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関東中央病院PTSD訴訟
精神科医の診察時の心無い発言によってストレス障害を発症したとして,二審で患者側が逆転勝訴した事件です。
この報道だけを読むと,いかにも担当医が暴言を吐いて患者を傷つけたように読めますが,果たしてそれだけで片付けて良いものなのか,一審東京地裁では原告側が敗訴していることも考えると,この高裁判断を鵜呑みにはできないと考えました。 そこでよく確認してみると,この高裁での逆転判決には相当に大きな問題があると考えられました。 最初に書いておきますと,そもそもこの女性は受付時間外に受診させろと要求し,時間外なので後日にしてくれという看護師の願いに応じず,やむなく医師が受診の要求に応じたところ,その診療に過失がありストレス障害を負ったのだと訴えています。医療側としては,仏心で時間外に受け付けた患者からこのような訴訟を提起されることがあるのであれば,時間外の受診希望は画一的に断ったほうがまだマシだという考えになってもおかしくないでしょう。 この女性は,過去に東京を離れてX県で生活していたときにストーカー行為やセクシュアルハラスメントを受けており,もともと精神的に不安定だったようです。女性から病名を尋ねられた担当医師が「境界型人格障害だ」と病名を告げたことなどによって,PTSDが再発したのだと判決文では認定しています。そうすると,もし女性が本当にPTSDを再発したのだとしても,その大元の原因はX県での体験であったことになります。実際,判決文で示されているPTSDの診断基準への該当項目に並べられた事実は,ほとんどがX県での体験となっています。このような場合に,そのPTSD再発の責任を担当医師に負わせることが相当であるとする理由が不明です。 また判決文では,担当医師が女性を短絡的に境界型人格障害(BPD)であると即断し,それを早急に告知したことが過失であると判断しているようで,いろいろと理由を並べ立てているのですが,よくよく読んでみても,それを法的過失であるとの認定を基礎付けるに十分と思われる証拠が出てきません。 一応『精神障害の臨床』等の医学教科書を証拠として挙げていますが,判決文には「こうすべきである」といういわば努力目標は書かれているものの,担当医師の診療行為を過失と認定できるような禁止事項が示されているわけでもありません。 その境界型人格障害(BPD)の診断にしても,女性側協力医ですら「PTSDという診断をする人もいるだろうし,しない人もいるだろう。BPDであるというふうに診断する人もいるだろうし,しない人もいるだろう」と認めている上,判決文をよくよく読 んでも境界型人格障害(BPD)と診断したことについては誤診であるとも書いておらず,それであればなぜ患者に病名を尋ねられて境界型人格障害(BPD)という病名を告知したことが過失であるとされるのかという点についても皆目不明です。 非常に苦しい言い訳だらけの判決文という印象で,他にも疑問を持たせる文は多々あります。一応,証拠に沿って判断をした形をとっているため,司法過誤度B判定(医学的判断に重大な問題がある)としましたが,厳しく見れば 司法過誤度A判定(司法判断の手法自体に過誤がある)と捉えても強ち不合理ではないと考えます。 この事件の総括としては,一審判決で示された以下の内容が全てだと思います。(A医師が担当医師です。) 原告は,患者に希望や安らぎを与える場所であるなど何らかの希望を持たせてくれる場所であると思い,被告病院精神神経科を受診したことがうかがわれ,(甲A6,原告本人),そのような思いで受診した原告にとってA医師の対応が原告の期待に沿うものでなかったとして不満を訴えるものであることは理解できるけれども,A医師の判断及び対応が医療水準を逸脱したも のであったということはできず,平成16年1月9日及び同月30日のA医師の原告に対する行為が,過失ないし違法行為に当たるということはできない。 平成21年9月20日記す。平成21年11月15日,二審の司法過誤度をCからBに変更。 医療訴訟トップに戻る | 表紙に戻る |
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