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 図は名人森内俊之の▲7四歩まで。これを挑戦者羽生善治は△7二歩と受けたのだ。みんなの前で黒板に「ぼくは悪い子です」と書かされてる気分だ。
 対して、このあとの森内の▲5七金直には勝勢の余裕が感じられる。▲7八飛からの敵陣侵入が約束された好構想だ。
 羽生の落ち目は、5二の金を失ってそれを▲4五金と打たれるまでの悲惨を極めた。その間、△2四角▲2五歩△3三角という、わざわざ歩で叩かれに出て引っ込むという手損の屈辱まで甘受している。
 これが逆転するとは。


 深夜の衛星放送によれば、逆転の始まりは図の△4二角打である。森内は▲7五歩と打つより無く、飛車道が止まってしまった。
 転落の始まりは成桂を8四に置いたことだそうだ。7四からここに寄せて玉頭を補強した、森内らしい堅い配置だが、そうでなく▲6三成桂と指しておけば良かった、という。その場合でも△4二角打が好手になりそうだが、手持ちの柿木将棋Yに先手を持たせて試すと▲6四銀△6二歩▲7二飛成以下、私も結構頑張れたものの逆転できそうになかった。いや、それより、本譜の進行で成桂が8四に居たおかげでこの後の△5四飛に当ってしまったのがまずかったのかもしれない。
 つうか、▲8四成桂がどんでん返しの大悪手だったとは思いにくい。ゆえに△4二角打を「羽生マジック」と呼ぶより無いわけだ。一手の鮮やかさに加えて、その前後がぼやっとしている。05/11/07 で触れた西村大山戦の大山康晴の粘り方を思い出した。怪物って似ている。ただ、羽生には華がある。


 そしてこれが「五十年に一度」と評判になった大逆転の図だ。先手玉が入玉してるのに、盤の左下隅で勝負が着いている。見る者をして粛然とさせる浅ましさ、いや、無論これは賛辞である。
 この後がまたすごい。金が手に入れば後手の勝ちがはっきりする、という形になったので、7八の金と6九の銀の追いかけっこが始まったのだ。森内が投了した時、金は7四にあり、銀は7六に居た。銀の笑いが聞える。