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ハイドン交響曲全曲感想記

 ここ何年か、涼しくなってきたら通勤は途中で電車を降りて、ハイドンの交響曲を聴きながら歩いている。そろそろ一区切りつけるためにも、全曲の感想をまとめておこうと思った。毎年、ドラティ盤とフィッシャー盤を中心に聴いてきて、今年はデニス・ラッセル・デイヴィス盤に変えてみた。
 よく参考にしたのは、『作曲家別名曲解説ライブラリー26、ハイドン』(音楽之友社、1996年)のほか、井上太郎『ハイドン106の交響曲を聴く』(春秋社、2009年)、福田陽ホームページの「ハイドン研究室」である。
 順番はデイヴィス盤に従う(「時計」と協奏交響曲は例外)。作曲順とのこと。これで聴いてみたかったのである。年齢は誕生日後のもの。
 特に説明の無い限りどれも四楽章構成の交響曲である。
 演奏時間はデイヴィス盤をもとにした。長めの演奏が多い。
 評価基準は下記のとおり。デイヴィス盤での印象が強いけど、それだけの評価ではない。実際、八〇番あたりから、小編成かつ遅い演奏のデイヴィス盤でハイドンを評価するのは困難になった。
  ★★★★★ 名曲。
  ★★★★☆ 素晴らしい楽章があって忘れがたい。
  ★★★☆☆ ハイドンの交響曲が好きな人は楽しめるはず。
  ★★☆☆☆ 聴かずに済ませたい楽章が気にさわる。
  ★☆☆☆☆ さ、次の曲にいこう。
 ちなみに、ハイドンの交響曲は、全集ならドラティ、疾風怒涛期はピノック、パリはクイケン、ザロモンの前半はセル、後半はバーンスタインの指揮を好みます。

初期の交響曲(一七五七年、二五歳からの一五曲)
 全部をぢっくり聴く価値のある曲は無い。雰囲気だけあれば良かったのだろう。
 ハイドンらしさを感じさせる楽章がいくつかあり、それに出会うとうれしい。

第1番、ニ長調、一四分、三楽章、★★★
 第一楽章が若々しい。とは言え、すでにハイドンらしい風格を備えている。
 第二楽章後半にも、ハイドンらしい典雅な感傷のひらめく箇所がある。

第37番、ハ長調、一七分、★★
 ティンパニの味が捨てがたい(ただしディヴィスは使ってない!)。
 全体としてバロック音楽のような重さがあり、ハイドンらしくない。

第18番、ト長調、一六分、三楽章、★★
 無難にまとめた感じ。第一楽章、第三楽章、第二楽章の順に再生すると、
 モーツァルトの交響曲を第二楽章から聴いてるような気になる。

第2番、ハ長調、一〇分、三楽章、★★
 第一楽章はハイドンらしいけれど、まだまだ芸が足りない感じ。
 残りは、同じ音楽が単調に繰り返されてるだけ、という印象。

第4番、ニ長調、一八分、三楽章、★★★★
 暗く落ち着いた二短調の第二楽章が謎めいた雰囲気を出している。
 ハイドンだけでなく、他の作曲家を含めても、ちょっと変わってる。

第27番、ト長調、一四分、三楽章、★★★
 元気よく広々した第一楽章、ピチカートが上流階級っぽい第二楽章。
 第三楽章に工夫があれば、全体としてよくまとまった佳作だったかも。

第10番、ニ長調、一二分、三楽章、★★★
 毒にも薬にもならない、という印象。特に第一楽章がそう。
 第二楽章、第三楽章も思い入れをこめずに書いた感じ。聞き流す音楽。

第20番、ハ長調、二〇分、★★★
 ティンパニが入って第一楽章は祝祭的な盛り上がりがある。品も良い。
 第四楽章が優雅な曲調で、指示のままプレストで演奏するとうるさい。

第17番、ヘ長調、一六分、三楽章、★★★★
 悠々として伸びやかな第一楽章は若い時期独特のハイドンらしさだ。
 第二楽章と第三楽章は下手くそ。今からでも書き直してほしい。

第19番、ニ長調、一五分、三楽章、★★★
 第一楽章と第二楽章は、毒にも薬にもならないBGMという印象。
 聴いていて苦痛ではないのが取り柄だ。第三楽章はいくらか聴ける。

A(第107番)、変ロ長調、一三分、三楽章、★★★
 ただのBGMではなく、音楽を聴かせようとしてる感じは伝わる。
 単純ながら、どの楽章にも聴かせどころを用意してくれてる。

第25番、ハ長調、一四分、三楽章、★★★
 交響曲作家としてもっと進境を示した後の作品という説もわかる。
 楽器の響きがこれまでと違う。第一楽章の緩急の切り替えが特徴。

第11番、変ホ長調、二二分、★★★
 第一楽章がしっとりしてる。ハイドンらしい緩徐楽章が現れた感じ。
 第二楽章のフーガっぽさは「ジュピター」風。ここまでは聴ける。

第5番、イ長調、一四分、★★★
 ホルンが穏やかにも華やかにも目立つ。作曲者も芸を利かしている。
 ただ、音楽としての感動が無い。井上太郎は「初期の傑作」と言う。

第32番、ハ長調、一七分、★★★★
 華やかな祝祭交響曲。第一楽章は誰が聴いてもパパ・ハイドンだ。
 ユーモアがあり、変化も楽しい。第二楽章、第三楽章は普通の出来。

エステルハージ家に仕え始めた頃(一七六一年、二九歳からの二五曲。計四〇曲)
 ハイドンらしさが完成するまで、忍耐して聴かねばならない。凡作が多い。
 自分らしくなった後は、作品によって自分を超えてゆく成長に目をみはる。

第15番、ニ長調、一九分、★★★★
 第一楽章序奏のピチカートが最高にエレガント。本題の部分が残念だ。
 他の楽章も工夫を凝らしてるのがわかる。第三楽章がまあ悪くない。

第3番、ト長調、一五分、★★★
 作曲が上手になった感じ。井上太郎いわく、第四楽章が「ジュピター」風。
 「初期の作品の中でとりわけ人気が高った」とのこと。わかる気がする。

第6番「朝」、ニ長調、一九分、★★★★
 「朝」「昼」「晩」の三部作が交響曲に分類されるのは一九世紀なんだって。
 嫌いな曲だった。デイヴィスの落ち着いた演奏で初めて聴ける気になった。

第7番「昼」、ハ長調、二三分、四か五楽章★★★
 この三部作は合奏協奏曲なんだと言われると、ソロが目立つのもわかる。
 最初の二(三)楽章にハイドンらしい典雅な感傷のひらめく箇所がある。

第8番「晩」、ト長調、二一分、★
 この三部作は初の大仕事を受けた若者の張り切った感じがよく出ている。
 反面、まだ力不足で背伸びしてるよう。名つきだから有名なのが私は残念。

第36番、変ホ長調、二一分、★★★
 第一楽章に悠々として伸びやかな若い頃のハイドンらしさがある。
 「ハイドン研究室」では「バロック、古典派両方の長所を兼ね備えた秀作」。

第33番、ハ長調、一八分、★★★★
 ぜんぶ通して聴き直してもいいな、と思わせる曲が二二番目にやっと登場。
 第二楽章、ハ短調の不安な冒頭から美しい弦への響きの変化が好き。

第9番、ハ長調、一三分、三楽章、★★
 メヌエットで終る。え、第四楽章が無い。おあずけを食った感じになる。
 第二楽章が退屈で長く感じる。第一楽章と第三楽章はそんなに悪くない。

B(第108番)、変ロ長調、一五分、★★
 強い不満は無いのだけれど、ハイドンを聴いてるという気分になれない。
 井上太郎も「ハイドン研究室」も「バロック的」と言う。最初期の作かも。

第14番、イ長調、一六分、★★★
 イ長調のくせにデイヴィス盤は前半が重く響く。第一楽章は速いと快いのに。
 フーガっぽい第四楽章はスケールの大きいことをやりたかったんだろうな。

第40番、ヘ長調、二一分、★★★★
 第一楽章に悠々として伸びやかな若い頃のハイドンらしさがある。
 単純単調な第二楽章が六分も続くが、フーガを工夫した後半より印象に残る。

第12番、ホ長調、一九分、三楽章、★★★
 井上太郎いわく「古典派交響曲の第1楽章の基本的な形」。完成度が高い。
 第二楽章の悲壮感は芝居ががっており、長いし、嫌い。第三楽章は普通。

第16番、変ロ長調、一六分、三楽章、★★★★
 「半音階的に下降する第1楽章のテーマは心地よい」と「ハイドン研究室」。
 専門家は上手に説明してくれる。第二楽章は退屈。第三楽章は悪くない。

第34番、二短調、二一分、★★★★
 沈鬱な第一楽章の後に元気な第二楽章。両者に関連性があるとは思えない。
 どっちも素晴らしくて戸惑ってしまう。おまけに後半は普通の出来栄えだ。

第72番、ニ長調、二三分、★★
 第一楽章はホルンが威風堂々に盛り上げてくれる。古風な合奏協奏曲。
 第71番と第73番の間に置いて順に聴くと、完成度の差が目立って印象が悪い。

第13番、ニ長調、二三分、★★★★
 全楽章がハイドンらしくなった。特に第二。チェロ独奏の慰安に満ちた歌。
 このあたりで一皮むけた感じ。最終楽章がまた「ジュピター」を思わせる。

第23番、ト長調、一八分、★★★★
 第一楽章は悠々として伸びやか。楽器の活かし方も完璧になった。
 第二楽章に優雅な感傷。後半楽章は落ちる。ピチカートで終わるのが遊び。

第22番「哲学者」、変ホ長調、二〇分、★★★★
 ゆるい第一楽章はホルンと間の抜けたイングリッシュホルンが特別な体験。
 第二楽章の活力も素晴らしい。後半楽章は普通。特にメヌエットが不出来。

第21番、イ長調、一五分、★★★
 第三楽章が「アイネクライネナハトムジーク」を想起させる。つい思うに、
 ハイドンはメヌエットが弱点かも。第二楽章は活力あり。短調で聴きたい。

第24番、ニ長調、二〇分、★★★★★
 「ハイドン研究室」は「この時代ではかなりの傑作」、井上太郎も高い評価。
 第一楽章の主題の響きが変わるところ。第二楽章のフルートの可憐な味わい。
 ブログ「ハイドン音盤倉庫」でシェファード盤を教わって傑作に気づいた。

第30番「アレルヤ」、ハ長調、一四分、三楽章、★★★★
 第一楽章、ズンズンズンと低い受け答えで曲をまとめるところが印象的。
 残りの楽章は特に感動が無いけど、凡庸ということはもうありえぬ安定感。

第31番「ホルン信号」、ニ長調、二九分、★★★★
 「ハイドン研究室」は「合奏協奏曲もしくは協奏交響曲に近い」。
 でも、もう古くさいバロック臭は無い。ホルンの活躍が良い。

第39番、ト短調、二〇分、★★★★★
 疾風怒濤期の作品だとばかり思っていた。切迫感あふれる情熱的な第一楽章。
 モーツァルトの小ト短調に似る。モーツァルトは劇的、ハイドンは格調高い。

第29番、ホ長調、一八分、★★★
 とりたてて魅力的な楽章があるわけではない。毒にも薬にもならぬ感じ。
 井上太郎はユニゾンの多さに注目している。第三楽章は伴奏だけの部分あり。

第28番、イ長調、一九分、★★★
 第三楽章の特殊奏法を使ったメヌエットで目が覚める。これだけ、という曲。
 同じ音を異なる弦で交互に弾くそうだ。第一、第二楽章が単調で退屈。

疾風怒濤期(一七六七年、三五歳からの一九曲、計五九曲)
 短調が増えたりして、ハイドンが感情的になった、そう感じる人が多い。
 でも、なまの個人の気質を私が感じるのは第17番や40番の第一楽章などだ。
 疾風怒濤期はむしろ内面を隠すことを自身に課し、いろんな音を試してる。
 第49番以降は佳品ぞろいだが、一度もハイドンは自分の歌を書かなかった。

第38番「こだま」、ハ長調、二一分、★★★★★
 どんくさく始まる第一楽章のユーモラスな味わい。「こだま」の第二楽章。
 第三楽章はリズムのキレが良い。第四楽章はオーボエ協奏曲の華やかさ。

第58番、ヘ長調、一九分、★★
 物足りない。井上太郎は「聴衆のわかりやすさを第一に考えた小交響曲」。
 「ハイドン研究室」は「かなり初期の作風と考えられる」。初期なら許せるが。

第35番、変ロ長調、二〇分、★★★
 第一楽章は華麗な旋律で展開も多彩に聴こえる。短調の転調が豊富らしい。
 第二楽章を頑張ってくれれば、全体としてよくまとまった佳作だったのに。

第59番「火事」、イ長調、二三分、★★★
 第一楽章の軽薄な騒々しさが好きになれない。けたたましい。せからしい。
 中間二楽章はまあまあ。第四楽章は、第二主題ってのかな、そこが好き。

第49番「受難」、ヘ短調、二六分、★★★★
 受難交響曲というジャンルが当時あって、この曲もそう、って説はわかる。
 作品51「十字架上の言葉」を交響曲にしたら、たしかにこんな感じでは。

第26番「ラメンタチオーネ(嘆き)」、ニ短調、一八分、三楽章、★★★★
 受難曲の旋律が使われているそうだ。「ハイドン研究室」がとても気になる。
 「49番と連続して演奏することを意図しているとも考えられるのですが…。」

第41番、ハ長調、二一分、★★★★
 貫録ある立派な祝祭交響曲。第一楽章はベートーヴェン風に弦が盛り上がる。
 第三楽章メヌエットも堂々としてる。第四楽章は強音を連打しながら終わる。

第65番、イ長調、二二分、★★★★
 そよ風に吹かれているようにさわやかな第一楽章。その気分が後にも続く。
 第四楽章になって、ホルンにうながされ、「昼寝はおしまいさあ行こう」。

第48番「マリア・テレジア」、ハ長調、二九分、★★★★
 スピード感にあふれて、しかも威風堂々とした第一楽章が大好き。たとえば、
 「アレルヤ」にもあった、いばった感じでブイブイ鳴る箇所が印象的。

第44番「悲しみ(哀悼)」、ホ短調、二六分、★★★★
 ハイドンは「自分の葬儀には第三楽章を流してほしい」と言っていた。
 悠然とした慰安に満ち、また解放感さえあり、悲しみは薄いアダージョだ。

第43番「マーキュリー」、変ホ長調、三四分、★★★★★
 第一楽章は品位のあるスピード感の中に切なさのひらめくひとときが好き。
 作品17-4が一部似てる。『名曲解説』は「室内楽的な緻密で親密な響き」。
 この曲は弦がキラキラと輝く古楽演奏で聴きたい。ピノック盤で。

第52番、ハ短調、二三分、★★★★
 何か豪華。「ハイドン研究室」は「大傑作。短調だが力強く明るさも持つ」。
 井上太郎も絶賛。第四楽章の第二主題がびよーんと伸びる。忘れがたい。

第42番、ニ長調、三五分、★★★★★
 これといって目立つ仕掛けも気をひく旋律も無いけど、雰囲気を聴かせる。
 気品の第一楽章。薄曇りの第二楽章。リズム明解の第三楽章。軽い第四楽章。
 どこも良い。「ハイドン研究室」は「古典派ソナタ様式の完成形に近い」。

第47番「パリンドローム(回文)」、ト長調、二八分、★★
 モーツァルトのお気に入りだったらしい。結局、自分と似たものを好むか。
 第三楽章で楽譜を逆読みに演奏させるのがあだ名の由来。第四楽章は良い。

第45番「告別」、嬰ヘ短調、二三分、★★★★★
 第一楽章第一主題を、『名曲解説』は「単純だが、圧倒的な楽想」。同感。
 ひとりまたひとりと消えてゆくあまりに有名な最終楽章も当然素晴らしい。

第46番、ロ長調、二三分、★★★
 ロ長調というのは嬰ヘ短調に負けず劣らずとても珍しいそうだ。#が五つ。
 実際はあまり長調らしくない。ドラティ盤は最後に放屁っぽい音が入る。

第51番、変ロ長調、二一分、★★★
 ハイドンが「非常に前衛的であったことをこの曲は示している」(井上太郎)。
 たとえば、第二楽章でホルンが裏声に近い高音からどんくさい低音まで出す。

第64番「時のうつろい」、イ長調、二四分、★★★★
 第一楽章、上流階級風の第一主題から、ほんの少し劇的な味の第二主題へ。
 第二楽章があだ名の由来か。長く曳く弦と対照的に、何度も音が途切れる。

第50番「神々の怒り」、ハ長調、二〇分、★★★
 劇の序曲が使われており、その題があだ名になった。「ハイドン研究室」は、
 「壮大な序奏はこの時期の作品としては珍しい」。後半楽章も堂々としてる。

歌劇中心の過渡期(一七七四年、四二歳からの一七曲、計七六曲)
 中野博詞『ハイドン復活』(春秋社、1995年)の説明がわかりやすい。
 編成が大きくなってゆく。ゆったりした序奏が付くことが多くなる。
 急、緩、メヌエット、急、の構成が当然になる。それに長調ばかりだ。
 私には、手間を省いた駄作と、最後の飛躍に備えた実験作の混在する時期。

第55番「校長先生」、変ホ長調、二一分、★★★★
 影の無い曲だ。第二楽章のもったいぶったリズムがあだ名の由来という。
 第一楽章第二主題でいきなり駆け足になるところが楽しい。

第54番、ト長調、二七分、★★★
 編成が大きいらしい。ザロモンセットのような「偉そうなハイドン」が響く。
 「ハイドン研究室」も井上太郎も第二楽章を賞賛する。私には斉奏が鈍重だ。

第56番、ハ長調、三四分、★★★★
 祝祭交響曲のわりに、第一楽章第一主題など、まろやかさのまさる曲である。
 第二楽章が素敵だ。オーボエとファゴット、転調したときのくすみが良い。

第57番、ニ長調、三三分、★★★★
 序奏が終わるやいなや、いささか場違いな第一主題がなだれをうって始まる。
 この感じはドラティ盤で。ハイドン独特の典雅な感傷もあり。他楽章は軽い。

第60番「うかつ者」、ハ長調、三〇分、六楽章、★
 『名曲解説』によると「ユーモア、よき精神、理性」を称えられた人気曲。
 あだ名の劇音楽の使い回し。雑然として交響曲ではない。演出も軽薄。

第68番、変ロ長調、二八分、★★★
 井上太郎は繰り返しが続く第三楽章の異様な長さに考えこまされている。
 退屈、冗長、執拗、などなど。デイヴィス盤で一一分。実は私は快適だ。

第66番、変ロ長調、二四分、★★★★
 洗練されたおしゃれな曲。第一楽章のほか、第二楽章のピチカートに感じる。
 井上太郎は第三楽章について「リズムの処理が巧み」。第四楽章もさらっと。

第67番、ヘ長調、二六分、★★★
 特殊奏法など「ハイドン研究室」は「各所にさまざまな工夫が見られます」。
 音楽自体の感動は軽いけど、素人にも工夫が伝わる。井上太郎は「傑作」。

第69番「ラウドン」、ハ長調、二七分、★★★
 バロックの式典音楽のような序奏から、ザロモン交響曲のような主題に入る。
 アダージョを細かく震える弦で奏でる。デイヴィス盤の遅い演奏が合う曲だ。

第61番、ニ長調、二七分、★★★★
 第二楽章以外はどれも明るい。特に第一楽章が好き。すばしっこく始まる。
 井上太郎は「管楽器のソロの指定のあるところが多い」。特に奇数楽章。

第53番「帝国」、ニ長調、二三分、★★★★★
 初稿であり流布もしたB版の第四楽章よりも、後のA版が良い。快速だ。
 A版採用だけでもクイケン盤がおすすめ。風格があるのに軽い味わいの曲。

第70番、ニ長調、二一分、★★★
 なんか変ってる。長調と短調の交代で構成されてる。第二楽章は中身まで。
 第一楽章の旋律も飛び飛び。残念ながら名曲ではないけど、記憶に残る。

第71番、変ロ長調、二五分、★★★
 かなり手が込んで聴きづらい。井上太郎も専門用語を駆使して説明している。
 「ハイドン研究室」は「メロディの親しみやすさが際立」。終楽章なら同感。

第63番「ラ・ロクスラーヌ」、ハ長調、二二分、★★★
 歌劇の序曲やら劇音楽やらの使い回し。メロディは悪くないが、音が貧弱。
 第四楽章を井上太郎は「一番優れている」。同感。小刻みのリズムに乗る。

第75番、ニ長調、二一分、★★★★
 モーツァルトのお気に入り。「ハイドン研究室」は「リンツ」を連想してる。
 第一楽章とかだろうなあ。変奏曲によく退屈する私でも第二楽章は聴けた。

第62番、ニ長調、二一分、★★
 最後の駄作だ。第一楽章は「帝国」終楽章B版を安っぽくしたもの。
 第二楽章が悪くないけど使い回しらしく、手抜きした感じがぬぐえない。

第74番、変ホ長調、一八分、★★★★
 井上太郎は「隠れた宝物」と絶賛する。「ハイドン研究室」では点数が低い。
 各楽章とも優雅で繊細。第一楽章が精妙な感じ。第二楽章が第何番かに似る。

「イギリス」「パリ」交響曲とその前後(一七八一年、四九歳からの一八曲、計九四曲)
 第76番からの三曲がイギリス交響曲、第82番から第87番がパリ交響曲である。
 エステルハージの殿様へではなく、見ず知らずの聴衆への広がりを感じる。
 反面、以降最後の交響曲まで続く、万人受けの娯楽大作路線を空疎に思う。
 出来栄えの安定感は盤石である。スタイルが完成しきって駄作ができない。

第73番「狩」、二長調、二四分、★★★★
 第一楽章第一主題が広々と響き渡る。音楽が史上初めて空間芸術になった。
 第四楽章も大きい。騎馬の群れが続々と現れ、地響きが延々と途切れない。

第76番、変ホ長調、二三分、★★★★★
 第二楽章は弦がきれい。けど、いささか変化に乏しい変奏曲だな、と思うと、
 旋律のしっぽが急速に重味を増し、厳粛な斉奏へ盛り上がる。指揮者限定曲。
 ドラティ盤かヴァントのDVDで。特にヴァントはこの曲を気に入っていた。

第77番、変ロ長調、二一分、★★★★
 第二楽章がハイドンらしい。井上太郎は「オーケストレーションが精妙」。
 第三楽章がいつもの優雅さとは異なるさっそうとしたメヌエットで飽きない。

第78番、ハ短調、二二分、★★★★
 ハイドンは短調の深刻さをしばしば薄める。彼の短調は苦悩の表現ではない。
 冒頭で張りつめた気分が盛り上がる。それが次第にゆるんで解放感に達する。

第80番、二短調、二四分、★★★★
 これも苦悩の無い短調である。第一楽章の第二主題でコロッと可愛くなる。
 続く楽章はこの可愛い第二主題からできてる気がする。第二楽章が特に良い。

第81番、ト長調、二五分、★★★
 「ハイドン研究室」は「魅力的な瞬間が多いのだが、全体の印象は散漫」。
 メヌエットを井上太郎は「民俗音楽風」。トリオのファゴットなど楽しい。

第79番、ヘ長調、二二分、★★★★
 第一楽章はいささか手抜きではないか。後半二楽章も軽い出来栄えである。
 第二楽章が特別。普通の変奏曲が、急に格調高いアレグロに生まれ変わる。

第87番、イ長調、二四分、★★★★
 第一楽章は小刻みのリズムに乗って旋律が快くすべる。第二楽章は彩り豊か。
 フィナーレは初期以来ひさしぶりに悠々として伸びやかな主題が使われる。

第85番「王妃」、変ロ長調、二四分、★★★★
 長調だか短調だか迷う第一楽章につい集中する。ちらっと「告別」っぽい。
 第三楽章はきれいなメヌエット。偶数楽章は聴きやすいだけで物足りない。

第83番「めんどり」、ト短調、二六分、★★★★
 序奏なしで深刻な弦楽の斉奏が襲ってくる。そして突き放すように途切れる。
 例によってこのムードは続かず、牝鶏の声になる。後続楽章もすべて長調だ。

第84番、変ホ長調、二四分、★★★★
 第一楽章が素晴らしい。ほの暗い序奏で弦が強く輝く。空間が急に広がる。
 軽快かつ余裕あるリズム。短調への転調に格調がある。後続楽章は普通。

第86番、ニ長調、二五分、★★★★
 序奏が済み、小刻みのリズムに乗り、かぼそい弦が張り切って期待を高める。
 続くのはスピード感のある大管弦楽だ。圧倒される。中間楽章がやや退屈。

第82番「くま」、ハ長調、二六分、★★★★
 第一楽章はドンドコと景気が良く、その次は緩徐楽章ではなく優雅な変奏曲。
 第四楽章は熊のうなり声。パパ・ハイドンの楽しいイメージに一番合った曲。

第88番「V字」、ト長調、二一分、★★★★
 第一楽章は壮大な旋律とのどかな旋律との、前者を軸とした展開が見事。
 第四楽章のポコポコした快速のユーモアも楽しい。第二楽章は元祖「英雄」。

第89番「証城寺」、ヘ長調、二五分、★★★★
 優雅で大作趣味が無く好ましい。貴族向けの雰囲気がこの時期には珍しい。
 日本人の誰もが冒頭で狸囃子を連想する。軽く華やかな第四楽章が好きだ。

第90番、ハ長調、二五分、★★★
 第一楽章の第一主題の旋律がフルートで入る。そこが好き。中間楽章が退屈。
 第四楽章はジャンと終わると見せかけて、まだ続く。これを喜ぶ人もいる。

第91番、変ホ長調、二六分、★★★
 序奏の続きに特徴。壮麗な第一主題が鳴り渡るのではなく、ぬるっと入る。
 第二楽章は手抜きでは。第三楽章はトリオに好感。第四楽章は手慣れてる。

第92番「オックスフォード」、ト長調、二七分、★★★★
 これまでにハイドンが書いた九四曲の交響曲の「要約あるいは総決算」と、
 ランドンは言う。でもハイドンは聴く人にそんなこだわりは感じさせない。
 美しい第二楽章の中間の盛り上がり、快速の第四楽章。ぜひクイケン盤で。

ザロモン交響曲(一七九一年、五九歳から一七九五年までの一三曲、計一〇七曲)
 特大オーケストラに慣れて自在に操っている。両端楽章はジェットコースター。
 聴衆は威圧されたり茫然としたり、振り回されて身体的に熱狂したのでは。
 中間楽章は「パリ」で退屈することの多かった変奏曲やメヌエットにほれぼれ。

第96番「奇跡」、ニ長調、二七分、★★★★
 第一楽章は以前のハイドンに無い陶酔を誘うが、絶頂はたった二小節で終る。
 こうした鋭い音や短調への転調などによる一瞬の緊張感や不安をかきたてる。

第95番、ハ短調、二〇分、★★★
 第78番80番の短調の手法で新味は無い、と『名曲解説』や井上太郎。同感。
 第三楽章は普通なら軽やかなメヌエットの旋律を威圧的にどす黒く鳴らす。

第93番、ニ長調、二四分、★★★★
 緩徐楽章はひとつだけど、全体の印象はゆったりしたスケールの大きな音楽。
 威風堂々たる第二楽章の終りにファゴットがおならを鳴らす。これは何だろ。

第94番「驚愕」、ト長調、二四分、★★★★★
 有名なドカンのわりに基調は優雅な華やかさ。親しみやすさも申し分ない。
 その生ぬるい全体と一瞬でつりあうためにもドカンは余裕をもって盛大に。

第98番、変ロ長調、三〇分、★★★★
 威圧感が突出せず、終りに可憐な鍵盤楽器が登場するなど、異質である。
 何がしたい?モーツァルトへの個人的な追悼曲ではないか、と井上太郎。

第97番、ハ長調、二六分、★★★★
 第一楽章は推進力の輝かしい第一主題と舞曲風の穏やかな第二主題の対比。
 第二楽章の変奏曲は主題で木管が加わるあたりの不思議な響きが心に残る。

協奏交響曲(第105番)、変ロ長調、二一分、三楽章、★★★
 独奏楽器はヴァイオリン、チェロ、オーボエ、ファゴット。曲調は柔らかい。
 佳作だけど傑作群の間ではちょっと損。終楽章はヴァイオリンが一番目立つ。

第99番、変ホ長調、二八分、★★★★
 品が良い。そのぶん目立った特徴が無いけど、ひそかな愛好者が多いのでは。
 第一楽章は華やかで輝かしく軽く切ない。フルートの安らぐ第二楽章は最高。

第101番「時計」、ニ長調、三二分、★★★★
 これと第102番、104番を「どの楽章をとっても」「一分の隙もない」と評する
 『名曲解説』の「最高傑作」観はわかるが、それでも有名な第二楽章が良い。

第100番「軍隊」、ト長調、二五分、★★★★
 偶数楽章、特に第二楽章の軍楽打楽器が有名。あだ名に反してのどかな楽章。
 一歩一歩、踏みしめる感じの行進。最後は派手に鳴り響いてちょっとこわい。

第102番、変ロ長調、二八分、★★★★★
 勇壮、雄大、悠然、「U字」と呼びたいほどだ。これこそザロモン交響曲。
 第一楽章が激しく追い迫る最中にゆったりしたリズムを感じる箇所が快感。

第103番「太鼓連打」、変ホ長調、三一分、★★★★
 太鼓以外の特徴は弱い。変ホ長調が好きな私としては珍しく性に合わない。
 第二楽章が長すぎる、たぶんそれが理由だ。三分の一くらいを占めている。

第104番「ロンドン(ザロモン)」、ニ長調、三一分、★★★★
 短調の序奏がじっとり終り、第一主題がヴァイオリンでゆるく入ってくる。
 そしていきなりフォルテに盛り上がる威圧感はザロモン交響曲全体の象徴。