紹介棋譜 別ウィンドウにて。
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欧州クラブ杯。欧州団体選手権でスヴィドラー活躍。

07/11/12
 畏友が「週刊文春」を「これは一見の価値ありあり」と言ってきた。森内俊之のインタヴューが載っているのだ。たっぷり4ページ、取材構成は小暮克洋、通常の八倍は森内がしゃべってる感じに仕上がった。
 プロ入りして、「一年目と二年目はまずまずの成績でしたが、三年目にスランプに陥りプロの厳しさを味わいました。ある対局で相手玉の詰みに気づいていたのに違う手を指して負けてしまい、やりきれない気持ちで千駄ヶ谷から実家まで、三十キロの道のりを走って帰ったこともあります。背広姿でカバンを持ったまま午後七時に走り出し、十一時ごろ到着。革靴がボロボロになりました」。
 「二十代のときの私は勝負重視の姿勢で戦っていましたが、いまは対局相手とともに創作する一個の芸術作品という意識で将棋と向き合っています。相手への感謝の気持ちと尊敬の念を持ち続けないと、共同作業でいい棋譜は作れないという気がしています。もちろん勝敗は大事ですが、いまの自分には大切にしなくてはいけないものがほかにもあります。将棋の魅力を多くの人に伝えたいという思いはますます強くなる一方です」。
 チェスの話もちょっと出る。あ、そうだ、Chess Todayもチゴリン10...d5を扱った。この手の行方が気になる。
07/11/11 紹介棋譜1参照
 本来に何回も御登場いただいた「映像検索のKさん」もスペイン定跡チゴリン型の10...d5に興味を持ってくださった。いわく、調べてみると、すでに先月下旬のブリッツ大会でフレシネがこの手を指して勝っているのを発見した、とのこと。ブリッツとはいえ、11.exd5の実戦例なので私も並べておきたい。紹介棋譜にさせていただきます。
 映像もたくさん教わった。ジョンケージのChesspiece とか、ハンス・リヒターの8x8 など、いつもながらえらいものを見つけてくださる。前者はあっという間だけど、後者は一時間を軽く超える。
07/11/10 紹介棋譜2参照
 メキシコ大会が始まる前の私の空しい予習で気付いたわづかな成果は、スヴィドラーが流行定跡の研究に長けていることだった。グリュエンフェルドのたこつぼにとじこもっている人という誤った印象を私は持っていたのである。実際は07/09/07や07/09/08で紹介棋譜にした分だけでもわかるように、マーシャル回避でもエレガントなラインを開発している。
 図はフランス定跡の毒入りポーンである。もう流行定跡とはいえないが、フランス定跡バイナウアー型の盛衰に関わる重要型だ。そして非常に難解である。c3のポーンをナイトで取るかクィーンで取るかで大きく分かれるこの局面で、クレタ島のスヴィドラーが披露してくれたのは13.Rg1だった。以下、gポーンを伸ばしてゆく。なんともシンプルな発想だ。これであっさり勝ってしまうのである。黒の対応もまずかったのだろうが、私のようなバイナウアー復興を願うファンには困った一局になった。
07/11/09 紹介棋譜3参照
 ロシアの勝因は、主将にスヴィドラー、副将にモロゼビッチを置いたことだろう。実績やレイティングで安易に考えてしまえばモロゼビッチを一番卓に据えてしまうところだ。けど、団体戦ならスヴィドラーが鬼なのである。5年前にロシアが惨敗した対世界戦のマッチでは、骨折をおして彼一人が奮戦したものだ。個人戦では優勝の可能性をあっさりしたドローで放棄したりするのにね。気の良い人に違いない。プロの恐ろしい集中力を見せようとしても、薬物中毒のような顔になってしまう。
 彼の今場所の成績は5勝0敗2分である。マメデャロフやサトフスキーを倒し、レイティングに換算して2989の働きだった。図は黒チェパリノフ戦で18...Ba4まで。c2があぶない。スヴィドラーは07/09/10で触れた勝率82%アタックを仕掛け、すでにナイトを捨てている。そのうえ、19.exf6. Bxc2+を選び、20.Qxc2. Rxc2でクィーンまで捨ててしまうのだ。なにゆえメキシコでもこれをやらんかったの。
07/11/08 紹介棋譜4・5・6参照
 最後の第8R第9Rから好局を探そう。優勝は8勝0敗1分のロシアである。最近は団体戦に弱かったから久しぶりだ。二位のアルメニアが6勝1敗2分なので、余裕さえ感じさせる。
 ロシアと引き分けて健闘したのは第8Rのスペインだった。シロフがモロゼビッチにはやや珍しいカロカンを破ったのが効いた。第9RではブルガリアのK.ゲオルギエフがグリシュクを倒し、チームは敗れたが一矢を報いた。とりあえず、このふたつを紹介棋譜に。
 とりあえず、というのは、今大会はとてもレベルが高くてまだまだ明日にもお話ししたい棋譜がたくさんあるからである。たとえば、図のヴォロキチン対ヴォイタシェクを見てほしい。ご存知チゴリンの9...Na5, 10.Bc2まで。何の変哲も無い?説明するのもまだるっこしいから、わかる人だけに驚いてもらおう、次の一手は10...d5だ。黒が勝った。もちろん紹介棋譜に。
 なお、女性もロシアの優勝だった。
07/11/07 紹介棋譜7・8参照
 例の党首会談が混迷を生んでるが、もちろん本欄は追わない。いつも数行の更新だが、二時間以上かかることはザラである。昨日のもそうだ。信じてもらえないだろうなあ、と思っていたが、結婚したおかげで、嫁が証人になってくれる。もっとも、彼女とて理解はしがたいようだ。だから説明してみた、「じっくり時間をかけて一場面を選んで、さらにじっくり考えれば、ぼくみたいに弱い奴でも、そこだけは一流のチェスを理解できた気分になれるのが楽しいんだ」。すると、「あなたらしいわ」。
 第6第7Rも面白い棋譜がたくさん。いくら調べても私にはとうていわからないのをふたつ紹介棋譜に。ひとつは、四個のルックが一回も動かぬまま15手でルック終盤になった一局を。十六個のポーンもすべて残っているところが珍しい。34手でルック一個づつの終盤になるあたりから、内容も私には面白かった。最後は52手でドローになる。もうひとつはイワンチュク対マメデャロフにしよう。NとRの交換で黒が悪いと思うのだが、要所を押さえ、引き分けを拒否しながら、じわじわと全軍を盛り上げて白を圧迫して勝った。マメデャロフは闘志の人のようだ。
07/11/06 紹介棋譜9・10参照
 第4R以降に気になった棋譜がたくさんあるのだけど、第5Rまでで一番見事だったのは、イワンチュク対バクローだ。バクローは八月にアロニアンに負けた定跡を採用した。もちろん研究し直している。イワンチュクは14.Bg2でそれを外したつもりだったのかもしれない。けれど、その手なら五月の王座戦最終予選の時点で使うつもりの対策がバクローにはとっくに用意されていた。紹介棋譜で御鑑賞を。このあとチュッキーが悪い手を指して負けるのだが、バクローの代表局になることは間違いない。ちなみにアロニアンは14.h3だった。イワンチュクは調子が落ちている。
 図はトカチェフ対カリャーキンで32.Qe5まで。黒はQ交換すればRxc5で駒得のようだけど、白Pb4からRxd5で取り返される。だから、一回はおとなしく32...Qd8に引いておく。それを追った白の33.Nb7が敗着になった。女王や馬が王から離れすぎたのだ。こうなるとビショップを見捨てる33...Qxh4が成立する。最後は少ない駒でメイトに仕上げられた。これも紹介棋譜に。変化手順が複雑なのでそれも含めた。
07/11/03 紹介棋譜11参照
 埴谷対遠藤の棋譜は遠藤の『狐狸庵先生のこう打てば碁が下手になる』に収められているようだ。なお、遠藤は北杜夫との対談本では将棋を指している。私の記憶では北が勝った。
 二年に一回の欧州団体選手権がクレタ島で始まっている。今回は強豪が集まった。一ヶ国一名づつを挙げるだけでもトパロフ、イワンチュク、モロゼビッチ、アロニアン、ラジャボフ、カールセンなどなど書ききれない。いま第5Rまで済み、首位決戦でロシアがアゼルバイジャンに快勝したところである。40チーム参加で残り4R。
 3Rまでの棋譜からアレシュチェンコ対ロドシュタインを紹介棋譜に。いささか無理気味の少数攻撃を白がQ翼で仕掛けたように、私には見えた。だから黒が良いのだろうが、たぶん図の25...Qc6が敗着になったと思う。c6地点は最悪だったのだ。26.Nf5+が決め手になった。26...Bxf5に取らせて27.Nd4が面白い。黒はクィーンを逃がすと、なんと詰んでしまうのである。そのあたりの変化手順も含めて御鑑賞ください。
07/11/02
 一人暮らしが終わったら映画を観なくなってしまった。その代わり、先月は日帰りで横浜まで行って近代文学館の埴谷雄高展を見てきた。二時間くらい資料に没頭してたら、帰りの新幹線に間に合うか心配になった。まだ3分の1ほど展示が残っていたけど、N700系並みのスピードで最後は通過した。視覚残像の片隅に遠藤周作との囲碁対局のパネルがちらついて、「あっ」と思いながら。"宇宙棋院"の埴谷が1勝2敗だったようだ。畏友によると、小沢与謝野戦のほかにも、頭山満と犬養毅なんて大物の棋譜もあるらしい。「著名人棋譜集ができそうなものです。きちっと誠実に書けば、刺されませんよね」。
07/11/01
 「なあなあ」とまた嫁が部屋に入ってきた、「小沢さんが囲碁したんだって」。民主党の小沢一郎代表と自民党の与謝野馨前官房長官の対局である。二時間半というから熱戦だ。小沢が十五目半で勝った。局後の与謝野の敗戦の弁がすっきりしていて、嫁も私も好感をもった。対して畏友は、「この接待碁で小沢氏が気持ち良くなり党首会談が実現か」。次の日のニュースで、本当に実現したことを知ってびっくり。
 読者Sさんがメールで、ネットのソフト指しについて教えてくださった。私は、対局ソフトを参照しながら対局するのがソフト指しだ、と思っていた。ところが、自動的に駒まで動かしてくれるyoticsというプログラムがあって、昔のyahoo.comで活躍してたそうだ。持ち時間1分の1手2秒増で無敵だったとのこと。
07/10/31
 ようやくYahoo!で「いやな相手」と出会った。レイティング1600台の人が、私の必勝形になったところでドロン。消えてしまった。これって07/10/16に書いたように、10分たてば私の勝ちになると思ったら、必ずしもそうじゃないらしい。説明ページを読むと「対戦相手が試合を放置してしまう場合には、申し訳ありませんが、別の対戦相手との試合を検討してください」。
 防ぐには持ち時間を設定せよ、との御教え。どのくらいの?長時間ではまた同じことになる?齢四十も半ばに到るとブリッツはつらい。また、面白いことに最近のルールでは、5分以内の勝負は成績に反映しないことになっている。昔は、対局開始直前の絶妙なタイミングで、持ち時間を極端に短く変更する輩が居た。対局相手はそれに気付かないし、気付いても急には気持ちが切り替わらないから、時間切れで負けてしまう。たぶん、それを防いだのだろう。
 持ち時間10分で一手につき10秒追加というのが、私の限界である。こないだ、ウクライナのムカチョボにレコを迎えて、イワンチュクが三日間の早指しマッチをする、という催しがあった。これがいま述べた時間設定だった。結果は2勝2敗8分だったので、延長戦になった。4分で2秒増加のブリッツである。これを1勝0敗1分でイワンチュクが勝った。こういう棋譜は並べる気がしない。ライヴで楽しむべきものだ。
07/10/30 紹介棋譜12参照
 Yahoo!の将棋や囲碁は二千人とか三千人が集まっているようだ。ところで、昨日みたいに棋譜を残せたのは、棋譜送信サービスのおかげである。昔は無かった。
 今日は一流棋士のミスを。フランスはロワールで「チェスと音楽の祭典」があった。詳しくはチェスドクター氏のブログでどうぞ。私が興味を持ったのは、優勝したフレシネがコステニクに不覚をとった一局である。49手で黒コステニクがB対Pの駒得を得て、それを維持し、121手でRB対Rだけの終盤にした。何度か話題にしたように、この駒割は長くなるのである。勝負が着いたのは237手だった。
 図で黒Rh8#を防げそうなのはKc8かKe8かRe1しか無いことはわかる。このひとつだけが正解なのである。ここでフレシネはしくじった。コステニクのRa7 -a2- h2の大回転が華麗に決まった。
 なおコステニクは05/01/16でもこの種の終盤を勝ったのをお伝えした。得意なのかな。
07/10/29 紹介棋譜13参照
 Yahoo!で相変わらず指している。昔は格上の相手ばかり狙って一気に1600くらいまでレイティングを上げた記憶があるのだが、今はとても出来ない。参加者たちのレベルが上がってる気もするが、私にポカが多すぎるのだ。
 極端なのを御覧に入れよう。私は黒番である。言い訳になるが、いくら何でも本当の私はもっと普通だ。ただ、相手の戦績があまりに悪く、レイティングも300ほど低い人だったので、気合が抜けたのだ。いや、言い訳にもなってない。
 本当はすぐ私が投了すべきだった。でも、実力差を考えれば、まだ私が楽勝できるはずなので続けてしまった。実際、相手が私以上の大ポカを出して差はすぐ縮まったのである。しかし、私の集中力は切れたまんまだった。かくて、神聖なるボードは大ポカ劇場になってしまった。
 図で私は「やっと勝った」と思った。23...Na3と指したのである。「白ルックよ、逃げられまい」。諸君、白の次の一手は24.Bd2だった。そこで予定通り、私が24...Nxb1を指そうとしたとき、最大のヤマ場が訪れた。盤上に表示が出た。相手が24.Bd2の訂正を要求してきたのだ。その瞬間、私も自分の大失態に気がついた。
 数秒茫然として、私は指し直すことを認めてあげた。あまりに格下の相手なのである。断れなかった。また、とっくに投げるべきところを指し続けた卑しさの負い目もあった。そんなわけで、実際に棋譜に残った24手目以降がどうなったか、興味のある方は紹介棋譜をどうぞ。あまりに異常な展開で、思うことが多かったので、私事を書かせてもらいました。
07/10/27 紹介棋譜14参照
 マヨルカでは、ヴァレーホ対サルギシアンがマーシャルになった。07/08/26で16...Qxf1+と16...Qh5を比較して、前者が増えていることをお伝えした。そのとき私はマインツのアナンド対アロニアンを紹介棋譜にしたが、どうも、そのマインツ以来、後者は負け続きなのである。本局も16...Qh5だった。
 16...Qh5の勝率が落ちた理由を私が説明できるわけもないが、原因は07/01/18の紹介棋譜にしたアナンドの新手19.Qg2だと思う。マインツもそうだ。そしておそらく19.Qg2を避けるために、17.Nd2. Bf5のところで17...f5が指され始めた。これが結果を出せておらず、本局も白が勝ったのである。
 ただ、サルギシアンも工夫したので、勝負は長い終盤で着いた。従来は図で23...Bf5, 24.Nc5からNb7という変な手順を狙われていた。例として、欧州選手権のガルキン対ニールセンを途中まで変化手順に入れておく。本局は23...Kh8だった。これならNb7は無い。その是非は私にはわからないが。
07/10/26 紹介棋譜15参照
 マヨルカ島で祭りがあった。通常の個人戦のほか、スペインのクラブによる対抗戦も行われた。優勝は欧州クラブ杯を制したLinex Magic だった。このチームはもちろん他のクラブもイワンチュク、グリシュク、ヤコベンコ、アレクセーエフなど見事な顔ぶれで、棋譜も興味深い。
 図はルブレフスキー対バクローで、35...Qc5まで。b5ポーンが危ないが、ここまで、なんかバクローの動きが悪いので、ノリは白だ。私は観戦気分で棋譜を自動再生させながら、「ここで36.a6があるかなあ」と思って眺めていた。するとそうなったのである。取らせて37.b6へ突っ込む、という読みだが、もちろん私には37...Bb5の後がわからない。でも、そこで妙手が出るのだ。とは言え、白王は一手違いに迫られてけっこうきわどい。図からを紹介棋譜に。最後は必死のようなものである。
 なお、個人戦も各国から棋士の参加があったが、クラブ戦ほどのハイレベルではなかった。
07/10/25
 ビルバオはト祥志(Bu, Xiangzhi)が6勝1敗3分で優勝した。トパロフは目隠しが苦手とみえ大ポカが目立ち、五位だった。なお、勝利を3点、引き分けを1点で計算した大会だったことも記しておく。
07/10/22
 目隠し対局をビルバオも始めている。昨年はトパロフとポルガーに本当に目隠しさせていたけど、今年は駒の無い盤を見て指し手を機械に入力する方式である。また、この二人にカールセンやカリャーキンなどを加えて六人にした。私だって若い頃は、レベルはお話にならないにしても、目隠し将棋が出来た。それってたいしたことではないと思う。トップ棋士たちの対局なら面白いんだろうか。さすがの彼らでもポカが増える。それを見るのが良い気分なんだろうか?日本で棋譜を集めてるだけの私には事情がわからない。
07/10/21 紹介棋譜16参照
 アンドリアシアンは六戦全敗でホーヘフェーンを終えた。こんなのここ何年も記憶に無い。優勝はマメデャロフだった。3勝0敗3分だから、うち2勝がアンドリアシン戦だ。チェスドクター氏のブログで教わったが、ポルガーに参加を断わられたのでアンドリアシンが招かれたのだろう、とのこと。
 もうひとつ、チェスドクター氏に教わったことを。バルセロナで地元や中堅を集めた大会があって、ナカムラがクラセンコフに快勝している。活気のある戦いが続いて図は20.Nc6まで。クラセンコフは「これは取れまい」と踏んでいたろう。20...Rxc6には21.Bxf6があって、白Rが黒Qを直射するから。ところが、ナカムラは取ったのだ。クラセンコフも後には引けない。そこで大技21...Qxf2+が飛び出した。
 以下、がんがん敵王を追って勝勢にしたところで手を緩めるのが呼吸である。ほとんどメイトになっている。クラセンコフも諦めるしかなく、我々でも詰ますことが出来る局面まで指して投了した。
07/10/20 紹介棋譜17参照
 昔のYahoo!では定跡書をカンニングしながら指されることが度々あって、そうしてる姿は見えなくても感触でわかったし、中には平気でそれを口にする人もいた。悪いとは思ってないわけである。今はまだそれっぽい人に合わない。私の感触が鈍っただけかな。
 四人で戦うのが定着したホーヘフェーン大会が後半戦に入っている。昨年のU-20を勝ったアンドリアシアンが招待されたが、初戦から五連敗だ。他の三人がマメデャロフ、ポノマリョフ、ファンヴェリーだから仕方ない。次の最終戦も負ければ全敗者になる。出来が悪いのはもちろん主催者だ。
 ポノマリョフ戦を紹介棋譜に。図は黒アンドリアシアンがビショップをのどかにBa8 -b7 -c8と移動させたところである。e筋をもっと警戒すべきだった。23.Re6を喰らってしまった。これは取れない。一見、本譜の23...Nf6で防げるように見える。けれどポノには24.Rxd6からの二の矢、三の矢があった。
07/10/18 紹介棋譜18参照
 私が20歳以下の世界選手権を書いたのは03/07/06が最初で最後だ。マメディヤロフが初優勝した時である。今年はあれ以来久々に目をひく優勝者が出た。エジプトのアドリーである。今年で20歳。レイティングは参加80人中21番の大穴で、ドロー無しの10勝3敗0分という荒削りぶり。
 ただ、二位ポポフと三位四位王皓(Wang Hao)との直接対決に負けているのが感心しない。前者戦を紹介棋譜に。図は48.a5まで。3秒見ただけではこのポーンが前途洋洋だが、ポポフは読んでいただろう。48...h4を指した。白gxh4なら黒Nf4だ。本譜は49.a6. hxg3のポーンレースになって、これは白の方が速い。でも、好手順があってせっかくの白Qは消えてしまうのである。81手の熱戦だけど、そこだけでも御鑑賞を。
 もちろん、王皓とポポフに連敗しても後を3連勝して崩れなかったアドリーの根性はえらいと思う。
07/10/17
 七年のブランクがある四十代はもう強くなれないだろう。相変わらず無駄に動いては形勢を損じている。いいさ。技が決まっても優劣が変化しないのが私の芸だ。Yahoo!のチェスって昔は夜ならだいたい100人は超えていた気がするが、記憶違いかな。いまは70人というところだ。将棋をはじめ多くの種目が加わったからだろうか。それはそれで、場を荒らす人を見かけなくなったので良かったかも。
 コンピュータ同士の試合には興味無かったけど、Chess Todayが昨日ふれたマッチを紹介してくれた。機械ならではの局面が左である。第7局から。「誰」だって次の一手は51.hxg7だろう。ところがZappaは51.Ra3と指したのである。結果は66手の引き分けだった。
 結論だけ言うと51.hxg7で勝ち。けれど、あとの手順が見た目よりはるかにややこしい。だから疑問手ながら51.Ra3にも一理あったのだ。ただし、黒にも妙手が出て引き分けで終わったらしい。
07/10/16
 古いブログに、Yahoo!の対局マナーが悪くなったという話が載っている。1999年のことだ。私がよく指していたのはその翌年である。敗勢になると投了せずに消えてしまう人が多かった。勝敗を着けずに消えればレイティングが変わらずに済むというわけである。七年ぶりに私は対局を再開した。いまは設定が変わっていて、たとえば、10分間一手も指さずにいると負けてしまう。だから、上記のような行為は不可能になった。不快な手口はまだたくさんあるものの、これだけでも相当の改善だろう。
 コンピューターではHydra(ヒュドラ)が一番強いと思っていたけれど、評判ではRybka(リブカ)とZappa(ザッパ)が最強らしい。レイティングにして3000を超えるという話だ。メキシコ大会に合わせて両者のマッチも組まれていた。結果は3勝2敗5分でZappaが勝った。ただ、総当り式だった六月の世界選手権(アムステルダム)ではRybkaが9勝0敗2分で機械王になり、Zappaは7勝0敗4分で準優勝だった。Hydraは参加していない。
 世界選手権に関してはICGA(国際コンピュータゲーム協会)トーナメントのページが詳しい。日本語ページである。
07/10/14 紹介棋譜19・20参照
 欧州クラブ杯はいままで触れたほか、アナンド、イワンチュクなど大物棋士がたくさん参加した。良い棋譜もたくさん。やっと最終7Rまで見終えた。
 カールセン対フレシネで、カールセンが玉頭への一発強襲を決めた。紹介棋譜に。貫禄さえ感じられる。無我夢中だったヴェイカンゼーC組優勝から三年である。もうあの頃ほどファンを不安と歓喜で揺さぶりながら観戦させることは無いだろうな。
 図はサシキラン対ギメシで、サシキランがh筋を破って優勢になったところである。ここからどう勝つか。強い人には一目だろうが、私は参考になった。この終盤を紹介棋譜に。黒陣の弱点はb7とe6、特に前者である。だからKb6の形を目指せばいい。でも黒Qからの王手を受けてはいけない。そこでサシはe6にまとわりつきながらまづQd6を実現させた。すんなりした勝ち方が彼らしい。
07/10/13 紹介棋譜21・22参照
 「なあなあ見て。買ったあ」と嫁がDVDを持ってきた。猫がトカゲやモグラを見せにくるのと似ている。どれどれ、「おしりかじり虫」ですと? さっそく再生してあげると、ウェーベルンを崇拝する夫の前でホイホイと踊り始めた。明日には私も踊れるようになっているはずだ。
 人格が変わる前に第5Rだけでもチェックしておく。マメデャロフ対カムスキーが目にとまった。ほぼ互角の終盤に見えたのに、白が黒陣のポーンを崩し、黒Qからのチェックをかわしつつ、最後は3ポーンUPの大差で勝った。まだよく知らないマメデャロフだが、なかなかの人かも。
 図はヴォルコフ対ルブレフスキーで28.Qa7まで。黒は白陣に突っ込んだものの、駒損のうえ自陣はバラバラ。敗勢に見えるがFritz8で調べると、しぶとく喰らい付いてきたようだ。そして、28...Re4に逃げ、さらに29.f3と追われたとき一発逆転のチャンスが訪れたのである。h2メイトを狙う29...Rh4だ。30.gxh4. Nf4でg2メイトを狙い続ける。以下黒が勝った。
07/10/12 紹介棋譜23・24参照
 第3第4Rをチェックしておこう。二局を紹介棋譜に。並べて一番おもしろいのはニシピアヌ対ソコロフである。中盤の応酬がどっちの駒得で収まるのかわからない乱戦だ。
 一番意外に終わったのはサトフスキー対バガンヤンである。左図で棋譜が途切れている。黒番だが黒が勝っている。もし指し継ぐなら29...h6だろう。Fritzで調べた結果を変化手順に加えておく。すぐに勝負が着くというわけではないものの、白に手が無くジリ貧になる局面だったようだ。おそらくサトフスキーは黒の手を待つうちに嫌気が差して投げたのだろう。黒の完封譜である。
 バガンヤンはベテランのフレンチ使いだ。本局はバイナウアーでいきなり6...Qa5と出てくれた。それが私の目をひいた。03/09/11からずっと気にしている変化なのである。実は最近は勝率も上がっている。ねじり合いを本分とするバイナウアー式のフランス定跡が復活したらうれしいな。
07/10/11 紹介棋譜25参照
 嫁の主張するに「へいへいほー」と「ギャランドゥ」は相性が良い。ためしに、「与作は木ぃを切るぅ」のあとに小さな声で「ギャランドゥ」って歌ってみてください。そんな発見に感心してる間に欧州クラブ杯は終わってしまいました。優勝はスペインのLinex Magic で、カムスキー、アダムズ、ルブレフスキーなど、リザーブ無しの六人だけで全7戦を戦い抜いた。ルブレフスキーの居るチームの強いことが多いと思うけど、偶然ではないのでしょうね。Tomsk-400は三位で三連覇ならず。昨年三位のUralは二位でした。前者はモロゼビッチ、後者にはラジャボフが居る。
 遅ればせながら面白い棋譜をさがしましょう。最初の2ラウンドからイナルキエフ対ガルキンを紹介棋譜に。図は28...Bf8まで、g7を守りながらd5を狙った手です。そこを白が強襲した。まづ29.d6 Rxd6、そして30.Bxg7です。d6を突き捨てた効果で、黒Bxg7なら白Re8+以下詰んでしまう。もっとも、黒Kxg7白Qg5+に黒Rg6と受ける手が生じるので、素人には読みきれませんが、これも白勝ち。変化手順に入れました。
07/10/10
 棋譜の無い日々を送っていて話題も無いので十月のムダ話を。この一年で見た映画で一番だったのは、もう07/03/26で書いてしまったけれど、オリヴェイラの「ベル・トゥジュール」ですね。ただ、この監督をもっと見たくなって「メフィストの誘い」と「神曲」のDVDを買って見たものの、理屈っぽいばかりで退屈でした。「ベル・トゥジュール」が他のオリヴェイラと違うのは、ブニュエルへのオマージュであるという点かなあ。ラストシーンの快感などイッてしまいそうでしたもの。私はブニュエルのDVDも月に一本づつこつこつと見てました。十五本見たはずですが、チェスは一回も出ず。
 今年の映画に関して、ぜひ記しておきたかった畏友の言葉があって、それは周防正行の「それでもボクはやってない」について。コメディばかり撮ってきた監督が社会派の怒りをあらわにした作品として、裁判制度の観点からのみ紹介されるのが私は不満でした。畏友に言うと、返ってきた答えが、「これまでの周防作品もコメディではないでしょう。相撲にしろ坊主にしろ、世間ではシリアスと思われている分野が、内部をリアルに描けば外部からはコメディちっくということで、監督のアプローチ法は基本的に変わってないと思います」。そうそう、そういう話を聞きたかったんだ、と思った次第です。
07/10/05 紹介棋譜26参照
 Chess Informant 99 が届いてます。前巻の好局第一位には昨年の欧州クラブ杯からゲオルギエフ対ニシピアヌが大差で選ばれました。紹介棋譜に。クラムニクとトパロフのマッチからは延長第三局が四位に選ばれた程度です。タリ記念大会からは二局が選ばれ、06/11/27で私が驚いたシロフ対アロニアンは二位でした。レコ対ゲルファンドも選んでほしかったけど、こちらは新手賞の四位でした。
07/10/04
 1911年8月生まれのボトビニクは1948年3月に世界王者になった。アナンドは1969年12月生まれだ。事情が異なるシュタイニッツを別にすれば、新王者としては最年長ということになる。
 ロシア大統領選挙に関するカスパロフのインタヴューを07/08/10で紹介した。あれに記事を追加しておく。彼が野党連合「もうひとつのロシア」の大統領候補として選出されたのだ。リベラルも左派も民族主義者も集まった団体を代表するには彼がちょうどいい、ということだろう。また、強力すぎる権力者の推す候補に対し、せめて海外だけにでもアピールできる人物をとなると彼しか居ない、ということだろう。
07/10/03
 先月中旬にロシア選手権の上級リーグが終わっている。チェスドクター氏のブログによれば、上位六人が決勝大会の出場権を得られるとのこと。上位者がドローを連発した。おかげで、六十七人が11ラウンドを戦い、十一人が7点の首位で終わるという結果になった。判定タイブレークの結果、ビチューゴフの優勝に決まった。
 こんな流れの大会は誰にもチャンスがある。準優勝はRychagovという見慣れぬ中堅棋士だった。図は彼が白で黒はズヴャギンチェフ。黒がポーンを捨てて39...Qd1に切り込んだところ。狙いはRa1からQh1#だ。実戦はここで40.Rxf7が炸裂。黒は取ればQb7+だから40...Ra1。そこで、白は41.Rxg7+から42.Qb7+で、以下、王をうまく逃がし、最後はBPPPP対Rという大差で勝った。
 私のお気に入りではドレーエフとティモフェーエフが六人枠に入った。首位で枠から落ちたのはルブレフスキーで、勝てる試合を勝ちきれなかったのが惜しかったらしい。

戎棋夷説