紹介棋譜 別ウィンドウにて。
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モンテカルロではなくニース。ロシアのクラブ選手権。

08/04/28
 欧州選手権が始まった。初日から5連勝でサトフスキーが突っ走っているが、モブセシアンも6Rで5勝して追いついた。第7Rの直接対決は、しかし、15手でにぎにぎしている。参加者三三七人でも、強豪はバクーの大会に集まってしまった観があり、今年はやや物足りない。
 バクーの大会とは07/06/25 で触れたグランプリのことで、ここが最初の開催地になった。危惧されたように、充実した大会にするのは難しく、アナンドはスケジュールが調整できずに不参加だ。モロゼビッチは気の長いグランプリ制に賛同できず不参加、クラムニクとトパロフは、企画がでかいわりに賞金が低くて不参加である。
 それでも集まった十四人の顔ぶれはなかなかだ。カールセン、ラジャボフ、マメデャロフ、カリャーキン、などなど。現在は6Rまで終わって、カムスキー、王ゲツ、グリシュクが首位である。こっちを優先して調べたい。ただし、明日は休みます。休日なのに仕事なんです。
08/04/27
 では、予告どおり御覧にいれたいと思います。題して「七人のチェスマスター」。たとえば、贈答されたチェス書籍の書名のうち一冊が明確になった。畏友と私の研究(05/08/26、05/11/22、06/04/04 など)では、日本にこの本の影響が現れるのは『将棋秘訣』(明治32年)からで、『西洋将棊指南』(明治2年)ではまだなのだけれど、すでに渡ってきていたのは確かのようだ。他にも二人でいろいろ調べたり考えたりしたことがつながってきた。これまでの研究は筋としては悪くなかったんだな。あらためてKさんに、ありがとう。みなさんが読まれても、面白いと思います。将棋はチェスより複雑だ、なんて、幕末から言われていたんですね。
08/04/26 紹介棋譜1参照
 「勝手に将棋トピックス」が更新停止してからは「ものぐさ将棋観戦ブログ」で楽しんでいる。こないだの大盤解説の会場模様を私がコメントしたところ、それを見やすく編集してくださった。興味のある方は御覧ください。
 いろんな大会が始まったり終わったりしている。ドスエルマナスではトパロフ、シロフ、ヴァレーホ、ポルガーの四人による勝ち抜きの早指し大会があった。トパロフが優勝している。最高の一局はシロフ対ヴァレーホだろう。図の10.f5 に対し10...Nxe5 から黒が攻め立てた。11.fxg6. Nf3+ で白王を不安定にして戦える、という判断だ。カロカン防御って平和を愛する人が使うものと思い込んでいた私は驚いた。この後に華麗な技も出てヴァレーホの快勝譜になった。
 08/03/18で畏友の「万延元年のチェスゲーム」をご紹介した。その後、Kさんの新資料報告を受けたことも書いた。これを畏友が訳し、分析と解説を加えてまた新しい将棋史の読み物を仕立ててくれた。明日はこれを紹介したい。状況がさらに詳しくわかるようになった。
08/04/25
 忘れかかっているのか。今日がフィッシャー解放記念日だ、と思い込んでいた。三年前に書いたのを読み直すと先月だった。
 New In Chess の本年2号はフィッシャー追悼号みたいなもので、特に、記者のアイスランド訪問記がしんみりさせる。1972年に、そして2005年でも自分を助けてくれたパルソンのような人とさえ、フィッシャーは不和になっていたようだ。陰鬱な経緯が語られる。それでもパルソンは、というか、アイスランドの人はフィッシャーを愛している。「われわれはああいう人が好きなんですよ」という国民性らしい。難解な「ああいう」ではある。
 この記事によっていくつかの事実も明らかになった。フィッシャーが拘束されたのは、フィリピンへ娘に会いに行く途中だった。よく通っていたらしい。とはいえ最高のパートナーは渡井美代子だった、という証言もある。
08/04/24
 朝早くに嫁が大仙公園まで出かけて整理券を獲得してくれたおかげで、私は夕方の会議をすっぽかし、終局までの二時間半ほども大盤解説に熱中することができた。一手々々を臨場感ほかほかの状態でプロに解説してもらえる悦びに浸った。
 深夜を過ぎてからのテレビ解説も見た。十五分たらずの放送というより、結果を知った上での局後の視点で語られてしまう点が物足りない。対局最中の熱気と不安はやはり素晴らしい。ファンならぜひ大盤解説場へお運びを。
 実は嫁は整理券を二枚も手に入れていた。将棋を知らなくても興味を引かれたようだ。数分の「フィガロ」を流すだけで寝てしまう彼女だが、最後まで集中して楽しんでいた。最高の舞台の何かが伝わったらしい。会場を出る時にいわく、「あたしも将棋おぼえようかな」。
08/04/23 紹介棋譜2参照
 最終11Rも短手数ドローが目立ったが、好局は結構あった。イナルキエフ対倪華を紹介棋譜に。図はa6型スラブで、白がf筋g筋のポーンを突き上げてきた。キャスリングしてないのが工夫だ。倪華はその欠点を衝くべく機敏に動くことにした。いきなり10...e5 で仕掛け、11.fxe5. f6 である。不安定な白王をBg7 -f6 -h4+ でさらに浮き上がらせることに成功した。
 威勢の良い黒を応援したいが、イナルキエフも王をb1 まで逃がして抵抗する。どっちが有利かは私にはわからない。最後は倪華の技がきれいに決まった。
 優勝したのはウラル・エカテリンブルグだった。メンバーはラジャボフ、シロフ、カムスキー、グリシュクなど。二位はエコノミスト・サラトフでアレクセーエフなど。昨年優勝のトムスク400は不調で九位に沈んだ。
 家の近くに仁徳天皇陵に隣接した大仙公園がある。あちこちの芝生や地べたで将棋が指されている。さすが阪田三吉の土地だ。昨日からここで名人戦第二局が始まっている。大盤解説場に行きたい。
08/04/21 紹介棋譜3参照
 チェスドクター氏のブログにカルポフのインタヴューが紹介されている。それで気づいた。カルポフとコルチノイは同じチーム、南ウラル・チェリャビンスクの一員なのだ。カルポフは0勝1敗2分、チームは下から二番目の11位だった。でもメンバー達は光栄だったはずだ。気を使ったろうけどね。二人が和解するとは思えないもの。でも、もちろん、カルポフは老雄のガッツに賛辞を送っていた。
 第10Rは短手数のドローが多くてつまらなかった。今大会で強さが印象に残った二人の話でもする。一人はカムスキー。2勝1敗5分という成績は並だけど、トパロフとのマッチに期待させる内容だったと思う。もう一人は5勝0敗6分で文句無しの王晧だ。第1Rの白番を紹介棋譜に。
 彼からさらさらと交換を進めて図になった。ポーン型を見れば、私でも白が良いことがわかる。ビショップが色違いだが、この後、王晧はポーン得してからルークを切って、BPP対R の駒割りで勝勢をはっきりさせた。何より、図での一手は25.Ka2 である。26...b4 には27.Kb3 で応えた。キングによる顔面ブロックである。彼の構想は29.Ra1 からルークを二本とも働かせることだった。
08/04/20 紹介棋譜4参照
 読者さんによれば盤面六駒のページは「重いとはあまり感じていない」とのこと。今年の私は四月から忙しくなっており、更新の難しさに自覚症状も出てきた。継続にだんだん自信の無くなるお年頃である。こんなときは、そう、コルチノイを服用して精力を出そう。第9Rである。得意の黒番で定跡はフレンチ。相手はガシモフだった。
 白王がc3 のポーンを取らずにe3 に退避したのが中盤の流れを決めた。ガシモフは図で26.Nxh5 という決め手を狙っていたのである。取らせて27.Qg8+ だ。これでルークを失ったコルチノイは、しかし、あきらめない。28...Nxd4 で中央から反撃する。優勢を意識してか、ガシモフはこれも取らなかった。たしかに黒が苦しい。コルチノイは粘った。で、少しづつミスを重ねたのはガシモフだったのである。41手で黒Pd5 -d4 -d3 が実現、ついに逆転した。
 とはいえ、まだ半分も終わってない。コルチノイも安全策をとった。77歳の疲労を補うには、その方がいいのだろうか。難しい決め手をいくつか逃してるうちに、優勢の貯金が減ってゆく。63.g5 ならドローだったろう。しかし、今年22歳のガシモフがそこで間違えた。それでもまだ残り九駒、白の駒得でもあり、難しく見えた。
 87手の長い戦いである。コルチノイはペースを変えず、最後の25手を乗り切った。1勝3敗6分で終わった彼だが、素晴らしい1勝だ。これを並べながら、我々にはこんな棋譜の方が参考になるな、とも思った。人間的な勝ち方であった。
08/04/18 紹介棋譜5参照
 読者さんからメールがあり、その方もDVD九枚と知って買うのを控えられた、とのこと。「やはりFritzを買う方がお金の使い方として有効そうですね」。御存知の方も多いかもしれないが、読者さんもおっしゃるとおり、Shredder Computer Chess のページで盤面六駒の終盤を調べることは可能なのだ。重いという噂を聞いているので私は使わずにいるが。
 Fritz 11 には2007年10月までの棋譜データベースが付属しており、これも購入理由のひとつだった。たとえば、昨年に現れたルイロペス新チゴリン防御ともいうべき10...d5を調べると10例が見つかる。もちろんMCOには載っていない。
 さて、第6Rと第7Rでグリシュクがマーシャルを連採しているのが気になった。けれど、第7Rのカムスキー対ミトンが新チゴリンだったので、こっちを見よう。上記10例のうち、8例が11.exd5 である。これについては07/12/25 で触れた。カムスキーは11.d4 だった。07/11/08 で紹介した時と同じだ。それは図から14.dxc5 と指したのが感心しなかった。14...Qc7 が好手で、e5 に浮いたナイトが白の重荷になったのである。多いのは14.Nd2 で、紹介棋譜にしたことは無かったが、最近では昨年11月のドミンゲス対カールセンがこうなった。結果は引き分けである。
 カムスキーは14.a4 で黒b4 の形にしてから16.Nd2 と指す工夫を見せた。しばらく意味がわからなかったが、14.a4 を入れて16.Nd2 から17.Nxe4 とする場合と、入れずに14.Nd2 から16.Nxe4の場合とでは、違うことに気がついた。相違を変化手順に示して紹介棋譜にしておこう。ただし、カムスキーが指したのは17.Bxf6 だった。結果は巧みな指しまわしで勝っている。
08/04/17
 Table Base は終盤のデータベースである。私が持ってるバージョンは1.0 で、盤上五駒の局面なら、詰むかドローか結論を出せる。現在は六駒版も売っている。それを買おうと思ったところ、DVD九枚組であることが判明した。私に必要だろうか?よろいが重過ぎて身動きできなかった中世騎士を連想させる。そんなわけで、購入品をFritz 11 に変更したのである。Fritz 11 は、愛用のChess Base 7 で使えないのが残念だが、やはり優秀だ。局面の評価法よりも、早見えが進歩したのだと思う。瞬時に15手くらい読んでしまう。Fritz 8 では数分かかったものだ。
 会議々々で疲れてしまって棋譜を閲する気になれないので、こんな話で済ませたい。ぐったり帰宅すると、Modern Chess Openings 15th Edition が届いていた。長く版を重ねてきた序盤定跡の広辞苑である(国語辞典なら『大辞泉』が好きだが)。
 私がいつも書いてるような、流行定跡の最先端はあまり触れてない。たとえば、マーシャルの15.Re4. g5 については実戦例をひとつ挙げるだけだ。ペトロフを使う人なら誰でも興味のあるはずの15.Bf4. Rac8 は載ってない。そうした知識を得たい人には薦められない本である。"MCO" の価値は、古くから知られてる変化や、誰でも知ってる定跡の基本形を集めてくれている点なのだ。電話帳で言えば、新人アイドルの番号は載っていなくても、官公庁や病院はきっちり網羅してくれている、という感じだろう。類書に比べて、そんな安定感が好きだ。
08/04/15
 棋譜数の膨大な大会はどうしても派手な捨駒ばかりに注目してしまう。でも、第4Rは退屈な終盤を見よう。164手でめでたく引き分けたボロキチン対モブセシアンである。
 黒に圧迫され43手目でQを捨てるしかなくなった白が粘り、64手目で盤上に五駒しか無いRP対Qの終盤になった。Table Base で調べると、36手で詰む形だ。それでもボロキチンは基本どおりKRPを密着させて抵抗を続けた。ポーンも動かさずに耐え、図の80手目まできた。粘ったとはいえ、手番は黒で、まだ37手で詰む形である。しかも、Qf7 のような意味のぼけた手でも黒は詰ますことが可能だった。
 いろんな正解がある中で、わかりやすいのは80...Qb7+ だろうか。もっとも、そこから勝ちきるには相当のテクニックが要る。モブセシアンは80...Qa3 を選んだ。白の応手を限定し、縛りあげたつもりだろう。私でも81.b4 と指すより無いのがわかる。当然ボロキチンもそう指した。面白いのは、これで引き分けが決まってしまったことだ。以下、延々と手数は延びたが、最後は50手ルールが適応された。
 ケレスの終盤書によると、RP対Qはポーンがb筋やg筋にあるのが、一番引き分けやすい。粘るコツは、Rをできるだけc筋に置き、敵王をb筋に渡らせないこと。ボロキチンは徹底してそれを守っていた。
 第5Rはあまり面白くなかったので、明日は更新を休みます。
08/04/14 紹介棋譜6参照
 読売新聞の読書欄にも若島正がエッセイを書いており、肩書き紹介のひとつが「アンソロジスト」だった。なるほど。
 先日の対談では、映画「ロリータ」の対局シーンから局面を再現したのが面白かった。ハンバートは取れるクィーンを取らなかったようである。わざと?私ならその線で楽しみたい。チェスについて、「終盤になるにしたがって駒が少なくなるから簡単になると錯覚しがちです」と、大事なことも言ってくれている。チェスファンとしては、こんな話をもっとしてほしかったが、文芸対談なんだから仕方ないか。
 さて第3Rでは、誰もがグリシュク対ティモフェーエフを選ぶだろう。あまり流行らない序盤から図になった。研究してるとは思えない。黒がe5のナイトを交換せず、クィーンの交換も避けてあらかじめc8に寄っているのが特徴だ。この複雑志向が命取りだった。優劣不明の11.Nxf7 が飛んできた。
 攻撃的なグリシュクの即興感覚が本領を発揮した一局である。Fritz で調べると、しばらく両者に大きなミスは無いが、黒がクィーンを捨てて盤面の負担を軽くしようとしたのが敗着だ。白の決定打を見落としていたのである。
08/04/13 紹介棋譜7参照
 さ、第2Rに急ごう。紹介棋譜はエリャノフ対ファンヴェリーを。図で白番なら、あなたはRc3 からRgc1 を考えるだろうか、それともK翼を睨むか。エリャノフは後者だった。
 まづ、18.e5 で黒馬を退かせる。そして、18...Nd7 に対してズドン、19.Bxh7 である。本譜は19...Nf8 だったが、取れないようでは仕方ない。h筋に白の大駒が殺到して勝負を決めるのは時間の問題だった。
 もし19...Kxh7 だったら?Fritz によると、20.Qd3+, Kh8 に21.Rxg7 が決まる。21...Kxg7, 22.Nxe6+ がとどめだ。22...fxe6 しか見込みが無いが、23.Rg1+ で詰む。
 すると馬の退き方が悪かったということになる。もっとも、18...Ng8 ならやはり白Bxh7 が有効だ。すると、g7地点に利かす18...Ne8 が正解ということになる。しかし、これではこの黒馬が次に動ける余地が無い。ファンヴェリーにとっても一番考えにくい手だったろう。
08/04/12
 久しぶりに難波のジュンク堂に行った。年々「歴史の終り」に敏感になってきた私はコジェーヴ『ヘーゲル読解入門』なんて買って店を出ようとしたところ、蓮實重彦が今の自分について、「蓮實重彦は、蓮實重彦の幽霊なのです」なんて語ってるインタヴューを見つけた。この雑誌には、島田雅彦による書き出しが「私が最後に埴谷先生とお会いしたのは、先生が虚体ならぬ遺体になられた時でした」という埴谷雄高論まで載っている。おまけに表紙とグラビアは篠山紀信が撮った川上未映子ではないか。彼女の新作もあり、「ある女の子が歩いているときに、不意に戦争花嫁がやってきて、それはいつもながら触ることも噛むこともできない単なる言葉でした。なのでつかまえて、戦争花嫁、と口にしてみれば唇がなんだか心地よく、豪雨の最中だというのに非常な明るさの気分がする」と始まっていた。絶好調のようだ。
 そしてそして諸君、べらべらっとめくると、若島正といとうせいこうの対談が現れたのだよ。御題は「ロリータ X チェス=?」。私がこの第十次「早稲田文学」復刊1号を一冊ひっつかんでレジに逆回転したのは言うまでも無い。そんなわけで今日はここまで。
08/04/11 紹介棋譜8参照
 まだ書きたいことがあるけど、ロシアのクラブ選手権が8Rまで終わっている。例年、棋譜が膨大すぎて困る大会のひとつだ。第1Rから面白い棋譜がいろいろあった。ひとつだけ紹介棋譜に選ぶならイワンチュク対リアザンチェフを。
 あってもよいものが無い、という図である。それはf1の白ルークとa8の黒ルークだ。どちらかと言えばイワンチュクの意向で交換されたように見えるが、本当にそうならたいした構想だった。黒のQ翼がガラ空きになった。白は侵入が容易である。さて、この有利をどう広げるか。
 私なら流れのままに28.Rb7 だろう。Fritz8は28.Nd7 だ。が、イワンチュクは28.Rxc4 だった。そうしてから29.Nd7 を指した。なるほど、黒ナイトが消えたので、黒Qh6 なら白Nxf6 から白Be5 でQK串刺しだ。本譜は29...Qg7, 30.Qf3 を辿ったが、黒ナイトがあれば30...Nd2で面倒なところだった。
 以下、あっという間に黒Q翼は白駒に占拠された。もはやこれまで、というリアの対応は諦めが良すぎる観もあったが、最後の十数手は穏やかに進んでイワンチュクが難無く勝っている。
08/04/10 紹介棋譜9参照
 前譜では23...Rxc4 が私をびっくりさせた。Fritz 8 で調べると、23...Bd5 を推奨してきた。こんな手でじわじわ押しつぶすから、私は落ち込んでしまうわけだ。スパッと斬ってくださるFritz 11 の方が、負けてもチェスを好きでいられる。
 お気に入りの対局設定はFriend mode である。私の棋力に合わせてFritz が手加減してくれるのだ。私が負けるとハンデが増え、勝つとハンデが減る。ハンデ100がポーン一個に相当する。1勝0敗1分で-64になった。これでも勝ったが、全部でたった4秒ほどしか考えない機械に対し、私は全身全霊を傾けて2時間15分も考えた。
 私には生涯最高とも言える出来栄えなので紹介棋譜にさせてもらおう。機械の明白な悪手は22...fxe5 しか無かったと思う。昔のFritz はいかにも手を抜いた悪手を指したので、勝っても八百長されたようで空しかった。そんなわけでFritz 11 はオススメである。もっとも、対局するだけで充分な人は、もっと安価なソフトで楽しめる。
08/04/08 紹介棋譜10参照
 私はソフトとの対局は嫌いではない。いくら長考しても迷惑にならないし、ポカは絶対に見逃さない相手なので、一手も間違えてはならない、という緊張感がある。無根拠に攻撃的な手で戸惑わせる心理戦を私は対人戦で使うことがあるが、そんな自分が嫌いなので、相手がソフトなら心を持たぬという点も潔くなれる。
 初めて買ったFritz は1995年発売のFritz 5.32 である。その時点でもう歯が立たなかった。それでも自慢させてもらえば、序盤定跡をインストールし損ねた最初の対局では私が勝っている。指し手の簡単なチェックに今でも使う。次に買ったのが2002年発売のFritz 8である。まったく勝ち目が無かった。やる気が失せて、ほとんど対局したことが無い。検討専用ソフトにしていた。
 こないだFritz 11 が届いた。2007年発売の最新版である。Fritz 10よりもレイティングにして80は強くなったという。ちょうど更新不能の手持ち無沙汰だったので、何局か指した。機械の力が最強になる長時間設定で指した一局を紹介棋譜にしておこう。指した経験の無いケレスアタックを試して一手違いになったのだから、私としては満足であるさ。上記ふたつの旧Fritz はもっと無慈悲で、私に何もさせてくれず、暗い気持ちになったものだ。それが偶然なのか、新Fritz の芸なのか、まだわからない。
08/04/06
 サーバーが潰れて更新が不可能になってました。夫が書斎にこもらないので嫁は満足だったらしい。二人で日本語吹替版DVDの「モンティパイソン」を見て過ごしていた。放送第4回にびっくり。04/01/27で、この番組に盤駒は出てこないと書いたが、対局シーンが現れた。ひどい見落としをしていたわけで、恥ずかしい。訂正いたします。ただし、チェスで笑わせる話ではない。
 ついでに、1963年ヴェニスの世界王座決定戦最終局の画像もご紹介しておこう。チェコスロバキアのクロンスティーンは白番で、彼が勝つ数手前である。チェスファンによく知られた場面なので説明は省くが、秘密指令の仕込まれたコップをボーイが置こうとしている。これが前例となり伏線となり1978年があったことは疑いない。
08/03/30 紹介棋譜11参照
 ハンガリーのヘーヴィーズで、参加者六人のうち、バロー、ナイディッシュ、ニシピアヌ、アルマーシ、なんと四人が同点首位で終わるという大会があった。勝ち星の多い4勝3敗3分のナイディッシュに花を持たせたいが、判定タイブレークではバローの1勝0敗9分の方が上だそうだ。1勝とはいえ、他ならぬナイディッシュから挙げた星でもある。バローは1987年生まれ。初耳だ。
 好局は無かったが、07/08/31から気にしているクィーンズインディアンの激戦定跡が現れた。08/02/06の謎の一つに答えてくれている。「19.Rc1 ならどうなるのか」だ。そのあたりからを紹介棋譜にした。上記ふたつの前例も簡単に変化手順に加えた。興味のある方はどうぞ。引き分けが結論のようだ。
08/03/29 紹介棋譜12参照
 ニースはアロニアンが2点半の大差を守って優勝した。二位はクラムニク、レコ、トパロフ、カールセンである。目隠し部門はクラムニク、アロニアン、モロゼビッチ、トパロフが同点優勝。早指しは部門はアロニアンだった。
 序盤定跡ではアナンド対アロニアンがd3型マーシャルの範例になりそうだ。結論は素人にはわかりにくいドローだった。紹介棋譜に残しておく。ほか、マメデャロフがブダペスト防御を使ってクラムニクを倒したのが印象に残った。レコとも引き分けている。これからも使う気だろう。メランについては08/03/24に述べたとおりだ。
 アナンド対アロニアンに付け加えておく。昨年大会のアナンド対レコが23手で引き分けた時と同じ局面になった。今回はそれを29手まで伸ばして終わった。08/01/29で示した図がd3型の分岐点である。本譜の16.Bxd5 のほか、16.Be3 と16.Nd2 がある。本局の特徴は17.Be3 からクィーンを残したことだが、08/03/12の紹介棋譜シロフ流17.Qxd5 の方がポーン得を活かせる気がする。
08/03/28 紹介棋譜13参照
 早指し部門では四年連続で優勝中のアナンドが後半から崩れ、3勝4敗4分に終わった。超強豪の集まりはこわい。いままでブリッツでしか負けたことの無いカールセンにまで負けてしまった。棋譜は面白い。紹介棋譜に。早指し特有の勢いがある。26手目から33手目までの応酬が目まぐるしい。疑問手もありそうだけど、ささっと並べれば至上の楽しさだ。こういう、駒を目一杯の射程距離で振り回す展開はカールセンの十八番でもある。彼の魅力を存分に引き出してしまったあたりがアナンドの不調だろう。
08/03/27 紹介棋譜14参照
 第5Rでちょっと面白い新手競争があった。図はナイドルフ防御に6.h3 という趣向を白が見せた形だ。8...Bb7 まで。6.h3 はフィッシャー・ファンならご存知だろう。『60局』では第40番などがある。
 白なら9.0-0 を指したいところだ。けれど黒b4がある。だから、ここはたいてい9.a3 と指すものなのだ。無論、そんなことで勝率が高いわけが無いけれど。
 ところが、目隠し部門のカールセン対ゲルファンドは9.0-0 になったのである。新手と言って良い。黒b4にどう応じるのか。が、ゲルファンドは9...h6 だった。結果は白の圧勝である。
 この直後に早指し部門が始まる。カリャーキン対ファンヴェリーがまた図になった。二人は直前の棋譜を知っていただろうか、今度は9.0-0. b4 が実現したのである。かくて、おそらくカールセンも用意していたに違いない秘手が明かされた。
 10.Nd5 だ。狙いはすでに上記の『60局』第40番に書いてある。c6地点が黒の弱点なのだ。10...exd5, 11.exd5 から12.Nc6が刺し込まれた。26手で白快勝である。これを紹介棋譜に。
08/03/26 紹介棋譜15参照
 ミスがたくさん出るような目隠しや早指しで、ドンデン返しの多い試合をさっさと楽しもう、という企画がどうにも性に合わない。首尾一貫した一局全体の論理を鑑賞するのが私は好きなのである。とはいえ、今年はそれなりに好局の多い大会ではなかろうか。
 中でも早指し部門で度肝を抜かれたのは図のイワンチュク対カリャーキンだ。ここで14.Qxe6+ が出た。研究手らしい。ひどい駒損だが、全部の白駒が中央に集中するのに対して、黒駒が辺境にたたずんだまま手が進む。黒は結局クィーンを捨て返さざるを得ない。難しいので解説はできないが、カリャーキンはその捨て方を間違ったようだ。駒の取り合いが始まり、硝煙が消えた時はBPPP対R で白の駒得になっていた。イワンチュクがそれをうまくまとめて勝っている。
 いま9Rまで終わって、総合成績はアロニアンの独走になっている。三人の二位に2点半の大差だ。
08/03/25
 昨日の例など、よくまあ駒を見ずに指せるもんだなあと思わせる。もちろんミスもたくさん出る。図はゲルファンド対クラムニクで次の一手は24.Qxe4 だった。ミスが出て当然の対局設定なのだから驚きも無い。こんなのをわざわざ紹介したのはクラムニクの対応が意外だったからだ。彼は引き分けを申し込んだのである。ゲルファンドが同意したのは言うまでも無い。美談というより、病んでいると思った。
 今月みた映画の話をしておこう。コーエン兄弟「ノーカントリー」が良かった。久々に彼らが本気を客に見せるようにして撮っている。神の裁きを畏怖する人が少数派になってからは、狂人のリアリティが猛威をふるっている。通り魔の殺人事件が起きたりすると、我々は現代社会が病んでいる結果だと思う。狂気よりも強いイメージを持つことは誰にも出来ていない。それゆえ酷とは知りながら、でも大好きなトミー・リー・ジョーンズとケリー・マクドナルドなら頑張れるかも、と期待してしまう。こわかった。
08/03/24 紹介棋譜16参照
 毎年恒例の早指しと目隠しの複合大会が始まった。今年も超強豪たちを集めきった。ただモンテカルロではなくニースである。この大会は新戦法の実験場といった趣がある。調べると、反メランが減ってメランに組む棋譜が増えていた。ルイロペスについては、マーシャルと反マーシャルの分岐にあたる7手までの局面が一回しか現れてない。全11Rのうちいま7Rを終えて、早指しはアロニアン、目隠しはモロゼビッチがトップ、総合首位アロニアン、二位アナンドである。
 図は目隠し部門のモロゼビッチ対トパロフで29...Qc3 まで。ルーク損の黒が白陣に殺到した場面である。白はNf3でも優勢だと思うが、そこはモロゼビッチだ、30.Nc6 で突き放した。私の目には黒Rxc6 で白失敗だが、手品のような仕掛けが用意されている。本局は図までの応酬も面白いので、中盤あたりからを紹介棋譜に。先述の手品のほか、最後にトパロフが放つ詰めろ逃れのハメ手にもハッとする。どちらも変化手順に含めたので御鑑賞を。

戎棋夷説