紹介棋譜 別ウィンドウにて。
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PoikovskyはJakovenko、MonacoはKramnik、欧州選手権はTkacheiv。

07/04/28
 特に気になる選手が出ず、私としてはここ数年放ったらかしのマルモ大会でチェパリノフが優勝した。トパロフのセコンドである。ちなみに、ザフラの優勝者はアロニアンのセコンド、欧州選手権の優勝者はレコのセコンド経験者である。
 ガウスダルは最終日でカールセンがクラセンコフに勝った。クラセンコフが頑張って駒損を回復しても、またあっさり突き放してしまうチェスだった。5勝0敗4分、二位と1点半の大差を付けた優勝である。もう彼を子供とは思うまい。
07/04/26 紹介棋譜参照
 ガウスダルはカールセン対ポルティシュの首位二位対決があって、これも観戦しておきたい。優勝争いなら尚更だ。結果はカールセンが好き放題に指し回す大差で勝った。
 図がその始まりで13.Nc3. Qc5まで。13...Qc5がc3を狙って機敏に見えた。白Bb2なら黒b4だ。うーん、13.Nc3は不用意だったのではないの? つぎ白はBxd5からポーン損を回復するしか無いか。でも、カタロニア定跡を特徴づけるg2のビショップを切るようでは、もう局面は夢を失っているぞ。
 さて、カールセンはg2ビショップを残すつもりだった。とはいえ、d5の黒馬は放っておけない。ではどう指したか。13.Rxd5である。13...exd5にさらにポーンを捨てる14.b4. Qxb4、そして15.Ba3から16.Bxf8だ。駒損ながら黒の入城を阻止し、白駒は見晴らしが良い。典型的なカールセン好みの局面である。
 かくて4勝0敗3分。ただし、まだ半点差の二位がいる。クラセンコフだ。
07/04/25
 私の紹介した「シュザンヌ」のチェス場面を、畏友は「秘儀っぽいといっては安易でしょうけど、でも、そんな感じです」。たしかにちょっと変わっていて、実はこの主人公は白の駒だけを進めている。孤独感の表出かな。
 私の部署は三月よりも四月が忙しく、映画を見られそうにない。なにより今月の大阪は不作である。その代わり、本欄で何度か登場していただいている読者Kさんからの話を。タリの対局映像を教えてくだすった、「とても素晴らしい物です。カスパロフ戦が見られます!」。自信あふれる若い日と、虚無感ただよう晩年との対比が沁みた。ほかにもたくさん見られる。
07/04/24
 カールセン対ドレーエフは、リヒター・ラウザーだけど途中からの観戦者にはドラゴンにしか見えない、という面白い序盤になった。WellsとOsnosの本には黒の最善手として載っているので奇抜な作戦ではなさそうだ。カールセンが中央突破を果たし、中盤の終りでポーンをd7まで突き通した。けれど、そこからのドレーエフは落ち着いており、危な気なく処理してドローを確保した。5Rを終わってカールセンが3勝0敗2分で単独首位である。半点差でポルティシュ、今年でちょうど70歳だ。
07/04/22 紹介棋譜参照
 映画ではポケットセットはあまり見ないが、ロメールの「シュザンヌの生き方」にちらっと現れた
 ガウスダル大会は昨年より少し強い顔ぶれが集まった。カールセンとドレーエフの対戦を楽しみにしてるが、後者の調子が悪いのが気がかりだ。カールセンは05/04/22で書いた前回出場の成績を軽く超えるはずだ。むしろ優勝して当然か。あの頃の停滞からよく成長してくれた。
 Informant 97の話もひとつしておきたい。06/08/06で採り上げた局面が終盤問題に選ばれており、我が目の確かさが嬉しいのだ。図で1...h5が敗着になったのは述べた。正着は1...Kd7でドローになる。この一手くらいは私でも指せるが、2.g4からがわからない。カスパロフは2...Ke8という不思議な手を見つけた。でも、ゲルファンド本人の言う2...f6+がシンプルだ。さて、3.Kd5以下どう指しますか?
 正解手順を紹介棋譜にした。きれいなもんですよね。
07/04/21
 プレーオフが終わって四日もしてから棋譜公開がされた。もういいや。今大会の不手際はこれにとどまらない。主催者も来年までには改善せねばならぬことを認めた。次のチェス五輪はドレスデンで開催されるのである。なお、女子はコシンツェバ妹がぶっちぎりで優勝した。
 New In Chess 本年2号の話を今までする間が無かった。ヴェイカンゼー特集に集まった自戦記の一つ一つが力作で、雑誌にしておくにはもったいないほどだった。特にクラムニクは5ページもかけてアナンド戦を分析している。カスパロフとは異なり、膨大な変化手順で読者を圧倒する下品はせず、自分の疑問手にも謙虚である。どこも名解説だが、勝敗が決したあたりを紹介させてもらおう。
 図は39...Nd5まで。私が白ならここはBxa6だ。しかし、クラムニクは40.Kf2である。そして、当然に見える40...Nxf4が敗着になった。じゃあアナンドはどう指せば良かったかというと、40...Bb3だと言う。以下、41.Bxa6になんと41...Ba4と続く。白ポーンをa3に固定しておいて、黒はNxf4でなくNc3からNb1でNxa3を構想しているのだ。でかすぎて下が海底に届いてしまった氷山を連想し、しばし呆然の私であった。
 ほか、07/01/22で私が異様に感じた駒組みも、黒Pc5を阻止するためとわかって納得である。
07/04/19
 プレーオフの棋譜は公開されていない。私は準決勝のヤコベンコ対トカチェフだけは観戦した。一局目はトカチェフに勢いがあり、終盤でヤコベンコが必死にしのいでドロー。二局目も似た感じだったが、今度はトカチェフの圧勝で終わった。どうも早指しが得意らしい。決勝はサトフスキーとの対戦になり、トカチェフが二連勝で優勝を決めた。
 首位に半点差の棋士は37人も居た。欧州選手権では29人までがワールドカップの出場権を得られることになっており、この37人から22人を選ばないといけない。そのタイブレーク判定やプレーオフ対局も大変だったが、触れずにおく。
07/04/18
 駒込の社長さんは駒の研究でも有名な人らしい。欧州選手権に話を戻そう。最終第11R、トカチェフは短手数のドローで首位を守った。一方、ヴォロキチンはヤコベンコと黒番で戦わねばならなかった。スヘフェニンヘンに組んだのがどうだったか。これはヤコベンコの得意だそうで、私のデータでも彼の白番は4勝0敗4分なのだ。本局も手馴れた感じでR対3Pという大差の駒得になり完勝。ヤコベンコが首位に追いついた。
 ほかサトフスキーなども勝って首位は計7人になった。ヴォロキチンは八位に落ちたわけだ。首位者たちは翌日のプレーオフで優勝者を一人に決めた。
追記
 JCAの件は承認期間の満了とのこと。JOCの承認団体は承認期間中に条件を満たせば準加盟団体や正加盟団体へ昇格させてもらえる。たとえば、公益法人の資格を取得する必要がある。また、正加盟団体になればJOCに払う金額も二倍になる。うーん、JCAは昇格に相応しい団体と言えるかしら。期間満了は承認の延長を含むのか、承認の終わりを意味するのか。後者なら今後のアジア大会やオリンピックへの参加が心配になってくる。JOCの加盟団体審査委員会で決まるのだが、それがまだなのか終わったのかもわからない。やっぱり、情報が不確かな段階で書いてしまったのが失敗だったようである。
07/04/17
 真偽不明なのだが気になる。三月末で日本チェス協会(JCA)が日本オリンピック協会(JOC)の承認団体ではなくなった、という噂を耳にした。もちろん、「承認団体」から「加盟団体」に昇格したという話ではないと思う。それから、これは畏友が調べてくれた確実な情報で、チェス将棋交流協会も三月下旬に特定非営利活動法人(NPO)の認証を取り消された。理由は「3年以上にわたって事業報告書等未提出」とのこと。本欄で初めて採り上げる団体だが、ちょっと気にしていたのである。
 さて、畏友は不思議な一致に気が付いた。独立派の女流棋士による新法人設立準備委員会の事務局の住所がチェス将棋交流協会とほぼ同じなのだ。駒込のビルである。「うろ覚えですが、駒込の棋具屋社長さんですか、駒込にビルを持っているとかで、この社長さんは、羽生がフランスでチェスを指したときにスパスキーに立派な将棋盤駒をプレゼントした人だったと思います」。きっと心意気のある方なのだろう。
07/04/16
 女流独立に関しては米長邦雄による嫌がらせが話題になった。この男の下劣さにいまさら驚く者も無かろう。とはいえ、私も畏友も似た意見だが、史上最低の将棋連盟会長は二上達也と中原誠なのだ。彼らに比べれば、米長はずっと本質的な仕事をしている。米長の偉くも狡猾でもあるところは、前任会長たちの無策無能を問わずに彼が責任を引き継いでいる点である。
 カスパロフは5千円弱の罰金を払ってすぐ釈放してもらったようだ。理解に苦しむが危険人物としてはフィッシャーの方が格上らしい。プーチン大統領によって圧殺されつつあるロシアの民主主義を守る、というカスパロフが正義の人であるのはもちろん私も認める。彼の活動がこれからも変わらず続けられるであろうことを喜びたい。
 でもロシアの政治は難しい。ソ連の崩壊につけこんで法外な契約を押し付けた日本や欧米の企業に対抗すべく、プーチンはロシアを強圧的な国家に仕立ててる面があるのだし、それが国民に支持されているのも確かだ。私もロシア人だったら、カスパロフの民主主義がもたらしそうな混乱よりも、プーチンの恐怖政治に一票を入れるかもしれない。
 カスパロフの一時拘束は読売新聞にも載ったが、たまたまキッシンジャーのエッセイも掲載されており、プーチン政権を過渡期の政権として分析していた。これを平たく言えば、05/06/03で紹介したクラムニクの意見になろう。こちらが正しいと私は思う。ややこしいのは、キッシンジャーの警告する、われわれのプーチン批判がむしろロシアの「専制的な傾向を強める」おそれだ。
07/04/15
 女流棋士は将棋連盟に残る30余名と独立新団体を立ち上げる20名弱に分裂することになった。レディースオープントーナメントに優勝した矢内理絵子の祝賀会があり、参加した畏友が様子をいろいろ教えてくれた。独立派の中心、中井広恵、石橋幸緒が緊張感を発散していて、「二人には誰も近づかない」。連盟副会長と石橋がすれ違っても「お互い無視」だったとか。
 欧州選手権、第9Rの上位陣はすべてドロー。ヴォロキチンは8手でにぎにぎ。おかげで半点差の二位が21人に増えた。第10Rもこの傾向は変わらず、トカチェフ(結局そう読むことにした)だけが勝ってヴォロキチンに並んだ。半点差は33人に増えた。
 反政府活動家ガルリ・カスパロフが身柄を拘束された。モスクワでの集会で多くの仲間達と捕まったらしい。
07/04/14 紹介棋譜参照
 ヴォロキチン対ヴォルコフを検討して、13...Nbc6では絶妙手を返されてドローにならないのは昨譜の変化手順に入れたとおり。ところが、その翌日のChess Today によると、13...Nbc6からまだ優劣不明の戦いを続ける手があり、それが正着だった。
 私が他に考えた13...Nf5も含め、そのあたりの話をしようと思ったら、第8Rの方がもっと面白かったのでそっちを書きたい。前回で「いまひとつ」なんて言ってごめんなさい。半点差の二位が十二人に増え、その中にはヤコベンコやサトフスキーといった真打が入ったのである。特にヤコベンコの決め手が見事だった。でも、ほんとに凄かったのは、ヴォロキチンが単独首位を守ったドローである。
 図で黒ナイトが浮いているのがわかるだろう。だからFritzは安全な黒d5などを候補手に挙げる。が、ヴォロキチンが指したのは7...c5で、たちまち8.b4を食らってしまった。以下、8...Qxb4, 9.Rb1だ。次に黒Qa5なら白Rb5である。ポーンが図のままc6にあれば白Rb5は不可能だったのに。
 ヴォロキチンは腹を決めた。9...Nxd2, 10.Rxb4、クィーンを捨てたのである。以下、何があったか、私にはわからない。とにかく頑張って頑張ったに違いない。勝てたかもしれぬ局面さえ作ったほどだ。
07/04/12 紹介棋譜参照
 欧州選手権の棋譜がいまひとつ面白くない。ラジャボフもカールセンも居ないうえに、イワンチュクやグリシュクまでスペインに取られたのが私には物足りない。そう言えば、昨年も低調だったかな。
 第6Rで四人に追いつかれたヴォロキチンが、第7Rでは四人の一人ヴォルコフを倒して再び単独首位に立った。ヴォルコフは三年前の世界選手権でナカムラに負けた定跡に工夫を加えたのだが、実を結ばなかった。彼は図で三年前は7...Ne7と指した。だが、今回は欲張って7...Bc5に出てから8...Ne7を指したのである。無論、それなら白は8.Qg4から9.Qxg7だ。しかし、黒だって9...Rg8から10...Rxg2という反攻がある。そこに期待したのだが、駒損を回避できなかった。13...Nbc6からドローに持ち込むことが出来たらなあ、と私は思ってFritzで調べてみたので、その手順を変化手順にして紹介棋譜にしておく。
 半点差の二位がトマシェフスキーほか四人。さらに半点差に四十四人。
07/04/10
 スペイン中部のカニャダ・デ・カラトラバで、アナンド、グリシュク、ゲルファンドなど早指しの強豪を招いた約290人の大会があった。早指しはシロフが優勝したが、彼や上記棋士たちの間での対戦がひとつしか無く、物足りない。フィッシャランダムはシロフ、ブリッツはイワンチュクが優勝した。
 ドレスデンは6Rが済んで、まだごちゃごちゃ。棋譜を調べても好局よりポカが目立ち、強豪が脱落したり、インターナショナルマスターが首位組に混じったりしてる。
07/04/09
 エリスタの賞金総額は48万ドル(約5700万円)だそうだ。そのうち32万ドル(約3800万円)をキルサンが個人的に出してくれる。反対意見があっても結局は会長に従うことになる、という構図は変わりそうにない。
 ドレスデンで約四百人参加の欧州選手権が行われている。全11Rのうち、5Rが済んで首位が4勝0敗1分のヴォロキチン。半点差でヤコベンコ、ティモフェーエフ、サトフスキー、ニポンニシなど21人が続いている。さらに半点差にはNisipeanu、ヴァレーホ、ファン・ヴェリーなど75人もいる。とても棋譜を並べきれない。そのうえ女子部門にも約百五十人が集まった大変な大会だ。なお優勝候補のうちカリャーキンは不調のようだ。
07/04/08
 次の世界チャンピオンは05/12/09と06/10/24と06/10/25で書いたような、すでに決まった方式で決まるので、昨日の話は適用されない。日程の変更があって、エリスタ大会は5/16(訂正5/26)、メキシコ大会は9/11に始まる。
 次の次からマッチ形式でチャンピオンが決まる。ただし、その挑戦者に問題がある。「次のチャンピオンの前のチャンピオン」なのだ。要するに、メキシコでクラムニクが優勝すれば、トパロフが挑戦権を得る。他の人が優勝すれば、クラムニクが挑戦権を得る。クラムニクが優遇されて私はうれしい。でも、トパロフは「次」だけでなく「次の次」までも戦わずして挑戦権を失ってしまう可能性が高い。私の本音は「これって天罰よね」だが、私の理性やブルガリアのチェス協会は反発している。
07/04/07
 改革の考え方の要点は三点。一点め、世界チャンピオンはチャンピオンと挑戦者のマッチで決める。シュタイニッツ以来の伝統を尊重するということだ。二点め、世界チャンピオンへの挑戦者を決める大会としてワールドカップを位置づける。従来は、ワールドカップでの活躍と世界選手権の出場権は無関係だったり、あるいは、ワールドカップ以外の要素が優先されて出場権が決まったりした。三点め、奇数年にワールドカップを行い、その優勝者が挑戦者となって、偶数年にタイトルマッチが行われる。スパスキーやフィッシャーの時代は三年周期だった。
 もうひとつ大事なことがある。短期集中の勝ち抜き戦が無くなる。これからのワールドカップはまづ総当り戦を何組か行い、それぞれの首位者や成績上位者による総当り戦で優勝者を決める。1999年以来のキルサンの悪趣味が治まった。
07/04/05
 諸大会の棋譜を一通り追い切ったので、制度改革の確認に何日か費やせるタイミングだろう。先月1日のこと、FIDE会長イリュムジノフが世界選手権に関する声明を出した。トップ棋士やACPのほか、各国のチェス協会の意見を聞いたうえでの決定であるという。例によって反対の声も挙がったが、今回はFIDEお得意の朝令暮改にもならず、最低でも二期から三期は大筋において実行されるのでは。FIDEとACP、会長とコク、それぞれの関係が友好的になってきたからそう思う。ロシアやカルムイキアに政変があれば別だが、たぶん無いだろう。ごめんカスパロフ。
07/04/04 紹介棋譜参照
 早指し部門は例によってアナンドが圧勝。それでもクラムニクは二位につけ、総合優勝することができた。療養中だった06/03/14のインタヴューでは、ずっと参加し続けたこの大会に出られないことをとても悲しんでいた。それだけに、勝たせてあげたい人が優勝してくれた大会だった。
 紹介棋譜はクラムニク対カールセンを選ぼう。図の局面は1994年からあって、本欄では06/03/12の紹介棋譜にも選んだことがある。従来では、白はナイトが逃げてg2地点でビショップを交換し、黒はg7やd4の敵ポーンを処分してきた。もともと白の勝率が良い型なのだが、クラムニクはより過激な新手を披露する。14.axb5だ。黒はもちろんナイトを取り、f3地点でビショップを交換し、譜は16.Qxf3まで進んだ。つまり、クラムニクは黒に上記のポーン処理を許さず、そのうえ白クィーンを好所に進出させて主導権を奪ったのである。はっきりした手筋の狙いが見えにくい純粋なポジショナル・ギャンビットだから、私には駒損ばかり気になったが、クラムニクは巧みに攻め込み、24手でカールセンを投了させた。
07/04/03 紹介棋譜参照
 目隠しと早指しで競うモンテカルロ大会が今年もあった。トパロフ以外は全員集合というスター揃いであった。目隠し部門はクラムニクが7勝0敗4分で圧勝。つねづね私は彼を現代版のカパブランカだと思っているが、目隠しだとその趣がより濃くなるらしい。さらさらっと駒を交換したら勝勢の終盤になっているというチェスが目を引いた。熱戦よりもそんなアロニアン戦とゲルファンド戦を紹介棋譜にしておこう。どちらかでも並べて、段違いの盤面把握を御鑑賞ください。
 チェスドクターさんのページで教わって、クラムニクの母の談話を読んだ。息子は15歳のとき二十人を相手に目隠しの同時対局ができたそうである。『戦争と平和』を二日で読めた、という話もあった。あれは私は二日であきらめた。
07/04/02
 私の家では配線を中途半端にしたままなので、アナログ衛星放送のNHKとWOWOWしか見ることができない。だから立ち寄った定食屋さんにテレビがあったりすると、コマーシャルが新鮮で食い入ってしまう。畏友からメールがあった。明治製菓のチョコレート「ショコライフ」のCMに対局シーンがある、とのこと。おお、さっそく宣伝サイトで確認。メルボルンの古い建物が舞台で、まづ桑田佳祐がチョコの歌を口ずさみながら一手指す。駒音がとても良い録音だ。対局相手はメイド姿の西洋美人で、軽く開いた胸元が桑田の集中力を殺ぐという趣向である。そして、彼女の一手でチェックメイト。
 問題の局面は例によってカットごとに駒の配置が異なる。左の部分図からNa3#で決まるのだが、桑田はQ翼を見てメイトに気付くし、最後のカットだけh5のビショップが消えている。だから何だというのだ。盤に集中するメイドさんがナスターシャ・キンスキー似で、私はたいへん満足である。
07/04/01
 いくらなんでも13歳でグランドマスターにはなれない。ほんとのところネギは31歳なのである。
07/03/31
 『70年代の革命』、とりあえず、今現在のシチリア定跡の理解に欠かせないスベシニコフの章を読んだ。40ページほどである。流行型が手際よく整理され、それぞれの変遷が解説される。ものすごくわかりやすい。また、スベシニコフ本人の、この定跡を開発した当時の回想がふんだんに紹介されている。Pe5という手の着想がどう生まれたかだけでなく、それが衝撃的で、いかにカルポフはじめ当時のリーダーたちの無理解にさらされたか、読み物としても面白い。
 欠点は言うまでもない。何巻まで買い続ければいいのか、見当もつかないことだ。完結しないと考えるのが普通だろう。
07/03/30
 ネットショップだと思うが、Checkmate Japan というのを見つけた。「日本でチェス用品の販売店が少ない現状を憂いて一念発起、2007年元日にこのお店を立ち上げました」とのこと。店長のブログもある。
 カスパロフの新刊"Garry Kasparov on Modern Chess"の"Part One: Revolution in the 70s"が届いた。1970年代に革命が起こったという定跡物語であるが、1990年代や今世紀の棋譜も多く使われている。要するにカスパロフが書いた『定跡の背景にある考え方』だ。たとえば、取るクィーンズギャンビットについては3手目のe4から始めて、歴史とコンセプトを説明してくれる。もちろん、十八番のスヘフェニンヘンについてもたっぷり。1923年の一号局から解説されており、気合が感じられる。
07/03/28
 「じゃあさ」と私なんかは思う、「昨譜は39...Kf8ならもう少し粘れたの?」。きっと、そんなこと考えるのはセンス悪いんだろう。とにかく、この一戦は大きかった。最後までヤコベンコは首位を維持したからである。第7Rはアレクセーエフを無言で呑みこむ圧勝でリードを広げた。かくて3勝0敗6分で1点差の単独優勝である。ドレーエフが0勝1敗8分で、ここのところ覇気を欠いてるだけにうれしい。本欄でヤコベンコの優勝を伝えるのは初めてだから、大きな大会の優勝も初めてではないか。
 スペインの僧侶ルイロペスの生まれたザフラで彼の名を冠した大会があった。ユニークな棋士を集め、ポノマリョフかソコロフ、サシキランあたりの活躍が予想されたが、6勝0敗1分で勝ちまくって2点半差で優勝したのはサルギシアンだった。1983年生まれで本欄初登場である。初手e4にはe5を常用してきた彼をルイが祝福してくれたのだろう。
07/03/27 紹介棋譜参照
 遊んでるうちにポイコフスキーは終わってしまったが続けよう。一位4人のうち、第5Rでイストラテスクとサトフスキーが脱落した。後者はヤコベンコとの直接対決であり、ヤコが頭ひとつ抜け出した。第6Rでサトフスキーはオニシュクにも負けてしまい、オニが半点差の二位に上がった。ルブレフスキーもドローを続けて半点差である。ヤコベンコ戦はポーンを機敏に取り合う楽しいナイト終盤だった。
 図はヤコベンコ対サトフスキーのきわどいところで39.Rc7まで。黒は苦心してg2地点に食いついている。そこが中盤の見所だったのだ。だからここはぜひとも黒Ra2と指したい。しかし、白Ne6+が見えており、39...Kg8と我慢した。そこでヤコの40.h5が絶妙だった。さかのぼって、36.h4の構想が見事だったのである。黒Ra2は白h6があるからやはりできない。40...gxh5しか無く、これで決まった。41.Rc8+以下、ヤコは詰め上げてしまったのである。そのあたりの変化も調べて紹介棋譜にした。
07/03/26
 Chess Informant 97 が届いた。前巻の好局第一位は当然のトパロフ対アロニアンだった。06/01/26で「十年にひとつというレベルの神局」と書いたチェスである。新手賞も獲得した。実際、17...Ne4の局面はこの一年無い。
 97歳のオリヴェイラが、ブニュエルに捧げるべく、「昼顔」の38年後を描いた「ベル・トゥジュール」を撮った。昨年のことである。これが今年のフランス映画祭に出品されていた。近畿会場では一回しか上映されない。同僚に断って仕事を抜けて高槻まで駆けつけた。完璧な映画だった。「ラルジャン」以来の興奮である。
07/03/24
 コンピュータ将棋ボナンザと竜王渡辺明を対戦させるというイヴェントがあった。もちろん渡辺が勝ったが、報道ではボナンザが優勢の局面もあったそうだ。畏友が観戦に行って、会場の模様をまとめてメールしてくれた。貴重な証言だと思うので、ところどころ抜粋して本欄に残さしてもらった。
07/03/23
 三日前の読売新聞夕刊に大田学の追悼記事が載った。名文だった。将棋連盟の女流独立問題はこじれている。ながく女流棋士は差別されてきた。根底にあるのは、「奨励会を勝ち抜いてこそ一人前のプロだ」という、実態とかけ離れた連盟棋士のプライドである。大田学と中井広恵は何人前のプロか、簡単なことなのに。
 三月のムダ話を。昨年に引越しが済んで乾杯したのはパヴィ・マカン。オレンジ果汁のような、味の濃いワインである。好みとも言えないが、これはうまかった。当然のなりゆきとしてシャトーの格付けが上がった。値も高くなってしまうかな。
07/03/22
 三年ちょっとかけてヒッチコックを46本こつこつ見てきた。あと7本見てない勘定だが、もう満腹だ。はっきりと駒が動くチェスの映画は「下宿人」と「パラダイン夫人の恋」だけだったと思う。ほか、最近見たやつではポランスキーの「オリバーツイスト」に対局シーンがあった。それから、これも見た。題名は不要でしょう。アカデミー賞5部門獲得の超大作から、フォッグ氏とパスパルトゥーの出会いの場面です。トランプしか興味の無いようなフォッグ氏の家にも盤駒が調っているのがわかりますね。
07/03/21 紹介棋譜参照
 第3Rでは連敗中のボロガンがルブレフスキーを124手もかけて倒した。よくあるRB対Rのエンディングになった。理論上はドローなのだが、強豪の場合、今回のように延々と指し続けてRB側が勝ってしまうことが多い。76手でこの型になったから、あと2手頑張れれば50手ルールだった。
 これでボロガンは立ち直ったかと思ったら、第4Rはアレクセーエフに見事に押さえ込まれた。紹介棋譜にしておく。これがアレクセーエフらしいチェスではないか。一方ルブレフスキーはTkachiev(トカチェフ?違うな)に勝って首位グループに復帰した。勝負所が面白いので図にする。
 黒Tkachievの手番。ここは13...Bxc3が良さそうだが、14.Bg5を食らう。黒Qが逃げたらRd8#だ。が、13...Bxc3が正解なのだ。14.Bg5には14...Bxb2+がある。以下、15.Kb1. Rb8で、16.Bxf6には16...Ba3+からの連続王手でドローにできるじゃないか。本譜も15.Kb1までそう進んだ、うんうん、ところが15...Be6, 16.Bxf6、あらあ。28手で黒投了となった。
07/03/20 紹介棋譜参照
 ポイコフスキーで恒例のカルポフ杯の季節になった。現在4Rまで済んでる。勝ったり負けたりが激しくて優勝争いも面白い。十人参加で、最初の2Rで1勝したのがヤコベンコ、サトフスキー、ルブレフスキー、イストラテスク、1敗が張鵬翔(Zhang Pengxiang)とアレクセーエフ。連敗がボロガンである。
 図はルブレフスキー対張鵬翔で17...0-0まで、RRとQの交換が済んだあたり。黒駒の展開が悪いので、やや駒損ながら白が良いと判断できる。次の一手にちょっと感動した。黒としては、Pf6からPe5で黒ビショップを通し、白ビショップを止めたい。が、ルブレフスキーはそれを抑えるべく18.g4と指したのである。黒は予定通りf6とe5に組み上げたが、白Ph4からPg5で、あっさり崩されてしまった。
 アジア大会では七連勝の張だが、ウラル地方の寒さは別格だと感じたろう。RRとQの交換から最後までチェスをさせてもらえなかった。

戎棋夷説