紹介棋譜 別ウィンドウにて。
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Dortmund はKramnik。Aerosvit in Foros はIvanchuk。

07/07/11 紹介棋譜1参照
 オデッサはとっくに終わっていてイワンチュクが6勝1敗2分で優勝した。彼を倒したグリシュクは半点差の二位だった。優勝者の最激戦を紹介棋譜に。ラジャボフにベノニを採用したチュッキーはクィーンを捨てて奮戦し、図でd3のビショップを取ろうとしている。ならば、とラジャは25.Bxg6と切り、以下、クィーンも捨て返した。善悪はわからないが、早指し戦として面白いのは確かだろう。
 ベノニのc5を並べたらベンコーのc5を思い出した。二年前のハンティマンシスクでイワンチュクはチェパリノフにベンコーを使って負けた。おかげで今年はメキシコに出られない。サンルイもそうだったが、出場権を判定される頃にイワンチュクは間が悪く、関係無い時に好調である。
 それにしても今年は観戦が忙しい。DVDの録画の整理もできずにいる。そんなわけで明日は休みます。チェス界は好景気なのか。オデッサにしても、昨年はこんなに豪華な大会ではなかった。
07/07/10 紹介棋譜2・3参照
 レオンは決勝でようやく面白くなった。第一局は王頭に攻めかかるトパロフをアナンドが必死にしのいでドロー。いつも攻めてるアナンドだけど、ぎりぎりに受ける彼も好きだ。第二局は07/03/17で触れたトパロフの8...h5を再見できた。互いの研究結果が正面衝突したのか、一本道の取り合いに進み、アナンドが勝った。トパロフは8...h5をまた使うか注意したい。第三局はドロー。第四局は、ナイトを捨ててポーン3個を得たアナンドが、この駒割を上手に扱って勝った。かくて二年連続の優勝である。勝局ふたつを紹介棋譜に。
 さっき07/03/17を読み返し、07/03/18で小説「妖棋伝」を紹介してることを思い出した。そこで書き損ねたことをいま記しておく。06/07/01で「ゆめまぼろし百番」に触れた。その第二番が「妖棋伝」と題されていたのである。
07/07/09 紹介棋譜4参照
 アマゾンの洋書で"chess"を検索したら"Endgame Tactics"が一位だった。どちらかというと、強くなるよりは楽しむための本だと思う。それが売れるのは私のような鑑賞型のファンには嬉しい。そんなわけでもう一例、今度は有名なドローを引こう。
 図は白番、1914年(と言えばわかるでしょう)のラスカー対タラッシュから。タラッシュは「勝った」と思っていた。黒c4でP交換さえすれば後は黒c3から黒a4で決まる。ラスカーは1.h4. Kg4として、白王がQ翼へ駆けつける道を拓いたが、無駄に見えた。白王より黒ポーン群が速いからだ。2.Kf6は上記の2...c4で一手負けである。しかし、「助からないと思っても助かっている」(大山康晴)。2.Kg6があった。黒c4の余裕を与えず、2...Kxh4を取らせて一手を稼ぐ。そして3.Kf5、遠いようだが、危機は脱した。
 もし3...c4ならむしろ白を持ちたい、という局面にさえなったのである。私は面白くてSoltisのラスカー本を調べると、案の定、タラッシュは動転していた。顔が真っ赤になり、審判に詰め寄り、「場内を完璧な静寂で満たすよう要求する」と言ったそうだ。他人のせいにするあたり、いかにも根の陰険な奴である。2.Kf6や3...c4を変化手順に加えて紹介棋譜にしたので、難しく思うかたもご鑑賞を。
 レオンはアナンドが2勝0敗2分でポノマリョフを破った。二日目はトパロフがカシムジャノフを2勝1敗1分で破った。私はまた二戦で寝た。トリポリでカシムが勝てたのが今となっては不思議だ。あのときトパロフが勝って優勝もしていたら、予定通りにカスパロフとのマッチは話が進んだと思う。その場合、カスパロフはダナイロフにトイレをのぞかれながらも現役を続けたろう。
07/07/07
 早指し大会が二つ行われている。オデッサは楽しい棋士を十人集めた。レオンでは四人を揃えた。こっちはもう毎年恒例である。いま後者を観戦しているところ。アナンドがポノマリョフに二連勝した。どっちも序盤からすぐドロー臭くなった。でも、戦ってしまうとあっさり形勢は傾き、それはこの二人にはあり得ぬほど馬鹿げた力量差に見せた。ポノが可哀相なので、三局目を待たずに寝ることとする。
 昨日の本からひとつ例を挙げておこう。無名棋士の対局から黒番の図である。1...g1=Qが駄目なのはわかる。だから黒に勝ち目は無い。むしろ負けそう。やけになったか、実戦は1...Rxf6だった。2.Nxf6と取らせる。そうして 2...g1=Q、せめて一目の晴れ姿だ。無論、白は3.Rg8+と指した。さてここが見せ場だ。うまい手があった。3...Kh6である。これで引き分け。簡単で面白いでしょう。
07/07/06
 オランダに通信戦のGMがいて、七十二歳になるのだが、面白い終盤の局面を書き留めておくのが好きだった。三十年かけて、シュタイニッツやカパブランカやポノマリョフやカシムジャノフなどなど、たくさんの実戦譜を中心に集め続け、それは千局面を超えた。駒の種類や手筋によって分類し、ベテランの話芸ですべてを解説した。すると四百頁を超える本になった。英国チェス協会は昨年の最優秀書籍賞を授けた。Van Perlo の"Endgame Tactics"である。私が持っているのは初版だが、すでに改訂版が出ている。New In Chess社刊。
 どこを開いても楽しい妙手、奇跡的な手順に出会うことができる。十手ぐらいかかる例も多いが、数手で片付くひとコマ漫画に本領がある。一手で先までひらめく解説が良い。私ぐらいの棋力でも盤駒を並べずに味わえる。同種の本をもう買うことは無いと思う。私はこれ一冊を開け閉めして一生を過ごすはずである。
07/07/04 紹介棋譜5参照
 最終日も全局ドローでドルトムントは終わった。今年のドルトムントはクラムニク、アナンド、レコの直接対決が低調だったのが残念である。でも、クラムニクとしては、彼らを相手に黒番を極めて無難に済ませたのだから満足だろう。白番はすべて勝った。何より、相手のポカで勝ったりした昨年と比べて内容が素晴らしい。病気は何だったんだ?
 優勝を讃えて黒ゲルファンド戦を紹介棋譜に。クラムニクはクィーンズギャンビットで始めて、Q翼のポーン数を白3黒2にした。これは普通じゃない。秘密は7.e4にある。珍しい手だ。そして、白aポーンと黒bポーンが消えた。白cポーンがパスポーンになるわけである。こうした7.e4からの悠然とした構築がカパブランカの再来を思わせて私は好きなのだ。この間、黒に疑問手があるとは思えない。
 かくて左図の局面をむかえ、30...Nd5, 31.Bxd5. exd5, 32.Qxd5 で白のポーン得になった。黒はあまりに単純な駒損の手順を、自分から進んで指したことになる。不可解なので、この局面をじっと考えてるうちに、私でも想像がついてきた。黒に手が無い。Fritzで調べたが、手待ちの30...h6には、じっと31.h3で何も変わらず、結局、黒は自滅の手順を選ばされるようになっている。
 この人ならDeep Fritzにも勝てたと思うのだが。
07/07/03 紹介棋譜6参照
 先月から観戦の無い晩のほうが少なかったかもしれない。第6Rは疲れて眠くてついに途中で観戦を諦めた。結果だけ見ると、ゲルファンド対レコが黒勝、クラムニク対ナイディッシュが白勝だった。
 後者を並べると、ナイディッシュが序盤から意欲的に動いている。しかし、それでQ交換を志向したのがいただけない。クラムニクの十八番ではないか。案の定、格段の大局観を見せ付けられた。
 図は28...b5まで、白がP得してるが、まだ勝勢には見えない。黒にはRxd4、Red8、Rxd3+で白王を貫く順が見えているのだ。しかし、クラムニクはそれを防がず29.a4を突いた。以下、互いに我が道を進んで、黒は上記の攻めを続け、白はaxb5、bxa6である。結果は黒の駒得になるのだが、34.a7を見ればクラムニクの方が速かった。収束も軽やかで、茶道の師匠の手慣れた後片付けのようである。
 これでクラムニクは三勝目。最終日を前に二位に一点差をつけた。要するに二勝差である。
07/07/02 紹介棋譜7参照
 ドルトムント第5Rは全局ドロー。ナイディッシュ対アレクセーエフで、急に白クィーンが逃げ道を失い、取られたのでびっくりした。もちろん予定のサクリファイスだろう。この難しい駒割から、駒の配置を競い合う渋い展開になったのも見所である。紹介棋譜に。ナイディッシュという棋士を初めて面白いと思った。
 彼は九歳の頃にラトビアからドイツに移住してきた。ドイツのチェス協会はこの子に世界ジュニア選手権の出場権を与えなかった。日本からドルトムントを見ると彼は優遇されたドイツ棋士だが、裏ではゲルマン人の反発も相当のようである。
 趙治勲を連想した。ちょうど畏友が沢木耕太郎の「帰郷」を送ってくれたタイミングであった。治勲のやりきれない孤独を沢木が見守る、そして互いに何もそこには触れずに別れる名品である。
07/07/01
 熱戦だった将棋名人戦は森内俊之が防衛し十八世名人の資格を得た。夜の放送で見たが、終局直後の彼は盤上を見つめていた。そこに「なんでおれが?」と書かれてあるかのようだった。名人を目指し、防衛を使命とする、そんな普通の名人と彼は違う。自分の将棋で勝つだけの人である。
 翌日の「囲碁将棋ジャーナル」は加藤一二三が解説だった。森内も対局地から駆けつけてくれ、二人で、いや、ほぼ加藤の熱演会だったから一人半で検討を行った。面白かった。一例だけ挙げると、後手森内4六馬の局面である。実戦は▲4七歩に△7四歩が利いたのが大きかった。以下、▲6三歩成△7五歩で、実はこの後が大変な将棋だったのだが、この時点で後手が悪くない。が、加藤が指摘して、▲4七歩ではなく▲6六桂で「先手がリードできた」のではないか、というのである。少なくとも「先手が勝つなら▲6六桂という着想でないといけない」。しみじみ良い手だ。△5七馬には▲6七金寄で、以下△4八馬▲5七歩を考えて、「馬がボケた」と森内も認めた。森内は▲6六桂については「あまり見えてなかった」とのこと。加藤はまったく威張る気も見せず、「あっそなんですかほうほうほっ」といつもの調子で甲高く次の局面に出発進行した。
07/06/30 紹介棋譜8参照
 フォロスの第10Rは、もうカリャーキンに勢いが感じられなかった。ドロー。他方、イワンチュクは黒番でシロフと激突である。図はf3のナイトが引いた17.Nd2まで。白は15.h3と16.g4で黒僧をg4からg6に追い、次に白f4-f5を見せている。私ならとりあえず17...h6とでも指して逃げ道を空けようか。しかし、ここからのベテランは盤全体を使って活気があった。まづ17...a5、そして問題の18.f4に18...a4である。以下、19.Bc2. Bxc2, 20.Qxc2で先手を奪い、思い切って20...f5を突き出した。白のe5に強力なパスポーンが出来そうで、こわいところだ。でも、ここまでが確信に満ちた一連の読みだったはずである。
 こんな風にノリノリになってくるとイワンチュクは手が付けられない。シロフもどこか素直すぎた感じがするが、どの道さけられなかったろう。びゅんびゅんとイワンチュクの豪腕がうなって、シロフは好手を食らい吹っ飛んだ。かくてラス前になって単独の首位が生まれた。
 最終日はイワンチュクもカリャーキンも短い戦いでドローに済ませ、4勝0敗7分でイワンチュクが優勝した。
07/06/29 紹介棋譜9参照
 ドルトムント第4Rでクラムニク対カールセンがあった。カールセンは自分の負けパターンに入って、手も足も出せずに終わった。二勝目を挙げたクラムニクは単独首位に。応援の張り合いが失せるほど安定している。ほか、アナンドがナイディッシュを破って半点差に着けている。
 フォロスからはイワンチュクの気合が伝わる。第8Rでルブレフスキーと66手の熱戦を繰り広げて勝ち、第9Rでクィーンを捨て、形勢判断のわかりにくい終盤を戦い抜き、136手のドローを得た。前者を紹介棋譜に。カリャーキンは精彩を欠くドローを続けたので、首位がこの二人になった。また、2敗のシロフが不屈の4勝で半点差の二位に追い上げてきたのも感動的だ。
07/06/28 紹介棋譜10・11参照
 ドルトムント第3Rは全局ドロー。フォロスの方が面白い展開になっている。第7Rを書こう。
 カリャーキンが白番で三勝目をあげて首位を守った。二度の強襲がいづれも巧みだった。紹介棋譜に。図を見れば、白がビショップを捨てて黒王頭に強襲を掛けたことがわかるだろう。これが一度目のもので、黒女王を盤端に遠ざけてあるのがうまい。さて、ここで30.Rxe5が見える。手順が長いので変化手順に入れたが、30...dxe5なら詰みまで狙える。けれど、30...Qd8で黒はもう少し頑張れるのだ。だから、はやらず、カリャーキンは30.Re3といったん浮いた。すると、白Rg3を消す30...f4が必然である。これで局面の条件が変わった。そうさせてから、31.Rxe5を決行したのである。今度は黒Qd8なら白Rh5#だ。もう31...dxe5しか無く、後はきれいに仕上がった。
 イワンチュクも勝って半点差を維持した。ベテランの味の良い棋譜である。これも紹介棋譜に。
07/06/27
 クラムニクでさえ昨日の話は複雑でよくわからなかったらしい。それでも、今回の案からは、世界王座のマッチを軸にしてチェス界を盛り上げよう、という意志の存在が伝わってくる。コクとキルサンが協力し合えているのだろう。
 図で次の一手は27...Rxc3である。2000年のリナレスでカスパロフが指した、と書いたら信じる人も多かろう。実は1974年のアンデルソンの強手である。Kasparovの"Revolution in the 70s"に載っている。New In Chess の最新号でティマンがこの本を論じていた。こうしたルック切りはアンデルソンが始めたのだそうだ。黒はf7地点を守りたい。その際、27...Rc7で守るのではなく、27...Rxc3によって白Bxe5を消し、f7に利く黒ナイトを残して守る方が効果的なのである。カスパロフはそう解説するが、ティマンは、守備意識だけでなくアンデルソンは勝つつもりで指したのでは、と指摘している。ならなおさらアンデルソンはカスパロフのpredecessor だ。
 現代チェスでは多くの棋士がこの手を使う。二日目のドルトムントではアレクセーエフ対マメデャロフで、後者がルックを切ってみせた。もっとも、結果は芳しくなく、ただの駒損で終わって負けてしまった。トップ棋士でもしくじるのだから、我々が成否を判断できないのは当然だろう。観戦していて、この手が出る時が一番わかりづらい。なお、クラムニクはゲルファンドに勝った。彼らしく、段階的に形勢を良くしてポーン得し、確実な終盤で決めた。
07/06/25
 明日は僧侶のような早起きを要求されたので更新は休みます。ドルトムントは初日からクラムニク対アナンド、カールセン対レコで始まったが、ぜんぜん盛り上がらず、マメデャロフがナイディッシュに勝っただけだった。フォロスは全局ドロー。
 とはいえ、ややこしいことが決まったのでそれを書く。あまり読んでほしいとは思わないし、読まない方が脳にも良さそうだけど、07/04/08に述べた、メキシコ大会でクラムニクが優勝できなかった場合の件である。
 従来の内容では、メキシコ優勝者に挑戦するのはクラムニクであり、このマッチで「次の次」の世界チャンピオンが決まる。そして、ワールドカップ優勝者が「次の次」の人に挑戦する。これが変更された。ワールドカップ優勝者はトパロフと戦うことになったのだ。このマッチに勝った人が「次の次」の人に挑戦できる。メキシコとワールドカップは今年、二つのマッチは来年だ。最終的に世界チャンピオンが決まるのは再来年である。
 つまり、トパロフ関係者の不満がある程度改善された。もうひとつ、「次の次」の人を決めるマッチは"Championship Match" とは呼ばれなくなった。後者は気になるが、ケセラセラとしておこう。
 まだある(さっさと風呂入ってドルトムントを見たいよお)。来年から二年周期のグランプリ制を導入することも決まった。詳細は未定ながら、要するに世界各地で大きな大会を行って総合成績を争うものだ。2009年にその勝者が決まるわけだが、同じ年にワールドカップも行われる。そして、それぞれの勝者がマッチして、勝った方が世界チャンピオンへの挑戦権を得るのだ。
 以上、鬼でなくとも哄笑の湧き上がる壮大な話である。あえて批判も疑問も突っ込まずに筆を置こう。
07/06/24 紹介棋譜12参照
 昨日の53...Kg7をまだ考えていた。55.Kh5では55.Kf5の方が良いよな。とにかく、サシキランは不調かR終盤が下手なんだろう、とは思った。そこへ検索上手のKさんからメールがあって、GMの分析ではやっぱりドローである、とのこと。
 第5Rのカリャーキン対シロフを観戦した。やや良しのシロフが無理して自爆した。こういう弱さは彼らしい。カリャーキンは二勝目を挙げて単独首位だ。半点差でイワンチュクが追う。ここまでの好局としてファンヴェリー対ヤコベンコを紹介棋譜に。
 ドルトムントが始まる。アナンド、レコ、カールセンなどなど、そしてクラムニクも出場を決めた。たった7ラウンドの大会とはいえ無茶だよ。ほとんど二十一世紀のタリになってきた。もう全開で応援しちゃうぞ。
07/06/23 紹介棋譜13参照
 いま第5Rの最中だが、第2Rをもう少し。ヤコベンコ対サシキランの終盤が釈然としないのである。図でFritz8は7手半読んで53...Kh5を推奨し、これで互角と判断した。実戦もそう進んだ。
 私の目にもドローに映る。うーん、でも53...Kh5は馬鹿げてるように思うのだ。白hポーンを取りに行って何か良いことがあるだろうか?白fポーンを食い止めるべきではないのだろうか?私なら53...Kg7だ。以下、54.Kg4. Rg1+, 55.Kh5に追って55...Rf1とし、fポーンにまとわり付く。黒hポーンなんて捨てるし。
 実戦は53...Kh5から 54.Kf5. Ra1, 55.f4 と進んだ。以下、黒は60...Kxh4を実現する。一方、白はfポーンを進め放題になった。かくて、61.Kg6と62.f6の形を得てみれば、誰の目にも白の勝ちである。
 さすれば、図はもともと白の勝ちなのか?しかし、サシキランは黒hポーンを最後まで残す方針を採り、それに望みを掛けてとことん戦った。もっとも、これもまた私には馬鹿げて映る。はてさて。
07/06/22 紹介棋譜14参照
 第2Rは五局も勝負が着いた。中でも派手に決まったのが図のエリャノフ対カリャーキンで、12...Nxf2から攻め立てて勝った。13.Kxf2, Bd6からのキャスリングがチェックになる。若いや。
 寒ざらしを検索すると結構見つかった。昨年は少なかった。ちなみに、この実を使った寒九郎という焼酎もある。すっきりしていて、焼酎嫌いの私でもまあ飲めた。芦生のこだわりをいくらか付け加えておこう。水は吉野の名水を汲んでいた。一回の鍋では三人前までしか茹でない。そば湯は茹で汁の残りではなく、そば湯として作ったそば湯を出す。開店当初はメニューにビールは無かった。
 最近見かけなくなったコステニクは四月に母になっていた。女の子である。早産だから1.46Kgだがクィーンに昇格間違い無しさ。一方、クラムニクが呼吸器の感染症で高熱の重病だ。ドルトムントは彼にとって重要な大会だから無念だろうけど、いくら何でも出られまい。
07/06/21
 今日は長い会議に付き合って疲れてしまったので、無駄話を。05/10/07から芦生という蕎麦屋さんの話をしたが、書き足す必要ができた。いろいろ変わったのである。
 まづ、職人さんが変わった。それからメニューが増え、「寒ざらし」のそばを出すようになった。厳寒の信州の川水にそばの実を何日もさらす。江戸の将軍様に献上したものらしいが、長く絶えていた製法を最近になって復元したのである。水が凍って失敗することも多く、苦労したようだ。とてもたくさんは作れない。理屈はわからんが、味が深くなる。うまい。これをそばに打って出す店は芦生が最初だろうし、もしかしたら未だに唯一かもしれない。ただ、いきなり食べても感激は薄いと思うので、最初は普通のもりを堪能してくださいね。
 そして、27日から店は"なんばCITY"に新設された飲食街"なんばこめじるし"に移転する。私しか客が居ないなんて日は無くなって、たぶん味は変わるだろうが、メジャーになったことを喜んであげたい。大阪のみなさま、アンパサンで対局なさった帰り道にありますのでぜひ。
07/06/20
 ドルトムントの季節が近づいたが、その前にフォロス大会が始まった。スヴィドラー、イワンチュク、ヤコベンコなど十二人の強豪が揃った。
 初日で面白かったのはシロフ対ルブレフスキーだった。図から24.Rxb5である。24...axb5に25.c6と突いて、a5ポーンを有望なパスポーンに仕立てた。ルブレフスキーも中央から反撃して血路を開き、a5を巡る活気ある中盤を経て、N+3P対R+Pの興味深い終盤に入った。
 残り時間が一分少々のルブレフスキーは、そこで時計を押し損ねたらしい。本人は押したつもりだったが、シロフが考えている間に時間切れになってしまった。「いや、続けようぜ」と言ったのがいかにもシロフである。審判もその心意気に打たれたに違いない。しかし、お仕事である。残念な棋譜を残して勝負は終わった。まあ吉兆かも。昨年もルブレフスキーは初戦を落としたが、優勝したのだ。
07/06/19
 中国の大学受験ではカンニング・ビジネスが成り立っている、とのこと。受験生の靴に通信機器を埋め込んだりして、試験中に問題と解答の送受信を行う。機器の取り外しに際して手術が必要な例もあるそうだ。あの国らしく粗悪品も出回っており、爆発して腹部から流血した話まで伝わっている。「気狂いピエロ」の好きな私は、対局中にトパロフの頭が吹き飛ぶのを想像しウットリした。高熱で顔がドロドロに溶けたり、眼球を破ってアンテナが突き出るのも悪くない。私は伊藤潤二も好きなのだ。
 「スプラッシュ」のお約束的なカーチェイスに、ちょっとだけチェスが出てきた。今月見た映画は「檸檬のころ」を。公式ページに流れる加羽沢美濃の切ない音楽にひかれて観た。栃木の田舎を出て東京の大学に進むことに決めた榮倉奈々が、好きな男の子と別れて旅立つまでの物語である。これが長編第一作の岩田ユキは、きれいで落ち着いた構図の画を見せる監督だった。撮影の小松原茂の手柄なのかもしれないが、だとしてもこれはお互いにとって良い出会いだろう。
07/06/17
 宝珠花の日枝神社には関根が寄進した手水鉢や狛犬がある。「手水鉢にも水はなく、賽銭箱も置いてなかった。狛犬も痛んでいましたが、とても立派なものです」と畏友、さらに、「総額一万円寄進とあったと思いますが、名人戦からのお金を使ってしまったんじゃ、、、」。これには驚いた。06/05/04に書いたが、関根金次郎は名人位を手放す時、一万円の功労金をもらっている。名人位を売って関根は老後の貯えにした、と私は思っていた。しかし、その金をまるごと御賽銭にしてしまった可能性があるのだ。たしかにやりかねない人だ。だとしたら、なんとカッコいい恬淡さよ。
07/06/16
 サラエボ大会も話し損ねてた。ショートやソコロフなど六人が出場していて、そういった顔ぶれならモロゼビッチが勝ちまくる気がした大会である。けれど彼は3勝3敗4分の三位四位に終わった。優勝は3勝0敗7分のモブセシアンだった。久しぶりに聞く。ティモフェーエフが0勝3敗7分で最下位だったのはショックだ。もっと強いかと期待してたのに。棋譜はショートがエバンズ定跡を見せたのが目にとまった。彼はたまにやる。
 前から書こうと思っていたことも書いておきたい。三月末に畏友が野田を見物にいった。野田の宝珠花といえば関根金次郎である。お墓や記念館がある。墓については04/03/29に書いた。今回は日枝神社の話が気になった。
07/06/15
 採り上げる間の無いまま終わってしまった先月の大会を振り返っておこう。ハバナで恒例のカパブランカ記念大会が十人で争われ、イワンチュクが6勝0敗3分で優勝した。三連覇とのこと。彼だけが突出した参加者だったこともあり、二位に2点差もつけた。ロシアのキリシでは十六歳までの天才たちを世界各地から十二人集めた大会があり、ニポンニシが4勝1敗6分で優勝した。四人の同点首位から判定タイブレークで決まった。 エカテリンブルグでは初の女子団体選手権が開かれ、中国が優勝した。ちなみに中国では、少年少女の囲碁チェス象棋の大会で好成績を挙げた者には、大学受験で20点が加算されるそうだ。
07/06/14
 タイブレークは2勝0敗1分でグリシュクが勝った。二勝ともスコットランド定跡の黒番だった。早指しはグリシュクの方が強い。だから、ルブレフスキーの淡白だった昨日と一昨日が失敗だ。でも、メキシコのグリシュクが楽しみである。二年前のヴェイカンゼーを最後に、グリシュクは最高級の大会に出ていない。
 Chess Informant 98が出ている。前巻の好局一位はクラムニク対ブルゾン、06/06/05で紹介済みだ。クラムニクが選ばれるのは83巻以来だ。彼の不調と不人望が終った。ありがとうダナイロフ。僅差の二位はルブレフスキー対マメデャロフ、06/07/04で紹介済みだ。マメの解説は序盤に集中している。いづれも我が目の確かさに満足である。
 新手部門は第九位のモロゼビッチが目を引いた。左図の重要性は言うまでもなかろう。かつてのKK対決では、12...h6がよく指された。これで白Ng5を防ぎ、13.Bc2の時に13...exd4, 14.cxd4から14...Nb4で15.Bb1に退かせるチェスが懐かしい。いや、むしろこの二十数年間の固定手順であった。こんな局面からモロゼビッチは新構想を掘り当てたのだ。
 まづ、12...Na5と指す。機械や無名棋士による前例はある。でもモロゼビッチは新しい構想を持って指した。もし13.Bc2なら13...b4で戦える。13.Ba2でも13...exd4, 14.cxd4. c5で戦える。彼はそう考えた。実はこれも06/08/03で紹介済みだ。当時この新しさに私は気付いていない。結局、我が目は半熟というところで落ち着きそうだ。
07/06/13
 サンルイで下位にまわった四人が今回のエリスタで再起を賭けたが、うち三人が一回戦で消え、レコだけが2勝0敗3分で二回戦を勝った。第5局で唯一勝負が着いたのはカムスキー対ゲルファンドで黒の勝ち。カムスキーは四年前のイワンチュク新手を知らなかったか。これでゲルファンドもマッチを2勝0敗3分で決めた。
 そして最終第6局、シロフ対アロニアンは、白がとりあえずポーンを捨てたが、たいした代償が無い。考えても時間が無くなるだけのシロフは27手でドローに納得した。かくてアロニアンが1勝0敗5分でメキシコ行きの切符を得た。ルブレフスキー対グリシュクは20手でドロー。1勝1敗4分で、この組だけがタイブレークへ。ほとんどやる気の見られない二日間であった。
07/06/12 紹介棋譜15参照
 第4局もシロフ対アロニアンが長引いた。白2Pアップだったのに84手のドローに終わった。勝ち目を無くしたアロニアンと勝ち方を知らないシロフの終盤は、万年野党と支持率の低い内閣のようだった。シロフのルックがアロニアンの網に掛かって動けなくなったのが原因である。唯一勝負が着いたのはルブレフスキー対グリシュクだった。ルブレフスキーが大差で勝ち、戦績をタイに戻した。彼は第5局では課題の黒番を18手のドローで済ませ、流れも変えたように見える。そこまで強かったか?
 Deep Junior とDeep Fritz のどっちが強いのだろう、とは誰もが思うことだ。エリスタでは両者の六局マッチも行われた。2勝0敗4分でジュニアが勝った。第3局を紹介棋譜に。ポイズンドポーンである。20手までが、今年だけで六局もアナンドやシロフなど一流棋士による実戦例のある、必見最新の流行形だ。07/01/26他でも触れた。今回のマッチも数えれば、白の4勝1敗2分になる。22...Nc6がわかりにくかった。なお、Rybka の開発者が、「おれのプログラムを招かないのはおかしい」と抗議している。もっともなことだ。
07/06/10
 第3局はレコとゲルファンドとグリシュクが優勢になった。前二者が大差で勝った。引き分けたグリシュクも自信を深めたろう。大変な勝負になったのは再びアロニアン対シロフである。最後はドローになった。アロニアンが決め手を逸するまで、非勢のシロフがよく耐えた。本欄を書き続けて四年になるが、シロフの守備や終盤の力が高いことを実感できたのは初めてである。これをChess BaseのページでMarinが解説している。一局の流れと局面ごとの要点が見える終盤の名解説の典型だ。
 『となりの801ちゃん』を読んで思った。私も嫁も、「攻めの反対は?」と問われれば「受け」と答える。私は将棋やチェスのファンであり、彼女はいわゆる腐女子なのだ。
07/06/09 紹介棋譜16参照
 二日目は全局ドロー。最も激しかったのがシロフ対アロニアンだった。アロニアン得意のクィーンズインディアンに対し、シロフはK翼フィアンケットから7.d5を捨てる流行形を採った。そして、gポーンを伸ばした構想が面白い。けれど、アロニアンが主導権を奪い返す冒険がさらに目を奪う。図は18.Ne5まで。c6の黒Bに逃げ場が無い。だから、18...Bxg2に19.Rxd7だが、そこで、19...Bb7である。もちろん、シロフはクィーンを取った。以下の応酬も熱戦である。紹介棋譜に。
 分裂した女流棋士が日本女子プロ将棋協会(LPSA)を立ち上げた。さっそく新宿のオープンカフェと組んだ路上イベントを開催して、まづは元気である。二人連れで参加した畏友によると「アイデアいっぱいの良いイベントだった」。詰将棋を正解して抽選にも当り、たくさん景品を獲ったそうだ。司会のベガス味岡も素晴らしくて、彼を知ったのも大きな収穫だったとのこと。
 いつも思うのだが、畏友は行動できる。柄谷行人が鋭いことを言っていた。外国でネットの掲示板はデモや集会のような行動のための連絡に使われていた、それに対して、日本人は掲示板にカキコむこと自体で行動を果たしてるようなつもりでいる。女流棋士問題で将棋の掲示板は非常に議論が熱い。畏友に比べて明らかに私は「日本人」だが、彼らと同じ思い込みだけはせめて避けたい。
07/06/08 紹介棋譜17参照
 メキシコの世界王座決定戦の出場権を賭けた最後の6局マッチが始まった。カムスキー対ゲルファンドは23手でさっさとドロー。レコ対バレーエフは、黒のカロカンが上手だったのだが、勝ちに行った決め手が無茶苦茶で自爆した。あっと言う間のことで、見ていて唖然。時間に追われたらしい。アロニアン対シロフは、黒が交換損からポーンで中央突破する構想が良かった。勝つだろうと思って見ていたが、どこかで手間取ったようだ。最後は見落としで頓死した。これも唖然。
 要するに「しっかりしてよ」という初日だったが、グリシュク対ルブレフスキーが素晴らしかった。定跡はスヘフェニンゲンで、私のようなオールドファンは、80年代のカスパロフのおかげで何度も並べてよく知っている。特にルブレフスキーの専門型である、Bd7からBc6になった。もちろんグリシュクは研究していた。図から18.Nxd5である。以下、eポーンをe7まで突入させて駒得にした。仕上げも申し分ない。紹介棋譜に。得意戦法を崩されたルブレフスキーはつらくなった。

戎棋夷説