紹介棋譜 別ウィンドウにて。
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ワールドカップ、羽生が注目された、ロシア選手権。

06/01/02 紹介棋譜参照
 ロシア選手権の最中、いろんな掲示板で話題になってたように、羽生善治がチューリッヒの大会に出場してました。参加者が152人で、うちグランドマスターが17人、結果は3勝1敗3分で23位でした。さすがにPelletierには負けましたが、グランドマスターひとりを屠ってます。なぜかChess Todayはこの大会から二局だけ選んでくれていて、しかもそれが羽生の棋譜なので、そのまま紹介棋譜に。TischbierekがGMです。
06/01/01
 新年おめでとう。初夢は、二十年以上も若返った高校生の私が数学の本を開いて「ヤンコフスキー空間」を勉強してました。ミンコフスキー空間なら聞いたことがあるのだけど。
 ロシア選手権最終日。例によって真剣勝負は少なく、勝ったのはモロゼビッチだけ。ルブレフスキーも17手のドローで収めて単独優勝を決めました。おめでとう。第1Rと次のラウンドの間に子供が生まれていた。これが勝因だったかも。二位はモロゼビッチとヤコベンコです。ただし判定タイブレークによって、銀メダルは後者に授与されました。第3Rの"直接対決"は意味深かったわけですね。でも、不戦敗でふてくされずに後を勝ってみせた彼のプライドに私は好感を持ちます。なお好局賞は昨日の紹介棋譜に選んだモティレフ対バレーエフ戦でした。
05/12/31 紹介棋譜参照
 畏友に会いました。将棋史に詳しい人を紹介してくれ、感激の日です。耳の大きい人でした。そんなわけでロシア選手権のラス前も結果を見た程度。二位のバレーエフとズヴャギンチェフが負けてしまいました。前者のを紹介棋譜に。後者はルブレフスキーとの対戦を残していたのに興味半減。それにしても、十二月に、しかも年末まで好局が続くなんて、チェスの歴史でも珍しいのではないでしょうか。
 畏友に会う前に東京駅で降りて丸善へ。途中に落ち着く喫茶店があるのだけど見つからない。おまけに丸善まで無くなっていた。老いにけるかな、と引き返したら、神が憐れんでくだすったか、喫茶店が現れた。名は、ぺしゃわーる。注文したのは珍しいアビシニアンモカ。柔らかい酸味という印象がモカにはありますが、これは、土でも混ざってるかというほどの荒っぽさ。静かに考え事をしながら、複雑な酸味を味わうのがとても良い気分でした。
05/12/30
 新幹線の車内に持ち込んで食べた「とん蝶」のうまさが忘れがたい。もち米でつくった高級おにぎりみたいなものです。新大阪から乗る方はぜひお試しを。実家に帰るとすぐ寝た。一人暮らしの一年が済んで安心するのか、沼に沈んでゆく石臼のように熟睡できます。そんなわけで気もゆるみ、ロシア選手権はざっと並べただけ。やっぱりスヴィドラーは負けて優勝争いから脱落、勝ったバレーエフが二位に返り咲きです。確認すると二位はあと二人いて、ヤコベンコとズビャギンチェフ。感心するのは、彼らに1点差をつけた首位のルブレフスキーが、バレーエフとヤコベンコを直接対決でくだしていることです。ズビャギンチェフは例の2.Na3を3度も使ってる。彼はまだルブレフスキーとの対局を残してます。あと2R。
05/12/29 紹介棋譜参照
 今日から帰省します。年末年始は更新が途切れるかもしれません。その間にエドモンズとエーディナウのフィッシャー本を読むのを楽しみにしてます。翻訳本については、出版社が意欲的なのは確かですから、来年は出ると信じております。それから、私にも畏友にも事情がわからないのはコステニクのインタヴューで、先方と連絡が取れない状態が続いています。私はまだ楽観的に待ってる気分なのですが、残念なのも確かです。もう区切りをつける意味でも、協力いただいた皆さんにはお詫びするよりありません。申し訳ないことになっております。
 さてロシア選手権、第8Rは大きな一戦で勝負が着きました。ルブレフスキー対ヤコベンコの首位決戦です。ルブレフスキーがふたつのナイトを巧みに組み合わせて好所に配置するのがとても印象的な一局でした。ぜひ並べて味わっていただきたいです。他の見所も多く、軽い感動を味わったのが図の局面で、28.Ke2. Kd7まで。K翼で戦いが続き、白も黒も王みずから支援に向ったところです。Chess Todayが対局者の証言を活かして解説してますが、それによると、h筋を得ているぶん、いくらか白が良さそう。この後、白はNh4の形を作ってg6ポーンを狙っていきたいところですが、それで攻め切れるか、みなさんの大局観はいかがでしょう。ルブレフスキーの次の一手には、流し目を使う粋な感じがありました。29.b3です。さらにPc4という構想。「あたりまえじゃん」とか思う人より、こんなところに賛嘆を忘れないChess Todayの解説の方が私は好きだなあ。この後も上手に白馬を乗り回して大きな一勝。残り三局で二位に1点差をつけました。
 ほか、ドレーエフがバレーエフに快勝。これも見事なチェスでした。なお、最初の3Rを見た限りではスヴィドラーの勢いが一番だったと思うのですが、その後はパッとしません。いま彼は第9Rの終盤ですが、うーん、バレーエフのポーンに自陣を真っ二つにされてる最中です。
05/12/28 紹介棋譜参照
 今大会ではヴォルコフとトマシェフキーが私にはほぼ初顔の棋士です。第7R、ヤコベンコが後者に勝って首位に並びました。ヤコが駒得する流れがあまりに自然で不思議な感じ。定跡に欠陥があるのかとさえ思った。まず、図の局面に不思議は無い。ここから黒がRe8、Bf8、Pd6を考えるのもわかる。その場合、f7地点が弱くなるから、白Ng5を防ぐために黒h6が必要なのも有名な話。けれど、この間、白はPa4、Pc3、Ba2、Qb3を指せる。で、黒の駒損になるんです。紹介棋譜にしました、見てください。過去の実戦例と較べると、ヤコベンコの発想がしなやかだった気もする。カルポフでさえNf1からNg3の構想でした。1983年のゲレル戦です。ちなみに、ロレン氏は白の構想について、「僕は気に入らない」。なるほど、強い人の見方はこうなんだ、と思いました。そう考えればトマシェフキーがすんなりこの形にした理由に不思議は無くなります。ただし、本局、面白いのはここから。
 この日はバレーエフがモロゼビッチを破った一局も見事で、これで二位グループに浮上しました。紹介棋譜に。
05/12/26
 ワールドカップの優勝賞金が10万ドルだから、ロシア選手権の4万は少ないというのはわからないではない。金の話を続けると、武者野勝巳が米長邦雄に楯ついた結果、1千万円の減収を蒙り、いまはマンションの管理人を引き受けて夜間の見回りをしたり、時給650円の納豆工場で働いたりしている。将棋連盟の会長は棋士をそこまで追い込むことが出来るらしい。
 第6R、例の不戦勝で得したヤコベンコがモティレフに勝って二勝目を挙げ、二位グループに加わった。言い忘れていたが、参加者は十二人で11Rを戦う。クラムニクはバレーエフに敗れてほぼ優勝圏外へ。最近は引退を口にし始めている。
05/12/25 紹介棋譜参照
 寂しいイヴであった。バッハのオラトリオで気分は一応クリスマスにした。指揮はガーディナーが好きだ。第5R、モロゼビッチは連勝。心配した私が馬鹿だった。奴も馬鹿だい。クラムニクも黒で勝った。キャスリングしたg8のキングをf7、e8に移動し、またf7、g8に戻してる。ひまな局面とは思えないのだが、この間、相手にまったく有効な手が無いのは見越してたのだろう。彼らしい。
 ワールドカップ組の苦戦を予想したが、単独首位に立ったのはルブレフスキーだった。図は白番、誰でも考えるのは24.Bf3だろう。それで互角とのこと。ところが、ルブレフスキーは24.f3!!と指したのである。黒はQxd1+と取れない。白Kh2、黒Be6の後、白hxg6からBxg6の強襲を防げないそうだ。仕方なく本譜は24...Qa6、まだ黒の駒得ながら白やや良しとのこと。この後のルックエンディングも見事なので紹介棋譜に。半点差の二位はスヴィドラーとズヴャギンチェフ。
05/12/24
 第4R、休養十分のモロゼビッチは勝った。大丈夫だろう。なお、グリシュクの棄権は優勝賞金4万ドルに対する不満が理由だという話を見つけた。彼に代わって出場権を得たズヴャギンチェフは好調で首位グループにいる。私は仕事帰りに駅前の喫茶店やミスタードーナツ、パスタ屋さんをはしごして、新刊の『ウィトゲンシュタイン哲学宗教日記』に読みふけっていたので、棋譜を並べていない。私のようなヴィトゲンシュタインのファンにはあまりに衝撃的だったのだ。
 水野優さんにLiterary Chess Agoraを教わった。チェスと文学に興味のある方は必見である。
05/12/23
 ズヴャギンチェフの2.Na3について局後に本人のコメントがあった。「ハリフマンは定跡の知識が豊富だから、それを外すために指した」とのこと。第3R、一番の話題はモロゼビッチの不戦敗だ。理由は寝坊。目覚まし時計にも、友人や審判の電話呼び出しにも応えることができなかった。深酒や薬物使用なんかでない、ただの笑い話でありますように。
05/12/22
 ロシア選手権、第2R。クラムニクが勝って成績を五分にした。終盤は彼の暗色ビショップが残る展開。自分のポーンの多くが暗マスにあり、勝ったとはいえ、その中にビショップがこもる不自由さがどうも美しくない。もっとも、Fritz5.32では僅差ながらFritz8では白優勢、勝ちもこのビショップが決めた。図がその場面で、クラムの37.a3まで。クィーンはb8、b7、b6のどこに逃げますか、と訊いている。実はどこも悪いらしい。黒ヴォルコフはb6に逃げた。すかさず38.d5. exd5, 39.Rcxd5。これでクィーンかd8ルックが助からない。クラムニクらしいバロック風のいびつさかな、という気もするが、私には形勢判断のわからないチェスだった。
 一方、スカッと技を決めてくれたのはズヴャギンチェフだ。ハリフマンを倒した。しかも、シシリアンで2.Na3なんて指してくれたのである。これもまた私には意味不明だが、Pc3からPd4の型が出来た。
05/12/20
 ワールドカップが終わってすぐ、ロシア選手権の決勝大会が始まっている。私でさえやや疲れ気味で明日の更新を休むつもりだから、連戦になるバレーエフ、ドレーエフ、ルブレフスキーは大変だ。みんな好きな棋士だが苦戦するだろう。グリシュクに至っては棄権してしまった。良いワールドカップだったけど、FIDEの日程編成に問題があったのは言うまでも無い。
 すでに初戦を終えていて、目玉はスヴィドラー対クラムニク。前者の完勝だった。
05/12/19
 月に一本づつアンゲロプロスを見てきて、ついに「放送」から「エレニの旅」、インタヴューのDVDまで制覇した。何十時間も睡魔と闘った御ほうびに、とてつもなく美しい数分が与えられる。そんな感じ。結論を言えば、チェスは一瞬も出てこない。
 十二月のムダ話は今年読んだ本から。新刊についてはこれまでにもけっこう話してしまったので、古いやつの読み直しを書こう。吉本隆明『言語にとって美とはなにか』を十数年ぶりに読み返した。「自己表出」が理解しづらく、かつて学友と一緒にうんざりした本である。歳をとるといろいろわかるようになっていた。最初の三章は面白く読めた。問題の自己表出だが、この本にはふたつの理論があって、したがって二種類の自己表出が混在していることに気付くと、とてもわかりやすくなる。学友に話すと、めずらしく彼は褒めてくれた。
05/12/18 紹介棋譜参照
 昨夜は阿倍野の花外楼で遊んで、最終日を観戦できなかった。結果を見ると、決勝のポノマリョフも三位戦のグリシュクも負けている。カールセンまで負けていた。よって、アローニアンが優勝、バクローが三位、カムスキーが九位。おめでとう。アローニアンの名を知ったのは2002年に20歳以下世界選手権で優勝してからで、以来、地味な活躍でレイティングを上げてきた。世界十位であるが、強豪の揃った大会でもその実力が出せるのか、来年は試されるだろう。
 決勝のタイブレークは二連勝で決まった。私にはこれが驚きだったが、Chess Todayによるとアローニアンは早指しが強いらしい。図はポノマリョフの失着12...c5に、13.a3. Bb5となったところ。ここで、アローニアンは14.b4、以下、14...cxb4に15.Qb3がうまい。もし黒bxa3なら白Qxd5である。ここから駒得を確定させるまでの数手も面白いので、そのあたりだけ紹介棋譜にした。
05/12/17 紹介棋譜参照
 昨夜は帰宅が遅くて観戦できなかった。決勝の第二局、変わった形でK翼から押し込んだ黒ポノマリョフだが、あと一歩でプロモーションできず。ポーン白2個、黒1個のナイト終盤でアローニアンが有利になった。けれど、もともと私はポノマリョフを近来稀なディフェンダーとして見つけたつもりである。ここからが強いはずで、実際、76手まで粘ってドローを勝ち取った。紹介棋譜に。逆に、カールセンは不利になると支えきれないのかなあ。Chess Baseによると、非勢ながらまだ指せたかもしれない局面でポカ。もっとも、十代で粘りのテクを完備してたポノマリョフの方が珍しいんだろう。畏友は、「カムスキーの指し手に怒りがあったような」。むろん、前夜の自分に対する怒りである。
05/12/16 紹介棋譜参照
 いよいよ決勝戦。今大会で最も強さを発揮していた二人の顔合わせになった。ポノマリョフのインタヴューがあって、二年前のヤルタ騒動の傷は癒えてると感じさせた。「僕は対局さえできずにタイトルを失いました。けれど、大事な発見もした。あんなことがあっても人生は終わらないんだ、って!僕はまだ若手棋士なんです、ほんの22です。新たな成果を目指します」。一時、このまま消えてしまうのか、と思うほど崩れていただけに、私も嬉しい。第一局は面白い戦いの途中でいきなりドロー。
 カールセン対カムスキーという組み合わせが最後に実現したのはチェス神カイサの恵みだろう。図は14.Bg5に黒がf6で応えたところ。「白どうするの」と思ってると、カールセンは15.Qh5+、むろん黒はg6。「ああ16.Bxg6+で黒hxg6にQxh8のつもりか」と変な納得をしていたら、指されたのは16.Qf3だった。これで白が良いらしい。やっぱり神秘的なチェスだと思う。
05/12/15
 新星登場というわけではない、とリーは羽生について書いてもいる。私と違って浮かれぬあたりがリーの知性的なところだ。
 準決勝第二戦、アローニアン対バクローは前者のポーン得で終盤になったが、色違いビショップなのでドロー確定の局面になった。が、そこでバクローはなんと投了。今大会のアローニアンはついている。ポノマリョフ対グリシュクは再びあっさりドロー。ポノマリョフは早指しでグリシュクと張り合うつもりなんだ。そして、実際、タイブレークで二連勝してみせた。
 敗者戦ではカールセンとカムスキーが勝ち上がって先述の十人枠に入ってくれた。カールセンは持ち時間を減らすことが多い。たぶん趙治勲や加藤一二三と同じ、早指しに自信のある長考派なのだろう。ドローを嫌うのは、棋風なのか幼さの名残なのかまだわからない。ひとめ引き分けの局面で、残り時間が圧倒的に不利なのに彼から動き回るのでハラハラする。が、最後、タイブレークが四戦までもつれた試合を見たが、ブリッツの強さは空恐ろしいほどだった。
05/12/13
 準決勝第一戦。グリシュク対ポノマリョフは凡庸なペトロフでさっさと引き分け。どっちが強いか興味深い組み合わせだっただけに残念。二人の顔合わせはこんなのが多い。バクロー対アローニアンはマーシャルで、これも白が連続王手の手順を選んで早めのドロー。つまんない日でしたが、開幕から半月にもなるので、疲労の調整も重要でしょう。
 今日はそれより羽生善治だ。05/10/25で触れたウェルズ戦が世界で話題になっている。福岡チェスクラブで紹介されていたが、「British Chess Magazine」の12月号に3ページもかけてHabuの記事が載ったとのこと。ロジャーズが、「私はこの試合が2005年の一番の名局だと思います」と述べたそうだ。そして、「New In Chess」の最新号にはリーが将棋に関するエッセイを書いており、ここでもウェルズ戦が解説された。羽生の顔写真つきだ。ウェルズ戦は「Chess Today」にも載った。このぶんなら「Chess Informant」への収録、さらには好局ベスト10入りだって実現するかもしれない。
05/12/12 紹介棋譜参照
 準々決勝第二戦。現在最高のフレンチ使いがバレーエフ。そしてポノマリョフはフレンチに勝率が良い。興味ある組み合わせだ。さっそく駒得したのはバレーエフだった。が、この定跡特有の欠点で明色ビショップが自陣に封じ込められ動けない。そこをうまく突いてポノマリョフが逆にポーン得、準決勝進出を決めた。優勝は彼、と言っておこう。紹介棋譜に。図はバクロー対ルブレフスキーで、Bd7-c6まで。次の一手は25.cxd5。これを黒はBxd5と取れない。白Rxb8からRc1で受け無しになる。で、本譜は25...exd5だが、流れが素人目にも釈然としない。かさにかかってバクローは26.f5。以下、黒の駒得だがルブレフスキーは自陣をまとめきれず崩壊した。アローニアンは駒得を長く維持して勝った。これが棋風なのかな、よくわからない。グリシュクはゲルファンドに一勝を返してプレーオフに。早指しは両者得意で延長は四戦までもつれたが、グリシュクが勝った。今大会の調子では順当と言っておく。
05/12/11
 四回戦でアローニアンはヴァレーホに詰みのある局面まで追い込まれていたらしい。準々決勝はグレビッチと。初戦はドローだが、これまでの安定感が無くなってきた感もある。一方、ポノマリョフは黒番で、バレーエフから軽くドローを得た。ルブレフスキー対バクローもドロー。唯一勝負が着いたのはゲルファンド対グリシュク。中央の白駒を消しにいったグリシュクの構想が悪かったと思う。黒ポーンがe6とf6に並ぶ型になり、弱くなったe6ポーンを狙われて駒損。最後は3ポーン差で投了。調子の差が対照的で、四回戦までの戦いぶりからすると私には意外だった。
05/12/09
 次の世界選手権は2007年、八人で争う。サンルイの上位四人はすでに出場権を持つ。残り四人を来年末に始まる十六人の大会で決める。その十六人のうち十人を今回のワールドカップで決める。すなわち、四回戦に勝った八人、それと、敗れた八人による敗者戦で勝ち残った二人だ。残り六人の選び方も簡単に話しておく。2004年の世界選手権優勝者と、五名のレイティング優秀者である。こうした選定基準や会期には多くの不満の声が上がっており、それはもっとものことだ。でも昔よりましだ。
 四回戦、二日でベスト8を決めたのはポノマリョフ、グリシュク、ルブレフスキー。決まらない組は早指しで延長タイブレークを二戦。バレーエフはカールセンに勝った。華々しい戦いだった。他はバクロー、アローニアン、グレビッチ。それでも決まらなかったのがゲルファンド対ドレーエフで、さらにブリッツを二戦する。これを観戦したが、短い持ち時間はゲルファンドが強い。閉塞ビショップをさばいたドレーエフの頑張りも面白かったが、やはり敵わなかった。
05/12/08
 アマゾンからのメールがあって「商品がまだ確保できておりません」。このお詫びはもう慣れっこだが、新刊本では初めての経験だ。商品とは『Chess Bitch』である。売れてるってことかな。新訳の『ロリータ』は出たばかり、無事届いた。ぱらっと開くと「チェス」という単語が目に入る。ツイてる気分だ。
 四回戦を勝てばベスト8進出である。バレーエフ対カールセンは活気のある戦いだったが、バレーエフが昨年に経験してる局面を13手までなぞり、22手で連続王手の型になってドロー。また、観戦していて「おっ」と声が出た局面が、図のグリシュク対カムスキーで白番。ナイトをどうするかだが、妙手は27.Nf6。以下、27...gxf6. 28.Qxf6で、白のPh6からh8=Qが止まらなくなっているという趣向だ。ほか、ポノマリョフががっちりファンヴェリーを75手で押さえ込んで先勝。二戦目は24手で連勝。ファン・ヴェリーはルックをどちらも動かす暇がなかった。強いぞ。
05/12/07
 今回のワールドカップでは、延長タイブレークは二戦目の翌日に行われる。これは一回戦から適応されている。トリポリの世界選手権はこの当然のことが為されなかったというだけでもひどかった。さてカールセンのタイブレーク第一局は、黒番だろうが駒損だろうが前進前進で踏み倒した感じだ。次はバレーエフと当る。カムスキーも勝ち上がっていて、次はグリシュクと当る。どちらもさすがにしんどい相手だ。バクロー対サトフスキーは前者の勝ち。ほか、私の好きな棋士ではドレーエフが苦労しながらまだ残っている。なお、ここまでタイブレークをしてないアローニアンが、手数は長いわりに相変わらず楽そうに見える。ポノマリョフも二回戦がモティレフ戦だっただけに延長にもつれこんだが、彼の指しぶりにも余裕を感じる。この二人が本命か。
05/12/06
 昨日も遅くに帰宅。ゴダール「アワーミュージック」を見に行ってたのである。大阪での公開はあっと言う間に終わってしまい、見損なった。今は名古屋のシネマテークでやってる。ええい、行くぞ。学友の評価は「何というか、美しい映画だよ」。たしかに。けれど、たった80分の映画を見るために往復だけでも七時間かけた私だが、途中で寝た。寝る映画は嫌いじゃない。しかし、いまここに特筆すべきは名古屋名物手羽先のうまさであろう。栄の風来坊で食べた。小食で酒にも弱い私が餓鬼ペースでむさぼったのである。その量は言うまい。ああ恥ずかしい。店を出て歩きながらも、唇を舐めまわして後味を回収していた。
 そんなわけで三回戦は第二戦もタイブレークも観戦してない。第二戦の棋譜をざっと並べた。ベテランのグレビッチが見事なフレンチでシロフのQ翼を食い破り、四回戦への進出を決めた。シロフの定跡選択も悪かったか。カールセンは駒を出したり引いたりのチェスだったが、強力な駒を中央に集める当然の構想が最悪で、簡単な両取りを食らって一気に転落した。ファン・ヴェリーも王頭から動いたのが不用意で負けた。ただし、二人ともタイブレークでは勝った模様。
05/12/05 紹介棋譜参照
 土日は仕事だった。巻頭問題の更新ができない。さて三回戦の第一戦。黒番カールセンの相手はイワンチュクを破って意気あがる19歳のチェパリノフ。トパロフのセコンドだ。戦いは白BB、黒RPPの交換で、カールセンが良さそうに見えたのにミスを重ねる。それを見逃さぬ白の小技がふたつも決まり、白BN、黒Rの駒割になってしまった。ところが、チェパリノフの大局観が悪かったのだろう、最後は白BNと黒RPPPの終盤になって再逆転、85手でカールセンの勝ちになった。
 ほか観戦したのが、バクロー対サトフスキー。両軍がじっくり陣形を盛り上げ、中央でポーンが触れ合って開戦する様は面白かったが61手のドロー。ファン・ヴェリー対ラジャボフも好局になる予感がして覗いてみた。図から21.c5が好手。以下、21...e4から激しい応酬になったが、ファン・ヴェリーが黒陣を粉砕した。これとカールセンを紹介棋譜に。
05/12/04
 ジャームッシュの映画「ゴーストドッグ」に武士道の聖典「葉隠」が何度も引用される。これがカッコイイ。見終わって高揚した気分で「葉隠」をネットで検索した。ところが調べれば調べるほどゲンナリしてゆく。何としたこと。「レビ記」や「赴粥飯法」なんかと同じかもしれない。あれを実践してる奴が居るから迫力が出るんで、読んだ奴に解説されても退屈なのだ。この映画にはチェスが四回現れる。「コーヒー&シガレッツ」もチェス映画と考えれば、ジャームッシュはチェス派の監督だと認定できる。
 二回戦では1勝1敗になったルブレフスキー対サシキランが大変な戦いだった。タイブレークも四戦までもつれ、3勝2敗1分でルブレフスキーの勝ち。静かな2分けでタイブレークに入った組では棋風の異なるサトフスキー対ティモフェーエフに注目。後者のペースに思えたが勝ち上がったのはサトフスキーだった。
05/12/03
 二回戦からは強豪同士の組み合わせもちらほら。何組かを並べて楽しんだ。昨日の番狂わせのうち、ラジャボフは延長戦に持ち込んだが、イワンチュクは敗退。他の優勝候補のうち、楽々勝ち上がってるのはバクロー、アローニアン、グリシュクで、気合が 入ってるのはシロフ。またカールセンはあっさり三回戦進出を決めた。
05/12/02 紹介棋譜参照
 明日香村に出張した。となれば考えることは、「仕事は午前中に済ませて、その後は、、、」。まず甘樫(あまかし)の丘に登って大和三山にぼーっと見惚れる。いつ見ても耳成山(みみなしやま)が小さくて可愛い。これは女山だと思いたい。さあここまで来たら、大神(おおみわ)神社まで足を伸ばし森正(もりしょう)の太そうめんを食べよう。にゅうめんを注文する人が多いが、初心は釜揚げであり、かつ、初心忘るゝべからず。乾麺を買って、自宅でゆでても完璧に美味しい。なお、ご購入の際は「タレ(つゆ)も欲しいのです」と言おう。売る用意はしてるのだが、店頭に並べないのである。
 閑話休題。棋譜をちゃんと並べてないが、二回戦もカールセンは好調のよう。左の図から28.Bxd6で、28...Bxc4に29.Rc5。ほどなく黒投了。そのあたりを紹介棋譜に。ほか、大番狂わせはイワンチュクとラジャボフが初戦を落としたこと。二戦目の結果は、、、これから見ます。
05/12/01
 カールセンは二回戦に進出。昨日が15歳の誕生日だった。彼の他にも番狂わせが多くあったが、優勝候補クラスで消えたのはアコピアンの病気棄権ぐらいだ。
 カムスキーも出場しており、大会の公式サイトで記者会見も読める。1997年にチェスをやめた時は「これから医学を学ぶ」と言ってたが、実際は法律を勉強し、弁護士の資格を得た。ただ、そちらでの仕事は無く、「いまのところ、私は棋士だ」。この八年間、いかなるチェスの本も開いたことはないが、ICCでのネット対局は楽しんでいる。また、多くの棋士がコンピューターを使った訓練をしてるおかげで失着が減り、チェス界全体のレベルが上がってることも指摘した。引退のきっかけになったカルポフ戦については、「政治的な陰謀がいろいろあったんだ。それがチェスから離れる一因になった。あまり話したくない」。完璧な復調が容易でないことは本人も自覚している。けど、彼の心境はシンプルだ、「今日は一人と対局し、明日はもう一人に勝とうとする、以下同様」。
05/11/30 紹介棋譜参照
 カールセンは二戦目はアズマイに負けた。終盤がふがいない感じの一戦で口惜しい。延長戦タイブレークへ。畏友はステファノバに注目していたが、ソコロフに敵わず「手合い違いのようでした」。
 ChessInformant93が前号の好局一位に選んだのはイワンチュクがラジャボフを破った、オリンピアードの一戦。そして二位もイワンチュクだった。モロゼビッチを破った、やはりオリンピアードの一戦。後者は激烈な殴り合い、すでに紹介済みなので、前者を紹介棋譜に。上位二局の独占はInformant74のカスパロフ以来である。
05/11/28 紹介棋譜参照
 前に触れたワールドチェスカップが始まった。初日、カールセンがアズマイパラシビリに先勝したのが目を引く。アズマイの得意そうな粘着質の戦いだったから価値も高い。紹介棋譜に。目に付く妙手もあるが、それより御覧にいれたいのは左の局面。ここでカールセンは30.Bc2と指した。さらっと並べていた私は「おっ」と思う。次の白Nf5が好位置ではないか。ビショップは特等席を譲ったわけだ。これでアズマイは非勢を認めたのだろう、白にNf5の余裕を与えてはならじと30...c5に先攻したが、無論それで駒損になった。

戎棋夷説