紹介棋譜 別ウィンドウにて。
HOME
現在に戻る
Wijk aan Zee。アナンドとトパロフのデッドヒート。

06/02/08
 なつかしい、「天下御免」のシナリオを畏友が送ってくれた。将棋の家元"大橋宗看"が現れる第33回「なぜだか銀が泣いている」だ。放送されたのは1972年6月16日。脚本はもちろん早坂暁で、ほとんどの回を彼が書いている。多くの「少年ドラマシリーズ」などと同様、NHKは録画を保存しなかったので、もう見ることはできない。シナリオは大和書房から1987年に出ている。
 打倒家元の執念に燃える在野の棋客を描いた話で、特によく覚えていた回である。"逆転の最終手"は、たしかストップモーションかスローモーションで表現されたはずだ。水前寺清子の最後のナレーション「駒太さん、みんな、ちゃーんと知ってるからねー!」が愛惜の余韻を響かせて格別だった。私が将棋ファンだということを抜きにして傑作と言いたい。
 畏友から聞いて驚いたが、あの番組は田沼意次と田中角栄をだぶらせていたのだそうだ。なるほど、天井の金魚は角栄御殿の錦鯉であったか。
06/02/06
 「Deep Blue」を検索しても映画ばっかり掛かってガッカリした、というチェス・ファンは多かろう。どんな映画なんだ、と私は気になっていたので見たら、2003年の海洋記録映画であった。このちょうど五十年前に「砂漠は生きている」が作られているが、見せ方やナレーションの感じが似ている。堅実な出来栄えだ。原題「Deep Blue Sea」という「ディープブルー」もあるらしいが、これは遠慮しておく。
 ちびさんのブログでChess in the Cinemaを教わった。チェスが登場した映画を片っ端から並べている。量にまずおそれをなすが、盤駒の場面も見せてしまうところが偉い。となれば、さあアラ捜しだっ!これがしかし結構てごわい。やっとのことで「インテルビスタ」が載ってないことを見つけた。はっはー、ざまあみろ(ぜえぜえ)。日本映画やリュミエール兄弟、「Game Over」も無いが、守備範囲に入れてないのだろう。
06/02/05 紹介棋譜参照
 ジブラルタル大会はヴェイカンゼーと重なってあんまり話題にならないが、良い棋士を集めている。今年の優勝はゲオルギエフ、久しぶりに聞く名だ。それより私が嬉しかったのは、ステファノバがわりと良い成績だったことで、ヴォルコフを破った一局が目を引いた。文字通り「じゃじゃ馬の譜」であり、2Nの方が2Bよりも強いことを証明してしまった。ファンのため、紹介棋譜にしておこう。昨年は負けてばかりだったが、来月の女子世界選手権はハツラツとしたチェスを見せてくれそうだ。
06/02/03
 明日は休みます。というか、大きな大会が無い限り土曜は定休日にしよう。畏友が風の便りを伝えてくれて、NHK「趣味悠々」でチェス講座の番組を作ってもらう企画は、たぶん先月の会議だと思うが、通らなかったそうだ。残念だが、いつかまた議題に上げてもらえる気はする。
06/02/02
 やはりA組もB組も同点優勝で正しかった。私がよく読む将棋のブログは一つしかなくて、勝手に将棋トピックスである。ヴェイカンゼーの間も将棋界ではいろんなことがあったようだ。個人的に感慨深かった記事は西村一義の引退だ。それから、林葉直子がブログでタロット占いを始めている。12歳の頃から親しんでいたというから、私よりずっと年季が入っている。彼女の占断を読むと、カード一枚だけで占う最も単純な方式だ。タロット占いは依頼人と対面して話し合いながら深めてゆくのが最善で、それにはカードも最低で二枚は引きたいし、ブログで行うには無理がある。そうした不十分さは承知の上で、芸能界で話題になるようなわかりやすさを狙ってるのだろう。
 そんなわけで、どうしても内容の浅い占いになってしまうのだが、「正義」というカードの読み取りに、いくらか彼女らしさがのぞく例があった。「夫のほかに好きな人がいます…」と言う依頼人に対し、「このカードが持つ意味は『バランス』『調整』です。愛のカードではないので、バランスを保ちながらお付き合いをするのが良いのではないでしょうか?」と告げている。定跡書そのままなら、「正義」は不倫を認めるカードではない。
 私なら、いろんな画家によるカードを使い分けたり、知識が豊富なところも披露して、アクセスしてくれた人を楽しませる。何より、カードを使って依頼人の内面に踏み込むことが必要だ。まだ始まったばかりのブログだが、上記の例のように彼女はアドバイスしか語っておらず、それでは依頼人は自分の未来に強烈なリアリティを感じることができない。まだ始まったばかりのブログだが、いまのところ、林葉直子は資質を欠いてるように見える。
06/01/31
 B組も最終日は大変だった。カールセンは黒番だが、相手のラーノはぼろぼろの最下位だ。なんとかなるだろう。しかし、失望は早く、モティレフ対コネルーが真っ先に終る。コネルーの敗着は15手で出た。それが低次元すぎる。私は腹が立ってしまい、彼女はかなり株を下げた。もしカールセンが勝っても判定タイブレークで不利になるのを想定できたから、私はますます寝る気になる。問題のチェパリノフ対アルマーシだが、形勢は私にはわからなかった。三人が同点で並ぶのだろうか。
 で、目が覚めると、カールセンは勝っている。二年前はC組で力戦になった二人も今年は差が着いた。そして、アルマーシが負けていた。つまり、モティレフとカールセンが同点の一位に上がったのである。両者優勝と考えておこう。本当に問題なのは来年のA組への出場権だ。判定タイブレークによってモティレフが選ばれるのは当然だが、公式発表があり、カールセンも来年はA組に招待されることになった。やった。
06/01/30 紹介棋譜参照
 最終日はたいていさっさと引き分けてしまうものだが、昨日が穏やかだっただけに「今年はちょっと違うかもしれない」と思って観戦をした。そしたら大違いだった。
 まずA組。アナンド対ゲルファンドは図で白番、この前から私は「ルックを捨てる?」と思っていた。読めるわけもなく、そんな気がしただけだが、アナンドは17.Rxd6、さすが期待に応えてくれる。さあ、17...Qxa5に18.Rxe6だ。そして、18...fxe6に19.Bxe7、これを黒Kxe7とは取れないのだ、白Qa7+がある。「しかし」と私はしばらくして思った、「白が良いのだろうか」。駒の位置が窮屈になるばかりである。ICCのギャラリーも盛り上がらない。その頃、レコ対トパロフは終盤戦に入っており、トパロフがポーン得である。ここで私は見切りをつけて寝た。早朝の仕事を抱えていたのだ。
 目が覚めて結果を調べると、おお、トパロフは引き分け、アナンドは勝っていた。後者を紹介棋譜に。チェスでも将棋でも非常によくあることだが、今朝になってみるとアナンドはルックを捨てた時点で優勢を決めたかのように解説されている。それが悪いとは言わない。正しい分析でさえあろう。
 とにかく、アナンドがトパロフに追いついて大会は終わった。で、例によって、どっちが優勝したのかわからない。判定タイブレークの結果、トロフィーはアナンドに与えれられた。最も一般的なSonneborn-Berger法で計算したと考えて良かろう(03/09/14参照)。ただ、アナンドだけが優勝者であると明言する記事も無い。トロフィーはひとつ、優勝者はふたり、と信じよう。優勝者が一人に決まらなくても、みんなが祝福できる大会だった。
06/01/29
 今年のヴェイカンゼーはすでに16局も紹介棋譜に選んでいる。豊作の域を超えて収拾がつかなくなっているが、ラス前になって落ち着いてきた。今場所最大の大一番、トパロフ対アナンドは、後者の挑発があっさりかわされて23手のドロー。B組のカールセン対チェパリノフも、後者がひたすら低姿勢のベルリンではドロー。アルマーシ対モティレフは勝負が着いた。序盤はペトロフだったが、アルマーシが勝って単独首位になった。
06/01/28
 第11R、A組はトパロフもアナンドもドロー。B組のカールセンは最後の難関モティレフと当った。黒番である。いきなりひどい形になり、粘れず負けてしまった。主導権を取れない日のこの子は凡人というか、人格さえ感じられないチェスになる。首位陥落だ。けれど残り二戦、対戦相手を見ると、まだ望みはあるぞ。
06/01/26 紹介棋譜参照
 第10R。B組はカールセン対アルマーシ。白番のくせに押され気味になったカールセンが耐えました。自陣を崩し、駒損まで許しながら、一歩々々、タイミングよく盤の中央を取り戻し、形勢を互角にした。成長を感じさせてくれた嬉しい引き分けです。
 A組は黒番のアナンドが26手でドロー。白番のトパロフはアローニアンに勝って単独首位に。これが凄かった。紹介棋譜に。クィーンズインディアン特有の、e4に居座るうざい黒ナイトをいきなりルックでサクリファイス。私は意味がわからず、ぽかーんと観戦してると、盤上では黒クィーンが白陣に侵入して暴れてます。「トパロフはこれを望んだの?」。そしてもう一回ルックとナイトの駒損です。よって、2B対2Rの大差で終盤に入りました。これほど不可解なチェスを見たことがありません。でも、もっと不思議だったのは、c5とd4に居た白ポーンです。前方がいつの間にかスッキリして、するするとc7とd6まで進んでしまいました。ですから黒はもう駒成りを防げません。アローニアンは念のためしばらくじたばたしてから投了しました。
 95年の"あれ"以来、十年にひとつというレベルの神局でしょう。さっきChess Todayを読んだら、アローニアンの失着はとても責められるものではありませんでした。その手順をトパロフは研究していたようです。
06/01/25 紹介棋譜参照
 第9R、アナンドとトパロフのデッドヒートがますます熱い。どちらも紹介棋譜に。アナンドはファン・ヴェリーに対し、aポーンを将棋感覚で突き捨て、さらにルックを切り、ポーンをb7までとんとーんと進め、快速で形を決めました。そこで黒がキングをg8からe7に運んだのが面白かった。図がそれで26...Ke7まで。私は絶対に指さない手だし、また私なら次は27.Nc6+でしょう。けど、アナンドは27.Nd5+、そして、黒ルックがb8とd8に置かれるのを待ってからNc6で勝ちました。
 カリャーキン対トパロフ。ヤルタ騒動で実現しなかったマッチの準備で、二人はポノマリョフを手伝った仲です。このカードは03/06/07で書いた対局が忘れられない。私のカリャーキン観の基礎になってます。あれから彼も成長したもんですね、今回は30手くらいまで観戦して、私はカリャーキンが勝つと思ってました。しかし、決め手に穴があったようです、その瞬間、ずっと我慢をためこんでいたトパロフの逆転パワーが炸裂、次から次へと駒を敵キングに叩きつけて、駒得の終盤にしてしまいました。残り四戦の相手はアナンドの方が楽ですが、まだ直接対決を残しており、それはトパロフが白番です。
 B組はカールセン対コネルー。カールセンが主導権を握っていたのですが、黒陣への侵入が許されずドロー。三年前には勝ってるんだけどな。なお、モティレフが半点差に詰めてきました。ナイディッシュはカールセンに負けたショックでか四連敗。
06/01/23
 第7Rはアローニアン対ファンヴェリーも乱戦で面白かった。ただ、今年のヴェイカンゼーは優勝争いが目まぐるしいので、そこまで語りきれない。第8R、トパロフ対ゲルファンドはしんどい終盤の力くらべになって引き分けた。バクロー対アナンドは、パスポーンが出来たバクローの方が良く見えたが、これもしんどい終盤になった。盤の左端の折衝が右端に影響する、というのが何度かあり、それをバクローは見落とたのかもしれない。勝ったアナンドが再び同点首位に並んだ。
 B組のカールセンは引き分け。1点差の二位にモティレフとアルマーシが上がってきた。私が警戒していた三人のうち、カールセンはナイディッシュに勝ってくれたが、まだこの二人とは戦っていない。
06/01/22
 第7R。早朝からの仕事に備えて昨夜は観戦しなかった。B組のカールセンは連勝した。軽く勝ってしまったので感動が無い。1点差の二位はナヴァラ一人に減った。今日はこの二人が戦う。
 A組は白番のトパロフに対してソコロフが駒をがんがん捨てて自爆した。Chess Baseによれば「99%のやけくそと1%のひらめき」。でも面白かったよ。黒番のアダムズはアナンドに隙を見せず23手のドロー。かくてトパロフが単独首位に。また、カリャーキンがマメデャロフに勝った。投了図は終盤の入り口といった趣で、駒の損得も無いけど大差らしい。これでカリャーキンとアナンドの二人が二位になった。
 昨日のカムスキー対アナンドの話をしておこう。Chess Todayの解説では図が差の着いた局面。正着は18...Qf7で、これなら黒はNe7が可能だ。しかし、本譜は18...Nd5で、カムスキーの19.Nc3が機敏だった。黒Nce7ではe6ポーンが取られてしまう。で、19...Nxe3, 20.fxe3と進み、この後は、中央にそそり立つ白3ポーンの塔のたくましさと、頼りない黒のe6ポーンが対照的な展開になったのである。
06/01/21 紹介棋譜参照
 昨年のカールセンはずいぶん負けた。棋譜を並べるたびに私は落ち込むし、彼の負けパターンが身に染みてくる。第6RのB組は首位決戦の大一番、ナイディッシュ対カールセンがあった。白は本欄の読者なら御記憶だろう、昨年のドルトムントの優勝者だ。対して、カールセンがさえない。図は22.c4、もう「おわ」である。私は気分がどんよりしてきた。カールセンの粘りの構想は面白く、キングをg6地点に避難させて、白玉頭への反撃を狙っている。しかし、普通はそれを粘りとは言わない。黒のQ翼はb7のビショップだけ残して後は全滅してしまう。悲しいことに、私は彼の指しそうな手がわりと読めた。
 駒損が大きい。もうナイディッシュは適当にaやbの白ポーンを押していけば良いだけだ。が、である。諸君、ナイディッシュはそうしなかった。ヘルプメイトを考え始めたのである。ICCのギャラリーが大騒ぎを始めたので、半信半疑の私も異変が起こったことを確信した。カールセンの突撃が決まってしまったのである。なんと私のマグナスが単独首位になった。まだ強豪との対戦が続くが、四人の二位に1点差をつけた。
 これほど劇的な土壇場のどんでん返しを観戦したことは無い。ただわあわあと私はチェスを知らない人にまで深夜のメールを送りまくって、そのうち、A組がどうでもよくなってしまった。実はこっちも大事なラウンドだった。まず、単独首位と単独ビリの決戦で、カムスキーがアナンドを倒した。ティヴャコフ対トパロフのドローも面白い。そして、アダムズが彼らしいがっちりしたチェスでイワンチュクに勝っている。この結果、アナンドとトパロフが首位に並んだ。今年のヴェイカンゼーは棋譜も展開も面白い。
06/01/20 紹介棋譜参照
 第5R、レコが精彩を欠いている。アナンドに対し良いところ無く、中央突破を許して敗北。アナンドは単独首位に。半点差の二位にトパロフとイワンチュクです。前者対マメデャロフのドローが激戦でした。図は19.Ra1-c1まで。いますぐはa5のポーンは大丈夫のようでも、19...Nc5と指されて、a5もd3も危ない。無論、それくらいトパロフは承知しているはずで20.Rxc5と切りました。下々にはわからん決断です。白はこの駒損のうえ、さらにa5ポーンも失うでしょう、でも、黒のa筋からd筋のポーン4個を取れるから、最後は得をする。そんなふうにトパロフは読んだのでしょうか。難しい戦いが続いて、実際そんな流れになります。が、そこでルークを捨てるマメデャロフの手順が見事でした。これで、白の駒がピンされて動けない。トパロフは打開しきれず引き分けを選びました。
 B組はカールセンがベリャフスキーに20手で勝って、首位に並びました。ベリャフスキーらしからぬ見落としがあったように思いますが、カールセンは中央を捨て、敵玉頭に駒を集めて決めました。
06/01/18 紹介棋譜参照
 ちょっと仕事がきつかった。記事は軽めに。第4Rを観戦してて、すごかったのがファンヴェリー対トパロフ。図は8...b5まで。「え、いいの?」と思ったのは私だけではないはず。ファンヴェリーも警戒心の薄い人だし、流れは当然、9.axb5。cxb5。そして、10.Bxf6. gxf6をはさんで、案の定11.Nxb5. axb5, 12.Rxa8。以下、難解すぎて私にはわけわかりませんが紹介棋譜に。とにかくトパロフが腕力を見せつけて勝ち。アナンドと並んで首位に立ちました。半点差の二位はイワンチュクとゲルファンド。
 今月みた映画は、古いやつの再上映で「ロバと王女」。カトリーヌ・ドヌーヴが美しすぎる。いかにも「これはお芝居でーす、メルヘンです」という世界にリアリティを与えてしまった。反論のしようもないほど圧倒的に美しいので、実在を信じるしかない。ヴィスコンティみたいな、 世界の方を完璧に仕上げて、そこから役者に存在感を与えてゆくタイプの逆をいってるわけですね。
06/01/17 紹介棋譜参照
 円満なアナンドと豪気なイワンチュクは仲が良い。「あらしのよるに」みたいな組み合わせだ。1988年のレッジョエミリア大会の一夜、手持ち無沙汰のヴィシーがチュッキーの部屋を訪れる話が、アナンドの自選局集にある。「カタランなんて退屈な定跡をどうしてみんな指すんだろう」と言う彼に、イワンチュクは決して退屈でないカタランの秘密を明かしてくれたそうだ。ヴェイカンゼーの三日目はこの二人の勝負が着いた。黒アナンドが勝って、単独首位に立っている。
 トパロフ対バクローは黒がドロー狙いのペトロフだったが、トパロフは好形のポーンエンディングに持ち込んで勝った。彼とイワンチュクが半点差の二位。カリャーキン対カムスキーは駒の損得が無い状態でカムスキー投了。Fritzで調べると、白カリャーキンが上手に黒を締め上げていた。これを紹介棋譜に。
 B組はしばらくカールセンが名の有る相手と当る流れだ。主導権を取れないチェスに彼はまだ弱い。この日は技を食らってヒヤッとしたがドローを得てくれた。首位は3連勝のナイディッシュ。
06/01/16 紹介棋譜参照
 熱や咳は直ったけど、鼻水が止まらない。これまで出した分ぜんぶシュークリーム工場に届けてやりたいくらいだ。何度も鼻をかんでるうちに頭が痛くなってくる。
 ヴェイカンゼーの掛け率をBetssonで見ると、トパロフとアナンドが同じで3.2倍。すこし意外。トパロフの好調が今年も続く可能性と、アナンドの積んできた信用が同程度に評価された、ということか。次が大差でレコの11倍。しかし、二日目を終わって現在ひとりで二連勝しているのはイワンチュクである。
 観戦してると、レコがクィーンを捨てた。彼のすることとは思えず驚いたが、すでに踏み均された実戦例をたどってただけらしい。しらけたドローに終わった。アナンド対アローニアンは中央の16マスのうち12マスに駒が埋まった密集戦で最後はドロー。このギャラリーにいきなりカムスキーが現れた。初勝利を挙げて昨日の負けを取り返してゴキゲンになり、さっそくICCにログインしたようだ。もっと神経質で引きこもりがちな人だと思っていた。
 この日のスターはアダムズだ。トパロフを破った。ぐだぐだ言うまい、図から22.f5、そして22...gxf5に23.Nxd5である。この後も素晴らしい。無論、紹介棋譜に。おかげでB組のカールセンを話す余裕が無いが、彼も見事に勝った。ルークを縦横無尽に振り回している。やはり紹介棋譜に。
06/01/15 紹介棋譜参照
 見ましたか将棋NHK杯、谷川浩司−藤井猛、キャー、谷川先生、カッコいいっ、はあと、キラリーン☆彡 序盤でしくじって、自陣だけが終盤を迎えてしまい、しかも相手は穴熊。局面は△2八銀打まで、玉は4八に逃げるしかなさそう。が、谷川は潔く▲同玉、当然の△4九竜に▲5九金打で粘ってみせた。以下、△5八竜▲同金△4九銀▲5九金△3八金▲1八玉△5八銀不成。さあここ、解説者鈴木大介も私も6六歩を考えていましたが、出た▲8八飛。逆転です。谷川は扇で口元を隠しました。ここからは△6七飛成▲1六歩△5九銀不成、藤井は深い溜め息、そして▲3八飛。私の目にも後手は指し切りです。
 けどこのくらいにして本業に戻らないといけません。ヴェイカンゼーの初日が素晴らしかった。この大会の華々しさが私は大好きです。トパロフはカムスキーに勝ち。カムスキーが策を弄しすぎた感じです。アローニアンはイワンチュクに敗北。二人を世界選手権の出場権に関して比べると、イワンの方がずっと不遇なだけに、彼はちょっぴり溜飲を下げたでしょう。
 やんやの喝采を浴びたのはアナンドでした。図は彼が黒で白がカリャーキン。黒はどうRxa3を可能にするか、という場面です。アナンドが選んだのは24...Nc7でした。白Qを戦場から逸らす作戦ですが、それにしても犠牲が大きい。ICCのGM観戦者は懐疑的でした。カリャーキンも自信を持って誘いに乗り、25.Qxc7. Rc8, 26.Qxe7。さて、そこで本当に黒Rxa3が成立するのかというと、白bxa3黒Qxa3に白Qa7があるから無理なんです。「あらら、ひどい見落とし」という雰囲気が漂いかけたところで、「26...Nc4が良いのでは」という意見が出る。それがまさにアナンドの読み筋でした。攻めがつながってます。アナンドらしい攻めの鋭い快勝譜が出来上がりました。
 B組ではカールセンがICCのギャラリーたちの度肝を抜く大技で快勝。久々に私は大満足のラウンドでした。アナンドとこれを紹介棋譜にいたします。
06/01/13
 なぜトパロフが強くなったかはっきりしない。クラムニクは、「勝つためにサンルイまで来たのはトパロフだけだった。他は参加しに来ただけだった」。カスパロフが指摘したのは、トパロフがタフな大会や戦いを持続し勝ち抜くための準備や棋風を身に付けていることだった。昨年はソフィアの後半戦から急に連勝が始まったので驚いたのだけど、実際はもっと前からじわじわ力が上がり始めていた、と考えるべきだろう。
 いよいよヴェイカンゼー。今年もトパロフが強いのか。そして、B組も気になる。思い切って、カールセンに優勝を期待してしまおう。
06/01/11
 ようやく良くなった。ふう。『西洋将棋の遊び方』は阿部恒郎という人との共著である。雑誌「苦楽」に「幽霊刑事」なんてのを書いている。畏友の感想では「B級っぽかった」。それでも、『西洋将棋の遊び方』の文章は阿部が担当したと考えるべきだろう。木見の意見がふんだんに盛り込まれてるのか、それとも、木見は名前を貸しただけなのか、まだわからない。ちなみに、彼には五段時代の面白い対局がある。まだ七段の坂田三吉に四枚落ちで教わっているのだが、なんと上手の桂馬が前後左右に飛ぶ八方桂、つまりナイトなのだ。畏友に棋譜を送ってもらった。彼は天狗太郎『将棋の民俗学』で見つけたが、東公平によると、明治末期に大阪で出ていた「将棋雑誌」が初出のよう。結果は下手圧勝。坂田の感想は「一番で御免蒙る」。
06/01/10
 困ったなあ。治らない。昨日は『網走番外地』と『中国女』を見た。畏友から一報、「ロマンポルノは任せてください」。彼はロマンポルノ祭りにまで出かけていた。で、教わったが、この世界が衰退した後、優秀な監督たちはテレビへ転戦、その結果、かつての「二時間ドラマ」の草創期に秀作が多く生まれたのだとか。また、『暗室』の木村理恵は木村功の娘と聞いてびっくり。
 年末に畏友に会ったとき、えらいものをもらってしまった。木見金治郎『西洋将棋の遊び方』である。1926年刊。箱入りの真面目な造本で、内容も充実している。よく読んでいづれ皆さんに御紹介したい。木見は大野、升田、大山の師匠だ。
06/01/09
 微熱つづく。一月の本欄は昨年の物故者から一人を追悼する日を設けています。『百物語』を愛読してる私には杉浦日向子の名が浮かびますが、ここ二日ほど熱っぽい体をだらっとさせて、映画ばかり見ておりましたので、『ゆきゆきて、神軍』の奥崎謙三を。チェス界を見てもわかりますが、反骨精神とか正義感の類は、はた迷惑につながることが多いです。けれど、本当に醜いと思ったのは、奥崎に訪問されて迷惑を蒙る連中の逃げ口上でした。特殊なテーマを扱った映画のようでいて、省みるに、自分の職場も迷惑な人と醜い人で構成されてるよなあ。学生時代に見たときは笑い飛ばせた映画でしたが。
 正月に録画した『暗室』も見ました。にっかつロマンを初体験。声や乱れ方に芸を感じました。作家の対談場面で、窓際にチェスセットが置かれてます。
06/01/08
 今年最初の仕事を徹夜で仕上げたが、出来栄えが悪い。たまたまの失敗というより能力が無いのだ。がっかりして風邪までひいて寝込んでいる。おまけにクラムニクがヴェイカンゼーの出場をとりやめた。数年前から関節炎を患っていたとのこと。ようやく病名を白状した。ここ数年の不調に納得がいった。私はタリ並みのもっと重い病を心配していたので、安心した面さえある。しっかり治してほしい。とはいえ、しばらく彼を見られなくなるのは悲しい。私は十年以上も前から彼の棋譜を並べている。次第に彼が注目され強くなってゆくのを楽しみにしながら現代チェスに詳しくなったのだ。
 暗い話になったので、最近のChess Todayでちょっと気に入った一手を。白チャンドラーの好手だ。図から24.a5。解説のバルスキーいわく、「弱い黒ポーンをa6地点に固定した。これで終盤はほぼどんな形になっても白が勝つだろう」。
06/01/06
 今年は休みを増やします。この欄ばかり更新するのは私の役に立たないので。
 『Goes to War』について、ネタバレにならぬ限りで言いたいことはまだたくさんあります。エドモンズとエーディナウの前著について、前にたまたま私も触れましたが、あれはウィトゲンシュタインを語りながら、同時にポパーの生涯も追うという構成でした。今回も、フィッシャーのレイキャビクを題材に選びながら、同時にスパスキーの人間性や、彼の属したソヴィエトという環境も掘り下げています。『白夜の』も似たようなところのある本でしたが、『Goes to War』の調べの深さと比べることにあまり意味は無いでしょう。それほどここは面白いです。
 スパスキーがたいした準備もせずにレイキャビクに向うところが印象的でした。佐々木小次郎がテニスウェアにラケット一丁で巌流島に行くようなものです。のどかというよりは虚無的でさえありました。それでも勝てる、と彼が過信していたのは確かですが、ソヴィエトの人間が自由に振舞うならああするしかなかろう、とも思いました。
06/01/05
 『白夜の』に比べて『Goes to War』がずっと詳しいのは、レイキャビクの舞台裏である。主催者側の人たちがさんざんフィッシャーに振り回され、それでもあのタイトルマッチを成立させるために、ほとんど屈辱的、ないしは非合法的な苦労を強いられたことが描かれている。読めば読むほど、昨年のフィッシャーをアイスランドの人たちが救出したということが感動的に思える。
06/01/04
 スパスキーにフィッシャーが挑戦した1972年のレイキャビクを描いた本としてはスタイナーの『白夜のチェス戦争』が知られている。何度も読んだ本だが、今の若いチェスファンにはピンと来なかったり物足りなかったりするのではなかろうか。だから、同じ題材を扱ったEdmondsとEidinow『Bobby Fischer Goes to War』が出たのは喜ばしいことだ。畏友がこれをかなり推していて、本欄でもすでに何度も触れてきたが、ようやく私も読み始めた。

戎棋夷説