紹介棋譜 別ウィンドウにて。
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Morelia Linares はAnand, Aeroflot はAlekseevが優勝。

07/03/18
 角田喜久雄の「変化如来」や「妖棋伝」が昭和戦前に映画化されていたことを畏友が教えてくれました。前者は1937年、後者は前編が1937年で後編が1938年。角田喜久雄って?実は知りません。でも、ネットで調べると彼の小説は43回も映画化されてるので売れた作家さんのようです。考えることもなかなか奇抜で、幕末が舞台の「変化如来」は、なんと看寿の図巧五十番が江戸の地図と重なるという趣向なのだとか。
 日本文学に詳しいつもりの私としては、知らないほうが恥づかしいらしく、角田喜久雄の本は今でも簡単に入手できます。畏友が彼の将棋小説を四冊読んだところでは、「妖棋傳」(1936年)が一番良かったとのこと。で、いま私もこれを読んでる最中ですが、冒頭だけざっと御紹介いたしましょう。
07/03/17
 リナレスで使われたシシリアンに関する個人的なメモを残しておく。04/03/07でシシリアンの異変を述べたことがある。あの年はスベシニコフの流行のおかげで、2...Nc6が増え3.d4が減る大会になった。実際、Chess Todayから配布されたデータベースで2004年の分類番号B33を調べると、白の46勝45敗65分なのでそれも無理の無いことだった。ただ、最近はこの傾向も収まってきた。
 今年気になったのが左図でトパロフの8...h5である。彼は昨年から使い出した。この手の意味は説明不要だろう。この局面のh5ではなく、この発想のh5がいつからあるかが気になるが、実はまだ引越し荷物の整理が済んでないので、調べるのが難しい。でもやっぱりこの局面のh5が一番古そうで、1995年のスヴィドラー対サカエフ戦が最初ではないか。Informantで採り上げられたのは、翌年に指された68/227番局のシロフ対ラリック戦だと思う。その後に70/(246)や71/258が続く。
07/03/15
 リナレス最終日はささっと引き分ける二局と真面目に決着した二局とに分かれました。アナンドはもちろん前者、これで優勝を確定させた。一番長くかかったのはレコ対カールセンですが、終始押し気味だったレコの勝ち。でも、カールセンは二位です。当初は、未熟な棋士を参加させたことを批判する声もあったんですが、負けても勝っても盛り上げてくれた。一方、レコは最下位、でもこの勝利によって単独は免れた。トパロフと同点です。
 スヴィドラー対モロゼビッチはフレンチになりました。調べてみると、スヴィドラーはフレンチ対策が得意とは言えない。モロもそこを狙ったのでしょう。でも、大技を仕掛けてびっくりさせてくれたのはスヴィドラーです。ただし、その一手で急速に敗勢に陥り、あっけに取られた観戦者を置き去りに流れ星となって消えました。モロゼビッチはモレリアでは0勝3敗の最下位だったのに、リナレスは4勝0敗で二位に追いついたわけです。もう一日あったら優勝できたなあ。
07/03/14
 sweereのコメントした「正着」のうち、いくつかを変化手順に加えておきました。でも、どんなにsweereが正しいとしても、モロゼビッチがグレートです。コンピュータソフトに影響されようがされまいが、彼は「不正確」でいいんです。
 図は49...Na5まで。ほぼ一貫して白が主導権を握ってきましたが、e4ポーンを守るため、白ナイトがつまらないf2から動けなさそう。これが39.Kxf3の罰。もっとも、49...Na5の意味もよくわからない。いまFritz8で調べるとこれが最善手のようですが、sweereが疑問視したのも当然でしょう。
 真相はともかく、ここが本局の一番面白かったところです。実は白ナイトに働くチャンスが訪れていました。50.Ng4が鮮やか。黒Kxe4なら白Nxf6+が絶妙です。私はこれで決まったと思った。が、トパロフはしぶとく50...Nc4、なるほど。今度はモロがしくじったように見えました。51.a5が有望そうですが難しい。Fritzで調べた変化手順を加えておきます。sweereは「勝ちたいなら51.h6しか無い」と主張。それも怖いなあ。でもモロゼビッチはその道を進みます。ついにトパロフにもパスポーンが生まれました。
 こうした緊張が積み重なった果てだからこそ、敗着になるようなミスが出てしまうわけですね。
07/03/13
 観戦が飽きなかったのは、「sweere」と名乗るGMが何度もコメントしてくれたおかげです。最も彼が熱く語った局面が左図でした。皆さん、いかかがでしょう。二つに一つ、39.Kxf3か39.gxf3か。読みより感覚ですね。ちなみにFritz8が8手半読んだ評価では前者が0.00、後者が-0.25で、前者良し。でも、くどいですが、問題は機械的な読みより直観的な終盤のセンスです。私なら後者ですね。sweereもそう。サトフスキーも同感のコメントでした。前者はe4ポーンがいかにも弱い。ところがモロゼビッチは前者を選んだわけです。いまChess Baseでマリンの解説を読むと、後で黒g6になった場合に白g4からh5で新たなパスポーンを作ろう、とモロゼビッチは考えたらしい。無論、そうはならなかった。
 で、sweere先生の説教が炸裂です。「ここ数年のトップ棋士はコンピュータに影響されて終盤がダメだ。例外はクラムニクだけだ」。私も、駒数が十個程度ならFritzより人間を信じたいですね。
07/03/12 紹介棋譜参照
 第13Rはモロゼビッチ対トパロフで勝負が着いた。これがすごかった。日付の変わる頃からICCで観戦を始めた私は、トパロフが80手で投了した6時3分まで、CDでバッハのカンタータを何枚もかけ継ぎながら、飽きることなく見届けた。
 駒組みの段階で私の目にはa3白ポーンが弱そうに見えた。けれど、モロゼビッチはこのポーンを遠隔のパスポーンとして残すことに成功したのである。それはまだ本当の戦いの始まりに過ぎなかったとはいえ、結果的にこの応酬が勝敗に影響を与えたと思う。
 互いに「こいつだけは許せん」と思ってるような、果てしない終盤戦になった。駒数が残り六個になって、Table Baseで結論が出る。判定はドローだった。すかさずナタフが、「いや、モロゼビッチはわかんねえ。奴は不可能を可能にする」。それを他の発言者たちは大人しく受け入れた。そう、彼の終盤の強さは正確さではなく事件を起こす力だ。皆その時を待った、そしてそれは来た。
 図は70.g6まで。これは「不正確」な手だったらしい。70...Qh1+でドローになる。しかし、それ以外は黒が負ける。互いのポーンの進み具合の差も気になる。果たしてトパロフは70...e4だ。嗚呼、71.g7. e3, 72.Qc3+で黒ポーンが消えてしまった。
07/03/11
 ヴェイカンゼーで4勝0敗の棋士がリナレスで0勝4敗というのならわかるが、カールセンはその逆をやっている。第12Rは白番のトパロフから25手でドローを得た。トパロフは相手を見て作戦を決めねば。10手目から最終手までポーンが一回しか動かぬ棋譜では仕方なかろう。駒が飛び回るチェスなら私のカールセンは負けないぜ。
 ちなみに今場所のダナイロフは釘を差されたか自制してるのか大人しい。で、トパロフは勝てなくなった。それ、まずいんでないか。畏友からメールがあって、「トパロフがリナレスの警察に車を調べられたんですって?爆弾、ドラッグ所持の疑い。何も出なかった」。何も?通信機器も?実質的にそっちを疑った捜査だったのでは?
 レコも調子が悪い。昨年末は良かったのに。苦手のスヴィドラーに敗れ単独最下位である。ほか、イワンチュクもリナレスに来てから負けが込み、モロゼビッチに敗れてしまった。首位のアナンドは残り二戦をこの不調の二人と指せばいい。
07/03/10 紹介棋譜参照
 第11Rはカールセン対イワンチュクで勝負が着いた。グリュエンフェルドの見慣れぬ型に誘導したイワンチュクだが、明快な自分の構想を描き上げたのはカールセンだった。左が完成図である。e5を突き越して明色ビショップを通し、暗色ビショップはf6に打ち込む。さらに、hポーンは敵陣に届いている。すでに優勢だろう。主導権を握った日のカールセンはまことに健やかである。
 K翼を攻める陣形だ。しかし、黒陣の弱点としてc6のナイトも目に付く。白はQc1とBb5の型にすればいい。黒Bd7で受けられるようだが、そこで白d5が好手だ。これを突き捨てれば白Nd4が可能になり、c6地点に数の攻めがのしかかる。ピンされていてc6ナイトが動けないのはわかるだろう。
 無論、これは白だけが指した場合だから、実現には工夫が要る。カールセンはうまかった。K翼の味を絡めながら、Q翼の盛り付けを仕上げたのである。まづ22.Qg5、これには22...h6が絶対だから手順に23.Qc1に引けた。すると黒には次の23...g5も必要になり、難なく24.Bb5の理想形が実現した。以下、24...Bd7, 25.d5という上記の手順で黒陣は崩壊した。
07/03/09 紹介棋譜参照
 リナレスは第10Rでアナンド対カールセンの直接対決があった。序盤でアナンドがc筋を制した。主導権を取られたカールセンを何度も見てきたが、こうなると、やっぱりこの子は意気地が失せてしまう。駒が隅でうづくまる格好になった。図はそんな25...Rc8まで。
 すると、アナンドはいぢけた敵陣にもう目もくれない。いつもながら鮮やかなもので、26.Rf1に転戦したのだ。カールセンは26...h6で応えた。いまさっきRf1を見ておきながら、白はNf3に退いてくれると本気で読んでいたのだろうか。今場所随一の妙手27.Ne6を食らってしまった。面白いのは、「黒fxe6が無いわけじゃない」という解説もあったことだ。私には判定できないが、それが正着だったところで、心弱きこの日のカールセンには27...Kh7しか指せなかっただろう。以下、ずるずると負けた。
 しかし、天才の成長を見守るのは楽しい。次のラウンドには会心の勝利が待っていたのだから。
07/03/07
 来年は無い気がするが、三月七日は大日本モロゼビッチ賞の発表日である。昨年二月の対局からボナンザ囲いを選んだ。本局以外にも採用された「彼」の得意戦法である。升田賞に推す声さえあった。先手はアマチュア強豪の加部康晴だが、とにかくこんな囲いに負けてしまったわけだなあ。
 昨日のモロゼビッチの攻めはどう凄いのか、ネットの速報解説ではわかんなかった。Chess Todayが遅れて解説してくれて初めてびっくりした箇所があったので、触れておく。図は白がhポーンを突き捨て、黒が15...Nxh5で取ったところ。ここから始まる。まづ16.Rxh5. gxh5、黒陣がこれで乱れるのは私の目にも映るが、他にモロゼビッチにはやりたいことがあったのだ。18.Ne4である。もともとf6にあった黒ナイトを消したから、この手には凄い狙いが生じていた。白Qxd7、黒Qxd7、白Nf6+の順である。だからレコは18...f5と指した。もし19.Qxd7なら19...fxe4である。見破っていたわけだ。
07/03/06 紹介棋譜参照
 畏友から急報、「フリーに転身する女子アナの趣味が将棋だそうです」。川田亜子マンセー。リナレス第9Rはモロゼビッチ対レコで勝負が着いた。この顔合わせで勝つのはたいてい白番である。この日もそうだった。モロゼビッチが16手目にルックを切って攻め始め、46手目でレコが投了するまで攻め続けた。紹介棋譜に。一番長引いたのはトパロフ対イワンチュクである。黒が勝ってもおかしくない棋勢だったが、朝起きて確認すると引き分けだった。
07/03/05
 さて、リナレスに移ろう。初日第8Rは全局ドロー。モロゼビッチ対カールセンが乱戦になって面白かった。カールセンが押し気味で、ICCでも彼の方が声援を集めていた。ナイドルフ定跡になったアナンド対トパロフは、白が07/02/21の型に持ち込もうとし、黒がそれを避けた。イワンチュクの新構想は認められたようだ。
07/03/04 紹介棋譜参照
 昨日の終盤に感激した私はノヴィコフ優勝の感触を持ったのだが、彼は第7Rでアレクセーエフに壊滅的な敗北を喫した。図がそれで、完全に黒は御家を乗っ取られてしまっている。そして26.h8=Q+以下ぼこぼこにされた。まれに見る撲殺ぶりなので紹介棋譜に。このあとノヴィコフは再浮上できず、最終日は不戦敗になったようだ。でも今場所は彼のおかげで面白い展開だった。
 第7Rは好局が多く、アレクセーエフのほかヤコベンコとトマシェフスキーも見事な勝利で、この三人が首位に立った。第8Rは三人ともドロー、そして最終日にアレクセーエフが抜け出して優勝した。5勝0敗4分、賞金300万ドル(約350万円)とドルトムントの出場権を獲得。ロシア選手権から好調だ。
 十代棋士には厳しい大会だった。一例としてニポムニシ対ヴァレーホを紹介棋譜に。センターゲームの悪癖ある少年に対し、パコは片方のルックを温存したまま勝負を決め、貴重な教訓を与えた。
07/03/03 紹介棋譜参照
 私の棋力ではわかるわけないのに、棋譜を並べてると妙に迫力が伝わる終盤というのがよくあって、第6Rのノヴィコフ対ヤコベンコがそうでした。ルックエンディングに入るところから紹介棋譜に。駒数は同じでも、ポーンの配置を見れば白がつらいのはわかるでしょう。実戦も黒が駒得して、あと一息で勝てそうな局面までもっていきます。しかし、白もよく抵抗してドローを勝ち取ったのでした。
 この地味な終盤をChess Todayが詳解してくれた時はうれしかった。図は60...Ke4-e3まで。白はRe8のチャンスです。もし黒Rxb7なら、白はRxe5+からRxh5で黒Pを残り一個まで消せる。けど実は解説によると、それは負け。だから、ノヴィコフは61.Kh1. e4, 62.Kg1の忍耐を続けました。61.Kf1も負けなので、61.Kh1は絶対手だったらしい。ヤコベンコの罠も厳しかったわけです。他にもこんな見所が満載の終盤ですが、以上のあたりだけ解説を無断借用させてもらって変化手順に加えました。
07/03/02 紹介棋譜参照
 リナレスに移動する前にアエロフロート大会の後半戦をお話ししたい。第5Rは単独一位のトマシェフスキーと単独二位のノヴィコフの直接対決があり、後者のモダンディフェンスが難なく駒得して勝ち、首位が入れ替わった。
 三位組ではヤコベンコの終盤が気に入った。左図からを紹介棋譜に。R対N+Pの駒割で、黒が頑張ればドローになりそうな気がする。しかし、白ヤコは頑張りにくい流れをさらさらと作って見せた。まづ、41.Bb4から交換だ。ポーンも減っていくし、棋譜を追ううちにドロー臭が漂う。いいのかな。おまけにヤコはP損をなかなか回復しようともしない。が、だんだん私にも白の構想が見えてきた。黒王と黒馬の接近を許さず、文字通りの「離れ駒」になった黒馬を生け捕りにしようというのである。「ハタリ」の動物狩のようだった。これで二位組に上がった。
 彼は終盤が得意らしい。ノヴィコフはこのヤコベンコと第6Rで戦った。そして、まったく引けを取らぬしぶといルックエンディングを見せてくれるのである。今年22歳でヤコより二つ下だ。
07/03/01 紹介棋譜参照
 第7Rの残り二局も見ておこう。イワンチュクとアロニアンの対戦成績を手製のデータで調べたら、前者の6勝1敗3分だった。理由はわからない。今場所も、アロニアンが何気なくルックを置いた位置が不用意で、その瞬間をイワンチュクが見逃さずに優勢を決めた。本来、こういうのはアロニアンの勝ちパターンなんだけど。イワンは首位に半点差の単独三位。
 トパロフとモロゼビッチの対戦成績も同じように調べると8勝8敗6分である。ずっと互角の状態だ。加えて、例の疑惑はモロが着火したという因縁もあり、今場所の取組みは激しかった。ただでさえ冷静さを失っていたかもしれぬ上に、同点最下位同士の決戦でもあり、ミスを出し合って形勢が二転三転したらしい。私にわかるようなレベルの悪手でもなく、並べてるだけでも面白いので紹介棋譜に。最後はトパロフが即詰で勝った。
07/02/28
 第7R、前半戦つまりモレリアの最終日である。スヴィドラー対カールセンは戦った雰囲気だけ出して引き分けた。序盤の段階でスヴィドラーがあっさりと黒に反撃を許したのである。すなわち、Pe6からPd5、私でも知ってるシシリア定跡の理想型だ。
 他三局は勝負が着いた。レコ対アナンドは黒勝ち。アナンドが挑んだ鋭い変化にレコが乗らず、穏やかに避けたのが悪かったようだ。結果、アナンドとカールセンが同点首位だが、リナレス独特のタイブレークが今年も有効ならアナンドが有利だ。勝数は同じでも、黒番での勝利が多い。
07/02/26 紹介棋譜参照
 第5R、カールセン対トパロフは熱戦だった。結果はカールセンの勝ち。やはり主導権を握っていたのが大きい。ただしトパロフはドローにできる局面で投了してしまった。ICCの観戦者たちは口々に、「ダナイロフがうっかり鼻をこすったんだ、生憎それは"投了せよ"というサインだったわけよ」。
 紹介棋譜に選ぶなら躊躇なくアロニアン対アナンドである。アロニアンが最初から最後まで見せてくれた。図はもう白が勝っている局面だが、決め方が彼らしいカラクリ細工になっている。g2に逃げてもいいキングを彼は38.Kf1に逃げたのだ。無論、アナンドは39...Nd2+、そして40.Ke1. Nxb1だが、アロニアンはこの敵ナイトを取り返さずに41.a6と指した。その後がまた面白いのだが、とにかくアロニアンは黒のRもBも消して、R対Nの楽な収束型にした。48.Rg3を見てアナンドは投了。うまくしたもので、さっき取らずにおいたままのb1のナイトが、身動きできなくなっているではないか。
 これで首位が入れ替わりカールセンが一位になった。うれしいというより戸惑う私である。それに苦手のスヴィドラーとまだ戦ってない。なお、第6Rは短手数のドローが多く、特に言うことも無かった。
07/02/24
 第4R、イワンチュク対カールセンは黒の勝ち。千日手になりそうなところでイワンチュクが手を変えたが、その後の流れはカールセンのものだった。主導権を握らせてもらえば彼は強い。
 話題になったのはアナンド対モロゼビッチのブレイヤー定跡である。黒がPg6を指さないので白Nf5が実現してしまった。そんでええん?でも諸家いわく黒わるくない。この後も難しい揉み合いが続いて、私には何も言えないチェスである。とにかくモロゼビッチが勝てるところを悪くして負けたようだ。
 よって、アナンドが単独首位、半点差でカールセンが二位である。
07/02/22 紹介棋譜参照
 モレリア/リナレスの優勝賞金ってわかりにくいのだけど、昨年のアロニアンで10万ユーロ(約1600万円)だったらしい。他の大会とはケタが違う。第3Rはカールセン対アナンドが黒の勝ち。カールセンの陣形理解が感心しなかった。紹介棋譜に選んだのはモロゼビッチ対アロニアンで、駒のやりとりが華々しかった。白に勝ちがあったが、時間切迫のためだろう、引き分けになった。
07/02/21 紹介棋譜参照
 モレリアの観客席は暗く、対局席は壇上なので、ダナイロフの手話が見えそうにない。どうするトパロフ!ちなみに昨年の彼はリナレスで勝ちまくったもののモレリアでは七位だった。今年も苦戦である。第2Rでイワンチュクに負けてしまった。
 白Chukyの構想は素晴らしかった。図の9...Be6までの手順がわかる人は多いだろう。ナイドルフ定跡に6.Be3と構え、6...e5に7.Nb3でなく7.Nf3へ引いた型である。昨年のNIC誌7号の自戦記で、カールセンは自分の7.Nf3を「6.Be3の意味がまだわかってなかった」と評している。Pf3からPg4でK翼を盛り上げてゆく「7.Nb3の方が良い手」なのだ。ところが、最新号でハイルリン(Khairullin)は、7.Nf3を「ここのところ流行している」と述べている。「d5地点の弱点を主題にして指そうという手」だ。だから、図で次の手は10.Bb3か10.Qe2なのだ。
 ところが本譜は10.Bxe6である。ただでさえ7.Nf3が軟弱な上に、10...fxe6で「d5地点の弱点」まで消えてしまったではないか。しかし、一見平凡な新手11.Na4が従来の常識を覆した。もし11...Nbd7なら12.Ng5がある。いまやe6地点が弱点なのだ。実戦でも、e6ポーンがd5地点の守備にまったく役立ってないことをあざ笑うかのように、イワンチュクのナイトがd5に居座った。最後はトパロフのポカで終わったが、新手に興奮するなんて久々のことだ。
 アロニアン対カールセンのドローも面白い。あわせて紹介棋譜に。
07/02/20 紹介棋譜参照
 時差の関係でモレリアは観戦できないのが困る。第1Rはスヴィドラー対アロニアンがマーシャル・アタックになった。07/01/18で紹介した23...Bb1でなく23...Bd3が新手になった。結果はあっさり引き分け。15.Re4は効力を失った観がある。
 面白かったのはカールセン対モロゼビッチだ。図から13.Nxd6である。これで強引にd筋をこじあけ、Pd7まで突入し結果的にポーン得を勝ち取った。しかし、黒だってモロゼビッチである。ポーンをつなげてh7-g6-f5-e4の封鎖線を引き、白g2のビショップを閉じ込めた。かくて局面は釣り合いを保ったまま、色違いビショップの終盤に入ったのである。そこからカールセンが上手かった。ポーンをもう一つ得して、あとは教科書みたいに手続きを進めてクィーンを作ったのである。意外な勝利だ。
 いいんだろうか、私のデータではこれでカールセンはモロゼビッチに3勝0敗1分である。
07/02/19
 アエロフロートはネギ対ニポムニシがあって、後者が得意のフレンチで勝った。まだ差がある感じ。全9Rのうち4Rが終わってトマシェフスキーが全勝でトップ。
 記憶に無いが、モーフィーには先手黒の棋譜がいくつかあるそうだ。これって"Frere's Chess Hand book" の影響らしい。そういえば、05/08/26から御紹介した「将棋道の事」(1894)のチェス初形図も先手黒だった。てっきり、記者が囲碁の先入観を持って書いてしまったのかと思っていたが、これも同じ事情かもしれない。
 Thomas Frere はアメリカのチェス界ではとても重要な人で、彗星モーフィーが優勝した第一回アメリカ選手権、ブルックリンとマンハッタンのクラブ設立、シュタイニッツ対ツケルトートのマッチなどに尽力した。にもかかわらず、この人物は忘れられていて、Oxfordチェス事典にも載ってない。このたび、彼を調べた本が出て、Chess Todayの評価は "strongly recommended"。Frere家の人は100年以上にわたって日記を書き続けており、これが資料になったとのこと。
 畏友に伝えたら、「高いけど買いだな。アマゾンで扱いがありますね」。05/07/27でも触れたが、彼はモーフィーの秘書が書いた本も読んでる。
07/02/18
 ラジャボフは身の危険に配慮してくれないモレリアの主催者に不満を述べている。来年は万全で出場してほしいのだけれど。本欄第一回の登場棋士はカスパロフでもクラムニクでもなくラジャボフである。ずっと私は彼の棋譜を楽しみにしてきた。
 今月みた映画の話でもして元気を出そう。『ユメ十夜』を。夏目漱石の『夢十夜』を十人の監督が各々の器量で存分に崩し合ったオムニバスだ。『乱歩地獄』も似た企画だったが、崩しの度合いが段違いである。
 もともと短編映画を大事にしないお国柄だから、日本の短編には監督個々の最もみっともない部分がさらけ出されることが多い。今回もそんなのが多かったが、ベテランの技量には救われた。第一夜の実相寺昭雄、第二夜の市川崑、第七夜の天野喜孝などだ。実相寺はこれが遺作である。天野のラストの美しさには陶然となった。これは大画面でこそ。
 特筆すべきは第六夜の松尾スズキである。彼がこれ以上の傑作を撮ることはもう無いだろう。彼の救いがたいオタクっぽさがTOZAWAへのオマージュに昇華され、画面はまれに見るスピード感を獲得していた。あのかっこよさに対抗できるのは『パルプフィクション』のトラボルタかピタゴラ装置くらいのものだろう。
07/02/17 紹介棋譜参照
 今年もモスクワのアエロフロート大会は膨大な参加者を集めた。ただ、じわじわ人数が減り、顔ぶれもちょっとづつさびしくなっている。それでもまだ88人だ。第1Rはニポムニシ対ハリクリシュナが気になる取組みで、1.e4. e5 から 2.d4. exd4 そして 3.Qxd4、初心者みたいに始まった。ニポはこれが得意らしい。結果は引き分けだけど攻め筋が面白く、紹介棋譜に残しておく、なんて書いたら、Chess Todayもこの対局を詳解していた。思ったよりずっと難解な勝負だった。第2Rでは侯逸凡(Hou Yifan)対サトフスキーがあって、いやはや12歳の勝ち。並べてみると、なんとなく後者がなめてた気がした。
 しかし、モレリア/リナレスが始まる。その間、モスクワからちょっとおひまをいただこう、そう書いたところでまたつらいニュースが入った。モレリアで初日を迎えるべく早々とメキシコに入って準備を整えていたラジャボフが手ひどい盗難に遭ったという。重要資料が失われただけでなく、精神的ダメージが大きくて眠れない。とても競技できる状態ではなく、対局を断念せざるを得なくなってしまったのだ。代わりにイワンチュクが出場する。
 様々なトラブルもチェスや将棋の重要な要素である。盤と駒だけの純粋な対局空間などあり得ない。きっとラジャボフもこの不幸を棋士として受け入れ立ち直ってくれると信じる。とは言えここのところひどすぎるじゃないか!

戎棋夷説