紹介棋譜 別ウィンドウにて。
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Foros のAerosvit はCarlsen の圧勝。Dortmund はLeko。

08/07/08 紹介棋譜1参照
 負け越してるのはファンヴェリーだけ、ということもあり、六戦全部ドローのマメデャロフも含め、首位に立てる可能性を七人が残している最終日だった。実際はレコもニポもグスもさっさとドローを決めて、事件は起こさなかった。結果論ながら、グスタフソンはレコ戦でもこの姿勢を明確に指しておけば、読み負けを喫することは無かったろう。
 とにかくレコはおめでとう。ここのところ影が薄かった。2勝0敗5分である。困ったのはクラムニクだ。最終日も大ポカでイワンチュクに敗れ、七位に終わった。負け方もさることながら、この人のペトロフ防御にはもう何にも新味が無い。触れ損ねていた好局として、ナイディッシュ対ファンヴェリーを紹介棋譜に付け加えて、ドルトムントを離れよう。
08/07/07 紹介棋譜2参照
 第6Rグスタフソン対レコは後者が勝って首位が入れ替わった。過去の大番狂わせの優勝者は単独首位に立つと穏健に指した。グスタフソンはそのあたりの方針が私にははっきりしなかった。
 図の引ききった黒馬二頭を見れば、攻勢をとっているのが白であることはわかる。だが、そうまでして守勢に徹し、def筋にポーンを並べたレコの壁も厚そうだ。白はPe5 を決断できるかどうか。
 グスタフソンの選択は、しかしNe1 であり、ルークをa3に移すことだった。b筋のダブルポーンが気になったのである。もちろんこの間を利用してレコは守備を固めた。そうしてから白Pe5 が指された。
 Fritz は図でのPe5を支持しているが、本譜との是非は私にはわからない。グスタフソンだってルークを閑地に追うつもりではなく、Ra3 -a6 -e6 という搦め手からの活用を構想していた。
 諸家は23.Bxd6 で形勢を損ねたと書く。正着は23.Bxf6。だが、23.Bxd6を敗着とまでは言い切れまい。
08/07/06 紹介棋譜3参照
 わはは、第5Rは名無しのグスタフソンが黒番で勝って単独首位に立った。よく勝ったというより、18手で敗れたファンヴェリーに問題がある。自分の十八番定跡なんだからちゃんと勉強しておいてほしかった。
 手持ちのNICを調べると一局だけグスタフソンが見つかった。なかなか素敵なマーシャルアタックである。せっかくだからこれを紹介棋譜に。Chess Today によると、最近の彼はポーカー選手としての活躍が主だったとのこと。グリシュクと似ている。
 半点差でレコとニポが追っている。残り二戦をグスタフソンはこの二人と指さねばならない。
08/07/04 紹介棋譜4参照
 第4Rはニポムニシ対ファンヴェリーで前者が勝った。序盤から終盤に至るまでものすごく難しいチェスである。Fritz を頼りに図の局面を調べてみよう。黒番である。勝つなら白だが、まだまだ粘れる。ただし指す手が無い。
 私の直観は32...Kf8だ。f7 ポーンは守っておきたい。Kg8 -f8 を繰り返して待つ。これはしかし、33.Kc1 からKe2 でナイトをどかされ、白Red4 を可能にさせてしまう。そうなったら白Rd8+ を防げない。
 Fritz が推奨したのは32...Kh7 だった。これは白ルークをむしろ7段に誘い込んで白本陣を手薄にしよう、という手だ。33.Re7. Kh6, 34.Rxf7 なら34...h4 で勝負になる。このgh筋のポーンが黒の頼みだ。
 ファンヴェリーが選んだのは32...g5 だった。私とFritz の両方を活かした気分だ。対するニポの33.Rd3 がうまかった。33...g4, 34.Rd5 である。Fritz案と比べ、黒キングは8段に居残ったまま、ポーンが伸びたので、g4 もh5 も上ずった感じだ。
 後はわかる。上記の傷を補うべく、ファンヴェリーはルークをK翼に投入するのだが、当然、Q翼を薄くした。ニポはそこを衝いて勝勢を確定させたのである。私は彼の中盤のスケールに注目してきたけれど、終盤も強いと初めて知った。
08/07/03 紹介棋譜5参照
 このページの最下段で触れたクラムニクとナヴァラのマッチがNew In Chess の最新号に載っている。記事はナヴァラ本人が担当しており、自分が対戦相手に選ばれたことの戸惑いと、案の定の結果について率直に語っている。
 今大会のナイディッシュもクラムニク戦を前にして似た気持ちを持っただろうか。最近では06/05/25と07/07/03で書いたような手合違いの負け方をしている。ただ、もっと前のドルトムントについて言えば、03/08/03のドローはよく頑張った。何より、大番狂わせの優勝を遂げた年の05/07/17に見せたミラクルドローは忘れられない。クラムニクが決めに出る一瞬まで駒損を耐え、返し技を放ったのである。
 とは言え、第3Rで何の事件も私は予感していなかった。ペトロフ防御だし。ナイディッシュは8.Re1 からポーンを損する。やや珍しいが必修定跡だ。クラムニクは16...Nxf4 と18...Qd6 で対応する。カスパロフがすでに指摘している好手で、19.Rf5 以下互角という結論である。
 ところが、ここでナイディッシュの新手が出た。図の19.Qd2 である。面白い事に、この発想の元祖もカスパロフだそうだ。16.a4. b4 から17.Bf4 という流れでこの手があることを1999年に述べたらしい。ナイディッシュがそれを知っている可能性は低そうだが。
 新手にぶつかったクラムニクは45分も考えて19...Ng6 を選んだ。警戒してか19...Qxe5 とは指しきれなかったのだ。けれど、そちらが正着だったのである。この後のナイディッシュの指し回しは見事だと思う。駒得にし、まづQ翼、そしてK翼のポーンを押し上げ、クラムニクを投了に追い詰めた。上記の正着も含めて紹介棋譜に。
 さあナイディッシュは三年前の再現なるか、というところだが、実は第2Rでグスタフソンに敗れており、この金星は星を五分に戻すに留まっている。
08/07/01 紹介棋譜6・7参照
 第2Rは三局で勝負が着いた。クラムニク対ファンヴェリーは白の完勝。セミスラブでピルスベリー・アタックの駒組が完成してしまった。そのあとは流れるような手順で勝ちを決めている。つくづく卓越した陣形感覚だ。
 レコ対イワンチュクも面白かった。今年絶好調のイワンチュクに関して、私は気になっていたことがある。キャスリングが遅いのだ。守備に一手かけるよりも駒を出して前がかりに戦う。昔からそうなのかは知らない。とにかく今年は気になっていた。
 レコも気になっていた、と考えると面白い。その欠点を衝いたような序盤だからだ。とすると、本局の華は中盤だが、勝負どころは14手で済んでいることになる。
08/06/30
 ドルトムントが始まった。クラムニク、イワンチュク、レコなど八人が参加してるが、聞き慣れない名が混じっており、やや物足りない。初日はすべてドローだった。下位者と分けるとつらい大会だろう。
 いささか趣味を異にするのがわかっているので、嫁の留守を狙って私はDVDを鑑賞する。昨日は「エル」と「湖のランスロ」だ。馬鹿げたことにどちらも日本でまともに公開されてない。ブニュエルとブレッソンをこそこそ観るのは妙に興奮する経験だった。後者にチェスが出てきたので記録しておく。素晴らしい作品だった。ただ、「第七の封印」や「聖杯伝説」の時にも同じことを感じたが、騎士の時代にこのチェスは無い。ブレッソンは承知してそうしてるらしい。ほぼ意図的に考証に反した映画である。
08/06/29
 昨譜の局面は白ポーンがc筋にあることが要点だ。左側にa筋b筋の二筋があり、右側にd筋からh筋まで五筋ある。前者を短側、後者を長側と呼ぼう。理屈は定跡書を参照してもらうとして、中級者ならわかるだろう、もし昨図で黒王が短側、黒城が長側なら、引き分けである。この基本常識に忠実であれば、実は黒は助かるのだ。
 ドボ教室の優等生ドルマトフが名解答を引き出した。何はさておき、白Rf7を許しては短側に渡れないので、初手はひとまづ1...Kf6 だ。すごいのはその後のプランである。黒王はe5 -e4 -d3 と立ち上がり、白ポーンの背後を抜けてb5地点に到達するのである。8...Rh8 でドロー完成だ。
 ドボ先生の講義は続く。1...Kf6 を逃したらダメだろうか。本譜6...Rb8+ のところで6...Kf6 ならどうか。この手を試せる最後のチャンスだ。図がそれである。白が短側への移動を7.Re4 で阻止したとする。それなら「5」の法則が適応されて引き分けなのだ。7...Rb8+ で負けは無い。白ポーンは三段に居り、このポーンと黒王の間には二筋が空いている。この段と筋の和が5以下ならドロー、それを越えれば白の勝ち、というのが「5」の法則なのである。この場合は「3+2」だ。
 しかし、結論を言うと、初手Kf6 以外は白勝ちである。図で「5」の法則を役立たずにすれば良いのだ。白城は黒王を筋よりも段において制限すべし。これはちょっと高級な教えだからわかりづらいけれど、手を追って並べるとなるほどそうだ。7.Rc7. Ke5, 8.Rc6 が好手順である。これら変化手順を紹介棋譜に含めておく。
08/06/28 紹介棋譜8参照
 あまり注目されぬまま埋もれてしまった棋譜をドボレツキーはよく採り上げる。中級者なら誰でも知ってる基本を彼が読者に確認させると、あら不思議、ハッとする妙手順が見えてくる。名教師たる所以だ。
 ここでも1979年の私の知らない棋士による図からの終盤が使われる。紹介棋譜にしたので、まずは実戦譜をざっと並べてほしい。黒番だ。明らかに黒が不利で、白がそのまま堅実に勝っている。
 まづ黒王は1...Kf5 で争点のポーンに近づこうとする。それを白は2.Rf7+ で2...Kg6 へ帰し、3.Rf4 で防いだのがうまい。黒王がQ翼に渡るのを遮断し、かつ、Rxc4 も可能にしている。3...Ra5+ に白Kxc4 と取らず4.Kc6 に逃げる理由はわかるだろう。この後、黒王を白ポーンに近寄せず、黒城をあしらいながら手順を進める、白の指し方は参考になる。
 いや、しかし、ドボレツキーが論じたのは黒の粘り方だった。答えは基本適用の試行錯誤だ。
08/06/27
 チェスを真剣に勉強しようとした経験がある人はDvoretsky を一冊は持ってるんじゃなかろうか。私のお気に入りは最初に買った"Secrets of Chess Training" である。1991年刊かあ。栄光のBatsford社も今は無いとか。
 さっき久しぶりに読み返して、気になっていた箇所に納得がいった。「5」の法則に触れているところだ。昔の私は、著者に三種類ほどの変化図を解説されると、頭がついていけなくなった。今は棋譜管理ソフトで簡単に局面を流せる。おかげで十五年以上の謎にケリが着いた。
 「5」の法則は絶対ではないけど便利なものだ。でもこの本以外で見たことが無い。せっかくだからざっとご紹介しよう。
08/06/25
 森内俊之に羽生善治が挑戦した今期の名人戦は、4勝2敗で羽生が勝ち、十九世名人の資格を得た。我々は五人もの永世名人の将棋を同時代に目にすることができたわけだ。ファンとしてこれ以上の幸福は無い。
 最もドラマティックだったのが第三局であるのは、誰もが認めるだろうが、最も素晴らしかったのは第二局ではないか。対局地が私の近所だったのも幸運である。記念として、あの時の大盤解説の模様を再現しておこう。
08/06/24 紹介棋譜9参照
 フォロスの最後がいささか低調、と書いたけど、第8や9Rは食事が悪くて体調を崩した選手もいたそうだ。何を食わされてもイワンチュク一人が元気だったというのは、不謹慎なほど納得できる。
 アルメニアを代表する棋士だったアスリアンが28歳で急逝した。エレバンの大会は急遽、彼の名を冠した追悼大会になった。地元のアロニアンが3勝0敗11敗で優勝したのが餞のようだった。
 アスリアンを私は知らない。Chess Today が訃報とともに彼の名場面を載せてくれた。図で黒番、まだ十代の彼が指したのは85...g5 だった。取らせて、さらに86...f5 も捨てる。この仕上げを紹介棋譜に。
 トパロフとカムスキーのマッチは対局地が決まらずにいた。ダナイロフが自国で開催する段取りをととのえたのだが、これだけは阻止せねばならない。ウクライナのリボフでどうだ、という話になった。しかし、資金の保証がはっきりしない。イリュムジノフ会長が「私が出します」と言ってケリがついた。
08/06/22 紹介棋譜10参照
 第7Rのカールセンはバクーで披露したドラゴンをまた使った。使われたニシピアヌは災難である。ご紹介するほどの見せ場も無く形勢に差がついた。これで5勝0敗2分。彼だけが負けておらず、二位に2点差をつけた。もう決まりだ。
 おかげで最後の4ラウンドがいささか低調だった。カールセンはすべて引き分けて優勝した。それでも特筆すべきはイワンチュクの追い上げだろう。優勝が不可能になっても追い上げをやめず、3勝0敗1分で大会終盤を締めてくれた。首位に1点差、三位にも1点差の二位だった。
 最終日のエリャノフ戦を紹介棋譜に。気合をゆるめなかった呼吸が伝わる。図で機械なら41.Kf5 から勝つ。けど、おじさんは黒a4 を警戒して41.R6c4 に手堅く引いた。私もこちらに学びたい。
 だが、41...f6 を見てサッと42.Rc7+ に突っ込むのだ。以下、きれいに駒を清算したら、46.exf6 ではっきり一手勝ちである。とても学べない百戦錬磨の切れ味だった。
08/06/21 紹介棋譜11参照
 第5Rのカールセンはシロフを終盤の即詰で屠った。終始主導権を握り続けた時の強さは昔から変らない。相手は絶えざる圧力に我を失い、遅かれ早かれ崩れるのだ。フィッシャーと似ている。精力がまだ不十分だと思うのだが、こんな比較が不遜でないほどの勝ちっぷりであった。
 第6Rはすべて引き分け。シロフ対カリャーキンが激しくて、トパロフがクラムニクを倒したヴェイク・アーン・ゼーの、あの猛爆の再演だった。16...h5 が新手で、白僧をd6 の狙いから逸らす効果がある。これを紹介棋譜に。
08/06/20 紹介棋譜12・13参照
 第4Rのいけにえは白番のエリャノフだった。カタランで彼が披露した新手は、大事なg2ビショップを進んで交換させるという試みで、これによってd4とe4をポーンで占める理想形を得た。白が良かったように見える。どのあたりで流れが変ったのか、私にはわからない。けれど、カールセンが二枚換えの駒損で打開を図って、終盤に入ったあたりでは、粘る棋勢に追い込まれているのはエリャノフだった。
 解説によると疑問手を出し合った難しい終盤であるが、二枚のナイトを連携したエリャノフの粘りが印象的だった。これを紹介棋譜に。58.Nf4+ なら引き分けに持ち込めたろうが、そこまでが手堅かっただけに、要所でひらめきを欠いたようである。対してカールセンは、二枚換えを決断する一方、優勢になってからは地道に圧力を掛けるという、テンポの変化に思考が合ったのが勝因だろう。
 このラウンドまではカリャーキンも面白くて、私は注目していた。白番のヤコベンコ戦は黒に手こずって前進かなわぬような棋譜だが、どうもそれで良かったらしいのが彼らしい上手である。これも紹介棋譜に。決め手を図にした。41.Nxf5. Nxf5, 42.Rf6 で投了だ。
08/06/19 紹介棋譜14参照
 第3Rからカールセンが走り出す。手始めはファンヴェリー戦で、穏やかな定跡選択から終盤で力の差をはっきりさせた。38...g4 が敗着だろう。
 勝ち方が技巧的だった。図で白Ke4 が当たり前だと思う。形勢もそれで白が良いそうだ。ところが、カールセンは43.Kc3 を選んだ。a5地点への侵入を見せている。それに備えた43...Kd7 に、ぼんやり44.Be4 と引く。実はこれがツークツワンクになっているのだ。紹介棋譜にしたのでお確かめください。いかにも悔しい44...Bf7 に、45.Bf5+ から問題のg4ポーンを取り、駒得になった。
 43.Ke4 でも43.Kc3でも白が良かったわけだが、本譜を最後まで並べると、実戦の流れが美しい。と言うより、相手をジタバタさせながらもてあそぶ残酷さがある。デヴュー以来のファンとしては、小鹿がライオンになったのね、と感慨を深くした。
08/06/17 紹介棋譜15参照
 フォロス第2Rはシロフだけが二連勝で首位に立った。他にもたくさんの勝ち負けがある。けれど、第8Rまでの星取表を知ってる者の目には、カールセンの独走がすべてで、いちいち書くのが空しい。それでも一局だけ挙げれば、カリャーキン対ニシピアヌを。セルゲイ君は受けにも熟練していた。
 図は12.Bg5 まで。白の攻勢だが、黒もBa5 からPb4 という攻め合いを狙っている。サンルイのアナンド対ポルガーと同じだ。それは白Bxf6 からQh6 で、黒にPb4 のチャンスは訪れずに終わっている。ファンヴェリーはそれを修整したのだろう、12...h5 で白Qh6 をひとまづ消した。
 すると、カリャーキンはさっさと主導権を放棄し、13.Kb1 から14.Nc1 で身を低く構え直したのである。そこが面白かった。以下、黒からの上記の猛攻が始まり、Q翼はほぼ雪崩の直前になった。
 これをカリャーキンがよく受けて勝つ。受け将棋はなかなか目立たないので特に紹介棋譜に。
08/06/15 紹介棋譜16参照
 フォロスはいきなりカールセン対イワンチュクの激突で幕を開けた。長い持ち時間なら対戦成績はカールセンの3勝0敗4分だそうだ。本局も見事に勝った。キングスインディアンで9.b4から白馬が黒陣e6地点に飛び込む型である。本欄ではファンヴェリー対ラジャボフによる勝ったり負けたりの激戦でお伝えしている。なお、11手までなら、六年前にロチェから森内がドローを得た局とも同じだ。
 カールセンの工夫はQ翼からの攻めにとことんこだわったことだ。Chees Today の解説では黒が悪くない流れだったが、図ではもうもつれかかっている。白はどう考えるか、才能の現れるところだ。カールセンの23.a4 をChess Today は"great move" と解説した。勝とうが負けようがPa5 からPb6 でQ翼を荒らす覚悟である。イワンチュクは仕方ないのか気おされたのか23...b6 で納めた。
 この後もカールセンの戦闘的な姿勢は変らず、それが彼に勝利をもたらしたように見えた。
08/06/14
 更新をさぼって寝不足を解消してた。棋譜を調べる気分にもなれず、ムダ話を。六月は絵本だったな。私は悪趣味な人なので、御多分にもれずエドワード・ゴーリーが好きである。ただ、特に座右に置いて楽しんでいるのは、いささか悪意の薄い『ウェスト・ウィング』だ。活気を無くして何年もたった屋敷の薄暗い内壁を丹念に細いペンで塗りつぶした絵が続く。妙に不吉で、十八番など見るたびにドキドキする。ちょっと『百頭女』や『慈善週間』のような趣のあるところも好きだ。
08/06/12
 泉佐野に出張した。駅近くの「偏骨ラーメン」で「ねぎチャーシューめん」を食べる。ほのぼのした味が良い。店のテレビは「徹子の部屋」を流しており、つるの剛士がゲストだった。私も最近は嫁の影響で、彼が話題の「おばか」であることは知っている。画面に将棋連盟の免状が映った。彼は将棋二段なのだ。ついでに言うと、秋葉原の通り魔は高校で将棋部に所属していたらしい。
 エレバンでモロゼビッチ、アロニアン、レコなど八名による早指し大会が行われている。フォロスではカールセン、イワンチュク、スヴィドラーなど十二名をそろえた大会が行われている。ちょっと疲れの残る週だけど、フォロスから棋譜を追ってみたい。
08/06/11
 連載中は黙っておくのが礼節だが、「猫を抱いて」についてあと一言だけ。先行作品を連想させる箇所が多々あった。この作家には珍しいことである。「山椒魚」「ギルバート・グレイプ」「万延元年のフットボール」などの"巨体と密室"という主題、江戸川乱歩の"せまく暗い所にこもる"感覚、などだ。
 畏友は渡辺明のブログをよく読んでいて、「子供との対局記事が面白い」と言う。どれどれ、4月25日ぶんだけ見たが、渡辺が三歳児と平手で指している。指す手を片っ端から愛児に「ダメッー」と拒否されてしまい、結局、竜王は飛車をタダで見捨てる破目になっていた。もっとも、子供としては勝ち負けよりも「駒の移動が面白い様子」。父としても子が「将棋が楽しそうなのは嬉しいですね」。うん、私も嬉しくなった。
 脳が活性化するとか、礼に始まって礼に終わるとか、忍耐を教えてキレる子供を無くすとか、将棋の普及家は辛気臭い効用を並べている。それと対比せよ。子供の無法な手わざを良しとするこのブログは批評活動である。口達者な解説は増えたが、批評はまだ少ない。この先まだ続くなら、ブログにとどめておくのは惜しい読み物だ。
08/06/10 紹介棋譜17参照
 小川洋子はわりと好きだ。一作だけ選べば『密やかな結晶』かな。彼女の「猫を抱いて象と泳ぐ」の連載がついに「文学界」で始まった。アリョーヒンの再来を思わせる棋風の少年が主人公だ。彼が初めて自分の盤を"見上げる"場面がいいな。盤が美しく思えた。話の進め方が成功しているからだろう。
 昨日のKさんからは文学ネタもいただいている。ベケットの小説に関する内海智仁「マーフィーの「エンドゲーム」」という論文だ。この小説のマーフィー対エンドンの対局が解説されている。『マーフィー』には英語による1938年の初版と、1947年に出た作者自身のフランス語訳があるのだとか。後者を紹介棋譜に。両者の異同は一箇所で、図でフランス語訳は42...Ke7 のところが、初版では42...Kd7 だった。
 この42...Kd7 を内海は「うっかり指したとしても、本来、即座に負けのはずだ」と述べている。細かいミスだが指摘しておかねばなるまい。とにかく、岐阜とか名古屋とか中京はユニークなチェスどころだ。
08/06/09 紹介棋譜18参照
 オデッサの早指し大会もあった。昨年優勝のイワンチュクはレオンに参加して不在だが、顔ぶれは面白かった。優勝はポノマリョフかな、ゲルファンドかな、と思っていたら、6勝2敗6分のトレギュボフである。それ誰。いいなあ。
 私の興味はカルポフ対コルチノイだった。三年前のマインツ、二年前のチューリッヒ以来だろう。こないだのロシア・クラブ選手権では同じチームだったから対戦が無かったし。とにかく今月これまでに紹介したうちで最も重要な一局だ。賛同は求めませぬ。
 結果はカルポフが白番を勝ち、黒番を分けた。前者のYou Tubeを検索名人Kさんが教えてくださった。引き分けを押しつけようとノータイムで急かすコルチノイ、逡巡しながらもナイトを引いて勝負をつけたカルポフが楽しめる。紹介棋譜に。
 Fritzの棋譜集で調べると1970年から2006年まで、対戦成績はカルポフの32勝14敗65分だった。こんなに差があるとはちょっと意外だ。でも70年代に限れば11勝9敗41分だった。
08/06/07 紹介棋譜19参照
 レオンのもう一組はイワンチュクがシロフを2勝0敗2分で倒した。図は第一局、ここで18.g4 なんて指せるのだから、先月の大爆発がまだ収まらぬようだ。取ればもちろんNxf6+からRg1の串刺しだ。これを紹介棋譜に。
 ちなみ二人の対戦は1992年に始まり、これまでも20勝8敗41分で、チュッキーがかなり勝ち越していた。
 アナンドとイワンチュクは1988年から24勝13敗63分でアナンドが強い。早指し大会ならなおさらで、決勝はアナンド有利に思えた。けれど、結果は2勝1敗1分でイワンチュクが優勝したのだった。
 そう言えば、アナンドはニースでも早指しの成績が悪かった。今回も最終局などは凡ミスを犯し、わづか16手で負けている。ちょっと調子が下降気味なのだろうか。
08/06/06 紹介棋譜20参照
 四人で争うレオンの早指し大会が今年もあった。まづアナンドが2勝1敗3分でヴァレーホを破っている。第二局のカロカンが目をひいた。3.exd5. cxd5 から4.c4 ではなく、4.Nf3 である。続く4...Nf6 は普通の感覚だと思うが、そこで5.Ne5 が変っていた。調べると、今年のニースにカールセンが用意した手だった。強豪では初めての採用で、新手のようなものだ。実はこないだのレコとのマッチ第四局にも使っている。
 ヴァレーホの5...e6 とレコの5...g6 が黒の基本的な応手である。どちらもe5地点に白馬が居座り続け、白が勝った。それは気になる。二局とも紹介棋譜にしておこう。ちなみに、トパロフは4...Nc6 だった。これにカールセンは5.Bb5 からキャスリングし、さらにPc4 とNc3 に組み上げた。結果は引き分けだが、手の調子は白の方が良く見える。
08/06/05
 ミシュコルツはレコの早指しマッチの相手として、今年はカールセンを招いた。私製棋譜集での対戦成績はレコの3勝0敗9分だ。けれど、結果は0勝2敗6分だった。せっかくのレコ中心の企画なのに、毎年同胞をあんまり喜ばすことができていない。ホームゲームで緊張してしまうタイプなのかな。
 100手で引き分けた第三局が象徴的だった。図で私なら白Nb4 -c6 が直観である。つうか、それしかあるまい?ところがレコは73.Qc4 だった。その後の手がまた何をしたいのか全然わからなかった。勝てるわけが無い。一手頓死よりも不可解だった。Fritz の判断も無論「73.Nb4 で白勝勢」である。
 「これは凄いニュースでは」と畏友からメール。水無瀬兼成が足利義昭に作った象牙の将棋駒が見つかった、とのこと。ぶ厚い駒だ。兼成は初耳だが、"水無瀬"が駒字の代表的な書体であることは知っている。ただ、現在の水無瀬と兼成の書体は異なるそうな。そこまでは私にはわからない。
08/06/04
 チェコにクラムニクを招いてナヴァラと早指しマッチをしてもらう、という企画があった。4勝1敗3分でクラムニクが勝った。まあそんなところか。
 サラエボでいかにもモロゼビッチが優勝しそうな顔ぶれの大会があり、やっぱりモロゼビッチが5勝0敗5分で優勝した。二位に1点半の差をつけた。まあそんなところか。
 図はモロゼビッチ対モブセシアンで、次の一手は25.Ndf5 だった。25...gxf5, 26.Nxf5 で「桂馬のおかわり」だ。狙いは白Re7 からQxf7+ である。双方が先の見えないチェスになった。だから、モブセシアンにも見込みのある局面が生じている。けど、もちろん、こうした流れなら勝つのはモロゼビッチだ。
 正直なところ、ライオンに人を食わせて楽しむローマ皇帝のような趣味が私には無いので、クラムニクにせよ、モロゼビッチにせよ、好きな棋士が勝ったのに、いまひとつ感動が薄い。

戎棋夷説