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痴漢誤認逮捕事件の差戻し審判決に思う(最高裁平成19年(受)第1878号,差戻し審東京高裁平成20年(ネ)第5618号,平成22年1月現在第二次上告受理申立て中) 首都圏の電車内で,携帯電話で通話をしていた女性に対して男性が注意をしたところ,男性が駅を降りてからその女性に痴漢被害をでっち上げられ,警察に虚偽申告をされて誤認逮捕されたとして,その賠償金を求めて国・都・女性を相手取り提訴した事件です。ご本人のホームページがこちらにあり,事件概要がこちらにあります。 東京地裁八王子支部,東京高裁は共に,その女性の通話相手に尋問することなく,「痴漢の事実があった」と認定しましたが,最高裁が「目撃者がいないこの事件で,通話相手の男性を取り調べずに痴漢の事実があったと認定したことは審理が不十分」として,女性 の賠償責任について再度審理するよう,高裁判決を破棄差戻ししました。最高裁判決はこちらに置いておきます。 これを受けて東京高裁で差戻し審が行われました。通話相手に対する証人尋問は傍聴席が満席だったため傍聴できませんでしたが,その前に通話相手が書面で回答した当時の状況を記録閲覧をして確認したところ,以下のようでした。 1. AとXの関係は? これを見るに,痴漢の事実があったとは到底考えられないし,また最高裁判決を併せて読んでみると,女性が痴漢をでっち上げて虚偽申告をしたものと推認される可能性が高いのではないかと感じられました。 しかし,差戻し審判決は,「痴漢行為をしたと認めることはできないが,虚偽申告と断定する十分な証拠もない」として賠償請求を棄却した,と報じられました。
この棄却判決を知り,普段医療訴訟ばかりを追いかけている私としては,一般民事訴訟の事実認定とはこんなに厳格なのか,と驚きを禁じ得ませんでした。事件詳細はこちらのブログ記事に譲りますが,なるほど女性が虚偽申告を否定している以上, 他に虚偽申告と断定するような証拠は ないのですから,女性の虚偽申告は認められないことには一理ありそうです。しかしそうなるとこの裁判官の下では,このような虚偽申告の有無は,自白がない限り認定されないということになるのでしょうか。刑事事件でもないのにこの厳しさなのか,との思いがよぎります。 一方,医療訴訟となると,この訴訟に比べて遥かに低い水準の立証でも,事実認定されることが多々あると考えます。場合によっては多数の医師が疑問を呈するような事実認定がされているのが現実といって良いと考えます。八戸縫合糸訴訟,関東中央病院PTSD訴訟,十日町病院術中死訴訟,円錐角膜移植手術後散瞳症訴訟,亀田テオフィリン中毒訴訟など,当サイトで取り上げた事件にもそのような例が見られます。 医療訴訟においてこのような事態が起きる原因のひとつに,双方の主張立証に用いられる証拠の証拠能力が低い場合が少なくない,ということが挙げられます。判決理由では証拠による事実認定がされているものの,それら証拠の証拠能力にそもそも疑問があり,事実認定をするには到底不十分である場合が少なくない,ということです。特に鑑定書や原告側協力医を,原告主張を基礎づける証拠として採用したときに起こりやすいと考えます。つまり,鑑定書や協力医の意見の証拠能力を,法律家が高く見積もりすぎている場合があると考えられるということです。これについては,「医学的意見の性質」について,稿を改めて書きたいと思います。(なお,それに合わせて,この稿の後半部分も修正する可能性が高いです。) 平成22年1月31日記す。 医療訴訟トップに戻る | 表紙に戻る |
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