロシア政府が、気に食わない富豪を牢に放り込んで財産を取り上げ、お気に入りの商人に分けてやるという、通俗時代劇みたいな側面があるからだ。カスパロフが民主主義の危機を訴える気持もわかる。対してクラムニクは彼の活動には冷ややか。ロシアなんだから問題はあるけど、ちょっとづつ民主化しているさ、という考え。
05/06/01
 昨日のChessTodayは棋歴を考えさせる記事が多かった。まず、有望な若者がチェスをやめてゆくこと。珍しい話ではなく、ジュニア世界選手権者だって例外ではないそうだ。生活の保障が無いからだろう。その一方、やめても復帰する人がいる。こないだ、ミネアポリスでたくさんの参加者を集めた大会があったが、そこから選ばれて紹介されたのはカムスキーの棋譜だった。成績は首位に半点差。そして、長年指し続け、さきごろ58歳にしてグランドマスターの称号を得たイワノフという棋士の話題まであった。弱い人ではない。カルポフと一戦し、全盛期の彼に勝っている。
05/05/31
 昨年の十月、ロシアの石油王、ユコスの社長ミハイル・ホドルコフスキーが詐欺や脱税で逮捕された。プーチン大統領の経済政策の方針と関わっているようだ。さて、カスパロフのインタヴューが3回ある、と言ったままだが、最後の回は政治活動についてで、正直、私は読む気がしない。ただ一箇所、上記の事件に触れていて驚いた。「ホドルコフスキー」とは、我々が「コダルコフスキー」と呼んでいる、『人間対機械』の著者と同姓同名の可能性が高そうなのだ。別人であるのは確かだが、血縁関係はどうだろう。
 カスパロフはホドルコフスキー擁護派である。彼の釈放を求めるデモに参加し、その混乱の中でもみくちゃにされてる場面もニュースになった。この行動が純粋に政治的信条に基づくのか、親友への思いも加味されてるのか、御存知の方はいらっしゃるだろうか。
05/05/30
 ディープなんとか、と聞くとチェスファンは目が光る。久しぶりに競馬を見た。ダービーを勝ったのはディープインパクト。このまま三冠達成だろう。ちなみに、わが最愛の名馬はミスターシービーとハーディビジョンである。
 05/05/12にふれたが、クラムニクはアルゼンチンには参加しないが、その優勝者と統一王座戦をしたいと思っている。しかし、FIDEのMakropoulos(会長代行、補佐?)はこの提案を一蹴。理由は要するに「クラムニクの挑戦者を決めるための大会を開くつもりはない」。クラムニクが強ければ、こんな物言いは世論が許さないだろう。しかし、現状では彼のタイトルは相手にされず朽ちてしまいそうだ。「ドルトムントを見てくれ」とクラムは繰り返している。
05/05/29
 FIDEは1999年以来、有象無象を集めた短期間の大会でこの団体の選手権を行ってきた。何年もかけて挑戦者を選ぶのが大変になったのだろう。カスパロフやクラムニクは参加しないし、持ち時間も短く、日程も過酷なので、まぐれ当りの優勝者が出る確率が高い。おかげで多くの中堅棋士の賛同を得てきた。しかし、普通のファンが聞いたことも無い人間を選んで世界チャンピオンと呼んできたことが、FIDEの権威を失墜させたことは確かだ。昨年のトリポリの非道ぶりについて改めて触れる必要も無かろう。
 今年のFIDEはついにこの愚行を改めた。アルゼンチンの世界選手権は少数の強豪だけで争わせるつもりだ。参加者はレイティングの上位者とトリポリの優勝者から選ばれる。予選が無いのは1948年以来だろうか。当初、この計画が発表されたとき、例によって資金や候補地に確信が持てず、信じない関係者も多かったが、アナンドが参加の意思を表明、今では他の参加者も確定して、どうやら実現しそうな流れだ。九月下旬に始まる。
 サラエボの最終日はソコロフが追いついてボロガンと同点優勝。
05/05/28 紹介棋譜参照
 実現しなかった妙手を語っても仕方ないとは思うけど、昨日ふれたKochetkova戦は書いておきたい。図で黒コステニュクの手番。当然に思える29...Rxc1は白の反撃もあって結構むずかしいながら、Fritzで調べる限り、それで黒の勝ちだった。しかし、サーシャが指したのは29...Qd1、以下、30.Qf5+, R8e6で、この瞬間、白に勝ちが生じていたのだ。ところが、時間切迫もあり、実戦は31.Qf8+?で事なきを得た。で、正解手順がすごい。31.Rf1!だ、e6を捨てるわけにはいかず、これは取れない。だから31...Qxc1とするよりないが、そこでさらに32.Re2!!という手があったのだ。わかりづらいかもしれないので、このあたりの変化を紹介棋譜に記録しておく。引き分けでも優勝だった最終戦にこんな戦いを見せてくれる君は素晴らしい、優勝おめでとう。
 サラエボは最終日を前にしてボロガンがトップ。半点差でソコロフ。
05/05/27 紹介棋譜参照
 コステニクが7勝0敗4分でロシア女子選手権に優勝。9Rでコシンチェバ(妹)との直接対決に黒番で勝ったのがクライマックスだった。図はその一局で21...b6まで。その前にd4のナイトをe6に引かず、強気に20...Ne2+と突っ込んで21.Kh1とさせたのが結果的に利いた。
 観戦してた畏友いわく「長考後のb6が妖しい感じで、以下、急転直下」で勝勢に。手順を言うと、まず22.g4. Bxg4, 23.f3で、私はこれがあるから、20...Ne2+は危険じゃないかと思っていたのだが、実戦は、23...Nc3, 24.Qc1に対し24...d4という手が出た。もし、25.fxg4なら25...Qd5+がKN両取りである。このあたりの部分を紹介棋譜にしておく。
 もっとも、実際はこの後の二局も大変だった。今年16歳のGuninaには長い終盤でハラハラさせられ、また、Kochetkovaが最後の絶妙手に気付いていたら負けていた。しかし、そこが魅力だ。
05/05/26
 米長邦雄が、大企業の社長や都知事とお付き合いをし、「君が代」を熱唱して天皇にすり寄り、将棋を知らない子供への無料教室に熱を入れるのは、虚栄や虚名に卑しい彼の個性の現れとのみ言えない面もある。将棋の社会的な認知度を上げることが、有力なスポンサーの確保につながるからだ。反面、それによって賞金がアップしたところで、将棋界の過半数は対局料を稼げない弱い棋士だ。彼らは稽古や道場の経営で生活してきたのだが、武者野克己は、そうした昔ながらの収入源の衰退を肌で感じている。日本将棋連盟が方向転換をして、有料の普及活動を重視することを望んでいるだろう。
 米長と武者野が、将棋ソフトの著作権に関する裁判で争うことになった。フィッシャー裁判の時と同じで、法律談義は問題の本質と関係ない。そして、これもフィッシャー裁判の時と同じで、根本的に素朴な疑問が湧く。米長の路線と武者野の路線はなぜ両立できないのだろう。連盟という組織があっても、実情は個人活動で事業が進んでしまうあたりに、揉め事がこんな形になる遠因があるんだろう、というのが畏友の説。

戎棋夷説